「このお墓を、誰が守るのか」――墓じまいという選択
墓じまいというと、どこか後ろめたい響きを感じられる方がいらっしゃいます。「ご先祖さまに申し訳ない」――そう仰って、何年も決断できずにおられるご相談者を、私たちは何人も見てまいりました。
けれども、ご相談の内容を伺っていくと、事情はどれも切実です。
- 継ぐ人がいない……お子さまがいらっしゃらない、あるいは娘さんだけで、他家に嫁がれている。
- 遠すぎて通えない……お墓は郷里の山あいにあり、ご自身は都市部にお住まいで、年に一度帰るのがやっと。ご自身が高齢になり、次に行けるかどうか分からない。
- 管理料の負担が続く……墓地の年間管理料が、行けないまま毎年引き落とされている。
- 荒れてしまっている……何年も手入れができず、雑草に埋もれてしまっている。
- 子や孫に、この重荷を渡したくない……ご自身が背負ってきた負担を、次の世代に引き継がせたくない。
私たちが申し上げているのは、いつも同じことです。放置されて無縁墓になってしまうことのほうが、ご先祖さまにとって本意ではないのではありませんかと。墓じまいは「お墓をなくすこと」ではなく、「お参りできる形に移すこと」です。永代供養墓、納骨堂、樹木葬――移した先で、きちんと供養が続く形を選ぶことができます。
= 遺骨をお参りできる形に移すこと(=改葬)
改葬とは何か――墓埋法5条が定める「改葬の許可」
まず、根拠となる法律を確認します。お墓と遺骨を扱う基本法は、「墓地、埋葬等に関する法律」(昭和23年法律第48号。以下「墓埋法」)です。
改葬には市町村長の許可が必要(5条1項)
墓埋法5条1項は、埋葬・火葬・改葬を行おうとする者は、市町村長の許可を受けなければならないと定めています。つまり、お墓から遺骨を取り出して別の場所に移すことは、法律上の「改葬」にあたり、許可なしには行えません。
申請先は「これから移す先」ではありません
墓埋法5条2項により、埋葬・改葬の許可は、死体または焼骨が現に存する地の市町村長が行うとされています。したがって、改葬許可申請書を出すのは、いま遺骨が納められているお墓がある市町村です。「これから納める納骨堂のある市に出すのだろう」と思って窓口へ行き、出直しになる方が本当に多くいらっしゃいます。郷里のお墓を、都市部の納骨堂に移すという典型的なケースでは、郷里の市町村役場が申請先になります。遠方で足を運びにくい場合は、郵送での取り扱いの可否を、事前にその市町村へお問い合わせください。
許可されると「改葬許可証」が交付されます(8条)
墓埋法8条は、市町村長が許可を与えるときに改葬許可証を交付する旨を定めています。この改葬許可証が、遺骨を動かすための「通行手形」です。
実務では、元のお墓の管理者に改葬許可証を提示して遺骨を取り出し、移転先の管理者に改葬許可証を提出して納骨するという流れになります。この一枚がないと、石材店も工事に入れず、移転先も遺骨を受け取れないのが通常です。
遺骨の一部だけを移す場合、手元供養、散骨
近年ご相談の増えている形についても、触れておきます。
| やりたいこと | 取り扱いの考え方 |
|---|---|
| 遺骨の一部だけを移す(分骨) | 分骨については、墓埋法施行規則5条に、墓地等の管理者が焼骨の埋蔵または収蔵の事実を証する書類(実務でいう「分骨証明書」)を交付する仕組みが設けられています。改葬とは書類が異なりますので、「全部を移すのか、一部なのか」を最初に市町村と墓地管理者に伝えてください。 |
| 手元供養(自宅に置く) | お墓から取り出して自宅に持ち帰る場合も、墓地からの取り出し自体が改葬にあたるという整理で許可を求める運用が一般的です。移転先の記載などの取り扱いは市町村により異なりますので、必ず事前にご相談ください。 |
| 散骨 | 散骨そのものについて、墓埋法に直接の定めは置かれていません。もっとも、お墓から遺骨を取り出す行為は改葬にあたるとして改葬許可を求める運用が基本です。散骨の可否・方法については、自治体の条例やガイドラインが定められている地域もありますので、事前確認が欠かせません。 |
改葬許可申請の実務――どこに出し、何を書き、何を添えるか
では、実際の申請書の中身を見ていきます。墓地、埋葬等に関する法律施行規則2条1項が、改葬許可申請書の記載事項を定めています。
| 記載事項(施行規則2条1項) | 実務での注意点 |
|---|---|
| 死亡者の本籍・住所・氏名・性別 (死産の場合は父母の本籍・住所・氏名) |
古いお墓では、ここが最大の難所です。明治・大正生まれのご先祖の本籍や正確な氏名が分からないことがあります。戸籍をさかのぼる必要が出てくる場合もあります。 |
| 死亡年月日(死産の場合は分べん年月日) | 墓誌(墓石の側面の刻字)や過去帳が手がかりになります。どうしても分からない場合の取り扱いは、市町村にご相談ください。 |
