名義変更とは――預貯金・不動産以外にも手続きは必要

「名義変更」とは、亡くなった方(被相続人)の名義になっている財産を、相続によって引き継ぐ相続人の名義へと変える手続きの総称です。預貯金の解約・払い戻しや不動産の相続登記がよく知られていますが、実際には、それ以外にも名義を変えたり、解約・請求したりすべき財産が数多くあります。

代表的なものとして、自動車、上場株式・投資信託、生命保険金、年金(未支給年金・遺族年金)、ゴルフ会員権、電話加入権などが挙げられます。これらを放置すると、車を売れない・名義人が亡くなったままの口座が動かせない・本来受け取れるお金を取りこぼす、といった不都合が生じます。

[財産ごとに窓口が違うのが大変なところ]
相続の名義変更で多くの方が戸惑うのは、「どこに行けばいいのか」がバラバラな点です。車は運輸支局、株式は証券会社、保険は保険会社、年金は年金事務所。しかも、それぞれに似たような戸籍や印鑑証明を求められます。まずは「何があるか(財産の洗い出し)」から始めるのが、遠回りに見えて近道です。

共通して必要になる書類と全体の流れ

窓口は違っても、相続の名義変更で共通して求められる書類には、おおむね次のものがあります。先にまとめて準備しておくと、各窓口での手続きがスムーズになります。

[法定相続情報一覧図が便利]
戸籍一式は、窓口ごとに原本の提出を求められます。何通も集めるのは大変なので、法務局で「法定相続情報一覧図」を取得しておくと、戸籍の束の代わりに1枚で証明でき、複数の手続きを並行して進めやすくなります(詳しくは「預貯金の相続手続き」もご覧ください)。
STEP 1 財産を洗い出す
STEP 2 戸籍など共通書類を集める
STEP 3 誰が引き継ぐか決める
STEP 4 各窓口で手続き

自動車の名義変更(移転登録)――普通車と軽自動車

亡くなった方が所有していた自動車も、相続人へ名義を変える「移転登録」が必要です。普通車と軽自動車で、窓口も手続きの重さも異なります。

普通自動車――運輸支局で移転登録

普通車の名義変更は、管轄の運輸支局(自動車検査登録事務所)で行います。主な必要書類は次のとおりです。

[査定額100万円以下の普通車は手続きが簡単に]
その車の査定価額が100万円以下であれば、相続人全員が署名する遺産分割協議書の代わりに、車を引き継ぐ相続人が単独で作成する「遺産分割協議成立申立書」(その相続人の印鑑証明書を添付)で手続きできます。査定額は査定書や査定価格算出ソフトで示します。相続人が多い場合に負担を軽くできる制度です。

軽自動車――軽自動車検査協会で、より簡素に

軽自動車は、軽自動車検査協会で手続きします。軽自動車は普通車と違い、相続でも遺産分割協議書や印鑑証明書が不要なことが多く、車検証・新所有者の書類・協会所定の申請書などで済むのが一般的です。普通車に比べてかなり簡素ですが、必要書類は管轄の協会で最新の案内を確認すると確実です。

上場株式・証券――相続人の証券口座へ移管

亡くなった方が上場株式や投資信託を持っていた場合、これらは被相続人の証券口座から、相続人名義の証券口座へ「移管」して引き継ぐのが基本です。窓口は、被相続人が口座を持っていた証券会社になります。

相続人側にも「同じ証券会社の口座」が必要になることが多い

株式は、預貯金のように「解約して現金で受け取る」ことが基本的にできません。いったん相続人名義の口座へ移してからでないと、売却もできないのが原則です。そのため、相続人がその証券会社に口座を持っていない場合は、新たに口座を開設する必要があります。「すぐ売って現金化したい」と思っても、まず口座開設と移管が先になる点にご注意ください。

主な必要書類は、被相続人の戸籍一式、相続人全員の戸籍・印鑑証明書、遺産分割協議書または遺言書、証券会社所定の相続手続依頼書・移管依頼書、相続人名義の証券口座情報などです。まずは証券会社に死亡の連絡をして、相続手続きの書類一式を取り寄せるところから始めます。

