年金受給者が亡くなったら――まず必要な2つの届出

年金を受け取っていた方が亡くなると、年金に関して大きく2つの流れが生じます。ひとつは「受給を止める」手続き、もうひとつは「もらう」手続きです。

①受給を止める――年金受給権者死亡届

年金の受給権は、本人の死亡によって消滅します。そのため、日本年金機構に対して年金受給権者死亡届(報告書)を提出し、受給を停止する必要があります。放置すると年金が過払いになり、あとで返還を求められることになりますので、早めの手続きが大切です。

[マイナンバー収録済みなら死亡届は原則不要]
日本年金機構にマイナンバーが収録されている場合は、市区町村へ死亡届を提出すれば情報が連携されるため、年金受給権者死亡届の提出は原則として省略できるとされています。ただし、後述の未支給年金や遺族年金の請求は、これとは別に、遺族が自分で行う必要があります。「死亡届が省略できた=すべて自動で処理される」ではない点にご注意ください。

②もらう――未支給年金と遺族年金

「もらう」ほうには、性質の違う2つの年金があります。それが未支給年金遺族年金です。以下、順に見ていきましょう。この2つは、相続に伴う名義変更・請求手続きのなかでも、見落とされやすい代表例です。

未支給年金とは――亡くなった月まで受け取れる年金

公的年金は、後払いで支給されます。原則として、偶数月に、その前月までの2か月分が支払われるしくみです。そのため、受給者が亡くなると、亡くなった月の分まで受け取る権利があるのに、まだ支払われていない年金が必ずといってよいほど生じます。これが未支給年金です。

年金は後払い(偶数月に前2か月分)
→ 亡くなると 支払われていない月分 が残る
→ これが 未支給年金
受け取る権利があった分なので、遺族が請求して受け取れる

たとえば、年金を受給していた方が3月に亡くなった場合、2月・3月分の年金がまだ支払われていないことがあります。この亡くなった月までの分を、一定範囲の遺族が請求して受け取ることができます。金額としては、おおむね1〜2か月分になることが多い年金です。

未支給年金を請求できる遺族の範囲と順位

未支給年金は、誰でも受け取れるわけではありません。亡くなった当時、その方と生計を同じくしていた一定範囲の遺族が、法律で定められた順位に従って請求できます。

請求できる遺族と順位(国民年金法・厚生年金保険法)

国民年金法・厚生年金保険法は、未支給年金を請求できる遺族を、次の順位で定めています。

順位請求できる遺族
第1順位配偶者
第2順位
第3順位父母
第4順位
第5順位祖父母
第6順位兄弟姉妹
第7順位上記以外の三親等内の親族

共通の要件は「死亡当時、生計を同じくしていたこと」

いずれの順位でも、亡くなった当時、その方と生計を同じくしていたことが要件です。順位が上の人がいれば、その人が請求できます。同順位の人が複数いる場合の取扱いなどは、日本年金機構の窓口でご確認ください。

この順位は、民法が定める法定相続人の範囲・順位とは異なります。たとえば、法定相続では配偶者と子が同時に相続人になりますが、未支給年金では配偶者が第1順位、子が第2順位と、はっきり順位が分かれています。相続の基本とは別の物差しで決まる点に、まずご注意ください。

未支給年金は相続財産か――最高裁平成7年判決と一時所得

ここが、実務でもっとも誤解の多いポイントです。「未支給年金は、亡くなった人が受け取るはずだったお金だから、相続財産では?」と考えるのは自然なことです。しかし、答えは「相続財産ではない」です。

最高裁平成7年11月7日判決――遺族固有の権利

この点について、最高裁判所は平成7年11月7日の判決で、未支給年金請求権の相続性を否定しました。国民年金法は、相続とは別の立場から、一定範囲の遺族に対して「自己固有の権利」として未支給年金を請求する権利を与えているという考え方です。つまり、未支給年金は亡くなった人から相続するのではなく、遺族が自分自身の権利として受け取るものなのです。厚生年金についても、同様に解されています。