| 埋葬または火葬の場所 | 現在のお墓の所在地・名称を記載します。 |
| 埋葬または火葬の年月日 | 納骨の日付です。不明な場合の扱いも市町村により異なります。 |
| 改葬の理由 | 「後継者がいないため」「遠方で管理が困難なため」など、ありのままを簡潔に書けば足ります。 |
| 改葬の場所 | 移転先の墓地・納骨堂の所在地・名称です。移転先が決まっていなければ、申請できません。 |
| 申請者の住所・氏名・死亡者との続柄 および墓地使用者または焼骨収蔵委託者との関係 |
申請者が墓地使用者本人でない場合は、墓地使用者の承諾書を求められるのが通常です。 |
添付する書類
施行規則2条2項により、申請書には埋葬・埋蔵・収蔵の事実を証する書面を添付するのが原則とされています。実務では、次の書類がこれにあたります。
- 埋蔵証明書(収蔵証明書)いまのお墓・納骨堂の管理者(寺院・霊園・自治体)が発行します。「ここに、この方の遺骨が確かに納められています」という証明です。市町村の様式では、改葬許可申請書の一部に管理者の証明欄が設けられていることも多くあります。
- 受入証明書(使用許可証の写しなど)移転先の墓地・納骨堂が発行する「受け入れます」という証明です。法令上の必須の添付書類として一律に定められているものではありませんが、多くの自治体が実務上求めています。使用許可証や契約書の写しで足りるとする市町村もあります。
- 墓地使用者の承諾書申請者と墓地使用者(名義人)が異なる場合に必要です。施行規則2条2項2号は、この承諾書に代えて「これに対抗することができる裁判の謄本」によることも認めています。名義人がすでに亡くなっている場合の取り扱いは、市町村にご確認ください。
- 申請者の本人確認書類など市町村によって求められる書類は異なります。必ず、申請先の市町村のホームページか窓口で、最新の様式と必要書類をご確認ください。
埋蔵証明書を出してもらえない、と言われたら
墓じまいのご相談で、実際にもっとも多い行き詰まりがこれです。離檀の話がこじれ、お寺が埋蔵証明書の発行に応じてくださらないというケースです。この場合、まず申請先の市町村に事情をご相談ください。施行規則2条2項1号は、埋葬・埋蔵・収蔵の事実を証する書面について、「これにより難い特別の事情のある場合」に限り、市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面によることを認めています。代替書類が当然に認められるわけではなく、「特別の事情」があると市町村長が判断した場合の取り扱いですので、まずは事情を具体的にご説明のうえご相談ください。それでも解決しないときは、弁護士にご相談ください。感情的なやり取りを続けるより、第三者を入れたほうが早く収まることが少なくありません。
墓じまいの7つのステップと、かかる期間
実際の進め方を、順を追って整理します。全体で3か月から半年程度を見ておかれると安心です。
移転先の決定
改葬許可の取得
撤去工事・納骨
- ご親族に相談する法律の手続きではありませんが、ここを飛ばすと、後々のトラブルの原因になりがちです。お墓は、その家に連なる方々にとっての心のよりどころです。「勝手に決められた」という思いは、長く残ります。ご兄弟、おじ・おば、可能な範囲の親族に、事前にお伝えください。
- 移転先を決める永代供養墓、納骨堂、樹木葬、合祀墓、あるいはご自宅の近くの一般墓。移転先が決まらないと改葬許可申請ができませんので、ここが実質的な出発点です。見学をして、管理体制と将来の費用を確認してください。
- いまのお墓の管理者(お寺・霊園)に伝える順序が大切です。いきなり「墓じまいします」と通告するのではなく、まず事情をご相談する形でお話しになることを強くお勧めします。ここでの伝え方が、後述する離檀料の話のこじれ方を大きく左右します。
- 改葬許可を取る埋蔵証明書と受入証明書を用意し、遺骨が現にある地の市町村に改葬許可申請書を提出します。許可されると改葬許可証が交付されます。遺骨が複数体ある場合、1体につき1枚の許可証となる自治体が多くあります。
- 閉眼供養(魂抜き)を行う遺骨を取り出す前に、僧侶に読経していただく宗教上の儀礼です。法律上の要件ではありませんが、寺院墓地では慣行として行われるのが通常で、霊園の規約で定められている場合もあります。お布施の目安は、お寺にお尋ねください。
- 遺骨を取り出し、墓石を撤去して更地に戻す石材店に依頼します。墓地の規約で、指定石材店が決まっていることがありますので、契約前に必ず確認してください。多くの墓地では、使用契約上、返還時に更地に戻す義務が定められています。
- 移転先に納骨する(開眼供養)改葬許可証を移転先の管理者に提出し、納骨します。宗派によっては開眼供養を行います。これで手続きは完了です。
