未登記建物とは――「登記記録が一つも存在しない建物」のこと

未登記建物とは、法務局にその建物の登記記録が作られていない建物のことです。

建物の登記記録は、大きく表題部と権利部に分かれています。

区分記録される内容主に担当する専門家
表題部所在、家屋番号、種類(居宅・店舗など)、構造、床面積、表題部所有者――その建物が「どこに、どんな形で存在するか」を記録する部分です。土地家屋調査士
権利部(甲区)所有権に関する事項。所有権保存登記・所有権移転登記など。司法書士
権利部(乙区)所有権以外の権利に関する事項。抵当権など。司法書士

「表題登記だけがない」のではなく、「登記記録そのものがない」状態です

建物の登記は、まず表題登記によって登記記録が新しく作られ、そのうえで所有権保存登記によって権利部が作られるという順序になっています。

したがって、表題登記がされていない建物には、権利部も存在しません。「所有者のお名前だけ書き換えればよい」という状態ではなく、登記記録をゼロから起こすところから始めることになります。

なぜ未登記のまま残っているのか

建物が未登記のまま残っている理由は、おおむね次のようなものです。

[まず確かめていただきたいこと]
未登記かどうかは、固定資産税の納税通知書に付いている「課税明細書」を見ると、およその見当がつきます。家屋の欄に家屋番号が記載されていない、あるいは「未登記」と表示されている場合、その建物は未登記である可能性があります。
確実な確認は、法務局で建物の登記事項証明書を請求する方法です。登記記録が存在しなければ、その旨が示されます。市区町村の資産税担当課で「名寄帳(固定資産課税台帳)」をお取りになり、法務局の記録と突き合わせるのが、いちばん確実な進め方です。表示の仕方は市区町村によって異なりますので、判断に迷われたときは、必ず法務局または土地家屋調査士にご確認ください。

登記がないのに固定資産税が来る理由――家屋補充課税台帳(地方税法381条4項)

ご相談で必ずと言ってよいほど出るのが、「登記されていないのに、どうして固定資産税を払ってきたのでしょうか」というご質問です。

登記 …… 法務局の制度(不動産登記法)
固定資産税 …… 市区町村の制度(地方税法)
まったく別の制度です。登記がなくても、市区町村が建物を把握していれば課税されます

登記されていない家屋について、市町村が課税のために備えるものとされているのが家屋補充課税台帳です。根拠は地方税法381条4項です。

条項定めている内容
地方税法381条3項市町村長は、家屋課税台帳に、登記簿に登記されている家屋について、所有権の登記名義人の住所及び氏名又は名称、所在、家屋番号、種類、構造、床面積、価格等を登録しなければならないとされています。
地方税法381条4項市町村長は、家屋補充課税台帳に、登記簿に登記されている家屋以外の家屋で固定資産税を課することができるものについて、同様の事項を登録しなければならないとされています。未登記建物への課税の根拠となるのは、こちらの4項です。

市町村は、建築確認の情報や実地調査などによって家屋を把握し、登記の有無にかかわらず課税台帳に登録して固定資産税を課することができます。「納税通知書が届いているのだから登記されているはずだ」というのは、成り立たない推論だということです。

相続税でも、未登記建物は課税の対象になります

「登記がないから相続財産ではない」ということにはなりません

相続税の課税対象になるかどうかは、登記の有無ではなく、被相続人がその財産を所有していたかどうかによって決まります。未登記建物であっても、被相続人が所有していた家屋であれば、相続財産として申告の対象になります。

家屋の相続税評価は、その家屋の固定資産税評価額に、別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によるものとされています(財産評価基本通達89)。通常の家屋について、この倍率は1.0とされています。つまり実務上は、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。未登記建物についても、家屋補充課税台帳に評価額が登録されていれば、それが評価の手がかりになるのが一般的な取扱いです。

ただし、建築中の家屋、評価額が付されていない家屋などは、取扱いが異なります。具体的な評価は、必ず税理士にご確認ください。

[意外に多い見落とし]
「登記されている建物だけを一覧にして、遺産分割協議書を作ってしまう」という誤りが、たいへん多くございます。登記事項証明書だけを頼りに財産目録をお作りになると、未登記の離れや倉庫が漏れます。
漏れたまま遺産分割協議を終えてしまうと、あとからその建物について改めて協議をすることになりかねません。必ず、市区町村の名寄帳(固定資産課税台帳)と突き合わせてください。財産の調べ方については、当センターの記事「相続財産の調べ方」もあわせてご覧ください。