未支給年金は相続財産に含まれない

未支給年金は、遺族が自己固有の権利として請求するものであり、相続財産にも「みなし相続財産」にも含まれません。したがって、遺産分割協議の対象にもならず、相続放棄をした人でも(生計同一などの要件を満たせば)受け取ることができます。

税金は「相続税」ではなく「一時所得(所得税)」

相続財産でない以上、相続税はかかりません。国税庁も、死亡したときに支給されていなかった年金を遺族が請求して受け取った場合は、その遺族の一時所得となり、相続税は課税されないとしています(タックスアンサーNo.4123ほか)。

[一時所得には50万円の特別控除がある]
一時所得は、その年の他の一時所得(生命保険の一時金など)と合算し、特別控除50万円を差し引いて計算します。未支給年金は通常1〜2か月分ですので、他に大きな一時所得がなければ、特別控除の範囲内で税負担が生じないことも多いとされています。もっとも、他の一時所得と合わせて50万円を超える場合などは課税対象となり得ますので、判断に迷う場合は税務署や税理士にご確認ください。
項目未支給年金の扱い
法的性質遺族固有の権利(相続財産ではない)
根拠となる考え方最高裁平成7年11月7日判決で相続性を否定
相続税かからない
所得税受け取った遺族の一時所得(特別控除50万円)
遺産分割の対象ならない

遺族年金とは――遺族基礎年金・遺族厚生年金のしくみ

もう一方の遺族年金は、未支給年金とはまったく性質が異なります。これは、亡くなった方によって生計を維持されていた遺族のその後の生活を支えるために、あらためて支給される年金です。大きく遺族基礎年金遺族厚生年金の2つがあります。

遺族基礎年金――「子のある配偶者」または「子」

遺族基礎年金は、国民年金の給付です。受け取れるのは、原則として亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。ここでいう「子」は、18歳到達年度の末日(3月31日)までの間にある子など、一定の要件を満たす子をいいます。子のない配偶者には、遺族基礎年金は原則として支給されません

金額は、老齢基礎年金の満額に相当する基本額に、子の数に応じた加算を加えて計算します。基本額・加算額は年度ごとに改定されます(令和6年度=2024年度の基本額は約81万円、子の加算は第1子・第2子が各約23万円、第3子以降が各約7万円が目安)。最新の正確な金額は、日本年金機構の公表資料でご確認ください。

遺族厚生年金――報酬比例部分の4分の3

遺族厚生年金は、厚生年金の給付です。会社員・公務員などとして厚生年金に加入していた方が亡くなったときに、生計を維持されていた遺族に支給されます。配偶者のほか、子・父母・孫・祖父母も、順位に従って対象になり得ます。

遺族厚生年金の基本額
= 老齢厚生年金の 報酬比例部分 × 4分の3
亡くなった方の厚生年金の加入実績(報酬比例部分)をもとに計算する

亡くなった方の厚生年金の加入記録(報酬比例部分)をもとに、その4分の3が基本額となります。さらに、要件を満たす場合には中高齢寡婦加算などの加算が付くことがあります。誰がいくら受け取れるかは、加入記録・遺族の状況によって変わりますので、日本年金機構でご確認ください。

[生命保険とは別の制度]
遺族年金は公的年金の給付であり、生命保険(民間の死亡保険金)とはまったく別の制度です。生命保険金は「500万円×法定相続人」の非課税枠がある一方でみなし相続財産として相続税の対象になり得ますが、遺族年金は次に述べるとおり非課税です。混同しないようご注意ください。

遺族年金の税金――所得税も相続税も非課税

遺族年金について、税金の面で押さえるべき結論はシンプルです。

遺族基礎年金・遺族厚生年金は、所得税も相続税も非課税

国税庁は、厚生年金や国民年金などを受給していた人が死亡したときに遺族に支給される遺族年金は、原則として所得税も相続税も課税されないとしています(タックスアンサーNo.4123)。したがって、遺族年金だけを受け取っている場合、他に課税される所得がなければ、確定申告も原則として不要です。

