生前贈与とは何か――相続税対策のもっとも基本的な選択肢

生前贈与とは、文字どおり、被相続人となる方がご存命のうちに、ご自身の財産を子や孫などに無償で譲り渡すことをいいます。亡くなったあとに財産を移す「相続」と対をなす概念で、相続税対策を考えるときのもっとも基本的な選択肢でございます。亡くなったときに残っている財産が小さくなれば、その分相続税の計算対象も小さくなる――これが生前贈与の効果の出発点です。

もっとも、贈与を受けた側には贈与税がかかります。贈与税は相続税の補完税として設計されており、税率は相続税よりも高めに設定されています。これは、生前贈与で相続税を回避することを防ぐためでございます。とはいえ、贈与税には大きな非課税枠や複数の特例が用意されており、上手に組み合わせれば、家族全体としての税負担をぐっと抑えることができます。

贈与税には2つの課税方式があり、原則として贈与を受ける側がどちらかを選びます。一つは1年単位で課税する「暦年課税」、もう一つは贈与者が亡くなった時に相続税で清算する「相続時精算課税」でございます。次章以降ではそれぞれの仕組みを順に整理してまいります。

[本記事の前提知識について]
本記事は、生前贈与のなかでも特に重要な「暦年贈与と2024年改正の7年ルール」「相続時精算課税の改正」に絞って解説いたします。相続税そのものの仕組みについては「相続税の基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人」、申告が必要なケースの完全ガイド」「相続税の計算方法、税率の速算表と「法定相続分課税方式」3ステップ完全ガイド」、自宅を中心とした評価圧縮策については「小規模宅地等の特例、自宅80%減額のしくみと「家なき子」の本当の要件」もあわせてご覧くださいませ。

暦年贈与の基礎――1年間に110万円までの非課税枠

暦年課税は、贈与税の原則的な課税方式でございます。1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与の合計額から110万円の基礎控除を差し引き、残った金額に対して贈与税が課されます。逆にいえば、年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。この110万円の枠を毎年活用していくのが、いわゆる「暦年贈与」と呼ばれる手法でございます。

贈与税額(暦年課税)
= (その年に受け取った贈与の合計 - 110万円) × 税率 - 控除額
根拠:相続税法第21条の5、租税特別措置法第70条の2の4

110万円の基礎控除は「受贈者」ごとに1人につき1年あたり110万円が認められます。父からも母からも別々に110万円ずつもらえるという意味ではなく、子から見て受け取った合計が年間110万円までという考え方です。一方、贈与する側から見ると、子・孫それぞれに110万円ずつ贈与しても、受贈者ごとに枠が成立するので、家族の人数分だけ枠を使えるイメージになります。

贈与税の税率――一般税率と特例税率

110万円を超えた贈与には贈与税がかかります。税率は2種類あり、贈与する方と受ける方の関係で変わります。

たとえば父から成人の子に300万円を贈与した場合、基礎控除110万円を差し引いた190万円に特例税率(10%、控除額0円)が適用され、贈与税は19万円という計算になります。100万円や200万円程度の贈与であれば、税率の低い部分で済むため、地道に続けることで効果的な節税につながります。

2024年税制改正の核心――生前贈与をめぐる2つの大変更

令和5年度税制改正(令和5年3月成立、2024年1月1日以後の贈与から適用)では、生前贈与をめぐる長年のルールに2つの大きな変更が加えられました。これは「相続税と贈与税の一体化」と呼ばれる議論を背景に、生前贈与による相続税対策の効果を抑制することを狙ったものでございます。

CHANGE 1 暦年課税の生前贈与加算が
「3年→7年」に延長
CHANGE 2 相続時精算課税に
年間110万円の基礎控除新設

変更1:暦年課税の生前贈与加算が3年から7年へ

従来、被相続人から相続人への贈与のうち、相続開始前3年以内に行われた贈与は、たとえ非課税枠内のものであっても、相続税の計算上、相続財産に持ち戻されていました。これを「生前贈与加算」と呼びます(相続税法第19条)。改正により、この加算期間が7年以内に延長されました。亡くなる直前の駆け込み贈与で相続税を圧縮することを防ぐ趣旨でございます。

