遺言で財産を渡す相手が、先に亡くなってしまったら

遺言は、遺言者が亡くなった時から効力を生じます(民法985条1項)。遺言を書いてから亡くなるまでに、10年、20年と時間が経つことも珍しくありません。そのあいだに、財産を渡すはずだった相手が先に亡くなってしまうことは、決して特別なことではないのです。

よくある場面例
子が先に亡くなる「自宅は長男に相続させる」と書いたが、長男が病気で先に亡くなった
配偶者が先に亡くなる「全財産を妻に相続させる」と書いたが、妻が先に亡くなった
相続人以外が先に亡くなる「お世話になった姪に預金を遺贈する」と書いたが、姪が事故で先に亡くなった

このとき、遺言のその部分はどうなるのか。多くの方は「亡くなった人の子どもが代わりにもらうのだろう」と考えがちですが、法律の考え方は違います。以下で、遺贈と「相続させる」旨の遺言に分けて見ていきます。

[「遺贈」と「相続させる」の違い]
遺言で財産を渡す書き方には、「遺贈する」と「相続させる」があります。相続人以外の方に渡すときは「遺贈」、相続人に特定の財産を渡すときは「相続させる」と書くのが一般的です。違いについては「相続させる」と「遺贈する」の違いの記事で詳しく説明しています。

遺贈は効力を生じない――民法994条1項と995条

遺贈について、民法は正面から規定を置いています。

遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、
その効力を生じない。
民法994条1項(受遺者の死亡による遺贈の失効)

「死亡以前」と書かれていますので、遺言者より先に亡くなった場合だけでなく、同時に亡くなった場合も含まれます。遺贈を受ける権利は、受遺者の相続人には引き継がれません。

効力を生じなかった財産はどこへ行くか

遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、
受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
民法995条(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)

つまり、受遺者が先に亡くなれば、その財産は遺言者の相続人のものになり、相続人の間で遺産分割をすることになります。そして995条のただし書が、「遺言者が別段の意思を表示したときは、その意思に従う」としている点が大切です。これが、予備的遺言を書いておく法律上の足場になります。

[停止条件付きの遺贈]
「孫が大学に合格したら100万円を遺贈する」のような停止条件付きの遺贈については、受遺者が条件の成就前に死亡したときも、同じく効力を生じません。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従います(民法994条2項)。

「相続させる」遺言も原則として効力を生じない――最高裁平成23年2月22日判決

では、相続人に対する「相続させる」旨の遺言ではどうでしょうか。994条は「遺贈」についての規定なので、「相続させる」遺言にもあてはまるのかが争われてきました。「相続させる」の場合は代襲相続と同じように、亡くなった子の子(孫)が引き継ぐのではないか、という考え方もあったのです。

この問題に決着をつけたのが、最高裁判所第三小法廷平成23年2月22日判決(平成21年(受)第1260号)です。

最高裁平成23年2月22日判決の要旨

「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまる。

したがって、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、その場合には当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない。

この事案では、遺言者が「財産全部を長男に相続させる」という遺言を残していましたが、長男が遺言者より先に亡くなり、長男の子らが、その遺産を承継すると主張しました。最高裁は、特段の事情はないとして、その主張を認めませんでした。

「特段の事情」は簡単には認められない

判決は、特段の事情を判断する材料として、遺言書のほかの記載との関係、作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況などを挙げています。けれども、「長男に子がいる」というだけで特段の事情があるとはいえないと理解されています。遺言書に何も書かれていなければ、原則どおり効力を生じないと考えておくのが安全です。

代襲相続とは別の話――孫が遺言の内容を当然に引き継がない理由

ここで混乱しやすいのが代襲相続との関係です。民法887条2項は、被相続人の子が相続の開始以前に死亡したときは、その者の子がこれを代襲して相続人となると定めています。

項目代襲相続遺言(遺贈・相続させる旨の遺言)
何が引き継がれるか相続人としての地位(法定相続分)遺言で指定された特定の財産を取得する地位
先に亡くなった場合子の子(孫)が代わりに相続人になる(887条2項)原則としてその部分の効力を生じない(994条1項・最判平成23年2月22日)