生命保険金――受取人が請求する固有の権利

生命保険金は、ほかの財産と性質が異なります。保険証券で受取人が指定されている場合、その保険金は受取人固有の権利であり、遺産分割の対象にはならないのが原則です(「生命保険と相続」参照)。したがって、遺産分割協議を待たずに、受取人が保険会社へ直接請求できます。

窓口は保険会社です。主な必要書類は次のとおりです。

[保険金にも非課税枠がある]
死亡保険金は遺産分割の対象外ですが、相続税の計算上は「みなし相続財産」として課税対象になります。ただし「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。請求の手続きと、相続税での扱いは別の話なので、混同しないようにしましょう。

未支給年金・遺族年金の手続き

年金も、相続にともなって重要な手続きが発生します。年金の手続きは大きく3つに分かれ、それぞれ別の手続きです。窓口は年金事務所(または街角の年金相談センター)が中心になります。

手続き 内容
受給権者死亡届 年金を受けていた方が亡くなったことを届け出る。これを怠ると年金を過払いし、後で返還が必要になることも。
未支給年金の請求 亡くなった月分までの、まだ受け取っていない年金を、生計を同じくしていた遺族が受け取る。一般に死亡後5年以内に請求。
遺族年金の請求 一定の遺族が、遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取れる場合に請求する(要件あり)。

未支給年金・遺族年金とも、死亡を証明する戸籍関係書類、請求者の本人確認書類、続柄や生計維持関係が分かる書類、振込先口座情報などが必要です。要件や必要書類は状況により細かく分かれるため、年金事務所で具体的に確認するのが確実でございます。

[未支給年金は受け取った人の一時所得]
未支給年金は、相続財産ではなく、受け取った遺族自身の一時所得として扱われます(相続税ではなく所得税の対象)。遺族年金は原則非課税です。税務上の扱いが財産によって異なる点も、年金手続きの分かりにくいところです。

ゴルフ会員権・電話加入権など――規約に従う

ゴルフ会員権や電話加入権などは、自動車や株式のような全国共通の法定手続きがありません。それぞれの会員規約や事業者の定めるルールに従って、承継または名義書換を行います。

これらは「制度」ではなく「各社のルール」で動くため、まず管理会社・事業者に問い合わせて手続き方法を確認するのが鉄則です。会員権は、承継費用や相続税評価(取引相場の70%程度が目安)もあわせて検討する必要があります。

名義変更でよくある7つの落とし穴

ご相談の現場で実際によく見かける、相続の名義変更をめぐる誤解と失敗を7つに整理いたしました。

  1. そもそも手続きが必要な財産を見落とす 車・株・会員権などは、預貯金や不動産の陰で忘れられがちです。まずは財産の全体像を洗い出しましょう。
  2. 車をそのまま乗り続け、名義を変えないまま売却・廃車に困る 名義が亡くなった方のままだと、売却も廃車も保険の手続きもできません。早めに移転登録を。
  3. 軽自動車も普通車と同じ書類が要ると思い込む 軽自動車は遺産分割協議書や印鑑証明が不要なことが多く、普通車よりずっと簡単です。
  4. 株式を「解約して現金で」と思い込む 上場株式は、まず相続人名義の口座へ移管が必要。相続人側に証券口座がなければ開設から始まります。
  5. 生命保険金を遺産分割協議の対象に入れてしまう 受取人が指定された保険金は受取人固有の権利で、協議を待たず請求できます。相続税では非課税枠あり。
  6. 未支給年金・遺族年金を請求し忘れる 未支給年金は死亡後5年以内が目安。受給権者死亡届を怠ると過払い分の返還を求められることもあります。
  7. 戸籍や印鑑証明を窓口の数だけ取り直す 法定相続情報一覧図を使えば、戸籍の束の代わりに1枚で証明でき、複数の手続きを並行できます。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「父の車・株・年金の手続きが、どこから手を付けてよいか分からなかったケース」