表題登記の申請義務は「一月以内」――不動産登記法47条1項と164条1項の過料

建物の表題登記には、法律上の申請義務があります。

新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の
所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、
表題登記を申請しなければならない
不動産登記法47条1項(条文上は「30日以内」ではなく「一月以内」と定められています)

そして、この義務に違反した場合の定めが不動産登記法164条1項です。同項は、47条1項などの申請義務に違反した者を、10万円以下の過料に処するとしています。

過料は「刑罰」ではありませんが、「何もない」わけでもありません

過料は、刑罰ではなく行政上の秩序罰とされています。前科が付くものではありません。

しかし、正当な理由なく申請義務を怠った場合に、裁判所が科すことができるものとして法律に定められています。「罰金ではないから気にしなくてよい」という性質のものではありません。

なお、実際にどのような場合に過料の手続が採られるかは、個別の事情によります。具体的な見通しについては、必ず司法書士または土地家屋調査士にご確認ください。

「一月以内」の起算点は、所有権を取得した日

条文は、義務を負う人を「その所有権を取得した者」とし、起算点を「その所有権の取得の日から」と定めています。相続の場合、被相続人がお亡くなりになった日に相続が開始し、相続人が所有権を取得するのが原則です(民法882条、896条)。

[正直に申し上げます]
相続の直後に、一月以内で表題登記まで終えられる方は、まずいらっしゃいません。お通夜、ご葬儀、各種のお手続き。そのさなかに、土地家屋調査士を探して建物を測っていただき、古い資料をご実家中から探し出す――現実には、なかなか難しいことです。
大切なのは、「期限を過ぎたから、もう手遅れだ」とお考えにならないことです。気づかれた時点で、できるだけ早く手続きを進める。それが、いちばん現実的で、いちばん確実な対応です。ご不安があれば、まずは土地家屋調査士または司法書士にご相談ください。

相続人はどう申請するのか――47条1項の「所有権を取得した者」として

ご相談でよくお尋ねいただくのが、「持ち主である父が亡くなっているのに、登記の申請などできるのでしょうか」というご質問です。

できます。鍵になるのは、47条1項が義務を負う人をどう定めているか、です。

新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の
所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、
表題登記を申請しなければならない
不動産登記法47条1項

条文は、義務を負う人を「所有権を取得した者」としています。相続人は、相続によってその建物の所有権を取得していらっしゃいます。ですから、相続人ご自身が、この47条1項の申請をする立場に立つことになります。亡くなった方に代わって申請する、という組み立てではありません。

「47条2項」は、この場面の条文ではありません

インターネット上の解説では、未登記建物の相続について不動産登記法47条2項を挙げているものを見かけます。しかし、同項は「区分建物」――マンションのように一棟の建物を区分して所有する建物――を新築した場合についての特則です。

一戸建てのご実家、離れ、車庫、作業小屋といった区分建物でない建物には、47条2項は当てはまりません。これらについては、47条1項が申請義務の根拠となり、相続人は「相続により所有権を取得した者」として、その申請をする立場に立ちます。

条文の当てはめを誤ると、そろえるべき書類も手続きの組み立ても変わってしまいます。ご自分で判断なさらず、必ず土地家屋調査士にご確認ください。

STEP 1未登記であることを
確認する
STEP 2建物の表題登記
(土地家屋調査士)
STEP 3所有権保存登記
(司法書士)
STEP 4売却・担保設定などが
できる状態に

表題登記に必要になる主な資料

表題登記は、その建物が実際に存在することと、その所有者が誰であるかを明らかにして申請します。一般的には、次のような資料が求められます。

必要な書類は、その建物の事情と管轄の法務局の取扱いによって変わります。上の一覧は目安としてご覧ください。

古い建物ほど、「所有権を証する資料」がいちばんの壁になります

昭和の時代に建てられた建物では、建築確認済証も、請負契約書も、領収証も、どこにも残っていないということが珍しくありません。

そのような場合には、固定資産課税台帳の記載事項証明書、近隣の方や関係者の証明書(上申書)、工事をした業者の証明書などを組み合わせて、所有関係を明らかにしていくことになります。

