住所等変更登記の義務化とは――2026年4月1日から始まった新しい義務

不動産の登記簿には、その不動産を所有している人の氏名と住所が記録されています。この氏名や住所が変わったとき、登記を実際の内容に合わせて直す手続きが住所等変更登記(登記名義人表示変更登記)です。

従来、この手続きはあくまで任意でした。放っておいても罰はなく、実務上も「売るときや担保に入れるときに、まとめて直せばよい」と扱われてきました。そのため、登記簿の住所が何十年も前のまま、というケースが全国に膨大に積み上がっていました。

その扱いを改めたのが、令和3年法律第24号(民法等の一部を改正する法律)による不動産登記法の改正です。新たに設けられた不動産登記法76条の5により、所有権の登記名義人の氏名・名称または住所に変更があったときは、変更の登記を申請しなければならないとされました。施行日は2026年(令和8年)4月1日です。

住所・氏名が変わったら2年以内に変更登記
正当な理由なく怠れば5万円以下の過料
= 根拠は不動産登記法76条の5/施行日は2026年(令和8年)4月1日

対象になるのは、所有権の登記名義人です。個人(自然人)だけでなく法人も対象で、法人の場合は名称や本店の変更が同じように義務の対象になります。一方、抵当権者などの担保権の登記名義人は、この義務の対象ではありません。

「変更」に当たるのは、どんな場面か

実際にご相談の多いのは、次のような場面です。

[市町村合併や住居表示の実施は、扱いが違います]
よく混同されるのですが、市町村合併や住居表示の実施のように、行政の側の都合で地名・地番の表記が変わった場合は、ご自身で急いで申請しなければならない場面ではありません。法務省は、「行政区画の変更等により所有権の登記名義人の住所に変更があった場合」を、申請を怠っても過料が課されない「正当な理由」の例として挙げています。実務上も、行政区画や字の名称の変更については登記所側で処理される仕組みがあります。ご自身の意思で住所や氏名を変えたときが、この義務の中心的な場面だとお考えください。
[「持っている不動産すべて」が対象です]
見落としやすいのが、今住んでいない不動産です。貸しているアパート、相続で受け継いだ田舎の土地や山林、共有持分だけ持っている実家――こうした不動産にも、同じ義務がかかります。ご自宅の登記だけ直して安心してしまうと、残りが手つかずになります。まずは自分がどれだけ不動産を持っているかを一覧にすることから始めてください。そのための新しい道具が、後述する所有不動産記録証明制度です。

なぜ義務化されたのか――所有者不明土地問題と、相続登記義務化との関係

この改正の背景にあるのは、日本が長く抱えてきた所有者不明土地問題です。登記簿を見ても今の所有者に連絡がつかない土地が全国に大量に存在し、公共事業の用地取得、災害復旧、空き家対策、民間の再開発――あらゆる場面で作業が止まってしまう、という深刻な事態が生じていました。

所有者に連絡がつかなくなる原因は、大きく二つに分けられます。

CAUSE 1 相続が起きたのに
名義が変わっていない
CAUSE 2 名義人は生きているが
住所が古いままで届かない

このうち原因①に対応したのが、2024年4月1日に施行された相続登記の申請義務化(不動産登記法76条の2)です。相続で不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象とされています。詳しくは相続登記の義務化の記事をご覧ください。

そして、原因②に対応するのが、今回の住所等変更登記の義務化です。名義人が生きていても、登記された住所が古ければ郵便物は届きません。「相続登記の義務化」と「住所等変更登記の義務化」は、同じ一つの法改正から生まれた対になる制度であり、施行日を2年ずらして順に動き出した――そう理解していただくのが、いちばん正確です。

項目相続登記の申請義務化住所等変更登記の申請義務化
根拠条文不動産登記法76条の2不動産登記法76条の5
施行日2024年(令和6年)4月1日2026年(令和8年)4月1日
申請の期限取得を知った日から3年以内変更があった日から2年以内
過料の上限10万円以下5万円以下
負担を軽くする仕組み相続人申告登記検索用情報の申出による職権変更登記(スマート変更登記)