お父様を亡くされたLさん(50代・長男)からのご相談でございました。預貯金と実家の相続登記は何とか進めたものの、父の愛車、ネット証券にあった株式、そして年金の手続きが残ったまま。「車屋さんには運輸支局、証券は証券会社、年金は年金事務所と言われ、平日に何か所も回るのは無理だ」と途方に暮れていらっしゃいました。

当センターでは、まず財産の一覧を作り、共通して必要な戸籍をまとめて取得。法務局で法定相続情報一覧図を取り、これを各窓口で使えるようにしました。お父様の車は査定額が100万円以下だったため遺産分割協議成立申立書で簡素に移転登録。株式はLさんの証券口座を開設して移管し、年金は受給権者死亡届と未支給年金請求を提携の社労士と連携して進めました。バラバラだった手続きを順序立てて整理したことで、Lさんの負担は大きく減りました。

Lさんは「窓口がこんなに分かれているとは知らず、最初は心が折れそうでした。何を・どこに・どの順で出すかを整理してもらえただけで、こんなに楽になるんですね」とおっしゃってくださいました。名義変更は『段取り』がすべて――そのことを実感していただいた一例でございます。

― 私たちから一言 ―

「名義変更は、種類が多く『どこに何を出すか』で挫折しがちです」

相続の手続きの中でも、名義変更は「数が多くて、窓口がバラバラ」という点で、多くのご遺族が疲弊される分野でございます。預貯金と不動産までは何とかたどり着いても、車・株・保険・年金・会員権と続くと、「いったいいくつ手続きがあるのか」と気が遠くなってしまうのです。しかも、それぞれの窓口で似たような戸籍や印鑑証明を求められ、平日に何か所も足を運ぶ必要があります。

こうした手続きは、一つひとつは決して難しくありません。難しいのは「全体の段取り」です。何があるかを洗い出し、共通書類をまとめて準備し、引き継ぐ人を決め、優先順位をつけて各窓口を回る――この流れさえ整理できれば、負担は大きく軽くなります。法定相続情報一覧図のように、知っているだけで何度も楽になる道具もあります。

当センターでは、提携の司法書士・行政書士・税理士・社会保険労務士と連携し、財産の洗い出しから、戸籍の収集、自動車・株式・保険・年金などの名義変更・請求まで、相続にまつわる手続きをワンストップでお手伝いしております。「何から手を付ければいいの?」「うちの場合、どんな手続きが必要?」――その最初の一歩こそ、早めにご相談いただく最良の理由です。お電話一本、LINEで結構でございます。お気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 相続では預貯金・不動産以外にも、自動車・株式・生命保険・年金・会員権などの名義変更や請求が必要。財産ごとに窓口も書類も異なる。
  • 共通して必要なのは、被相続人の戸籍一式・相続人の戸籍・印鑑証明・遺産分割協議書または遺言書。法定相続情報一覧図があると複数手続きを並行しやすい。
  • 普通車は運輸支局で移転登録。査定額100万円以下なら遺産分割協議成立申立書で簡素化できる。軽自動車は軽自動車検査協会で、より簡素。
  • 上場株式は相続人名義の証券口座へ移管が基本。解約・現金受け取りはできず、相続人側に口座がなければ開設から。
  • 生命保険金は受取人固有の権利で、遺産分割を待たず受取人が保険会社へ請求できる。相続税では「500万円×法定相続人の数」の非課税枠あり。
  • 年金は「受給権者死亡届」「未支給年金請求(死亡後5年以内が目安)」「遺族年金請求」に分かれ、窓口は年金事務所。未支給年金は受け取った人の一時所得。
  • ゴルフ会員権・電話加入権は法定の統一手続きがなく、各規約・事業者のルールに従う。まず管理会社・事業者へ問い合わせる。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。必要書類や手続きの要否は、財産の内容・契約・各窓口の運用により異なることがあります。自動車・株式・保険・年金などの具体的な手続きにあたっては、必ず各窓口(運輸支局・軽自動車検査協会・証券会社・保険会社・年金事務所など)や、司法書士・行政書士・社会保険労務士などの専門家にご確認・ご相談ください。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づきます。制度・運用は変更される場合がありますので、最新の情報をご確認ください。

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