どの資料をどのように組み合わせれば足りるかは、その建物の事情と、管轄の法務局の判断によります。まずは土地家屋調査士にご相談ください。

誰を「表題部所有者」として申請するのか

もう一つ、実務でよくお尋ねいただく点があります。登記記録に最初に記録される「表題部所有者」を、亡くなった方になさるのか、相続人ご自身になさるのかという問題です。

[ご注意]
相続人が相続によって所有権を取得していらっしゃる以上、相続人ご自身を表題部所有者として表題登記を申請するのが、一般的な取扱いとされています。一方で、被相続人を表題部所有者として申請する取扱いが採られる場面もあるとされ、その場合には、そのあと相続人が74条1項1号により所有権保存登記を申請することになります。
どちらの方法によるかで、そろえるべき添付資料も、その後の手続きの流れも変わり得ます。遺産分割の内容、相続人の人数、建物のご事情、そして管轄の法務局の取扱いによって判断が分かれる場面です。ご自分で判断なさらず、必ず土地家屋調査士・司法書士にご確認ください。

表題登記のあとは所有権保存登記へ――不動産登記法74条1項1号と登録免許税

表題登記によって登記記録ができても、その段階では権利部がまだ存在しません。売却や担保の設定のためには、所有権保存登記が必要です。

所有権保存登記を申請することができる人を定めているのが不動産登記法74条1項1号です。同号は、表題部所有者またはその相続人その他の一般承継人を、申請することができる者として挙げています。

表題部所有者
またはその相続人その他の一般承継人
不動産登記法74条1項1号――被相続人を表題部所有者とする表題登記がされている場合、その相続人は自分の名義で所有権保存登記を申請できます

「被相続人名義の保存登記」から「相続による移転登記」へ、と二段階で行う必要はありません

被相続人を表題部所有者とする表題登記がされている場合、その相続人は、74条1項1号により、直接ご自分の名義で所有権保存登記を申請することができるとされています。

つまり、いったん亡くなった方の名義で保存登記をしてから相続登記をする、という二度手間は要りません。登録免許税も、一回分で済むのが通常です。

ただし、相続人が複数いらっしゃる場合には、誰の名義で保存登記をするかを遺産分割協議等で決めておく必要があります。この点は必ず司法書士にご確認ください。

費用の目安

手続き登録免許税依頼先と報酬
建物の表題登記課されません。建物の表題登記は、表示に関する登記として、登録免許税の課税対象とされていません。土地家屋調査士へ。建物の規模・現地の状況・資料の有無によって金額は大きく変わります。
所有権保存登記不動産の価額 × 1000分の4が本則の税率とされています(登録免許税法別表第一)。一定の住宅用家屋については、要件を満たす場合に軽減税率の特例が設けられています。司法書士へ。
[費用について、正直なところ]
表題登記の費用は、現地での調査・測量と図面の作成が必要になるため、相続登記だけの場合よりも高くなるのが通常です。建物の大きさ、形、増築の有無、資料がどれだけ残っているかによって、金額は大きく変わります。
複数の土地家屋調査士に見積りをお取りになることを、おすすめいたします。また、登録免許税の税率、軽減税率の特例の適用の可否は、必ず司法書士または税理士にご確認ください。

相続登記の義務化(76条の2)との関係――未登記建物には「登記名義人」がいません

2024年(令和6年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。根拠は不動産登記法76条の2です。

所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、
当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の
開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを
知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない
不動産登記法76条の2第1項(趣旨)――遺産分割が調わないときは、同法76条の3の相続人申告登記という簡易な方法が用意されています

未登記建物は、この義務の直接の対象にはなりません

76条の2は、「所有権の登記名義人」について相続が開始した場面を前提とした制度です。未登記建物には、そもそも所有権の登記名義人が存在しません。したがって、「3年以内に所有権の移転の登記をしなさい」という義務が、そのままの形でかかる場面ではないと整理されます。