「登記は権利を守るためのもの」から、「社会のインフラ」へ

これまで登記は、自分の権利を第三者に主張するための、本人のための制度と説明されてきました。だからこそ、放置しても罰はなかったのです。ところが所有者不明土地問題を通じて、登記簿は社会全体が土地の持ち主を知るための基盤でもあることが、あらためて意識されました。今回の義務化は、その発想の転換をはっきり形にしたものです。「直さなくても自分が困るだけ」ではなくなった――ここが、私たちが皆さまにいちばんお伝えしたい変化です。

期限は「変更があった日から2年以内」――施行前の変更は2028年3月31日まで

申請の期限は、変更があった日から2年以内です。引っ越しであれば住民票を移した日、婚姻による氏の変更であれば戸籍の届出が受理された日が起算点になると考えるのが基本です。

すでに住所が変わっている不動産はどうなるのか

ここが、多くの方に関係する最も重要な点です。この義務は、施行日より前に生じていた住所や氏名の変更にも適用されます。「昔の話だから対象外」ではありません。

法務省は、施行日前に生じた変更については、変更があった日または施行日のいずれか遅い日から2年以内が期限になるとしています。施行日前の変更であれば「遅い日」は施行日(2026年4月1日)ですから、そこから2年、すなわち2028年3月31日までに変更登記を申請する必要があるという整理になります。

施行日に住所が変わっていた場合
→ 期限は2028年3月31日
= 「変更があった日」または「施行日」のいずれか遅い日から2年以内という考え方によるもの

実務の感覚でいえば、これはおよそ1年半ちょっとの猶予があるということです。決して短くはありませんが、対象となる不動産が複数あり、しかもどこにあるか把握しきれていない方の場合、書類集めから始めると意外に時間を要します。「まだ先」ではなく「もう始まっている」とお考えください。

相続で取得した不動産の場合は、まず相続登記から

お亡くなりになった方の名義のままになっている不動産については、先に必要なのは相続登記です。亡くなった方の住所を直す変更登記をしても、名義人が変わるわけではありません。相続登記を申請すれば、そのときの登記で新しい所有者(相続人)の現在の住所が記録されますから、住所の問題は相続登記のなかで一緒に解決します。手順としては、相続登記を先に済ませるのが原則です。

[亡くなった方の登記上の住所が古いままだと、相続登記でひと手間増えます]
相続登記では、登記簿上の名義人と亡くなった方が同一人物であることを示す必要があります。ところが登記された住所が古く、除票や戸籍の附票でつながりが追えないと、この確認に手間がかかることがあります。何度も転居された方、住居表示の実施を経ている地域の不動産では、住所のつながりを証明する書類集めそのものが山場になることも珍しくありません。生前に住所を直しておくことは、実はご家族の手続きを軽くする備えでもあるのです。

正当な理由なく怠ると5万円以下の過料――手続きと費用

正当な理由なく申請を怠った場合、5万円以下の過料の対象とされています。ここで押さえていただきたいのは、過料は刑罰ではないという点です。前科がつくものではなく、行政上の秩序を維持するための金銭的な負担(秩序罰)です。とはいえ、放置してよいものではありません。

また、期限を過ぎたら自動的に過料が課される、という仕組みでもありません。法務省は、住所等変更登記の義務化について、「登記官が過料通知を行うのは、義務に違反した者に対し、相当の期間を定めて義務の履行を催告したにもかかわらず、正当な理由なく、その期間内に申請・申出がされないときに限られます」と明示しています。つまり、いきなり過料が課されることはなく、まず法務局から催告があり、それに応じなかった場合に限られるということです。

