「これにも相続税がかかるのですか」――かからない財産があります

まず、非課税財産という考え方の位置づけを確認しておきます。

相続税は「もらった財産」にかかるのが原則

相続税は、亡くなった方(被相続人)から相続や遺贈によって財産を取得した人に対してかかる税金です。取得した財産の価額を合計し、そこから債務や葬式費用を差し引き、基礎控除を引いた残りに税率を掛けていく――というのが大まかな流れです。

その最初の段階、「取得した財産の価額を合計する」ところで、そもそも合計に入れない財産があります。それが非課税財産です。

非課税財産とは
「課税価格に算入しない」と
法律が定めている財産
控除でも特例でもなく、そもそも足し算に入れない――という位置づけです

なぜ「かからない財産」があるのか

理由は、財産の性格によって異なります。ざっくり整理すると、次の三つの考え方が並んでいます。

性格該当するもの考え方
祈りのためのもの 墓所、霊びょう、祭具など 国民感情や慣習に照らして、課税になじまない
遺族の生活のためのもの 生命保険金、退職手当金等の一定額 残されたご家族の生活を支える性格がある
社会のためのもの 公益事業用財産、公益信託、寄附した財産など 公益のために使われる財産に課税するのは適当でない

この三つの軸を頭に入れておくと、条文を暗記しなくても、だいたいの見当がつくようになります。

ただし、線ははっきり引かれています

大切なのはここからです。「お墓は非課税」と聞くと、お墓に関わるものは何でも非課税だとお考えになる方がいらっしゃいます。ところが、そうではありません。

非課税財産の範囲には、条文と通達によって、はっきりとした線が引かれています。その線を知らないまま申告をすると、本来は課税対象のものを漏らしてしまうおそれがあります。以下、その線を一つひとつ確認してまいります。

非課税財産の全体像――相続税法12条1項が定める7つ

まず、条文の全体像を押さえます。

相続税法12条1項の7つの号

相続税法12条1項は、「次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない」として、次の7つを掲げています。

号財産の内容
1号 皇位に伴う由緒ある物――皇室経済法(昭和22年法律第4号)7条の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物
2号 墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
3号 公益事業用財産――宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが相続又は遺贈により取得した財産で、当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの(次号に掲げるものを除く)
4号 公益信託の受託者が遺贈により取得した財産――公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)2条1項1号に規定する公益信託の受託者が遺贈により取得した財産(その信託財産として取得したものに限る)
5号 心身障害者共済制度の給付金受給権――条例の規定により地方公共団体が精神又は身体に障害のある者に関して実施する共済制度で政令で定めるものに基づいて支給される給付金を受ける権利
6号 相続人が取得した生命保険金等のうち一定額――非課税限度額は500万円×法定相続人の数
7号 相続人が取得した退職手当金等のうち一定額――非課税限度額は500万円×法定相続人の数

2026年4月1日から、号数がずれています

上の表の4号(公益信託の受託者が遺贈により取得した財産)は、公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)の施行にあわせて新しく加えられた号です。同法の施行日は2026年(令和8年)4月1日です。
この改正により、従来4号だった心身障害者共済制度が5号に、5号だった生命保険金が6号に、6号だった退職手当金等が7号に繰り下がりました。インターネット上の解説記事には、「生命保険金の非課税は相続税法12条1項5号」と書かれたまま更新されていないものが数多く残っています。号数を引用する場合は、必ずe-Gov法令検索で現行条文をご確認ください。なお、500万円×法定相続人の数という非課税限度額そのものは、この改正では変わっておりません。

条文に載っていない二つ――幼稚園と寄附

国税庁のタックスアンサーNo.4108「相続税がかからない財産」は、実務で参照される機会がもっとも多い解説です。そこには7つの項目が挙げられていますが、条文の7つの号とは並びが少し違います。理由は、次の二つが12条1項に独立の号として置かれていないからです。