冒頭の例でいえば、亡くなった長男の子(孫)は、代襲相続人として、長男の法定相続分を引き継ぎます。しかし、「自宅を取得する」という遺言の内容までは引き継ぎません。自宅は遺産分割の対象に戻り、孫を含む相続人全員の話し合いで分け方を決めることになります。

孫は「相続人」にはなる(代襲相続)
しかし、「自宅を取得する」という遺言の内容は、当然には引き継がない
民法887条2項・994条1項、最判平成23年2月22日

ほかの相続人との関係が良好であれば、話し合いで「自宅は孫に」とまとまることもあるでしょう。けれども、遺言を書いた方がいちばん避けたかった「遺産分割での話し合い」が、結局必要になってしまう――これが、予備的遺言がない場合の最大の問題です。

予備的遺言(補充遺言)とは――「もし先に亡くなっていたら」を書いておく

予備的遺言(補充遺言)とは、財産を渡す相手が遺言者より先に(または同時に)亡くなっていた場合に備えて、代わりの受取人をあらかじめ遺言に書いておくことです。法律上の特別な制度名ではありませんが、995条ただし書の「別段の意思の表示」や、最高裁判決のいう「代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思」を、遺言書の文言としてはっきり示しておくものです。

こんな方は特に理由
配偶者に全財産を渡す遺言ご夫婦は年齢が近く、どちらが先に亡くなるか分からない
子が病気・高齢「親より子が先に」という事態が現実に起こり得る
相続人以外への遺贈受遺者が先に亡くなると、その財産は相続人のもとに戻る(995条)
家業・自宅を特定の人に受け取る人がいなくなると、事業や住まいの承継が宙に浮く

遺言は何度でも書き直すことができますが(民法1022条)、書き直す前に、遺言者ご自身が認知症などで遺言能力を失ってしまうこともあります。予備的遺言は、「書き直せなくなったときのための保険」でもあるのです。

予備的遺言の書き方――文例と、書くときの注意点

基本の文例

第1条 遺言者は、遺言者の所有する次の不動産を、遺言者の長男○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
(不動産の表示 略)

第2条 遺言者は、前条の長男○○が遺言者の死亡以前に死亡したときは、前条記載の不動産を、長男○○の長女△△(平成○年○月○日生)に相続させる。

相続人以外の方の場合は、「相続させる」を「遺贈する」と書きます。配偶者に全財産を渡す遺言であれば、「妻が遺言者の死亡以前に死亡したときは、全財産を長男○○に相続させる」のように書きます。

書くときの注意点

[自筆証書遺言でも書けます]
予備的遺言は、公正証書遺言だけでなく自筆証書遺言でも書くことができます。自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自書し、押印するのが原則です(民法968条1項)。公正証書遺言で予備的遺言を加える場合の手数料の扱いは、内容によって変わり得ますので、作成をお願いする公証役場でご確認ください。

「後継ぎ遺贈」とは違います

似た言葉に「後継ぎ遺贈」があります。これは「自宅を妻に遺贈し、妻が亡くなった後は長男に」というように、いったん受け取った人が亡くなった後の行き先まで決めるものです。予備的遺言が「受け取る前に亡くなっていたら」に備えるのに対し、後継ぎ遺贈は「受け取った後」の話で、民法上の有効性には争いがあります。これを実現したい場合は、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託(信託法91条)などが検討されます。

遺贈の放棄・同時死亡・遺言執行者――あわせて備えておきたいこと

受遺者が遺贈を放棄した場合

特定の財産を渡す特定遺贈は、受遺者が遺言者の死亡後、いつでも放棄することができ、放棄は遺言者の死亡の時にさかのぼって効力を生じます(民法986条)。財産の全部または割合を渡す包括遺贈の受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するとされ(民法990条)、放棄には相続放棄と同じく家庭裁判所での手続きが必要と解されています。放棄された財産の行き先を決めておきたい場合は、予備的遺言に「放棄したとき」も書き加えておきます。

