準確定申告とは――亡くなった人の「最後の確定申告」

通常の確定申告は、その年の1月1日から12月31日までの所得について、翌年の決められた期間に本人が行います。ところが、年の途中で亡くなった方は、自分で確定申告をすることができません。そこで、亡くなった方のその年の所得について、相続人が代わりに申告・納税する手続きが準確定申告でございます。いわば、亡くなった方の「最後の確定申告」を、ご遺族が引き継いで行うものとお考えください。

対象になるのは、あくまで亡くなった方ご自身の所得に対する所得税です。相続した財産にかかる相続税(「相続税の申告と納付」参照)とは、まったく別の手続きですので、混同しないようご注意ください。

期限は「4か月以内」、相続税の10か月とは違う

準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から4か月以内です。提出先は、亡くなった方の死亡当時の納税地(通常は住所地)を所轄する税務署になります。

「4か月」と「10か月」を取り違えない

相続まわりの期限は数が多く、混同しがちです。とくに準確定申告は4か月、相続税は10か月と、似て非なる期限が並びます。準確定申告のほうが先に来るため、「相続税の準備をしているうちに、準確定申告の期限が過ぎていた」という失敗が後を絶ちません。相続が発生したら、まず期限の一覧を確認しておくことが大切です(「相続手続きのスケジュール」参照)。

7日 死亡届の提出
4か月 準確定申告・納税
10か月 相続税の申告・納税

申告が必要な人・不要な人・還付になる人

準確定申告は、すべての方に必要なわけではありません。基本の考え方は、「その方が生きていれば確定申告が必要だったかどうか」です。

申告が必要な主なケース

申告が不要な主なケース

[年金受給者の特例]
公的年金等の収入が400万円以下で、かつ年金以外の所得が20万円以下であれば、確定申告は不要とされています。この範囲に収まる方は、準確定申告も原則不要です。ただし、医療費控除などで税金が戻る場合は、申告すれば還付を受けられます。

申告すると税金が戻る(還付)ケース

義務として申告が必要なのは納税が生じる場合ですが、準確定申告は税金を取り戻すためにも使えます。次のような場合は、申告することで還付を受けられる可能性があります。

還付を受けるための申告は、4か月を過ぎてしまっても、一定の期限内であれば行えます。「亡くなる前に入院や手術で医療費がかさんだ」というような場合は、戻ってくるお金がないか確認する価値があります。

誰が申告するのか――相続人全員と「付表」

準確定申告を行うのは、相続人(および包括受遺者)です。相続人が複数いる場合の提出方法には、次の2つがあります。

その際、申告書には「準確定申告書の付表」を添付します。これは、相続人全員の氏名・住所・続柄や、それぞれの納付・還付の割合などを記載する書類です。なお、還付金を代表者がまとめて受け取る場合には、付表とは別に還付金の受領に関する委任状が必要になります。

[相続人どうしの情報共有を]
準確定申告は相続人全員が関わる手続きです。納める場合も、戻ってくる場合も、相続人どうしで割合に応じて負担・分配します。一人が抱え込まず、誰がいくら納めるのか・戻るのかを共有しておくことが、後のトラブルを防ぎます。

対象になる所得の期間

準確定申告で対象になるのは、その年の1月1日から、亡くなった日までに確定した所得です。たとえば8月20日に亡くなった方なら、その年の1月1日から8月20日までの所得が対象になります。

対象期間 = その年の 1月1日死亡日
前年分の申告がまだ済んでいない時期(1〜3月など)に亡くなった場合は注意が必要です。

注意したいのは、確定申告の時期(おおむね2〜3月)より前に亡くなった場合です。たとえば前年分の確定申告がまだ済んでいない1月や2月に亡くなったときは、前年分と本年分(1月1日〜死亡日)の両方を準確定申告する必要があり、いずれも「相続の開始を知った日の翌日から4か月以内」が期限となります。

控除は「死亡日まで」が原則――医療費控除の注意点

準確定申告では、所得控除の取扱いに独特のルールがあります。基本は、「亡くなった日までに本人が支払ったもの」だけが控除の対象になる、という点です。

控除の種類 対象になる範囲
医療費控除 亡くなった日までに本人が支払った医療費。死亡後に相続人が支払った分は対象外。
社会保険料・生命保険料・
地震保険料控除
亡くなった日までに本人が支払った保険料・掛金。
配偶者控除・扶養控除など 適用の有無は死亡日の現況で判定。月割り・日割りはせず、満額で控除。

死亡後に払った医療費は、準確定申告には入れられない

入院・治療の請求書が、亡くなった後にご遺族のもとへ届くことはよくあります。この死亡後に相続人が支払った医療費は、準確定申告の医療費控除には含められません。ただし、亡くなった方の債務として、相続税の計算では「債務控除」の対象にできる場合があります。どちらで扱うかで結果が変わるため、医療費の領収書は支払日が分かるように保管しておきましょう。

納めた所得税・戻った還付金と相続税の関係

準確定申告で生じる所得税や還付金は、相続税ともつながっています。整理すると、次のようになります。

準確定申告の結果 相続税での取扱い
所得税を納付した 亡くなった方の債務として、相続税の計算で債務控除の対象にできる(課税財産が減る)。
所得税が還付された 還付金は亡くなった方に帰属する財産として、相続財産に加算され、相続税の課税対象になる。