項目根拠内容
個人立幼稚園等の事業用財産 相続税法施行令 附則4 個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で、一定の要件を満たすもの
申告期限までに寄附した財産 租税特別措置法70条 相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附したものなど

実際、タックスアンサーNo.4108の「根拠法令等」欄には、相法12、相基通12-2、措法70、相令附則4と記載されています。非課税財産の話は、相続税法12条だけでは完結しない――この点を押さえておくと、資料を読むときに混乱しません。

墓所・霊びょう・祭具――お墓と仏壇に相続税はかからない(2号)

もっともご質問の多い項目から見てまいります。

条文はごく短い

相続税法12条1項2号は、「墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」とだけ定めています。この短い一文が、お墓・仏壇・仏具・神棚などを非課税としている根拠です。

タックスアンサーNo.4108は、この号の内容を「墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物」と説明しています。キーワードは「日常礼拝をしている物」です。

非課税にならないもの――ここに線があります

そして、同じタックスアンサーは、はっきりと除外を書いています。

[国税庁 タックスアンサー No.4108(要旨)]
墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物は非課税財産とされますが、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや、商品として所有しているものは除かれるとされています。

つまり、次のような整理になります。

区分具体例扱い
非課税になる 先祖代々のお墓、家の仏壇、仏具、位牌、神棚など、日常の礼拝に使っているもの 課税価格に算入しない
非課税にならない 骨とう的価値があるなど投資の対象となるもの 課税対象として評価する
非課税にならない 商品として所有しているもの(仏具店の在庫など) 棚卸資産として課税対象

「純金の仏像」は、なぜ問題になるのか

相続税の対策として、純金製の仏具などを購入するという話を耳にされたことがあるかもしれません。しかし、上のとおり投資の対象となるものは非課税財産から除かれるとされています。形が仏具であれば必ず非課税になる、というものではありません。
判断は、その物が実際に日常の礼拝に使われているのか、それとも財産的価値を保有する目的なのかという実態によります。金額が大きくなるほど、その実態が問われやすくなるとお考えください。個別の判断は、必ず税理士にご確認ください。

見落とされやすい――お墓の未払代金は債務控除できません

ここが、この章でもっともお伝えしたい点です。

相続税法13条3項は、次のように定めています。

[相続税法13条3項]
前条第1項第2号又は第3号に掲げる財産の取得、維持又は管理のために生じた債務の金額は、前2項の規定による控除金額に算入しない。ただし、同条第2項の規定により同号に掲げる財産の価額を課税価格に算入した場合においては、この限りでない。

「前条第1項第2号」とは、いま見ている墓所・霊びょう・祭具のことです。つまり、お墓や仏壇を買ったときの未払代金が残っていても、その債務は相続税の計算で差し引けないということです。

理屈としては筋が通っています。財産のほうを課税対象に入れていないのだから、それに対応する債務も差し引かない――という考え方です。しかし実務では、この点を知らずに「墓石代の未払いが残っているから債務控除できる」と誤解されているケースが少なくありません。

お墓は非課税
その未払代金は債務控除できない
(相続税法13条3項)
財産に入れないものは、その債務も引かない――という対応関係です
[生前にお墓を用意しておくという考え方]
この仕組みから、実務ではよく次のようなお話をいたします。お墓を生前にご購入になっておけば、その分の現金が非課税財産に変わります。反対に、亡くなったあとにご家族が現金でお墓を買われた場合、その現金は課税対象のままです。
ただし、これはあくまで本来ご自身が用意されるおつもりだったものを、いつ用意するかというお話です。必要のないものを購入する理由にはなりませんし、上に述べたとおり投資の対象となるものは非課税財産から除かれます。お墓の承継そのものについては祭祀財産の承継の記事もあわせてご覧ください。

生命保険金の非課税枠――500万円×法定相続人の数(6号)