法務省が挙げている「正当な理由」の例

では、どのような場合が「正当な理由」に当たるのでしょうか。法務省は、住所等変更登記について次の5つの例を挙げています。

  1. 検索用情報の申出または会社法人等番号の登記がされているが、登記官の職権による住所等変更登記の手続がされていない場合 後述するスマート変更登記の申出を済ませている方は、こちらに当たります。申し出ておけば、職権の処理を待っているあいだに過料を問われることはないという趣旨です。
  2. 行政区画の変更等により所有権の登記名義人の住所に変更があった場合 市町村合併や住居表示の実施など、ご自身の意思によらない表記の変更です。
  3. 住所等変更登記の義務を負う者自身に重病等の事情がある場合
  4. 義務を負う者がDV被害者等であり、その生命・身体に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合 避難のために住所を明らかにできない方が、登記によって居所を知られてしまうことがないよう配慮されたものです。
  5. 義務を負う者が経済的に困窮しているために登記に要する費用を負担する能力がない場合

ご自身が該当しそうだと感じられた方は、放置するのではなく、まず管轄の法務局にご相談ください。事情をお伝えいただくことが、いちばん確実な対応です。なお、個別の事案が「正当な理由」に当たるかどうかの判断は事情によりますので、最新の内容は法務省・法務局の案内でご確認ください。

過料よりも、実生活で困るほうが先に来ます

私たちが現場でお伝えしているのは、過料の心配より、手続きが止まる不都合のほうがずっと現実的だということです。登記簿の住所が古いままだと、不動産を売るとき、住宅ローンを借りるとき、抵当権を抹消するとき、いずれも先に変更登記を求められます。急いで売りたい、決済日が迫っている――そういうときに限って、住所のつながりを示す書類が足りず、手続きが数週間止まるのです。義務化は、その「いずれ必ず必要になる作業」を、落ち着いてできるうちに済ませる機会だとお考えください。

手続きの流れと費用

  1. 登記事項証明書を取り、現在どう登記されているかを確認する 登記されている住所・氏名と、現在の住民票・戸籍を突き合わせます。複数の不動産を持っている方は、すべてについて確認してください。
  2. 住所や氏名のつながりを示す書類を集める 住民票の写し(前住所の記載のあるもの)、戸籍の附票、氏の変更であれば戸籍謄本などです。転居を重ねている場合は、登記上の住所から現住所までを切れ目なくつなぐ必要があります。
  3. 登記申請書を作成し、管轄の法務局に申請する 不動産の所在地を管轄する法務局に、書面またはオンラインで申請します。
  4. 登録免許税を納付する 登記名義人の住所・氏名の変更登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円とされています(土地と建物はそれぞれ1個と数えます)。免税や非課税の取扱いがある場合もありますので、金額は必ず法務局でご確認ください。

この手続きは、ご自身で申請することも十分に可能な部類のものです。相続登記を自分で行う場合の考え方は相続登記を自分でやる全手順の記事でも整理していますので、あわせてご参照ください。ただし、住所のつながりが追えない、対象の不動産が多い、共有者が複数いるといった場合には、司法書士にご依頼いただいたほうが確実で早いことが多くあります。

スマート変更登記――検索用情報を申し出れば法務局が職権で直してくれる

義務だけを課したのでは、負担が増えるばかりです。そこで同じ改正で用意されたのが、不動産登記法76条の6にもとづく仕組み――いわゆるスマート変更登記です。こちらも施行日は2026年4月1日です。

しくみは、こういうものです。所有者があらかじめ「検索用情報」を法務局に申し出ておくと、法務局が住民基本台帳ネットワークシステム等を通じて住所・氏名の変更を把握し、本人の了解を得たうえで、職権で変更の登記をしてくれるのです。

検索用情報を申し出る → 法務局が変更を把握
→ 本人の了解を得て 職権で変更登記
= 根拠は不動産登記法76条の6/申し出ておけば、引っ越すたびに自分で申請する必要がなくなる

申し出る検索用情報として案内されているのは、氏名、氏名の振り仮名(外国人の場合はローマ字氏名)、住所、生年月日、メールアドレスです。生年月日という個人を特定できる情報を登記所が持つことで、同姓同名の別人と混同せずに本人の変更を追える、という設計になっています。なお、検索用情報として申し出た内容は登記記録として公開されるものではないと案内されています。

