休眠担保権とは――相続登記のときに見つかる「昔の抵当権」
登記簿(登記事項証明書)の権利部(乙区)には、抵当権・質権・先取特権などの担保権が記録されています。借金を返し終えても、抹消登記をしなければ登記は残ったままです。
とくに明治・大正・昭和初期に、個人の貸主や、その後に解散した地域の金融機関・組合などから借り入れた際の抵当権は、返済後も抹消されずに放置されていることがあります。登記された債権額が「金○百円」といった当時の金額のままになっているのが典型例です。
相続登記の義務化の内容は相続登記の義務化の記事で解説しています。
抹消の原則は共同申請――抵当権者、亡くなっていればその相続人と
権利に関する登記は、原則として登記権利者と登記義務者が共同して申請します(不動産登記法60条)。抵当権の抹消でいえば、
- 登記権利者:土地の所有者(相続した方)
- 登記義務者:抵当権者
です。抵当権者が亡くなっている場合は、その相続人が登記義務者の立場を引き継いで申請することができます(不動産登記法62条)。つまり、明治時代の個人の抵当権者であれば、その相続人全員を探し出して協力を求めるのが出発点になります。
なお、抵当権の消滅の時期と抵当権者の死亡の前後関係によっては、抹消の前提として抵当権の移転登記が必要になる場合があります。具体的な登記の順序は、管轄の法務局または司法書士にご確認ください。
所有者側も亡くなっている場合
土地の所有権の登記名義人(たとえばお父さま)が亡くなっている場合も、その相続人が一般承継人として申請することができます(同法62条)。実務上は、相続登記とあわせて抹消の手続きを進めることが多いでしょう。相続登記の手順は相続登記を自分でやる手順の記事をご覧ください。
まず抵当権者を探す――登記簿の住所・氏名から相続人までたどる
休眠担保権の抹消は、「相手を探す」ところから始まります。次に見る単独抹消の方法も、「所在が知れない」ことを資料で示す必要があるため、調査は省略できません。
- 登記事項証明書と閉鎖登記簿を確認する抵当権者の氏名・住所、債権額、利息、損害金、弁済期の登記があるかを確認します。古い登記は閉鎖登記簿に記録されていることもあります。
- 抵当権者の住民票・戸籍を調べる登記簿上の住所をもとに、住民票や戸籍の附票、除籍謄本などを請求して、現在の住所や死亡の有無を調べます。
- 相続人を特定する抵当権者が亡くなっていれば、戸籍をたどって相続人を特定します。代を重ねていると、相続人が数十人になることもあります。
- 現地や郵便で所在を確認する判明した住所に郵便を送る、現地を確認するなどして、実際に所在が分かるかを確認します。
相続人が判明し連絡がつけば、事情を説明して抹消登記への協力(書類への署名・押印など)をお願いします。協力が得られることもありますが、相続人が多数・遠方の場合は手間と時間がかかります。
所在が知れないとき①――公示催告と除権決定(不動産登記法70条1項・3項)
登記権利者は、共同して登記の抹消を申請すべき者の所在が知れないため共同申請ができないときは、公示催告の申立てをすることができます(不動産登記法70条1項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 簡易裁判所(公示催告に係る権利を有する者の普通裁判籍の所在地、権利の目的物の所在地、登記をすべき地を管轄する簡易裁判所など。非訟事件手続法100条) |
| 公告 | 裁判所の掲示場への掲示と官報への掲載(同法102条1項) |
| 届出の期間 | 官報掲載の日から権利の届出の終期まで、原則として2か月以上(同法103条) |
| 効果 | 権利の届出がなければ除権決定(同法106条1項)。除権決定があれば、登記権利者は単独で抹消を申請できる(不動産登記法70条3項) |
この方法は、抵当権がすでに消滅していることが前提になります。実務上、被担保債権が弁済や時効で消滅していることを裁判所に示す必要があり、その立証が難しい場合もあります。
所在が知れないとき②――弁済期から20年経過+全額の供託で単独抹消(70条4項後段)
休眠担保権の抹消でよく利用される方法の一つが、不動産登記法70条4項後段の方法です。先取特権・質権・抵当権について、抵当権者の所在が知れない場合に、次の要件を満たせば、登記権利者が単独で抹消を申請できます。
+ 被担保債権の弁済期から20年を経過
+ その後に債権・利息・損害金の全額を供託
→ 単独で抵当権の抹消を申請できる
なお、同じ70条4項の前段には、抵当権者の所在が知れない場合に、債権証書と、被担保債権・最後の2年分の利息等の完全な弁済があったことを証する情報を提供して単独で抹消する方法も定められています。弁済の証拠が残っていない古い抵当権では、後段の供託の方法が検討されることが多いでしょう。
申請に必要な情報(不動産登記令 別表26の項)
- 被担保債権の弁済期を証する情報