※ 以下は、実際のご相談を踏まえて構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。
「離檀料300万円と言われて、話が止まってしまいました」
ご相談にいらしたのは、70代のご長男の方でした。郷里の東北にある菩提寺の墓地に、代々のお墓があります。ご相談者は40年以上前に上京され、いまは首都圏にお住まい。お子さまは二人とも関西にお勤めで、「この先、誰も郷里には戻りません」とのことでした。
ご自身も足を悪くされ、年に一度の墓参りが難しくなってきた。そこで、ご自宅から電車で30分ほどの納骨堂に移すことを決意され、見学のうえ契約もお済ませになっていました。ここまでは順調でした。
問題は、菩提寺へのご連絡でした。ご相談者は、ご住職に電話で「墓じまいをすることにしましたので、手続きをお願いします」とお伝えになったそうです。ご住職の反応は厳しいものでした。「檀家をやめるということですか」と問われ、後日示された金額が離檀料300万円。埋蔵証明書についても、「話がまとまってから」と言われ、発行していただけませんでした。
ご相談者は憤慨しておられました。「そんな法律があるのですか」と。私たちがお答えしたのは、「離檀料の支払義務を直接定めた法令の規定はありません」ということ、そして「離檀料の支払いは、改葬許可の法定の要件でもありません」ということでした。ただ、同時にもう一つお伝えしたことがあります。「ご住職も、驚かれたのではないでしょうか」と。
お話を伺うと、ご相談者は40年以上、郷里にはほとんど帰っておられませんでした。管理料は振込で払い続けておられましたが、ご住職と直接お話しになったのは、お父さまの葬儀以来だったそうです。長年の関係が、電話一本で終わりを告げられた――ご住職の側から見れば、そう映ったかもしれません。
私たちがご提案したのは、まず一度、郷里に足を運んでいただくことでした。金額の交渉ではなく、これまでのお礼と、なぜ墓じまいをせざるを得ないのかを、直接お話しになること。ご相談者は迷われましたが、ご長男として一度きちんと向き合うと決められ、新幹線に乗られました。
結果として、離檀料はお気持ちとしてお包みする形で落ち着き、埋蔵証明書も発行していただけました。改葬許可も無事に下り、いまは月に一度、納骨堂にお参りされているそうです。ご相談者が仰ったのは、「あの電話一本が、すべての原因でした」という一言でした。この事案でお伝えしたかったのは、墓じまいの多くのトラブルは、法律論の前に「伝え方」で防げるということです。そのうえで、それでも解決しないときのために、法的な整理を知っておくことに意味があるのです。
費用の目安と内訳――撤去工事・改葬先・書類
費用は、お墓の広さ、立地(重機が入れるか)、外柵の有無、移転先の種類によって大きく変わります。以下はあくまで一般に案内されている目安であり、実際のお見積もりとは異なります。
| 項目 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 墓石の撤去・更地工事 | 1㎡あたり10万〜15万円程度 | 山あいで重機が入らない、階段が多い、外柵が大きいといった条件で、大きく上振れします。複数の石材店から見積もりを取れるかどうかは、墓地の規約次第です。 |
| 閉眼供養のお布施 | 数万円程度 | 宗派・地域・お寺との関係によります。お寺に直接お尋ねになるのが確実です。 |
| 移転先(永代供養墓・合祀) | 10万〜50万円程度 | 他の方と一緒に納める合祀は、もっとも費用を抑えられます。一度合祀すると、後から個別に取り出すことはできません。 |
| 移転先(納骨堂) | 20万〜150万円程度 | 都市部の駅近、個別の仏壇型などは高額になります。一定期間経過後に合祀に移る契約が多いので、期間の確認を。 |
| 移転先(樹木葬) | 20万〜100万円程度 | 個別区画か、共同かで大きく変わります。 |
| 書類関係(改葬許可申請等) | 1体あたり数百円〜千円程度 | 手数料は市町村により異なり、無料の自治体もあります。戸籍を取り寄せる場合は別途費用がかかります。 |
| 離檀料 | ―― | 法令に定めはありません。次章で詳しく述べます。 |
離檀料に、法的な支払義務はあるのか
墓じまいをめぐる相談で、もっとも感情が動くのがこの論点です。結論から整理します。
離檀料の支払いは、改葬許可の法定の要件でもありません
なぜ「請求」されるのか
離檀料は、法律上の制度ではなく、檀家をやめる際にお寺へお渡しする謝礼として、慣行的に行われてきたものです。長年、法要や墓地の管理をお願いしてきたお寺に対するお礼、という性格です。