同時に亡くなった場合

災害や事故で、遺言者と受遺者のどちらが先に亡くなったか分からないことがあります。この場合、民法32条の2により同時に死亡したものと推定されます。994条は「死亡以前」としていますので、同時死亡の場合も遺贈は効力を生じないことになります。詳しくは同時死亡の推定の記事をご覧ください。

遺言執行者も「予備」を決めておく

遺言者は、遺言で一人または数人の遺言執行者を指定することができます(民法1006条1項)。受取人である長男を遺言執行者にしていた場合、長男が先に亡くなると、遺言執行者もいなくなります。「長男が遺言者の死亡以前に死亡したとき、又は遺言執行者に就職できないときは、○○を遺言執行者に指定する」と、遺言執行者についても予備を置いておくと安心です。

相続税の「2割加算」との関係

相続や遺贈で財産を取得した方が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった直系卑属を含む)と配偶者以外の場合、相続税額が2割加算されます(相続税法18条)。予備的遺言で孫が取得する場合、その孫が代襲相続人であれば2割加算の対象外ですが、甥・姪などが取得する場合は対象になります。なお、長男が存命で遺贈を放棄し、孫が取得する場合は、孫は代襲相続人ではないため2割加算の対象になります。税額への影響は、税理士にご確認ください。

予備的遺言でよくある7つの落とし穴

  1. 「子が先に亡くなっても、孫が代わりにもらえる」と思い込む 遺贈は受遺者が先に亡くなると効力を生じません(民法994条1項)。「相続させる」遺言も、特段の事情のない限り効力を生じないとされています(最判平成23年2月22日)。
  2. 「特段の事情」があると期待して、書かずに済ませる 特段の事情は遺言書の記載や作成当時の事情などから判断されるもので、簡単には認められません。争いになれば裁判で判断を仰ぐことになります。書いておくのがいちばん確実です。
  3. 「先に死亡したとき」とだけ書く 同時に亡くなった場合が含まれるか、疑義が生じるおそれがあります。「死亡以前に死亡したとき」と条文にあわせて書きましょう。
  4. 代わりの受取人が複数なのに、割合を書かない 「長男の子に相続させる」とだけ書くと、子が複数いる場合の割合や分け方で迷いが生じます。氏名と割合を明記します。
  5. 配偶者に全財産を渡す遺言に、予備を付けない ご夫婦で互いに「全財産を配偶者に」と遺言を書き合う場合、後に残った方の遺言が効力を生じないことになりがちです。それぞれの遺言に、配偶者が先に亡くなっていた場合の受取人を書いておきます。
  6. 遺言執行者の予備を決めていない 受取人本人を遺言執行者にしていると、その方が先に亡くなったときに遺言執行者も不在になります。予備の遺言執行者も指定しておきましょう。
  7. 受取人が亡くなったのに、遺言を見直さない 予備的遺言があっても、家族の状況が変われば遺言全体のバランスが崩れることがあります。遺言能力があるうちに、書き直し(民法1022条)も検討してください。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「兄の子どもたちに自宅を渡すつもりだった母の思いは」――Tさまのご相談

Tさま(50代・女性)は、お母さま(80代)が亡くなった後、相続手続きの進め方についてご相談にいらっしゃいました。お母さまは10年ほど前に「自宅は長男に相続させる。その余の財産は長男と長女に2分の1ずつ相続させる」という公正証書遺言を作っていました。ところが長男であるTさまのお兄さまは、3年前に病気で亡くなっていたのです。

お兄さまのお子さま2人は「遺言があるのだから、自宅は自分たちが相続する」とおっしゃっていましたが、Tさまは納得がいかず、話がこじれかけていました。遺言書を拝見すると、お兄さまが先に亡くなった場合の定めは、どこにもありませんでした。