「相続登記義務の対象外」は、「放っておいてよい」という意味ではありません

ここを誤解なさらないでください。76条の2の相続登記の申請義務の対象でなくても、47条1項の表題登記の申請義務は、別に存在します。

法務省も、相続した建物に登記がない場合には、相続登記をする前に、まず建物の表題登記が必要である旨を案内しています。

つまり、未登記建物は「義務がない」のではなく、「かかっている義務の種類が違う」のです。そして、47条1項の期限は、76条の2の3年よりもはるかに短い「一月以内」です。

建物の登記の状態問題になる義務期限過料の上限
表題登記も所有権の登記もない
(=未登記建物)
不動産登記法47条1項の表題登記の申請義務所有権の取得の日から一月以内10万円以下(同164条1項)
表題登記はあるが
所有権の登記がない
同法74条1項1号により、表題部所有者またはその相続人その他の一般承継人が所有権保存登記を申請できます―(保存登記そのものに期限の定めは置かれていません)―
所有権の登記名義人が亡くなり
相続人が所有権を取得した
同法76条の2の相続登記の申請義務3年以内10万円以下(同164条1項)

相続登記の義務化そのものについては、当センターの記事「相続登記の義務化、3年以内の申請義務・10万円以下の過料・相続人申告登記の完全ガイド」もあわせてご覧ください。

[よくあるご質問]
「母屋は登記されていて、離れが未登記です。この場合はどうなりますか」――建物ごとに分けて考えることになります。母屋については76条の2の相続登記の義務、離れについては47条1項の表題登記の義務。一つの敷地の中でも、建物ごとに扱いが分かれ得ます。
なお、増築部分が母屋と一体で「一個の建物」と評価される場合には、新たな表題登記ではなく建物の表題部の変更の登記(床面積の変更)になるなど、扱いが変わることがあります。その建物がどちらにあたるかの判断は、必ず土地家屋調査士にご確認ください。

未登記のまま放置するとどうなるか――売る・借りる・建て替える・壊すでつまずく

未登記のままでも、日々の暮らしに支障がないことは事実です。そこに住み続けていらっしゃる限りは、困りません。だからこそ、代々放置されてきました。

しかし、「動かそう」となさったときに、つまずきます。

  1. 売るのに時間がかかります 買主は、所有権の移転の登記を受けられない不動産を、安心して買うことができません。登記記録がなければ、そもそも移転登記のしようがないからです。実務上は、売主の側で表題登記と所有権保存登記を済ませてからお引渡しをするのが通常です。「買主が見つかってから登記すればよい」とお考えになると、決済までに数か月かかることがあります。
  2. 担保に入れられません 金融機関は、抵当権を設定できない建物を担保として扱うことができません。リフォームローン、二世帯住宅への建替え資金など、建物を担保にしたい場面で問題になります。
  3. 取り壊したあとの手続きが、登記済みの建物とは違います 登記された建物を取り壊したときは、不動産登記法57条により、表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その滅失の日から一月以内に建物の滅失の登記を申請しなければならないとされています。これに対して、未登記建物には登記記録がないため、滅失の登記そのものができません。市区町村へ家屋滅失届などを提出して課税台帳から外していただく手続きが必要になります。「登記がないのだから何もしなくてよい」とお考えになると、取り壊したあとも固定資産税が課され続けることがあります。届出の名称・様式は市区町村によって異なりますので、必ずお住まいの市区町村にご確認ください。
  4. 権利関係が、世代を重ねるほど収拾しにくくなります 未登記のまま次の相続が起きると、相続人がねずみ算式に増えていきます。表題登記のために必要な戸籍の収集も、所有権を証する資料の確保も、時が経つほど難しくなります。これが、未登記建物のいちばん厄介なところです。相続が重なった場合の進め方については、当センターの記事「数次相続とは」もあわせてご覧ください。
  5. 空き家対策の場面でも、動きが遅れがちです 管理が行き届かない空き家は、空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)に基づく助言・指導・勧告等の対象になり得ます。勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例が適用されなくなるという重い効果があります。所有者が誰かをすぐに示せない未登記建物は、この場面でも対応が遅れがちです。

いちばん多いのは、「売ろうとして初めて気づく」という場面です

ご実家を相続され、しばらく空き家のままにしておられた。いよいよ売却しようと不動産会社にご相談なさったところ、「この建物、登記がありませんね」と言われる。――これが、私どもがいちばん多くうかがう入口です。