ですから、お気持ちとしてお包みになることには、十分な意味があります。私たちも、可能であればそうされることをお勧めしています。もっとも、これは法的な義務ではありませんので、ご事情によってお包みにならないという選択も当然にあり得ます。問題になるのは、常識を超える金額が示され、それを条件に埋蔵証明書の発行が止められるという場合です。
納得できない金額を示されたときに、できること
- まず、対話を試みる前掲の事例のとおり、こじれの原因が「伝え方」にあることは少なくありません。金額の交渉に入る前に、これまでのお礼と事情を直接お伝えする機会をお持ちください。
- 根拠を確認するお寺の規約や、檀家としての契約書・申込書に、離檀に関する定めがあるかどうかを確認します。書面上の根拠があるかどうかで、話は変わります。
- 市町村に相談する埋蔵証明書が出ないことで手続きが止まっている場合、申請先の市町村にご相談ください。代替書類による取り扱いが可能な場合があります。
- 弁護士に相談するそれでも解決しない場合は、法的な整理を前提に、代理人を通じて交渉していただくのが確実です。感情的な応酬を続けるより、結果的に早く、安く収まることが多いというのが実感です。
「払わなければ改葬できない」わけではありません
改葬許可を出すかどうかを判断するのは市町村長であり、お寺ではありません。離檀料の支払いは、墓埋法および施行規則が定める改葬許可の要件には含まれていません。ただし現実には、埋蔵証明書という書類の発行を通じて、お寺の協力が事実上必要になる場面があります。法的にどうかという整理と、実務をどう前に進めるかは、分けて考えてください。個別の事案での対応は、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
「墓じまいは、手続きの前に“順序”です」
墓じまいのご相談を伺っていて、いつも思うことがあります。この手続きでもめるかどうかは、法律の知識よりも、伝える順序で決まるということです。
正しい順序は、①ご親族 → ②移転先の決定 → ③お寺・霊園 → ④市町村への申請です。ところが多くの方が、③から始めてしまわれます。あるいは、②を飛ばして③に行き、「では、どこに移されるのですか」と問われて答えられず、話が宙に浮いてしまう。ご親族への相談を飛ばした結果、工事が終わってから「聞いていない」と言われる――これがいちばん、取り返しがつきません。お墓は、名義人お一人のものであるようでいて、その家に連なる方々の心のよりどころだからです。
お寺へのお伝え方についても、一つだけ申し上げたいことがあります。「墓じまいします」という通告ではなく、「ご相談があるのですが」という切り出し方をしていただきたいのです。ご住職の側から見れば、代々のお付き合いが一本の電話で終わる話です。長年お世話になったことへの感謝を、まずお伝えいただく。それだけで、離檀料の話が穏やかに収まった例を、私たちは何度も見てまいりました。これは交渉術ではなく、単に、そうするのが自然だからです。
そして、法的な整理も知っておいてください。改葬の許可を出すのは市町村長であり、離檀料の支払いは改葬許可の要件ではありません。不当な要求に一人で耐える必要はありませんし、逆に、ご不安のあまり必要以上に身構える必要もありません。当センターでは、ご親族への説明の進め方から、移転先の選び方、書類の準備、こじれてしまった場合の弁護士のご紹介まで、専門家と連携してお手伝いしております。「郷里のお墓を、どうしたらよいでしょうか」――そのご相談から、どうぞお気軽にお電話ください。
誰が決められるのか――祭祀財産の承継と相続税の非課税
最後に、墓じまいと相続の関係を整理しておきます。
お墓を承継するのは「祭祀を主宰すべき者」(民法897条)
お墓や仏壇、位牌といった祭祀財産は、相続財産とは別扱いです。民法897条1項は、系譜、祭具及び墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定め、被相続人の指定があるときは、その指定に従った者が承継するとしています。慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が定める(同条2項)とされています。
つまり、お墓は法定相続分で分けるものではなく、一人の承継者が引き継ぐのが基本です。そして墓じまいを決められるのは、原則としてこの祭祀承継者(および墓地使用者の名義人)ということになります。詳しくは祭祀財産の承継の記事をご覧ください。
墓地・墓石は相続税の非課税財産(相続税法12条1項2号)
税金の面では、相続税法12条1項2号により、墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるものは、相続税の非課税財産とされています。お墓や仏壇には、原則として相続税がかかりません。