実務上ありがたいのは、検索用情報の申出そのものは、2025年(令和7年)4月21日から受付が始まっているという点です。義務の施行を待たずに、すでに申し出ができる状態でした。所有権の保存・移転などの登記を申請する際に併せて申し出る方法と、2025年4月21日の時点ですでに所有権の登記名義人である方が単独で申し出る方法の両方が用意されています。

ただし、ここには重要な限定があります。法務省の案内では、検索用情報の申出ができるのは「国内に住所を有する自然人」に限られるとされています。住民基本台帳ネットワークシステムを使って変更を把握する仕組みですから、その基礎となる住民登録が国内にあることが前提になる、という理解になります。海外にお住まいの方は、この仕組みを利用できない前提で、従来どおりご自身で申請する必要があるとお考えください。相続人が海外にいる場合の手続きについては相続人が海外にいるときの手続きの記事もあわせてご覧ください。

法人の場合は、商業登記との連携で反映される

法人は、住民基本台帳ネットワークを使う自然人向けの仕組みとは別です。法人については、商業登記との連携により、商号や本店の変更情報を不動産登記に反映させる建付けが取られています。法人の不動産をお持ちの方は、この違いを押さえておいてください。

[「職権で直してくれる」=「何もしなくてよい」ではありません]
スマート変更登記は強力ですが、自動で全員に適用されるものではありません。まず検索用情報を申し出るという一手が必要で、また職権による登記は本人の了解を得たうえで行われるとされています。申し出をしていない方、了解の連絡に応じられない方は、従来どおり自分で申請する義務を負ったままです。「そういう制度があると聞いたから大丈夫」という思い込みが、いちばん危ういところです。申し出をしたかどうか、ご自身の記録として残しておいてください。

所有不動産記録証明制度――2026年2月2日開始、不動産を全国まとめて探せる

同じ法改正から生まれたもう一つの新制度が、不動産登記法119条の2にもとづく所有不動産記録証明制度です。施行日は2026年(令和8年)2月2日で、住所等変更登記の義務化より一足早く動き出しています。

これは、ある人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、全国分まとめて一覧にした証明書(所有不動産記録証明書)を取得できる制度です。従来、不動産を探すには市町村ごとに名寄帳を取るのが基本でしたが、名寄帳はその市町村内の不動産しか分かりません。全国どこにあるか分からない不動産を探す手段が、ようやく用意されたわけです。

誰が請求できるか

法務省の案内では、請求できるのは次の方々とされています。

代理人による請求も可能とされています。相続人が、亡くなった方の不動産を探すために請求できる――ここが、相続の実務にとって決定的に重要な点です。

手数料

手数料は、検索条件1件につき1通当たり、次のとおり案内されています。

請求の方法手数料(検索条件1件につき1通当たり)
書面請求(収入印紙)1,600円
オンライン請求・郵送交付1,500円
オンライン請求・窓口交付1,470円

注意していただきたいのは、手数料が「不動産の個数」ではなく「検索条件の件数」で決まるということです。法務省の案内では、書面請求で検索条件を4件指定した場合、4件×1通×1,600円=6,400円という計算例が示されています。何度も転居された方の不動産を探す場面では、過去の住所ごとに検索条件を立てる必要があり、そのぶん手数料が積み上がることになります。

この証明書は「完璧な一覧」ではありません――ここは必ず押さえてください

法務省は、この証明書について「氏名・住所等で検索する仕様上、検索結果として抽出される不動産の網羅性には限界があります」と明記しています。さらに「検索条件が一致する同名異人が所有権の登記名義人として記録されている不動産についても、抽出される場合があります」ともされています。つまり、漏れることもあれば、他人の不動産が混じることもあるのです。とくに、登記された住所が古いままの不動産は、現住所で検索しても出てこないおそれがあります。ここに、この記事の二つのテーマがつながります。住所を直しておくことが、将来ご家族が財産を探せるかどうかを左右するのです。証明書を過信せず、名寄帳・登記事項証明書・固定資産税の納税通知書など従来の方法とあわせてお使いください。