そこから、土地家屋調査士を探し、古い資料をご実家中から探し出し、戸籍を集め、表題登記を申請し、そのうえで所有権保存登記へ。お引渡しまでに、数か月を要することも珍しくありません。

売ることをお考えでなくても、相続のときに済ませておく。それが、お子さま・お孫さまの世代への、いちばん確かな備えになります。

ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「登記簿がない、と言われました」――Kさまのご相談

Kさま(50代・女性)は、前の年にお父さまを亡くされ、ご実家を相続なさいました。ご相談にお越しになったのは、それから1年ほど経ってからのことです。

ご相談の入口は、「実家を売ろうと思って不動産会社に相談したら、『建物の登記がありません』と言われました。どういうことなのでしょうか」というお話でした。

私はまず、「固定資産税の納税通知書は、毎年届いていらっしゃいますか」とお尋ねしました。Kさまは、「はい、届いています。ですから、てっきり登記されているものと思っておりました」とおっしゃいました。

私は、「そこが、いちばん誤解されやすいところなのです」と申し上げました。「固定資産税は市区町村の制度、登記は法務局の制度で、まったくの別ものです。登記されていない家屋についても、市町村は家屋補充課税台帳を備えて課税することができる、と地方税法に定めがございます」と。

Kさまは、「では、これから相続登記をすればよいのですね」とお尋ねになりました。

私は、「順序が一つ手前にございます」とご説明しました。「登記記録そのものがありませんので、まず『表題登記』で登記記録を起こすところから始まります。これは土地家屋調査士のお仕事です。そのうえで、所有権保存登記へ進みます。こちらは司法書士です」と。

Kさまは、少し驚かれたご様子で、「父はもう亡くなっているのに、登記の申請などできるのでしょうか」とおっしゃいました。

私は、「できます」と申し上げました。「不動産登記法47条1項は、区分建物以外の表題登記がない建物について、その所有権を取得した方が一月以内に表題登記を申請しなければならない、と定めております。Kさまは相続によって所有権を取得していらっしゃいますから、Kさまご自身が、この申請をなさる立場に立ちます」と。

そのうえで、私は一つ付け加えました。「ときどき、47条2項という条文を挙げた解説を見かけますが、あちらはマンションのような区分建物を新築した場合の特則です。Kさまのご実家のような一戸建てには当てはまりませんので、お気をつけください」と。

そのあと、私は一つ確かめました。「建築確認済証や、建てたときの請負契約書、領収証のようなものは、お手元に残っていらっしゃいますか」

Kさまは、「探してみないと分かりません。昭和40年代に建てた家ですので……」とおっしゃいました。

私は、「そこが、この手続きのいちばんの山になります」と申し上げました。「資料が残っていない場合は、固定資産課税台帳の証明書や、関係する方の証明書などを組み合わせて、所有関係を明らかにしていくことになります。どの資料をどう組み合わせれば足りるかは、建物のご事情と管轄の法務局の判断によりますので、まずは土地家屋調査士にご相談なさってください」と。

あわせて、「お父さまの遺産分割協議書に、この建物は入っていますか」とお尋ねしました。Kさまは、はっとしたご様子で、「登記簿を見ながら作ったので、入っていないかもしれません」とおっしゃいました。

登記されている財産だけを見て遺産分割協議書を作る。――これは、未登記建物のご相談で、たいへん多い落とし穴です。

― 私たちから一言 ―

「登記がない」は、「権利がない」ということではありません

未登記建物のご相談でお越しになる方は、たいてい、少し不安そうなお顔をしていらっしゃいます。「登記がないということは、うちの家ではないのでしょうか」と。

そうではありません。相続によって所有権を取得なさったことと、登記がされていることは、別の話です。登記は、その権利を他の人に対して主張しやすくするための、いわば公の記録です。記録がないからといって、権利そのものがなくなるわけではありません。

ただ、記録がないままでは、動かせません。売ることも、担保に入れることも、次の世代へきれいに引き継ぐことも。「持ってはいるけれど、動かせない財産」――それが、未登記建物です。

私どもがいちばん申し上げたいのは、「今度の相続のときに、済ませてしまいましょう」ということです。

理由は、はっきりしています。時間が経てば経つほど、難しくなるからです。建てたときの資料をご存じの方が、ご健在でいらっしゃるうちに。相続人が、まだ数人のうちに。次の相続が起きてしまうと、集めるべき戸籍も、話し合うべき相手も、一気に増えます。