私は、「最高裁の平成23年の判決により、『相続させる』とされた方が先に亡くなった場合、特段の事情がない限り、その部分は効力を生じないとされています。自宅は遺産分割の対象に戻り、Tさまと、お兄さまの代わりに相続人となる甥御さま2人の、3人で話し合って決めることになります」とご説明しました。そのうえで、最終的な法的判断は弁護士に確認していただくようお伝えしました。

Tさまは、しばらく考えたあと、「母はもともと、兄の家族に実家を守ってほしいと言っていました。私はそれでかまいません。ただ、最初から『遺言があるから当然』と言われたのが悲しかったんです」とおっしゃいました。その後、甥御さまたちとも落ち着いて話し合い、自宅は甥御さま2人が相続し、預貯金で調整する内容で遺産分割協議がまとまりました。

Tさまはご相談の最後に、「私も自分の遺言を作るときは、『もし先に亡くなっていたら』を必ず書いておきます」とおっしゃっていました。

― 私たちから一言 ―

遺言は「書いた日」ではなく「亡くなった日」に効力を生じます

遺言を作るとき、多くの方は「今の家族」を思い浮かべて書かれます。それはとても自然なことです。けれども遺言が効力を生じるのは、書いた日ではなく、ご自身が亡くなった日です。そのあいだに、ご家族の状況が変わることは少なくありません。

とくにご相談で胸が痛むのは、お子さまに先立たれた方のケースです。深い悲しみのなかで、遺言の書き直しまで気が回らない。そのまま時が経ち、ご本人も亡くなって、遺言がかえって家族の間に溝をつくってしまうことがあるのです。

予備的遺言は、数行書き加えるだけで、そうした事態をかなり防ぐことができます。「もしも」を書くのは縁起でもないと感じられるかもしれませんが、それはご家族への思いやりだと私たちは考えています。

すでに遺言をお持ちの方も、一度読み返して、「この人が先に亡くなっていたら」の定めがあるかどうかを確かめてみてください。見直しのお手伝いが必要でしたら、どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 遺言は遺言者の死亡の時から効力を生じます(民法985条1項)。書いてから亡くなるまでに、受取人が先に亡くなることがあります。
  • 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じません(民法994条1項)。「以前」なので同時死亡も含みます。
  • 効力を生じなかった財産は相続人に帰属します。ただし、遺言者が別段の意思を表示したときは、その意思に従います(民法995条)。
  • 「相続させる」旨の遺言も、推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合は、特段の事情のない限り効力を生じません(最判平成23年2月22日)。
  • 孫は代襲相続人として相続人にはなりますが(民法887条2項)、遺言の内容までは当然に引き継ぎません。財産は遺産分割の対象に戻ります。
  • 予備的遺言(補充遺言)で、「受取人が遺言者の死亡以前に死亡したときは、○○に相続させる(遺贈する)」と書いておくことで備えられます。
  • 代わりの受取人は氏名・生年月日・割合を明記し、必要に応じて遺贈の放棄の場合や予備の遺言執行者も定めておきます。
  • 予備的遺言は「受け取る前に亡くなっていたら」への備えで、「受け取った後」の行き先を決める後継ぎ遺贈とは別のものです。
  • 最新の法令はe-Gov法令検索・法務省でご確認のうえ、遺言の作成・解釈は弁護士や公証役場に、相続税は税理士にご相談ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上・税務上の助言を提供するものではなく、特定の遺言の有効性や解釈を保証するものではありません。遺言の効力の有無、「特段の事情」の有無、予備的遺言の文言の適否、遺留分の問題などは、遺言書の全体の記載、作成当時の事情、ご家族の構成などの個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。本文中の文例は理解のための例示であり、そのまま使用できることを保証するものではありません。本文中の条文・判決の引用は、読みやすさのために要旨として示した箇所があります。正確な文言は必ず原文をご確認ください。記載した条文番号は執筆時点で確認したものですが、法令は改正等により変更される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、法務省、国税庁で最新の内容をご確認のうえ、遺言の作成・解釈については必ず弁護士または公証役場に、相続税については税理士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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