相続土地国庫帰属制度とは――いらない土地を国に引き取ってもらうしくみ
相続土地国庫帰属制度とは、相続または遺贈(遺言による贈与)によって土地を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、その土地の所有権を手放して国に帰属させる(国に引き取ってもらう)ことができる制度です。正式には「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)に基づきます。
「相続したくない土地だけ」を手放せるのがポイント
これまで、相続したくない財産がある場合の代表的な手段は相続放棄でしたが、相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産もすべて含めて放棄するものであり、「いらない土地だけを手放す」ことはできませんでした。これに対し、相続土地国庫帰属制度は、すでに相続した土地のうち、不要な土地について個別に国へ引き取りを求められる点に大きな特徴があります。
+ 一定の要件を満たす
+ 審査手数料・負担金を納付
→ 国が引き取る(国庫帰属)
申請先は法務局
この制度の申請(承認申請)は、その土地を管轄する法務局・地方法務局に対して行います。申請を受けた法務大臣(窓口は法務局)が、書面審査や必要に応じた実地調査を行い、引き取りの可否を判断します。承認されて負担金を納付すると、その土地の所有権が国に移ります。
なぜこの制度ができたのか――所有者不明土地と相続登記義務化の背景
相続土地国庫帰属制度は、近年大きな社会問題となっている「所有者不明土地」への対策の一環として創設されました。
使われない土地が放置される悪循環
相続が起きても、価値の低い土地や利用しづらい土地は、登記もされず、管理もされないまま放置されがちです。誰のものか分からない土地(所有者不明土地)が増えると、公共事業や災害復旧、隣地の管理などに大きな支障が生じます。こうした土地を相続した人にとっても、固定資産税や草刈り・管理の負担だけが残り、手放したくても手放せないという悩みがありました。
相続登記義務化とセットで整備された
この問題に対応するため、国は所有者不明土地対策の一連の法改正を行いました。その柱の一つが相続登記の義務化(2024年4月施行)であり、もう一つがこの相続土地国庫帰属制度です。登記をきちんとさせて所有者を明確にする一方で、どうしても不要な土地は国が引き取る受け皿を用意した、という関係にあります。相続登記の義務化については相続登記の義務化、3年以内の申請義務・過料・相続人申告登記の完全ガイドもあわせてご覧ください。
申請できる人・対象となる土地――相続・遺贈で取得した土地が対象
この制度を利用できるのは、誰でも・どんな土地でも、というわけではありません。申請できる人と対象になる土地には条件があります。
申請できる人
申請できるのは、原則として相続または遺贈(相続人に対する遺贈)によって土地の所有権を取得した相続人です。売買や生前贈与で取得した土地は、原則として対象になりません。
- 相続によって土地を取得した相続人
- 遺言によって土地を取得した相続人(相続人に対する遺贈)
- 土地が共有の場合は、共有者全員が共同して申請する必要がある
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請できる人 | 相続・遺贈で土地を取得した相続人(共有なら共有者全員で共同申請) |
| 対象となる取得原因 | 相続・遺贈による取得(売買・生前贈与で得た土地は原則対象外) |
| 申請先 | その土地を管轄する法務局・地方法務局 |
| 判断する人 | 法務大臣(窓口は法務局。書面審査・実地調査を経て承認・不承認を判断) |
引き取ってもらえない土地――却下要件と不承認要件
この制度の最大のハードルが、引き取ってもらえない土地の要件です。国が管理に過大なコストや手間を負わずに済むよう、引き取れる土地は「そのままでも比較的管理しやすい土地」に限られています。要件は大きく、申請の入口で却下される却下要件と、審査の結果として承認されない不承認要件に分かれます。
申請の段階で却下される土地(却下要件の例)
- 建物が建っている土地(更地にする必要がある)
- 担保権(抵当権など)や使用収益権が設定されている土地
- 通路など、他人による使用が予定されている土地が含まれるもの
- 土壌汚染がある土地
- 境界が明らかでない土地や、所有権の存否・帰属に争いがある土地
審査の結果、承認されない土地(不承認要件の例)
- 一定の勾配・高さの崖があり、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 管理・処分を妨げる工作物・車両・樹木などが地上にある土地
- 除去しなければ管理できない地下埋設物(古い水道管・浄化槽など)がある土地