「準確定申告で納めた所得税が、相続税からそのまま差し引かれる」といった直接の制度はありません。あくまで相続税の課税価格(財産から債務を引いた額)を通じて、間接的に反映される関係です。なお、還付金にかかる「還付加算金」は、相続人の所得(雑所得)になるなど、細かい論点もあります。相続税の申告が必要な規模のご家庭では、準確定申告と相続税申告をあわせて税理士に相談すると安心でございます。

準確定申告でよくある7つの落とし穴

ご相談の現場で実際によく見かける、準確定申告をめぐる誤解と失敗を7つに整理いたしました。

  1. そもそも準確定申告の存在を知らない 相続税や葬儀に気を取られ、所得税の申告があること自体に気づかないまま4か月を過ぎてしまうケースが最も多いです。
  2. 期限を相続税と同じ「10か月」だと思い込む 準確定申告は4か月。相続税より先に来ます。期限の一覧を最初に確認しましょう。
  3. 還付になるのに申告せず、損をする 年金・給与から税金が天引きされ、医療費もかさんでいた場合などは、申告すれば戻ることがあります。
  4. 死亡後に払った医療費を準確定申告に入れてしまう 死亡後に相続人が支払った分は対象外。相続税の債務控除で扱える場合があります。
  5. 前年分の申告が未了のまま亡くなったのを見落とす 確定申告期の前(1〜3月など)に亡くなると、前年分と本年分の両方が必要になることがあります。
  6. 相続人の一人だけで進め、付表や情報共有を怠る 相続人全員が関わる手続きです。付表の記載や、納付・還付の割合の共有を忘れずに。
  7. 事業所得・不動産所得があったのに申告しない 亡くなった方が事業や賃貸をしていた場合は、ほぼ確実に準確定申告が必要です。早めに帳簿や資料を確認しましょう。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「父の医療費がかさんでいて、申告したら税金が戻ったケース」

長く闘病されていたお父様を亡くされたIさん(50代・長女)からのご相談でございました。当初は「年金暮らしだったから、確定申告なんて関係ない」と思っていらっしゃいましたが、お話を伺うと、お父様は年金から所得税が天引きされており、さらに亡くなる年は入院や手術で医療費が年間で数十万円にのぼっていました。

当センターでは提携の税理士と連携し、まず準確定申告の要否を確認しました。すると、医療費控除などを反映することで、天引きされていた所得税の一部が還付される見込みであることが分かりました。亡くなった日までにお父様が支払った医療費を集計し、死亡後にIさんが支払った分は相続税の債務控除へ回すよう整理。期限内に準確定申告を済ませ、無事に還付を受けることができました。

Iさんは「申告なんて必要ないと思い込んでいましたが、ちゃんと手続きすればお金が戻ると知って驚きました。期限が4か月と聞いて、早めに相談しておいてよかったです」とおっしゃってくださいました。準確定申告は、義務であると同時に、ご遺族を助ける制度にもなる――そのことを実感していただいた一例でございます。

― 私たちから一言 ―

「準確定申告は、相続のなかでいちばん忘れられやすい手続きです」

相続のご相談を受けていて、最も「見落とされていた」と感じることが多いのが、この準確定申告でございます。相続税や葬儀、各種の名義変更に追われるうちに、所得税の申告という視点がすっぽり抜け落ちてしまうのです。しかも期限は4か月。相続税の10か月よりずっと早く、気づいたときには過ぎていた、ということが本当によく起こります。

一方で、準確定申告は「払う」だけの手続きではありません。年金や給与から税金が天引きされていた方、亡くなる年に医療費がかさんだ方などは、申告することでお金が戻ってくることがあります。ご遺族にとっては、思わぬ助けになることも少なくありません。義務だからと身構えるだけでなく、「戻るものはないか」という視点で確認していただきたいのです。

当センターでは、提携の税理士・司法書士・弁護士と連携し、準確定申告の要否の確認から、必要書類の収集、申告書の作成、そして相続税申告との一体的な調整まで、相続にまつわる手続きをワンストップでお手伝いしております。「父は年金だけだったけど申告は必要?」「医療費がかなりかかったが戻る?」――その小さな疑問こそ、早めにご相談いただく最良の理由です。お電話一本、LINEで結構でございます。お気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 準確定申告とは、亡くなった方のその年の所得税を、相続人が代わりに申告・納税する「最後の確定申告」。相続税とは別の手続き。
  • 期限は「相続の開始を知った日の翌日から4か月以内」。相続税の10か月より先に来るので取り違えに注意。提出先は被相続人の死亡時の住所地の税務署。
  • 申告が必要なのは、事業・不動産所得がある人、給与2,000万円超、公的年金400万円超など。年金収入400万円以下+他の所得20万円以下なら原則不要。
  • 年金・給与から税金が天引きされ、医療費がかさんだ場合などは、申告すると還付を受けられることがある。
  • 相続人全員が連署(または各自で氏名を付記)して提出し、「準確定申告書の付表」を添付する。
  • 対象は1月1日〜死亡日の所得。確定申告期の前に亡くなると前年分も必要なことがある。控除は死亡日までに本人が支払ったものが原則。死亡後に相続人が払った医療費は対象外。
  • 納めた所得税は相続税の債務控除の対象、戻った還付金は相続財産に加算。相続税の課税価格を通じて間接的につながる。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。申告の要否や控除の適用、相続税との関係は、所得の内容により判断が分かれることがあります。準確定申告の要否や具体的な計算、申告書の作成にあたっては、必ず税理士などの専門家、または所轄の税務署にご確認・ご相談ください。本記事の内容は2026年5月時点の情報に基づきます。税制は改正される場合がありますので、最新の情報をご確認ください。

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