変更2:相続時精算課税の使いやすさを大幅に改善

相続時精算課税は、これまで一度選ぶと暦年課税に戻れず、少額の贈与でも申告が必要な「使いにくい制度」と評されてきました。改正では、この制度にも年間110万円の基礎控除が新設され、110万円以下の贈与なら申告不要・相続時の加算もなしという、暦年贈与に近い使いやすさが実現したのでございます。詳しくは第6章で整理いたします。

「贈与すれば相続税がかからない」時代は終わりつつある

改正の方向性ははっきりしています。暦年贈与の駆け込みは7年に延長して抑え込み、相続時精算課税を「使いやすくする」ことで主流化を促す。この2つは表裏一体の改正であり、政府の意図として「生前贈与で相続税を回避することを難しくする」方向に動いていると読み取ることができます。年110万円の非課税枠そのものが消えたわけではありませんが、「いつまでに、誰に、どのくらい贈与するか」をもう一度見直すべき時期に来ているのでございます。

「7年ルール」の正確なしくみと段階的な経過措置

7年ルールは、改正後すぐに完全な形で動き出すのではなく、2024年1月1日以後の贈与から段階的に適用されます。仕組みをきちんと押さえておきましょう。

原則のしくみ――4〜7年前の贈与には総額100万円の控除

改正後、相続税の計算上、相続財産に加算される「生前贈与加算」の対象となるのは、被相続人から相続人や受遺者に対して相続開始前7年以内に行われた贈与です。ただし加算額の計算には、次のような2段階のルールが設けられました。

贈与の時期 加算の取扱い
相続開始前
1〜3年以内
その期間の贈与額は全額を相続財産に加算(従来通り)。110万円以下の贈与も加算対象。
相続開始前
4〜7年前
その4年間の贈与額の合計から100万円を控除した残額を相続財産に加算。「4年から7年の期間全体で総額100万円」までは加算なし。

つまり、亡くなる7年前から4年前の合計4年間に行われた贈与については、「4年間トータルで100万円分」だけは加算しなくてよい、という小さな緩和措置が設けられているのでございます。なお100万円控除は「4〜7年前の期間にあった贈与」のなかで適用されるもので、1〜3年以内の贈与には別途控除を差し引くことができません。

2024年からの段階的な経過措置

「死亡前7年加算」がいきなり始まれば、改正前から贈与を続けてきた方に大きな影響が出ます。そこで実際の運用は、2024年1月1日以後の贈与から段階的に加算期間が延びていく形になりました。具体的な対応は次の表のとおりでございます。

相続発生の時期 加算対象となる贈与
2026年12月31日まで 相続開始前3年以内の贈与(実質的に旧ルール)
2027年1月1日
~2030年12月31日
2024年1月1日以後の贈与のうち、相続開始前7年以内のもの。加算期間は実質的に2024年1月1日まで遡る形で年々延びる。
2031年1月1日以降 相続開始前7年以内の贈与(完全な7年ルール)

整理すると、いまから贈与を始める方の場合、2031年以降の相続で初めて「完全な7年ルール」が適用されることになります。それまでは「2024年1月1日からの累積」と「相続開始前7年以内」のどちらか短い期間が加算対象です。

[ポイント――「相続人や受遺者でない人」への贈与は加算の対象外]
生前贈与加算の対象になるのは、被相続人から相続や遺贈で財産を取得した人に対する贈与だけです。たとえば「相続人ではない孫」や「他の親族」など、相続で何も受け取らない人への贈与であれば、亡くなる直前の贈与であっても加算の対象になりません。孫が代襲相続人になっている場合や、遺言で孫に遺贈がある場合などは加算対象となるのでご注意ください。

ケースで見る加算額――いつの贈与がどれだけ持ち戻されるか

抽象的なルールだけではイメージが湧きにくいので、具体例で確認いたします。父が毎年子に110万円ずつ生前贈与をしてきて、ある時点で亡くなったケースを想定してみます。

前提条件

相続発生時期 加算対象期間 加算額
2026年中に相続発生 3年以内(2023〜2026年中の3年分) 110万円×3年=330万円
2028年中に相続発生 2024年1月以後の4年分(実質4年加算) 110万円×4年-100万円
340万円
2030年中に相続発生 2024年1月以後の6年分(実質6年加算) 110万円×6年-100万円
560万円
2031年中に相続発生 7年以内(完全な7年加算) 110万円×7年-100万円
670万円
2035年中に相続発生 7年以内(完全な7年加算) 110万円×7年-100万円
670万円