- 弁済期から20年を経過した後に、被担保債権・利息・債務不履行による損害の全額に相当する金銭が供託されたことを証する情報
- 共同して抹消を申請すべき者の所在が知れないことを証する情報
供託する金額と供託先
供託するのは、元本だけでなく、利息と遅延損害金を含めた全額です。登記された債権額が当時の金額(数百円など)のままであれば、長期間の利息・損害金を加えても、供託額は比較的少額にとどまることが多いとされています(ただし、登記された債権額や利率によっては高額になることもあります)。計算方法は法務局の案内で確認でき、供託は原則として債務の履行地の供託所にします(民法495条1項)。
「所在が知れない」の証明がポイント
この方法は、単に連絡先が分からないというだけでは使えません。住民票・戸籍の調査、登記簿上の住所への郵便が届かなかったことを示す資料など、所在が知れないことを証する情報を添付する必要があります。抵当権者が亡くなっている場合は、その相続人について所在の調査が問題になります。どこまでの資料が必要かは事案によって異なるため、事前に管轄の法務局や司法書士に相談することをおすすめします。
なお、弁済期が登記されていない場合の扱いなど、細かな論点もあります。登記記録の内容に応じて、法務局でご確認ください。
抵当権者が解散した法人のとき――70条の2(2023年4月1日施行)と清算人の選任
抵当権者が会社や組合などの法人で、すでに解散している場合もあります。この場合、本来は清算人が法人を代表して抹消登記に協力することになりますが、清算人も亡くなっていたり所在が分からなかったりすることが少なくありません。
そこで、2023年4月1日施行の改正で不動産登記法70条の2が新設されました。
+ 被担保債権の弁済期から30年を経過
+ 法人の解散の日から30年を経過
→ 供託なしで、単独で抹消を申請できる
70条4項後段と違い、供託が不要なのが大きな特徴です。申請には、弁済期を証する情報、法人の解散の日を証する情報、70条2項の方法で調査しても清算人の所在が判明しないことを証する情報を提供します(不動産登記令 別表26の項)。
要件を満たさないときは清算人の選任も
解散から30年たっていないなど、70条の2の要件を満たさない場合は、裁判所に清算人の選任を申し立て、選任された清算人と共同で抹消する方法が考えられます。また、抵当権者の法人が合併などで別の法人に引き継がれている場合は、承継した法人に抹消への協力を求めることになります。
時効・訴訟による方法と、費用・専門家への依頼
被担保債権の消滅時効と訴訟
被担保債権が時効によって消滅すれば、抵当権もそれに伴って消滅します。ただし、抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないとされています(民法396条)。つまり、所有者が債務者・設定者本人やその相続人である場合は、被担保債権の消滅時効を援用することが出発点になります(債権の時効期間は、債権が生じた時期によって改正前の民法が適用されることがあります)。
相手方が協力しない場合や所在が分からない場合は、抵当権抹消登記手続を求める訴訟を起こし、確定判決を得て単独で抹消を申請する方法もあります(不動産登記法63条1項)。相手方の所在が不明なときは、公示送達の手続きを利用することになります。
抵当権者の相続人に不在者がいる場合
相続人の一部が行方不明で、ほかの方法も使いにくい場合は、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立て、管理人と手続きを進める方法も考えられます(行方不明の相続人の記事)。
費用の目安
| 費用 | 内容 |
|---|---|
| 登録免許税 | 抹消登記は不動産1個につき1,000円(同一の申請書で20個を超える不動産について抹消する場合は申請1件につき2万円。登録免許税法 別表第一 1(15)) |
| 供託金 | 70条4項後段の方法による場合、債権・利息・損害金の全額 |
| 調査費用 | 戸籍・住民票・閉鎖登記簿などの取得費、郵便代など |
| 専門家報酬 | 司法書士・弁護士に依頼する場合の報酬(事務所・事案により異なる) |
休眠担保権の抹消は、相続人調査・供託・登記申請が組み合わさる手続きです。相続登記とあわせて司法書士に相談すると、手続きの順序も含めて整理しやすくなります。
休眠担保権の抹消でよくある7つの落とし穴
- 「古い抵当権だから自然に消える」と思う 抹消登記をしない限り、登記は残り続けます。売却や担保設定の際に支障が出ます。
- 相続登記をしたら抵当権も消えると思う 相続登記は所有権の移転の登記であり、抵当権の抹消は別の手続きです。
- 抵当権者の調査をせずに単独抹消できると思う 70条4項後段や70条の2の方法も、所在が知れない(判明しない)ことを資料で示す必要があります。
- 元本だけ供託すればよいと思う 供託するのは債権・利息・損害金の全額です。