- 隣接地の所有者などと争訟をしなければ管理・処分できない土地
- その他、通常の管理・処分に過分な費用・労力を要する土地
「建物付き」「境界不明」は要注意――事前準備が必要なケースが多い
特に多いのが、古家が建っている、境界が確定していないといったケースです。建物があれば解体(更地化)が、境界が不明なら測量・境界確定が、申請の前提として必要になることがあります。これらには別途費用がかかるため、「制度を使えば簡単にタダ同然で手放せる」とは限りません。自分の土地が要件を満たすかどうかは、申請前に法務局の相談窓口や専門家に確認することをおすすめします。
手続きの流れ――申請から国庫帰属までのステップ
相続土地国庫帰属制度の手続きは、おおむね次のような流れで進みます。
- 事前相談・準備 管轄の法務局で事前相談を行い、対象の土地が要件を満たしそうか、必要書類は何かを確認します。建物の解体や境界確定が必要な場合は、この段階で準備します。
- 承認申請 申請書と添付書類をそろえ、土地を管轄する法務局・地方法務局へ承認申請を行います。申請時に土地一筆ごとの審査手数料を納めます。
- 審査(書面審査・実地調査) 法務局が書面審査を行い、必要に応じて実地調査をして、却下要件・不承認要件に該当しないかを確認します。
- 承認・負担金の通知 要件を満たすと承認され、納めるべき負担金の額が通知されます。
- 負担金の納付・国庫帰属 通知された負担金を期限内に納付すると、その時点で土地の所有権が国に帰属します。納付しないと承認が失効する点に注意が必要です。
費用はいくらか――審査手数料と負担金のしくみ
この制度を利用するには、大きく分けて①審査手数料と②負担金の2つの費用がかかります。
① 審査手数料
承認申請の際に、土地一筆あたり一定額の審査手数料を納めます。これは申請を審査してもらうための手数料で、結果として却下・不承認になっても原則として返還されません。具体的な金額は法令で定められているため、最新の額は法務省・法務局でご確認ください。
② 負担金
審査の結果、承認されると負担金を納める必要があります。負担金は、国がその土地を一定期間管理するための費用に相当するもので、原則として土地一筆あたり20万円が一つの目安とされています。ただし、宅地・農地・森林などの種類や、市街化区域内かどうか、面積などによっては、面積に応じて金額が算定される場合があります。
+ 負担金(承認後・原則20万円〜)
| 費用の種類 | 内容 |
|---|---|
| 審査手数料 | 申請時に土地一筆ごとに納付。却下・不承認でも原則返還されない |
| 負担金 | 承認後に納付。原則一筆20万円が目安。土地の種類・面積等で算定される場合あり |
| その他の費用 | 建物解体費、測量・境界確定費、専門家への依頼費など(土地の状況による) |
相続放棄・売却・寄付との違い――どれを選ぶべきか
「いらない土地」を手放す方法は、相続土地国庫帰属制度だけではありません。それぞれの違いを理解し、自分の状況に合った方法を選ぶことが大切です。
| 方法 | 特徴・注意点 |
|---|---|
| 相続土地国庫帰属制度 | 不要な土地だけを国に引き取ってもらえる。要件が厳しく、手数料・負担金がかかる |
| 相続放棄 | すべての財産(プラスもマイナスも)を放棄する。土地だけを選んで放棄はできない。原則3か月の熟慮期間がある |
| 売却 | 買い手がつけば対価を得て手放せるが、需要のない土地は売れないことも多い |
| 寄付(自治体・個人・法人) | 受け取ってもらえれば手放せるが、自治体等が受け取らないケースも多い |
まず「売れないか・贈れないか」を検討
国庫帰属制度には手数料・負担金がかかるため、まずは売却や、近隣の方・自治体への譲渡・寄付が可能かを検討するのが基本です。それらが難しく、相続放棄では他の財産まで失ってしまうという場合に、国庫帰属制度が有力な選択肢になります。相続放棄については相続放棄の手続きと3か月の熟慮期間、知らないと損をする落とし穴を、空き家・実家の活用や売却の判断については実家・空き家を相続したらどうする、住む・貸す・売る・手放すの判断と3,000万円控除をご参照ください。
「相続した遠方の山林を手放したいケース」
Tさん(60代・男性)は、数年前に父から地方の山林を相続しました。自宅から遠く、利用予定もなく、買い手も見つからないまま、毎年の固定資産税と管理の負担だけが続いていました。「子どもにこの土地の負担を残したくない」とご相談にいらっしゃいました。
当センターで状況を整理したところ、Tさんは「相続放棄しようにも、ほかにも相続したい財産があるため放棄はできない」という事情を抱えていました。そこで、不要な土地だけを手放せる相続土地国庫帰属制度を一つの選択肢としてご紹介し、制度の要件・費用の目安・手続きの流れをご説明しました。