表から読み取れるとおり、改正前であれば330万円しか加算されなかった同じ条件でも、2031年以降の相続では670万円が加算されることになります。差額の340万円分が相続税の計算対象に戻ってくる計算で、税率10%なら34万円、税率30%なら102万円分、相続税が増える計算でございます。「110万円以下なら贈与税はかからない=相続税にも関係ない」という従来の感覚は、もはや通用しません。

「贈与税がかからない=相続税もかからない」ではない

改正後は、年間110万円以下で贈与税が発生していない贈与であっても、相続発生時点で7年以内に行われたものはすべて相続税の計算対象に戻ることになります。生前贈与のメリットを十分に享受するためには、できるだけ早い段階から、長い年数をかけて贈与を続けることが、これまで以上に重要になったのでございます。

改正後の相続時精算課税制度――年間110万円の基礎控除新設

改正のもう一つの柱が、相続時精算課税の使いやすさの大幅改善でございます。相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、贈与を受ける側が選択できる制度です。仕組みは次のとおりでございます。

基本のしくみ

2024年改正で何が変わったか

改正前は、相続時精算課税を選ぶと、たとえ年間1万円の贈与でもすべて申告し、相続時に加算しなければなりませんでした。改正後は、年間110万円までの基礎控除が新設され、次のような扱いになりました。

項目 改正前 改正後(2024年〜)
毎年の非課税枠 なし 年間110万円
110万円以下の贈与税申告 必要 不要
相続時の加算 受けた贈与すべてを加算 110万円以下の部分は加算しない
特別控除(累計) 2,500万円 2,500万円(据え置き)

つまり改正後の相続時精算課税では、年間110万円までの贈与であれば、贈与税の申告も不要で、しかも相続時に持ち戻しもされないのでございます。これは、暦年贈与の「7年加算」と比べても極めて有利な扱いです。「相続発生時期にかかわらず、毎年110万円までは完全に非課税で渡せる」という強力な仕組みになりました。

[相続時精算課税の選択は届出書から]
相続時精算課税を選ぶには、最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与税の申告書とあわせて「相続時精算課税選択届出書」を所轄税務署に提出する必要があります。一度提出すると、その贈与者からの贈与については以後ずっと相続時精算課税が適用され、暦年課税には戻れません。慎重にご判断ください。

暦年贈与と相続時精算課税、どちらを選ぶべきか

改正によって、両制度の損得関係も大きく変わりました。一概に「こちらが有利」と断言できるものではなく、贈与する方の年齢、贈与する財産の規模、受贈者の人数、想定される相続発生時期によって最適解は変わります。一般的な判断軸を整理いたします。

相続時精算課税が有利になりやすいケース

暦年贈与(暦年課税)が有利になりやすいケース

「相続時精算課税は使いにくい」というイメージはすでに古い

改正前の相続時精算課税は、申告の手間が重く、相続時に必ず加算されるという理由で、実務では「特殊事情がある人向け」と扱われてきました。しかし2024年改正後は、少額・長期で確実に渡せる制度として、特にご高齢の贈与者にとっては暦年贈与より有利になるケースが増えています。「暦年贈与しか知らないまま続けてきた」という方は、一度は精算課税の選択肢も含めて見直されることをお勧めいたします。

7年ルール時代の「年齢別」生前贈与戦略

改正後の生前贈与は「いつから始めるか」が、これまで以上に大きな意味を持ちます。年齢別のおおまかな戦略を整理いたしました。あくまで一般論であり、個別事情によって最適解は変わります。

60代――時間を最大の武器にする

このご年齢で生前贈与を始めれば、仮に20年贈与を続けた場合、加算対象になる「相続開始前7年」を除いた13年分は、確実に相続税の対象から外せる計算になります。お子様・お孫様への暦年贈与をベースに、長く・薄く・広く分散していくのが王道でございます。年間110万円の枠を、お子様2人・お孫様3人にそれぞれ使えば、年間550万円を非課税で渡せる計算になります。

70代――暦年と精算課税を併用する

70代に入ると、平均余命との関係で、暦年贈与の駆け込み期間(7年)が相対的に長く感じられるようになります。お孫様への暦年贈与(加算対象外)を継続しつつ、お子様には相続時精算課税の年110万円の枠に切り替えるなど、贈与する相手ごとに制度を使い分ける戦略が現実的です。配偶者へのおしどり贈与(婚姻20年以上の夫婦間で居住用不動産2,000万円の特例)を組み合わせるのも有効でございます。