実務上、金額としてもっとも大きな影響があるのがこの項目です。

非課税限度額の計算

相続税法12条1項6号は、相続人が取得した生命保険金等について、非課税となる部分を定めています。その限度額は、条文上、次のように示されています。

保険金の非課税限度額
= 500万円 × 法定相続人の数
条文では「500万円に当該被相続人の第15条第2項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額」と表現されています

そして、実際にいくら非課税になるかは、全相続人が受け取った保険金の合計額と非課税限度額の大小によって、次のように分かれます。

場合非課税となる金額
合計額 ≦ 非課税限度額 その相続人が取得した保険金の全額
合計額 > 非課税限度額 非課税限度額に、合計額のうちその相続人の取得した保険金の占める割合を乗じて算出した金額(つまり受取額に応じた按分)

「法定相続人の数」の数え方――15条2項

ここでいう「法定相続人の数」は、相続税法15条2項に定められています。基礎控除の計算に使うものと同じ数え方で、二つの特別なルールがあります。

ルール内容
相続放棄 相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数とする。つまり放棄した人も人数に数える
養子の数の制限 被相続人に実子がある場合、または実子がなく養子が1人の場合は1人まで。実子がなく養子が2人以上の場合は2人まで

なお、特別養子縁組による養子、被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者などは、実子とみなすとされています(15条3項)。連れ子を養子にされた場合などが、これに当たります。

ここが分岐点――「相続人が取得した」保険金であること

もっとも間違えやすい論点です。条文は「相続人の取得した」保険金について非課税限度額を定めています。裏を返せば、相続人以外の人が受け取った保険金には、この非課税枠は使えないということです。

国税庁のタックスアンサーNo.4114も、この非課税限度額の適用は受取人が相続人である場合に限られ、相続を放棄した人や相続権を失った人は、ここでいう「相続人」に含まれないという趣旨を説明しています。

相続放棄をした人は「数には入るが、枠は使えない」

この二重構造が、混乱のもとになります。整理いたします。

①非課税限度額を計算するときの「法定相続人の数」には、相続放棄をした人も含めて数えます(15条2項)。ですから、放棄する人がいても、枠の総額そのものは減りません。

②しかし、その放棄をした人ご自身が受け取った保険金には、非課税枠は適用されません。放棄した人は「相続人」ではなくなるからです。

「数えるときは入る。使うときは使えない」――やや割り切れない感じがしますが、条文の作りがそうなっております。お孫さんやご兄弟など、相続人でない方を受取人にされている場合も同様に、非課税枠は適用されません。あわせて、相続人以外の方が取得した場合は相続税額の2割加算の対象になり得る点にもご注意ください(相続税の2割加算の記事をご覧ください)。

ご相談事例

※ 以下は、実際のご相談を踏まえて構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「孫を受取人にしておけば、非課税枠が使えると思っていました」

ご相談にいらしたのは、70代の男性でした。「相続の準備を進めている」とのことで、すでに複数の生命保険にご加入でした。お話をうかがうと、そのうちの一本について、受取人をお孫さんに指定されていました。

「孫にも財産を残してやりたいのです。保険なら500万円までは税金がかからないと聞きましたので」――ご相談者はそうおっしゃいました。お気持ちはよく分かります。けれども、そこに大切な行き違いがありました。

私たちからは、次のようにご説明いたしました。「非課税枠は、条文上『相続人が取得した保険金』について定められています。お孫さまが法定相続人でない場合、その保険金には非課税枠が適用されません。」さらに、相続人以外の方が財産を取得した場合には、相続税額の2割加算の対象になり得ることもあわせてお伝えしました。

ご相談者は、しばらく黙っておられました。「では、孫に残すこと自体が間違いなのでしょうか」――そう尋ねられました。

私たちは「まったくそうではありません」とお答えしました。お孫さんに財産を残したいというお気持ちは、税金の損得より前にある大切なお考えです。ただ、「非課税枠が使える」という前提で組み立てておられたなら、その前提だけは正しておく必要がある――そう申し上げました。税負担を織り込んだうえでなお残したいのか、それとも枠を活かす形に組み替えるのか。判断の材料が変われば、結論も変わり得るからです。