- 弁済期から20年たつ前に供託してしまう 70条4項後段は、弁済期から20年を経過した後に供託することが要件です。
- 法人の抵当権者にも「20年+供託」しかないと思う 解散した法人については、要件を満たせば供託なしで単独抹消できる70条の2(2023年4月1日施行)があります。
- 売却が決まってから慌てて手続きを始める 相続人調査や公示催告には数か月以上かかることがあります。相続登記のタイミングで登記簿を確認しておきましょう。
「大正時代の抵当権で土地が売れない」――Tさまのご相談
Tさま(60代・男性)は、お父さまから相続した郊外の土地を売却しようとしたところ、不動産会社から「大正時代に設定された抵当権が残っているので、抹消しないと売れません」と言われ、ご相談に来られました。登記簿には、個人の抵当権者の氏名と、債権額「金○百円」が記録されていました。
Tさまは「100年も前の人をどうやって探せばいいのか。もう売るのは無理でしょうか」と肩を落としておられました。
私からは、「抵当権者やその相続人の所在が知れない場合には、弁済期から20年を経過した後に、債権・利息・損害金の全額を供託して単独で抹消する方法があります。ただし、所在が知れないことを示す調査は必要です」とお伝えしました。そのうえで、相続登記とあわせて手続きできるよう、提携の司法書士をご紹介しました。
司法書士が抵当権者の戸籍や住所を調査したところ、所在は判明しませんでした。そこで全額を供託したうえで抹消登記を申請し、無事に抵当権が抹消されました。Tさまは「思ったよりも供託の金額が小さくて驚きました。もっと早く相談すればよかった」とおっしゃっていました。
「昔の登記」は、相続のときに片づけておく
休眠担保権は、ふだんの生活では目に触れることがありません。そのため、相続登記や売却のときに初めて気づくというご相談がほとんどです。
相手が見つからない、昔のことで事情が分からない――そうした場合でも、不動産登記法には公示催告・除権決定、全額の供託による単独抹消、解散法人の特例といった方法が用意されています。大切なのは、どの方法が使えるかを、登記簿の記載と調査の結果から見極めることです。
相続登記の義務化で登記簿を確認する機会が増えた今こそ、次の世代に「昔の登記」を残さないよう、相続登記とあわせて整理しておくことをおすすめします。
私たちは、ご家族の状況を伺いながら論点を整理し、必要に応じて司法書士などの専門家におつなぎしております。どうぞお気軽にご相談ください。
この記事のまとめ
- 返済後も抹消されずに残っている古い担保権を「休眠担保権」と呼びます。抹消登記をしない限り登記は残り、売却などの支障になります。
- 抹消は原則として抵当権者との共同申請(不動産登記法60条)。抵当権者が亡くなっていればその相続人が申請できます(62条)。
- 所在が知れないときは、簡易裁判所への公示催告の申立てを経て除権決定を得れば単独で抹消できます(70条1項・3項、非訟事件手続法99条以下)。
- 抵当権者の所在が知れず、弁済期から20年を経過した後に債権・利息・損害金の全額を供託すれば、単独で抹消できます(70条4項後段)。
- 2023年4月1日施行の改正で追加された70条2項の調査の特例は、抵当権には適用されません。
- 抵当権者が解散した法人で清算人の所在が判明しない場合は、弁済期と解散の日から30年を経過すれば供託なしで単独抹消できます(70条の2)。
- ほかに、被担保債権の消滅時効の援用と判決による抹消(63条1項)、不在者財産管理人の選任などの方法もあります。
- 登録免許税は不動産1個につき1,000円。最新の手続きは法務局・法務省でご確認ください。
参考文献(一次情報)
- e-Gov法令検索 不動産登記法(第60条・第62条・第63条・第69条の2・第70条・第70条の2) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- e-Gov法令検索 不動産登記令(別表26の項) https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- e-Gov法令検索 非訟事件手続法(第99条〜第106条) https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000051
- e-Gov法令検索 民法(第396条・第495条) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索 登録免許税法(別表第一) https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
相続した土地に古い登記が残っていたら
どの方法で抹消できそうか、相続登記とあわせて何から始めればよいか。まずは登記簿を見ながら一緒に整理しませんか。
ご家庭の事情にあわせて論点を整理し、必要に応じて司法書士などの専門家におつなぎいたします。