あわせて、申請の前に境界の状況や崖・工作物の有無を確認する必要があること、審査手数料・負担金がかかること、まずは売却・譲渡の可能性も検討すべきことをお伝えしました。Tさんは「いらない土地だけを整理する道があると分かって安心しました」とのことで、法務局への事前相談と、提携専門家への相談を進められました。選択肢を正しく知ることが、負担を次世代に残さない第一歩になります。
「『負動産』を次世代に残さないために。制度は出口の一つ、まず全体像の比較を」
使わない土地、売れない土地は、固定資産税と管理の負担だけが続く「負動産」になりがちです。相続土地国庫帰属制度は、こうした不要な土地を国に引き取ってもらえる、これまでなかった出口として注目されています。相続放棄と違い、いらない土地だけを選んで手放せるのが大きな利点です。
一方で、引き取ってもらえる土地の要件は厳しく、建物があれば更地に、境界が不明なら確定が必要になるなど、申請の前提として準備や費用がかかることが少なくありません。審査手数料・負担金もかかるため、「タダ同然で手放せる」という誤解には注意が必要です。まずは売却・譲渡・寄付の可能性を探り、それらが難しい場合の選択肢として位置づけるのが現実的です。
大切なのは、相続放棄・売却・寄付・国庫帰属制度といった複数の選択肢を並べて、費用・手間・将来負担を比較したうえで判断することです。当センターでは、相続全体を見渡したうえで中立的にご相談に応じ、必要に応じて司法書士・土地家屋調査士などの提携専門家とも連携いたします。「この土地をどうすればいいか分からない」という段階で、どうぞお気軽にご相談ください。
相続土地国庫帰属制度でよくある7つの落とし穴
当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、相続土地国庫帰属制度をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。
- 「どんな土地でも引き取ってもらえる」と思い込む 引き取れる土地には厳しい要件があります。建物がある・境界が不明・崖がある・地下埋設物があるなどの土地は、却下や不承認になることがあります。
- 「タダで手放せる」と誤解する 申請には審査手数料がかかり、承認後には原則20万円程度の負担金が必要です。さらに解体費・測量費が上乗せされることもあります。
- 建物が建ったまま申請できると思う 建物が建っている土地は対象外です。手放すには、原則として解体して更地にする必要があり、その費用は自己負担になります。
- 相続放棄と同じだと混同する 相続放棄は財産すべてを放棄する手続きで、土地だけを選べません。国庫帰属制度は「いらない土地だけ」を手放せる別の制度です。
- 共有地を一人で申請しようとする 土地が共有の場合は、共有者全員で共同して申請する必要があります。一人だけの判断では手続きを進められません。
- 売却・寄付の検討を飛ばして申請してしまう 費用がかかる制度のため、まずは売却や近隣・自治体への譲渡が可能かを検討するのが基本です。いきなり申請に進むと、かえって割高になることがあります。
- 負担金を納めずに放置して承認が失効する 承認されても、通知された負担金を期限内に納付しないと承認が効力を失います。承認後の納付手続きまで確実に行う必要があります。
この記事のまとめ
- 相続土地国庫帰属制度は、相続・遺贈で取得した不要な土地を、要件を満たせば国に引き取ってもらえる制度。2023年4月27日施行。
- 相続放棄と違い「いらない土地だけ」を手放せるのが利点。申請先は土地を管轄する法務局で、共有地は共有者全員で共同申請する。
- 建物がある・境界が不明・崖や地下埋設物があるなどの土地は、却下要件・不承認要件に該当し引き取ってもらえないことがある。
- 費用は審査手数料(申請時)と負担金(承認後・原則20万円が目安)。土地の状況により解体費・測量費も別途かかる。
- 手放す方法は売却・寄付・相続放棄・国庫帰属制度などがある。費用のかかる制度のため、まず売却・譲渡の可能性を検討するのが基本。
- 金額や要件は改正される可能性があるため、最新情報は法務省・法務局で確認を。迷ったら申請前に専門家へ相談を。
参考文献(一次情報)
- 法務省「相続土地国庫帰属制度について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html
- e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/503AC0000000025
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
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