80代以上――精算課税の年110万円を活かす

このご年齢では、暦年贈与の7年加算がほぼ確実に効いてきます。一方、相続時精算課税を選択すれば、たとえ翌年に相続が発生しても、110万円以下の部分は確実に相続財産に加算されません。お子様・お孫様(18歳以上)に絞り、相続時精算課税で年110万円ずつ確実に渡していく方が、結果として効率的なケースが多くなります。

「名義預金」と認定される7つの典型パターン

生前贈与をめぐる相続税の税務調査で、もっとも頻繁に問題になるのが名義預金でございます。名義預金とは、預金の名義は子や孫であっても、実質的な所有者は被相続人と税務署に判断された預金のことです。名義預金と認定されると、その預金は相続財産として相続税の対象になり、贈与の効果は丸ごと否定されてしまいます。「110万円ずつ贈与してきたから大丈夫」と思っていたら、実は何百万円分の贈与がすべて名義預金扱いになる――そんなケースが実際にございます。

典型的な認定パターン

  1. 通帳・印鑑・キャッシュカードを被相続人が管理していた 子や孫の名義の預金口座でも、実際の通帳と印鑑、キャッシュカードを被相続人が手元で管理していた場合、所有権はなお被相続人にあるとみなされやすいパターンです。
  2. 受贈者がその預金の存在を知らなかった 贈与は「あげる」「もらう」の合意で成り立ちます。受贈者がその預金の存在自体を知らなければ、贈与契約は成立していないと判断されます。
  3. 受贈者が一度も預金を使ったことがない 何年もまったく動きがなく、預金を使った形跡もない口座は、実質的に管理権が移っていないと見られやすくなります。
  4. 贈与契約書がなく、贈与の事実を証明する記録が一切ない 「毎年110万円ずつ渡していました」と口頭で説明しても、書面の裏付けがなければ贈与の事実そのものが立証できません。
  5. 贈与のたびに同じ口座に入金、引き出しがない 毎年同じパターン・同じ金額・同じ日付で機械的に入金されているだけの口座は、税務署から「贈与の仮装」と疑われやすいパターンです。
  6. 口座開設の手続きを被相続人が一人で行った 子や孫名義の預金口座を、本人ではなく被相続人が一人で開設した場合、その口座は被相続人の支配下にあったと評価されやすくなります。
  7. 贈与税の申告をしてきていない 110万円を超える贈与をした年に贈与税の申告をしていない、110万円ぴったりを毎年贈与している――こうした履歴は「定額贈与(連年贈与)」と判断され、贈与契約そのものの成立を疑われる原因になります。

贈与契約書の書き方と証拠の残し方

名義預金と判定されないために、もっとも基本となるのが贈与契約書の作成でございます。法律上、贈与契約は口頭でも成立しますが、税務調査での説明責任を考えれば、書面で残しておくことが事実上の必須です。

贈与契約書に必ず書く要素

贈与契約書サンプル(現金贈与の基本形)
 第1条 甲(贈与者)は、乙(受贈者)に対し、金○○円を贈与することを約し、乙はこれを受諾した。
 第2条 甲は、令和○年○月○日までに、乙の指定する銀行口座へ振込により交付する。
 令和○年○月○日  甲(住所・氏名・実印)  乙(住所・氏名・実印)
毎年贈与する場合は、毎回新しい契約書を作成し、契約日と金額を変える

贈与の事実を裏付ける証拠の残し方

  1. 必ず銀行振込で行う 現金の手渡しではなく、贈与者の口座から受贈者の口座への振込で行います。振込記録が客観的な証拠として残ります。
  2. 受贈者が自分で通帳・印鑑・キャッシュカードを管理する 受贈者本人が口座を自由に使える状態にしておくことが、贈与の事実上の証拠になります。受贈者が未成年でも、親権者を通じてではなく、可能な限り本人の手元に置きます。
  3. 毎年金額・日付を少しずつ変える 毎年ぴったり110万円・毎年同じ月日では「あらかじめ一括の贈与契約があった」と評価され、初年度に全額に対する贈与税がかかる「定額贈与」と判定されるおそれがあります。金額・日付に変化を持たせます。
  4. あえて贈与税を申告する年を作る 年に1度、120万円のような110万円超の贈与を行い、超えた10万円について贈与税1,000円を申告・納付しておくことで、「毎年贈与があり、契約に基づき履行されていた」客観的な記録を税務署に残せます。
  5. 不動産・有価証券の贈与は、必ず名義変更まで行う 贈与契約書だけ作って登記名義を変えていない不動産、株主名簿の書き換えをしていない株式は、贈与の効力が外形的に成立していません。名義変更・登記まで含めて贈与でございます。