そしてもう一つ。ご自分で判断なさらないでください。表題登記は土地家屋調査士、所有権保存登記は司法書士と、担当する専門家が分かれます。どちらの方法で表題登記をするか、どの資料で所有関係を明らかにするか――ここは、専門家でなければ判断の難しいところです。

「登記がないと言われて、どうしてよいか分かりません」――そのお電話一本からで、けっこうです。どこに、どうつなげばよいかを、ご一緒に考えてまいります。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

未登記建物の相続でよくある7つの落とし穴

  1. 「固定資産税を払っているから登記されている」と思い込む 登記は法務局、固定資産税は市区町村の、まったく別の制度です。市町村長は、登記簿に登記されている家屋以外の家屋で固定資産税を課することができるものについて、家屋補充課税台帳に登録するものとされており(地方税法381条4項)、登記の有無にかかわらず課税されます。納税通知書が届いていることは、登記がされていることの証明にはなりません。確実な確認は、法務局での登記事項証明書の請求です。
  2. 登記事項証明書だけを見て遺産分割協議書を作り、未登記建物が漏れる 登記されている財産だけを一覧にすると、未登記の離れ・車庫・倉庫が漏れます。漏れたまま協議を終えてしまうと、あとからその建物について改めて話し合いをすることになりかねません。必ず、市区町村の名寄帳(固定資産課税台帳)と突き合わせてください。
  3. 「相続登記をすればよい」と考えて、表題登記が先だと気づかない 登記記録そのものがない建物には、書き換えるべき権利部がありません。まず表題登記で登記記録を起こし、そのうえで所有権保存登記へ進みます。表題登記は土地家屋調査士、所有権保存登記は司法書士と、担当する専門家も分かれます。
  4. 「相続登記の義務化の対象外だから、放っておいてよい」と考える 不動産登記法76条の2の相続登記の申請義務は、所有権の登記名義人について相続があった場合を対象とする制度です。未登記建物には登記名義人がいませんので、この義務がそのままの形でかかる場面ではありません。しかし、同法47条1項の表題登記の申請義務は、別に存在します。しかも、その期限は「所有権の取得の日から一月以内」と、3年よりはるかに短いものです。
  5. 「過料は罰金ではないから関係ない」と考える 不動産登記法164条1項は、正当な理由なく47条1項などの申請義務に違反した者を10万円以下の過料に処するとしています。過料は刑罰ではなく行政上の秩序罰ですが、法律に定められた制裁であることに変わりはありません。実際にどのような場合に手続が採られるかは個別の事情によりますので、ご不安があれば司法書士または土地家屋調査士にご確認ください。
  6. 資料が残っていないので「もう登記できない」とあきらめてしまう 建築確認済証や請負契約書が残っていないことは、古い建物では珍しくありません。その場合でも、固定資産課税台帳の記載事項証明書、関係する方の証明書(上申書)、工事をした業者の証明書などを組み合わせて所有関係を明らかにしていく方法があります。どの資料で足りるかは建物の事情と管轄の法務局の判断によりますので、あきらめる前に、まず土地家屋調査士にご相談ください。
  7. 未登記建物を取り壊したあと、市区町村への届出を忘れる 登記された建物であれば、不動産登記法57条により、表題部所有者又は所有権の登記名義人が、その滅失の日から一月以内に建物の滅失の登記を申請します。未登記建物には登記記録がありませんので、滅失の登記そのものができず、市区町村への家屋滅失届などの手続きが必要になります。これを忘れると、取り壊したあとも固定資産税が課され続けることがあります。届出の名称・様式・提出先は市区町村によって異なりますので、必ずお住まいの市区町村にご確認ください。