墓じまいの費用は、相続税の債務控除の対象になりません
よくいただくご質問ですが、墓じまいの費用(墓石の撤去工事費、改葬先の費用、離檀料など)は、相続税の計算上、債務控除や葬式費用として差し引けるものではないのが原則です。理由は二つあります。一つは、これらが被相続人の債務ではなく、相続開始後に相続人が負担する費用であること。もう一つは、国税庁のタックスアンサーが、葬式費用に該当しないものとして「墓石や墓地の買入れのためにかかった費用や墓地を借りるためにかかった費用」を明示していることです。お墓を生前にご自身で購入されると、その分だけ現金が非課税財産に変わるため相続税の対象が減る一方、亡くなった後に相続人が支払う費用は控除できない――この違いは、生前対策としてよく指摘される点です。ただし、生前に購入されても代金が未払いのまま相続が開始した場合、その未払代金は債務として控除できないとされていますので、お支払いまで済ませておく必要があります。葬式費用として差し引けるものの範囲は葬儀費用と債務控除の記事で整理しています。個別の判断は必ず税理士にご確認ください。
誰も承継しないと、どうなるか
墓じまいをせず、承継する人もいないまま管理料が滞ると、無縁墳墓として扱われる道筋に入ります。墓埋法施行規則3条は、無縁墳墓等の改葬について、死亡者の縁故者等に対して1年以内に申し出るべき旨を官報に掲載し、かつ無縁墳墓等の見やすい場所に設置した立札に1年間掲示して公告するといった手続きを定めています。手続きの詳細は規則の条文をご確認ください。
この場合、遺骨は合祀墓等に移され、墓石は撤去されます。ご自身の意思で移転先を選ぶことはできません。「放っておけば、誰かが何とかしてくれる」のではなく、「意思とは関係なく処理される」――これが、私たちが早めのご検討をお勧めする理由です。お一人おひとりの終活についてはおひとりさま・子のいない人の相続や死後事務委任契約の記事もご参照ください。
墓じまいでよくある7つの落とし穴
当センターへのご相談の中で見えてきた、墓じまいをめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。
- 自分の家の墓だから、勝手に片付けてよいと思っている 遺骨を移すことは法律上の「改葬」にあたり、墓埋法5条1項により市町村長の許可が必要です。無許可で行った場合、墓埋法21条1号の罰則(二万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)の対象になり得ます。
- 改葬許可申請を、移転先の市町村に出してしまう 墓埋法5条2項により、許可を行うのは遺骨が現に存する地の市町村長です。郷里のお墓を都市部に移すなら、申請先は郷里の市町村です。遠方の場合は、郵送での取り扱いの可否を事前にご確認ください。
- 移転先を決めずに手続きを始めてしまう 改葬許可申請書には「改葬の場所」を記載しますので、移転先が決まっていないと申請できません。受入証明書や使用許可証の写しを求める自治体も多くあります。
- ご親族に相談せず、工事まで進めてしまう 祭祀承継者は法律上は単独で決められる立場ですが、「聞いていない」という不満は長く残ります。工事が終わってからでは戻せません。順序としては、ご親族への相談が最初です。
- お寺に「墓じまいします」と通告してしまう 伝え方一つで、その後の展開が大きく変わります。まずはご相談という形で、これまでのお礼とともにお話しになることをお勧めします。
- 離檀料を払わなければ改葬できない、と思い込む 離檀料の支払義務を直接定めた法令の規定はなく、改葬許可の法定の要件でもありません。ただし埋蔵証明書の発行という実務上の壁がありますので、まず市町村にご相談を。解決しない場合は弁護士にご相談ください。
- 合祀にしてから、「やはり個別に」と思っても戻せない 他の方のご遺骨と一緒に納める合祀は、費用を抑えられる一方で、後から個別に取り出すことはできません。納骨堂でも、一定期間の経過後に合祀へ移る契約が多くあります。契約前に、将来の扱いを必ずご確認ください。
この記事のまとめ
- お墓から遺骨を取り出して別の場所に移すことは、法律上の「改葬」にあたる。墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)5条1項により、市町村長の許可が必要である。
- 墓埋法5条2項により、埋葬・改葬の許可を行うのは、死体または焼骨が現に存する地の市町村長である。申請先は移転先ではなく、いま遺骨があるお墓の所在地の市町村である。
- 許可されると改葬許可証が交付される(墓埋法8条)。この許可証を元のお墓の管理者に示して遺骨を取り出し、移転先の管理者に提出して納骨する。