最終的に、ご相談者はお孫さん向けの保険はそのまま残し、別の一本の受取人構成を見直すという形を選ばれました。提携の税理士に試算をお願いし、数字を見たうえでご自身で決められたのが何よりでした。「知らないまま進めなくてよかった」――お帰りの際、そうおっしゃっていました。

退職手当金等の非課税枠――保険金とは別枠で使える(7号)

次に、退職手当金等です。

仕組みは保険金と同じ形

相続税法12条1項7号は、相続人が取得した退職手当金等について、生命保険金とまったく同じ構造の非課税限度額を定めています。

退職手当金等の非課税限度額
= 500万円 × 法定相続人の数
全相続人の合計額が限度額以下ならその全額、超える場合は受取額に応じて按分します

「別枠」であることの意味

ここは、実務でとくに知っておいていただきたい点です。保険金の非課税枠と退職手当金等の非課税枠は、それぞれ別に計算します。条文も、6号と7号でそれぞれ独立して限度額を定めています。

ですから、たとえば法定相続人が3人の場合、次のようになります。

区分非課税限度額
生命保険金(6号) 500万円 × 3人 = 1,500万円
退職手当金等(7号) 500万円 × 3人 = 1,500万円
合計 3,000万円(それぞれの枠は、他方に振り替えられません)

ただし、「合計3,000万円まで自由に使える」わけではありません。保険金が2,000万円で退職手当金等がゼロの場合、使えるのは保険金の枠1,500万円までで、余った退職手当金等の枠を保険金に回すことはできません。それぞれの箱に、それぞれの上限があるとお考えください。

[弔慰金は、また別の話です]
勤務先から支給されるものには、退職手当金等のほかに弔慰金があります。弔慰金には、退職手当金等とは別の取扱いの目安が設けられており、名目が弔慰金であっても実質的に退職手当金等に当たると認められる部分は、退職手当金等として扱われます。死亡退職金と弔慰金の関係は、死亡退職金と弔慰金の相続税の記事で詳しく整理しております。
[保険金・退職手当金等は「みなし相続財産」]
生命保険金や退職手当金等は、民法上は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象になるものではありません。しかし相続税では、相続税法3条1項1号・2号により、相続又は遺贈により取得したものとみなして課税の対象とされます。これをみなし相続財産といいます。「遺産分割の対象ではないが、相続税の対象にはなる」――この二重性が、ご相談でよく混乱を招くところです。生命保険の活用については生命保険を使った相続対策の記事をご覧ください。

公益事業用財産・公益信託・心身障害者共済制度、そして個人立幼稚園

ここからは、該当する方が限られる項目をまとめて整理いたします。ご自身に関係がないと思われる場合も、制度の輪郭だけ知っておくと、寄附や社会貢献をお考えになるときに役立ちます。

公益事業用財産(3号)――2年ルールに注意

3号は、宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが相続または遺贈により取得した財産で、その公益を目的とする事業の用に供することが確実なものを非課税としています。

そして、この号には後から課税される仕組みが用意されています。相続税法12条2項です。

[相続税法12条2項(要旨)]
前項第3号に掲げる財産を取得した者が、当該財産を取得した日から2年を経過した日までに、当該財産をその公益を目的とする事業の用に供しない場合、または供しなくなった場合には、同項の規定にかかわらず、当該財産の価額は、相続税の課税価格に算入するとされています。

つまり、「公益事業に使う」という前提で非課税にしたのだから、実際に使われなければ非課税を維持しないということです。2年という期間が区切りになっています。

公益信託の受託者が遺贈により取得した財産(4号)――新設された号

これが、2026年4月1日施行の公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)にあわせて新しく加わった号です。条文は、同法2条1項1号に規定する公益信託の受託者が遺贈により取得した財産(その信託財産として取得したものに限る)を非課税としています。