ケースで見る節税効果――7年贈与した場合とそうでない場合

具体的な数字で、生前贈与の節税効果を確認いたします。前提条件は次のとおりです。

  贈与をまったくしない場合 10年間の暦年贈与を実行した場合
相続発生時の
金融資産
1億円 1億円-2,200万円
=7,800万円
うち7年以内の
生前贈与加算額
0円 110万円×2人×7年-100万円×2人
=1,340万円
相続税の
課税価格
1億6,000万円 7,800万円+1,340万円+6,000万円
=1億5,140万円

表のとおり、10年間きちんと贈与を続ければ、加算分を差し引いても約860万円分の財産を相続税の課税対象から外せる計算になります。仮にこの財産に対する限界税率が30%なら、おおむね260万円弱の相続税の節税効果が出る計算でございます。20年・30年と長い年月をかけられれば、節税額はさらに膨らみます。

「7年は長すぎる」と感じても、始めなければ何も変わらない

改正後の7年ルールを聞いて「もう間に合わない」「結局は加算されるなら意味がない」と感じる方は少なくありません。しかし、上の試算が示すとおり、7年以上前の贈与は完全に相続税の対象外になります。早く始めれば始めるだけ、確実に効果は積み上がります。生前贈与の本質は「時間を味方につける」こと――それは改正後も変わりません。

生前贈与をめぐる8つの落とし穴

当センターのご相談現場で、実際によく見かける生前贈与の誤解と失敗を、8つに整理いたしました。

  1. 「贈与税がかからないなら相続税にも関係ない」と思い込む 改正後は、年間110万円以下で贈与税が発生していない贈与であっても、相続開始前7年以内のものはすべて相続税の計算対象に加算されます。「贈与税」と「相続税」は別の物差しで、贈与税が0円でも相続税には影響します。
  2. 「7年ルールは2024年からすぐ動き出している」と誤解する 実際には経過措置があり、完全な7年加算が適用されるのは2031年1月1日以降の相続からでございます。2026〜2030年の相続では、加算期間は3〜6年と段階的に長くなっていきます。
  3. 毎年ぴったり110万円・同じ日付で贈与を続ける 「定額贈与(連年贈与)」と判定されると、初年度に総額の贈与税がかかったとみなされる可能性があります。金額や日付に変化をつけ、毎年新しい贈与契約書を作るのが基本でございます。
  4. 通帳・印鑑を被相続人が管理していて名義預金になる 子や孫名義の預金でも、通帳・印鑑・キャッシュカードを被相続人が握ったままでは、実質的な所有権が移転していないと判断され、名義預金として相続財産に組み入れられます。
  5. 受贈者がその預金の存在を知らない 贈与契約は受贈者の承諾があって初めて成立します。「内緒で渡しておこう」と本人に伝えていない贈与は、そもそも贈与として認められないおそれがあります。
  6. 不動産・株式の贈与で名義変更を忘れる 不動産や非上場株式の贈与は、登記や株主名簿の書き換えまで完了して初めて、第三者に対する効力を持ちます。贈与契約書だけ作って名義を変えていないものは、税務調査で「贈与の実態がない」と判断されかねません。
  7. 相続時精算課税を選んだあとで暦年に戻ろうとする 相続時精算課税は、その贈与者からの贈与については以後ずっと適用され、暦年課税に戻ることはできません。「とりあえず精算課税にしてみる」という安易な選択は禁物です。
  8. 生前贈与の証拠を残さず、税務調査で説明できない 贈与契約書、振込記録、贈与税申告書、受贈者の通帳の使用履歴――これらの記録がなければ、何年にもわたる贈与の事実そのものを立証できません。「やった」より「やったことを証明できる」が肝心でございます。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「20年続けた毎年110万円贈与が、すべて名義預金と判定されかけたケース」

70代女性Tさんからのご相談でございました。10年前にご主人を亡くされ、その際に「夫が長年にわたって子と孫に毎年110万円ずつ贈与してきた」と主張されたところ、税務調査で「これは全部、亡くなったご主人の名義預金です」と指摘されたのが発端でした。