- 無許可で改葬した場合、墓埋法21条1号の罰則(二万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)の対象になり得る。
- 改葬許可申請書の記載事項は施行規則2条1項が定めており、死亡者の本籍・住所・氏名・性別、死亡年月日、埋葬または火葬の場所と年月日、改葬の理由、改葬の場所、申請者の住所・氏名・続柄および墓地使用者等との関係である。
- 施行規則2条2項1号により、墓地等の管理者が作成した埋葬・埋蔵・収蔵の事実を証する書面(実務上は埋蔵証明書・収蔵証明書)の添付が原則とされ、これにより難い特別の事情がある場合に限り、市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面によることができる。受入証明書等は多くの自治体が実務上求めている。
- 墓じまいの手順は、①ご親族への相談 → ②移転先の決定 → ③お寺・霊園への連絡 → ④改葬許可の取得 → ⑤閉眼供養 → ⑥遺骨の取り出しと墓石の撤去・更地化 → ⑦移転先への納骨。全体で3か月〜半年程度をみておくとよい。
- 閉眼供養・開眼供養は宗教上の儀礼であり、法律上の要件ではない。ただし寺院墓地では慣行として行われるのが通常である。
- 費用は墓石撤去・更地工事が1㎡あたり10万〜15万円程度、移転先は永代供養墓10万〜50万円、納骨堂20万〜150万円、樹木葬20万〜100万円程度が一般に案内される目安。立地・条件で大きく変わるため見積もりが必須。
- 永代使用料は、区画を使用する権利の対価であり、原則として返還されない。墓地使用権は所有権ではなく使用権である。
- 離檀料の支払義務を直接定めた法令の規定はなく、離檀料の支払いは改葬許可の法定の要件でもない。もっとも慣行上の謝礼としての意味はあり、実務では埋蔵証明書の発行という壁がある。こじれた場合は市町村、次いで弁護士に相談する。
- お墓・仏壇などの祭祀財産は相続財産と別扱いで、民法897条により祭祀を主宰すべき者が承継する。被相続人の指定があればその者、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定める。
- 墓所・霊びよう・祭具およびこれらに準ずるものは、相続税法12条1項2号により相続税の非課税財産である。一方、墓じまいの費用は債務控除・葬式費用としては差し引けないのが原則である。
- 承継者がなく管理料も滞ると、施行規則3条に基づく公告等の手続き(官報掲載および立札への1年間の掲示)を経て無縁墳墓として扱われ、遺骨は合祀されて墓石は撤去される。移転先を自分で選ぶことはできなくなる。
参考文献(一次情報)
- e-Gov法令検索 墓地、埋葬等に関する法律(第5条・第8条・第21条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000048
- e-Gov法令検索 墓地、埋葬等に関する法律施行規則(第2条・第3条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100024
- 厚生労働省「墓地、埋葬等に関する法律」(生活衛生関係) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei15/
- e-Gov法令検索 民法(第897条 祭祀に関する権利の承継) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索 相続税法(第12条 相続税の非課税財産) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 国税庁 タックスアンサー No.4108「相続税がかからない財産」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4108.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4129「相続財産から控除できる葬式費用」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4129.htm
- 裁判所「祭具等の承継者の指定調停」(祭祀承継者の指定に関する手続き) https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_25/index.html
- e-Gov法令検索(法令検索トップ/最新の条文の確認先) https://laws.e-gov.go.jp/
「郷里のお墓を、どうしたらよいでしょうか」――ご相談ください
ご親族への説明の進め方から、移転先の選び方、改葬許可の書類、こじれた場合の対応まで。
専門家と連携し、ご家族が納得できる形で進めてまいります。