遺言によって公益信託に財産を託すという形の社会貢献を、税制の面から支える定めです。新しい制度ですので、実際にご検討になる際は、必ず信託銀行等および税理士にご相談ください。遺言による寄附全般については遺贈寄付の記事をご覧ください。

心身障害者共済制度の給付金受給権(5号)

5号は、条例の規定により地方公共団体が精神又は身体に障害のある者に関して実施する共済制度で政令で定めるものに基づいて支給される給付金を受ける権利を非課税としています。

いわゆる心身障害者扶養共済制度に関するもので、障害のあるお子さんを扶養されている保護者が加入し、保護者に万一のことがあったときに、お子さんに年金が支給されるという仕組みです。その年金を受ける権利には相続税がかからないという定めです。制度の詳細は、お住まいの自治体にご確認ください。

個人立幼稚園等の事業用財産――条文は施行令の附則にあります

タックスアンサーNo.4108が挙げている「個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で一定の要件を満たすもの」は、12条1項に独立の号があるわけではありません。相続税法施行令の附則4が、一定の要件を満たす個人を「法第12条第1項第3号に規定する公益を目的とする事業を行う者に該当するものとする」と定めており、非課税そのものは12条1項3号によって生じるという構造です。No.4108の「根拠法令等」欄にも「相令附則4」と記載されています。

対象となる事業の範囲は相続税法施行規則の附則2が定めており、学校教育法附則6条に規定する私立の幼稚園と、一定の幼保連携型認定こども園を設置し、運営する事業とされています。また同附則3は、相続の開始の年の5年前の年の1月1日前から引き続いて行われてきた事業を承継し、その後も引き続き行うことが確実であると認められる相続人であることを求めています。個人立の幼稚園等を承継される場合は、必ず事前に税理士にご相談ください。

申告期限までに寄附した財産――租税特別措置法70条

最後に、条文の場所が異なるもうひとつの非課税を扱います。

制度の骨格

租税特別措置法70条は、相続や遺贈によって取得した財産を、相続税の申告書の提出期限までに、国、地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人、または認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)に贈与した場合に、その贈与した財産の価額を相続税の課税価格の計算の基礎に算入しないという制度です。

また、相続や遺贈によって取得した財産を、申告期限までに公益信託の信託財産とするために支出した場合についても、同条3項に定めが置かれています。ただし、公益信託制度の改正に伴い、適用される条文や経過措置に注意が必要な領域です。この点は必ず国税庁の最新の情報と税理士にご確認ください。

実務上のポイント

要素内容
対象財産 相続または遺贈により取得した財産であること(もともとご自身が持っていた財産の寄附ではありません)
期限 相続税の申告書の提出期限までに寄附すること。申告期限は原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内
寄附先 国、地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人、認定NPO法人など、条文が定める先であること
手続 相続税の申告書にこの規定の適用を受ける旨を記載し、寄附先が発行する証明書等を添付して提出すること

「寄附先ならどこでもよい」ではありません

この制度でつまずきやすいのが、寄附先の要件です。公益を目的とする活動をしている団体であれば何でもよい、というものではありません。条文および政令が定める法人に該当する必要があります。寄附をお考えの団体がこの制度の対象になるかどうかは、寄附をなさる前に、その団体と税理士の双方にご確認ください。
また、期限が申告期限までと区切られている点も重要です。「気持ちが固まってから」と考えているうちに10か月が過ぎてしまえば、この制度は使えません。寄附をお考えであれば、相続の手続きの早い段階で検討を始めていただくことをおすすめします。

― 私たちから一言 ―

非課税財産の話は、節税の話である前に、「何を大切にしてきたか」の話です

非課税財産という言葉を聞くと、多くの方が「うまく使えば税金が減るのだろうか」とお考えになります。もちろん、その視点も大切です。けれども、私がこの条文を読むたびに思うのは、まったく別のことです。