未支給年金(一時所得・所得税の対象)と、遺族年金(非課税)とで、税金の扱いが正反対である点に注意が必要です。整理すると、次のようになります。

未支給年金遺族年金
性質亡くなった月までの未払い分遺族の生活保障として新たに支給
相続財産含まれない(遺族固有の権利)含まれない(遺族固有の権利)
相続税かからないかからない(非課税)
所得税一時所得(特別控除50万円)非課税

手続きの窓口・必要書類・時効(5年)

未支給年金・遺族年金の請求は、いずれも遺族が自分で手続きをする必要があります。黙っていて自動的に振り込まれるものではありません。

窓口

手続きの窓口は、年金事務所または街角の年金相談センターです。国民年金だけの方(遺族基礎年金など)は、お住まいの市区町村の窓口で手続きできる場合もあります。事前に日本年金機構の「ねんきんダイヤル」などで、必要な書類や窓口を確認しておくとスムーズです。

おもな必要書類(一般的な例)

必要書類は、国民年金か厚生年金か、遺族の状況などによって異なります。預貯金の相続手続きなどと同じく、戸籍の収集に時間がかかることもありますので、早めの着手をおすすめします。

請求の時効は原則5年

未支給年金の請求権には、原則5年の時効があります。遺族年金の請求(裁定請求)についても、支給事由が生じた日の翌日から5年を経過すると時効により請求できなくなるのが原則です。「まだ大丈夫」と後回しにしているうちに時効にかかってしまうことのないよう、正確な起算日と期限は必ず日本年金機構でご確認ください。

よくある相談事例
※以下の事例は実際のご相談をもとにした架空のケースです。実在の個人・団体とは関係ありません。

「遺族年金に相続税がかかると思い込み、未支給年金を放置しかけたケース」

お父さまが亡くなり、同居されていたお母さまが残されました。お母さまは「年金にも相続税がかかるのだろうから、うかつに手続きすると税金が増えるのでは」と心配され、年金の手続きをためらっておられました。また、ご長男は「未支給年金は父の財産だから、遺産分割で兄弟みんなで分けるものだ」と思い込んでおられました。

当センターにご相談いただき、私たちは次の2点をご説明しました。第一に、遺族年金は所得税も相続税も非課税であり、受け取ってもお母さまの税負担が増えることはないこと。第二に、未支給年金は相続財産ではなく、生計を同じくしていた遺族が固有の権利として請求するもので、遺産分割の対象にはならないこと(最高裁平成7年11月7日判決)。未支給年金は受け取ったお母さまの一時所得になりますが、金額は1〜2か月分で、特別控除50万円の範囲内におさまる見込みでした。

ご家族は「税金を心配して手続きを止めていたら、受け取れるものを受け取り損ねるところだった」と安心され、さっそく年金事務所で手続きを進められました。時効は原則5年とお伝えしたところ、「早めに動いてよかった」とおっしゃっていました。年金の手続きは、税金を恐れて止めるのではなく、性質を正しく理解して着実に進めることが大切――そのことを実感された事例です。

― 私たちから一言 ―

「年金の手続きは、遺族の生活に直結する大切な一歩です」

ご家族を亡くされた直後は、悲しみと、押し寄せる手続きの多さとで、頭がいっぱいになるものです。そのなかで、年金の手続きはつい後回しにされがちです。けれども、未支給年金も遺族年金も、残されたご家族の生活を支えるための、確かな権利です。受け取れるものを受け取り損ねてしまうのは、あまりにもったいないことです。

私たちがご相談をお受けしていて感じるのは、「税金がかかるのでは」という誤解が、手続きの足を止めてしまっているケースの多さです。本記事で繰り返しお伝えしたとおり、遺族年金は非課税未支給年金も相続税はかからず、多くの場合は所得税の特別控除の範囲です。まずは安心して、手続きに向き合っていただきたいと思います。

もうひとつ、大切なのが「自分から請求する」という点です。年金は、死亡届を出せば受給が止まりますが、未支給年金や遺族年金は遺族が能動的に請求しなければ支給されません。そして、その請求には原則5年という時効があります。悲しみのなかでも、この一歩だけは、どうか早めに踏み出していただきたいのです。