この記事のまとめ

  • 未登記建物とは、法務局にその建物の登記記録が作られていない建物のことです。表題部も権利部も存在しないため、登記記録をゼロから起こすところから手続きが始まります。
  • 不動産登記法47条1項は、新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に表題登記を申請しなければならないと定めています。条文上は「30日以内」ではなく「一月以内」です。
  • この申請義務に違反した者は、不動産登記法164条1項により10万円以下の過料に処するとされています。過料は刑罰ではなく行政上の秩序罰です。
  • 47条1項は義務を負う人を「所有権を取得した者」と定めています。相続の場合、相続人は相続によって所有権を取得しているため、相続人ご自身がこの申請をする立場に立ちます。同法47条2項は「区分建物」を新築した場合についての特則であり、一戸建てなどの未登記建物には当てはまりません。
  • 表題登記のあとは、不動産登記法74条1項1号により、表題部所有者またはその相続人その他の一般承継人が所有権保存登記を申請します。被相続人名義の保存登記を経由する必要はありません。
  • 表題登記は土地家屋調査士、所有権保存登記は司法書士と、担当する専門家が分かれます。
  • 建物の表題登記は、表示に関する登記として、登録免許税の課税対象とされていません。所有権保存登記の登録免許税は不動産の価額 × 1000分の4が本則の税率とされており、一定の住宅用家屋については軽減税率の特例が設けられています。
  • 2024年(令和6年)4月1日に始まった相続登記の申請義務(不動産登記法76条の2・3年以内)は、「所有権の登記名義人」について相続があった場合を対象とする制度です。登記名義人が存在しない未登記建物は、この義務が直接かかる場面ではありませんが、47条1項の表題登記の義務は別に残ります。
  • 登記がなくても、地方税法381条4項の家屋補充課税台帳により、固定資産税は課されます。「納税通知書が届いているから登記されているはずだ」という推論は成り立ちません。
  • 未登記建物も、被相続人が所有していたものであれば相続財産として申告の対象になります。家屋の評価は、固定資産税評価額に別表1に定める倍率(通常の家屋は1.0)を乗じて計算した金額によるものとされています(財産評価基本通達89)。具体的な評価は必ず税理士にご確認ください。
  • 未登記のままでは、売却・担保設定ができず、次の相続で相続人が増えるほど手続きが難しくなります。取り壊したときも、滅失の登記ではなく市区町村への家屋滅失届などの手続きが必要です。
  • 遺産分割協議書を作るときは、登記事項証明書だけでなく、市区町村の名寄帳(固定資産課税台帳)と必ず突き合わせてください。
  • 登記の手続きは必ず司法書士・土地家屋調査士に、課税関係は必ず税理士に、法律関係は必ず弁護士にご確認ください。最新の法令はe-Gov法令検索、登記の手続きは法務省・法務局のホームページでご確認いただけます。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上または税務上の助言を提供するものではなく、特定の建物について表題登記が受理されること、特定の方法による登記が認められること、過料が科されないこと、特定の税額となることを保証するものではありません。ある建物が未登記にあたるかどうか、その建物が区分建物にあたるかどうか(区分建物かどうかで適用される条文が変わります)、表題登記と表題部の変更の登記のいずれによるべきか、被相続人名義と相続人名義のいずれで表題登記を申請すべきか、所有権を証する情報としてどの資料が足りるか、登録免許税の軽減税率の特例の適用があるかは、建物の構造・利用状況・登記記録の有無・残されている資料・相続人の構成・管轄の法務局の取扱いなど、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。とくに、不動産登記法47条1項の「一月以内」という期限は、相続の直後という現実的に難しい時期に始まるものですので、期限を過ぎている場合であっても、放置せずできるだけ早く専門家にご相談ください。本文中の説明は、制度の骨格をご理解いただくために単純化したものであり、要件のすべてを網羅したものではありません。記載した法令名・条項・期限・数値は執筆時点で確認したものですが、法令・通達・実務の取り扱いは改正により変更される可能性があります。条文の号の番号は法改正により繰り上がり・繰り下がりが生じることがあります。また、家屋滅失届など市区町村に対する手続きの名称・様式・提出先は、市区町村によって異なります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、法務省、国税庁、お住まいの市区町村などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、登記については必ず司法書士または土地家屋調査士に、課税関係については必ず税理士に、契約や法律関係については必ず弁護士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

「登記がない、と言われました」――そのご相談からで結構です

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まずは、本当に未登記なのかを確かめるところから。名寄帳の取り方、登記事項証明書の請求の仕方を、ご一緒に確認いたします。
必要に応じて、土地家屋調査士・司法書士・税理士・弁護士におつなぎいたします。