当時、ご主人は子と孫の名義の預金口座を10口座以上開設し、毎年同じ月の同じ日に110万円を入金していらっしゃいました。ところが調査でわかったのは、(1)通帳と印鑑はすべてご主人が金庫に保管していた、(2)孫たちは20歳を超えた今もその口座の存在を知らなかった、(3)入金以外の動きが一度もなく、口座は事実上「動いていなかった」、(4)贈与契約書は一度も作成されていない――という事実でした。

結果として、20年間で総額4,000万円超の入金分が、すべてご主人の名義預金として相続財産に組み入れられました。本来であれば非課税で渡せていたはずの金額に、過去にさかのぼっての修正申告と加算税が発生し、ご家族にとって大きな負担となったのでございます。

このご経験を踏まえてTさんは、ご自身の生前贈与の見直しのために当センターへご相談に来られました。当センターでは提携税理士と連携し、(1)孫名義の口座をいったん閉鎖し、孫本人が自宅近くの銀行で新規開設する、(2)口座開設後、Tさんから孫の口座への振込で贈与する、(3)毎年金額・日付を変えた贈与契約書を作成し、孫の署名を残す、(4)通帳・印鑑・カードは孫本人が管理する、という運用ルールに切り替えていただきました。「贈与の事実を、第三者から見てもわかる形で残す」――そのひと手間の積み重ねが、結果としてご家族を守るのでございます。

― 私たちから一言 ―

「7年ルール時代の生前贈与は、『早く・正しく・長く』が鉄則です」

2024年改正で、暦年贈与の生前贈与加算が3年から7年に延長されたとき、ご相談現場では「もう生前贈与は意味がないのでは」というご質問が増えました。私たちのお答えはいつもこうです――意味がないどころか、これからこそ、生前贈与の進め方が問われる時代になります

改正の趣旨は「亡くなる直前の駆け込み贈与を抑える」ことであり、決して「生前贈与そのものを禁止する」ことではありません。7年以上前の贈与は、いまも将来も、確実に相続税の対象外でございます。だからこそ、早く始めること、長く続けること、そして名義預金と認定されない正しいやり方で行うこと――この3つが、改正後の生前贈与のすべてといっても過言ではありません。

同時に、改正で大きく使いやすくなった相続時精算課税の年110万円基礎控除も、ご高齢の贈与者にとっては大きな選択肢でございます。「これまで暦年贈与しか考えていなかった」「相続時精算課税は使いにくいと思っていた」――そんな方こそ、ぜひ一度ご相談くださいませ。当センターでは、提携税理士と連携し、ご家族の構成・財産状況・贈与する方の年齢に合わせて、暦年贈与と相続時精算課税の最適な組み合わせをご提案しております。お電話一本、LINEで結構でございます。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 生前贈与は相続税対策のもっとも基本的な選択肢。贈与税には2つの課税方式――暦年課税と相続時精算課税がある。
  • 暦年課税は1年間に110万円までの基礎控除があり、これを毎年活用する手法が「暦年贈与」と呼ばれる。
  • 2024年改正で、暦年課税の生前贈与加算が「相続開始前3年以内」から「7年以内」に延長された(相続税法第19条)。
  • 4〜7年前の贈与には、その4年間トータルで100万円の控除が認められる。1〜3年以内の贈与は全額が加算対象。
  • 完全な7年加算が適用されるのは2031年1月1日以降の相続。それまでは段階的な経過措置が続く。
  • 相続時精算課税には改正で新たに年間110万円の基礎控除が新設され、110万円以下の贈与は申告不要・相続時加算もなしとなった。
  • 制度の選択は、贈与者の年齢・財産規模・受贈者の人数によって変わる。高齢者ほど精算課税の年110万円が有利になりやすい。
  • 名義預金と判定されないため、贈与契約書・銀行振込・通帳と印鑑の本人管理・あえての贈与税申告など、証拠を残す工夫が不可欠。
  • 7年ルール時代の生前贈与は「早く・正しく・長く」が鉄則。早く始めるほど、確実な節税効果が積み上がる。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。記事中の試算は概算であり、実際の税額は財産の評価額や各種特例の適用状況により変動いたします。実際のお手続きにあたっては、必ず税理士・弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。本記事の内容は2026年5月時点の法令・制度に基づきます。最新の税制改正により取扱いが変わる場合がございますので、ご利用の際は最新情報をご確認ください。

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