相続税法12条に並んでいる7つを、もう一度ご覧になってみてください。お墓、仏壇、位牌。公益のために使われる財産。障害のあるお子さんに支払われる共済の年金。残されたご家族の生活を支える保険金と退職金。――これらは、「ここには税金をかけない」と法律が決めた領域です。並べてみると、そこに一本の考え方が通っていることが見えてまいります。祈りのためのもの、社会のためのもの、そして遺された人が生きていくためのもの。

ご相談の場で、私が忘れられないやりとりがあります。お父さまを亡くされた方が、「仏壇まで数えられて税金を取られるのかと思って、正直、腹が立っていました」とおっしゃったのです。そして、非課税だとお伝えすると、ふっと肩の力を抜かれて「そうですか。それなら、少し救われます」と。税金の話をしているようで、実は、お気持ちの話をしていたのだと思います。

ですから私は、この分野のご説明をするとき、「いくら得か」から入らないようにしております。まず、ご家族が何を大切にしてこられたかをうかがう。お墓をどうされるおつもりか。保険は誰のために掛けられたのか。社会に何か遺したいお気持ちはあるか。そのお話をうかがったあとで、では法律はどうなっているかを見る。その順番でご説明すると、皆さま驚くほどすっと腑に落ちてくださいます。

一方で、専門家として申し上げなければならないこともあります。非課税財産の範囲には、はっきりとした線が引かれています。投資の対象となるものは除かれる。相続人以外の受取人には枠が使えない。お墓の未払代金は債務控除できない。寄附には期限がある。この線を知らないまま「たぶん大丈夫だろう」と進めてしまうと、あとから思わぬ結果になりかねません。当センターでは、ご家族のお考えをうかがったうえで、提携する税理士とご一緒に整理するという形でお手伝いしております。「これは非課税になりますか」――その一言からで結構です。どうぞお気軽にお電話ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

相続税の非課税財産でよくある7つの落とし穴

最後に、実務でとくに多い誤解を7つ、整理いたします。

  1. 古い解説の号数をそのまま引用してしまう 公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)の施行にあわせ、所得税法等の一部を改正する法律(令和6年法律第8号)により、2026年4月1日から相続税法12条1項に第4号が新設され、以降の号が繰り下がりました。生命保険金は5号ではなく6号、退職手当金等は6号ではなく7号です。号数を挙げるときは、必ずe-Gov法令検索で現行条文をご確認ください。
  2. 「仏具の形なら何でも非課税」と思っている 国税庁は、骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや、商品として所有しているものは除かれるとしています。形ではなく、日常礼拝の用に供されているかという実態で判断されます。
  3. お墓の未払代金を債務控除してしまう 相続税法13条3項により、12条1項2号(墓所・霊びょう・祭具)の取得・維持・管理のために生じた債務は、控除金額に算入しません。非課税にした財産の債務は引かない、という対応関係です。
  4. 相続人以外の受取人にも500万円枠が使えると思っている 非課税限度額は条文上「相続人の取得した」保険金・退職手当金等について定められています。相続放棄をした人やお孫さんなど、相続人でない方が受け取った分には適用されません。さらに2割加算の対象になり得ます。
  5. 相続放棄があると非課税枠が減ると思っている 枠の計算に使う「法定相続人の数」は、相続の放棄がなかったものとした場合の相続人の数です(相続税法15条2項)。放棄する人がいても、枠の総額は減りません。ただし放棄した本人は枠を使えません。
  6. 保険金の枠と退職金の枠を、合算して使えると思っている 6号と7号は、それぞれ独立して非課税限度額を定めています。一方で余った枠を、他方に振り替えることはできません。それぞれの箱に、それぞれの上限があります。
  7. 寄附の非課税を、期限を過ぎてから思い出す 租税特別措置法70条の非課税は、相続税の申告書の提出期限までに寄附することが要件です。申告期限は原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内。寄附先が制度の対象法人に該当するかも、事前に確認が必要です。