当センターでは、年金そのものの裁定手続きは社会保険労務士や年金事務所の領域としつつ、相続全体のなかで「何を、いつまでに、どこへ」を整理し、必要な窓口へおつなぎするお手伝いをしています。年金・預貯金・不動産・保険――ばらばらに見える手続きを、ご家族が迷わず進められるよう、一緒に道筋を描いてまいります。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

亡くなった人の年金手続きでよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、亡くなった方の年金手続きをめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 未支給年金を「相続財産」だと思い込む 未支給年金は遺族固有の権利で、相続財産には含まれません(最高裁平成7年11月7日判決)。遺産分割の対象にもならず、相続放棄をした人でも要件を満たせば受け取れます。
  2. 「遺族年金に相続税がかかる」と誤解して手続きをためらう 遺族基礎年金・遺族厚生年金は、所得税も相続税も非課税です。受け取っても税負担が増えることはありません。
  3. 未支給年金の順位を法定相続人と同じだと考える 未支給年金の順位は、配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹→その他三親等内の親族で、民法の法定相続の範囲・順位とは異なります。共通の要件は「死亡当時に生計を同じくしていたこと」です。
  4. 「死亡届を出せば全部自動」と思い込む マイナンバー収録済みなら年金受給権者死亡届は原則省略できますが、未支給年金・遺族年金の請求は別途、遺族が自分で行う必要があります。
  5. 子のない配偶者が遺族基礎年金をあてにする 遺族基礎年金の対象は原則「子のある配偶者」または「子」です。子のない配偶者には原則支給されません(別に寡婦年金・遺族厚生年金などの制度があります)。
  6. 未支給年金の一時所得を見落とす 未支給年金は受け取った遺族の一時所得です。金額は通常1〜2か月分で特別控除50万円の範囲内におさまることが多いものの、他の一時所得と合わせて超える場合などは課税対象になり得ます。
  7. 請求を後回しにして時効(5年)にかける 未支給年金・遺族年金の請求には原則5年の時効があります。悲しみのなかでも、この手続きだけは早めに着手することが大切です。

この記事のまとめ

  • 年金受給者が亡くなったら、受給を止める「年金受給権者死亡届」(マイナンバー収録済みなら原則不要)と、もらう「未支給年金・遺族年金の請求」の2つの流れがある。
  • 未支給年金は、公的年金が後払いのために生じる、亡くなった月までの未払い分。生計を同じくしていた遺族が請求できる。
  • 未支給年金を請求できる遺族は、配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹→その他三親等内の親族の順。共通の要件は死亡当時に生計を同じくしていたこと。法定相続の順位とは異なる。
  • 未支給年金は相続財産に含まれず(最高裁平成7年11月7日判決)、遺族固有の権利。相続税はかからず、受け取った遺族の一時所得(特別控除50万円)となる。
  • 遺族基礎年金は原則「子のある配偶者」または「子」が対象。遺族厚生年金は老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が基本額で、中高齢寡婦加算などが付くことがある。金額は年度ごとに改定される。
  • 遺族基礎年金・遺族厚生年金は、所得税も相続税も非課税。遺族年金だけなら確定申告も原則不要。
  • 手続きの窓口は年金事務所・街角の年金相談センター(国民年金は市区町村の場合も)。戸籍・生計同一の書類などが必要で、請求の時効は原則5年。
  • 金額・要件・時効の起算日などは個別事情や年度で変わるため、最新の正確な内容は日本年金機構・国税庁の一次情報でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。未支給年金・遺族年金を受け取れるかどうか、請求できる遺族の範囲・順位、生計同一の判定、遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給要件や金額、一時所得の課税関係、請求の時効の起算日などは、加入していた年金の種類、遺族の状況、収入の状況などによって結論が変わり得ます。年金額は年度ごとに改定され、法令・制度も今後の改正によって変わる可能性があります。本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいていますが、実際の手続き・課税にあたっては、必ず日本年金機構・年金事務所、税理士・社会保険労務士などの専門家、および国税庁等の一次情報で最新の内容をご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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