この記事のまとめ

  • 相続税法12条1項は、「次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない」として7つの号を定めている。これが相続税の非課税財産。
  • 現行の号数は、1号=皇位に伴う由緒ある物/2号=墓所・霊びょう・祭具並びにこれらに準ずるもの/3号=公益事業用財産/4号=公益信託の受託者が遺贈により取得した財産/5号=心身障害者共済制度の給付金受給権/6号=相続人が取得した生命保険金等の一定額/7号=相続人が取得した退職手当金等の一定額。
  • 4号は、2026年(令和8年)4月1日施行の「公益信託に関する法律」(令和6年法律第30号)にあわせて新設された号であり、これにより従来の4号〜6号が5号〜7号に繰り下がった。古い解説の号数をそのまま引用しないよう注意する。
  • お墓・仏壇・仏具など日常礼拝をしている物は非課税だが、国税庁は骨とう的価値があるなど投資の対象となるものや、商品として所有しているものは除かれるとしている。
  • 相続税法13条3項により、12条1項2号・3号の財産の取得・維持・管理のために生じた債務は債務控除できない。お墓や仏壇の未払代金は差し引けない。
  • 生命保険金(6号)と退職手当金等(7号)の非課税限度額は、それぞれ500万円×法定相続人の数。全相続人の合計額が限度額以下ならその全額、超える場合は受取額に応じて按分する。
  • 6号の枠と7号の枠は別枠で、一方の余りを他方に振り替えることはできない。
  • 枠の計算に使う「法定相続人の数」は相続税法15条2項による。相続の放棄があった場合はなかったものとした場合の相続人の数とし、養子は実子がある場合等は1人、実子がなく養子が2人以上の場合は2人までに制限される。特別養子や配偶者の実子で養子となった者は実子とみなす(15条3項)。
  • 非課税限度額は条文上「相続人の取得した」保険金・退職手当金等について定められており、相続放棄をした人や相続人以外の受取人には適用されない(国税庁 タックスアンサーNo.4114)。
  • 3号の公益事業用財産は、取得の日から2年を経過した日までに公益目的事業の用に供しない場合・供しなくなった場合には課税価格に算入する(12条2項)。
  • 個人で経営している幼稚園等の事業用財産については、相続税法施行令 附則4が一定の個人を12条1項3号の「公益を目的とする事業を行う者」に該当するものとすると定めており、非課税は3号によって生じる。対象事業の範囲(私立の幼稚園・一定の幼保連携型認定こども園)と承継者の要件は相続税法施行規則 附則2・附則3による。
  • 相続税の申告期限までに、国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附した財産の非課税は、租税特別措置法70条による。申告書への記載と証明書等の添付が必要。公益信託への支出については、公益信託制度の改正に伴う適用関係の確認が必要。
  • タックスアンサーNo.4108「相続税がかからない財産」の根拠法令等は「相法12、相基通12-2、措法70、相令附則4」。非課税財産の話は相続税法12条だけでは完結しない。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は、特定の財産の購入や寄附、保険契約の締結・変更を推奨するものではなく、税務上の助言を提供するものでもありません。非課税財産に当たるかどうかの判断は、その財産の実態、取得者の立場、契約の内容、使用の状況など、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項であり、本記事の記載によって特定の税額や非課税の適用を保証するものではありません。とくに、日常礼拝の用に供する物と投資の対象となる物との区別、相続人に該当するかどうかの判定、租税特別措置法70条の寄附先の要件については、判断を誤りやすい領域です。また、公益信託制度の改正に伴う適用関係および経過措置については、国税庁の最新の情報をご確認ください。記載した法令名・条項・数値・施行日は執筆時点で一次情報により確認したものですが、法令および通達は改正される可能性があります。本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず国税庁、e-Gov法令検索などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、税理士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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