相続の現場でどう効いてくるか――古い住所のままの不動産、相続人自身の住所

ここまでを、相続の実務という視点でまとめ直します。今回の一連の改正は、相続の前・相続のとき・相続の後の三つの場面それぞれに効いてきます。

相続の「前」――ご本人が生前にできる、いちばん効く備え

ご自身の不動産の登記を、現在の住所・氏名に直しておくこと。そして検索用情報を申し出ておくこと。この二つは、費用も手間も限られている一方で、効果が大きい備えです。理由は単純で、登記が現住所になっていれば、ご家族があなたの不動産を見つけやすくなるからです。エンディングノートに不動産の一覧を書き残しておくことも、同じ意味で有効です。

相続の「とき」――相続人が財産を探す道具が増えた

「父が不動産を持っていたはずだが、どこにあるか分からない」――このご相談は、当センターでも本当に多いものです。ここに所有不動産記録証明制度という新しい選択肢が加わりました。相続人が請求できるのですから、相続財産調査の初動でまず取ってみる価値があります。ただし前述のとおり網羅性には限界がありますので、相続財産の調べ方で整理した従来の手段と併用してください。

相続の「後」――相続人自身にも義務が及ぶ

意外に見落とされるのが、ここです。相続登記を済ませて自分の名義にした後、その相続人が引っ越したら、今度はその方に住所等変更登記の義務が生じます。「相続登記を終えたから、もう登記の話は終わり」ではないのです。とくに、相続で取得したものの住む予定がない土地――田舎の実家や山林など――は、その後の住所変更が反映されないまま放置されやすい財産です。使う予定がない不動産については、相続土地国庫帰属制度や売却といった、持ち続けない選択もあわせてご検討ください。

相談事例
※以下は、よくあるご相談をもとに再構成した架空の事例です。実在の方とは関係ありません。

「実家を売ろうとしたら、40年前の住所が登記に残っていました」

60代の男性から、こんなご相談をいただきました。「父から相続した実家を売ることになりました。買主も決まって、決済日も来月に設定されています。ところが司法書士から、『登記の住所が古いので、先に直す必要があります』と言われました。父の代の話ですし、そんなに大変なことなのでしょうか」。

登記事項証明書を拝見すると、記録されていた住所は40年以上前のものでした。しかもその後、その地域では住居表示の実施があり、地名の表記そのものが変わっていました。相続登記自体は数年前に済んでいたものの、ご本人が20年以上前に転居されて以降、変更登記をしていなかったのです。

作業として必要だったのは、登記された住所から現住所までを、書類で切れ目なくつなぐことでした。住民票の写しでは前住所までしか遡れず、戸籍の附票を取り、住居表示実施証明書を市役所で取得し、と数か所に足を運ぶことになりました。市町村によって保存年限の扱いが異なるため、この書類集めだけで3週間ほどを要しました。決済日を一度延ばしていただくことになり、買主にも仲介会社にもご迷惑をおかけする形になりました。

この方が最後に言われた一言が、印象に残っています。「元気なうちに半日で済んだはずの手続きを、20年放っておいたら3週間かかったということですね」。まさにそのとおりです。そしてこれから先は、この作業をやらないという選択が、義務違反になり得るという点が変わりました。あわせて、この方には残る不動産についても検索用情報の申出をお勧めし、次に転居されたときは職権で直していただける状態を作りました。

― 私たちから一言 ―

「登記簿の住所は、ご家族への手紙の宛先だと思ってください」

今回の義務化について、「引っ越すたびに登記までしなければならないのか」と負担に感じられる方は、決して少なくありません。そのお気持ちは、私たちもよく分かります。ですから、まずお伝えしたいのは順番です。いきなり全部を完璧にしようとしなくてよいのです。①登記事項証明書を取って現状を知る、②検索用情報を申し出る、③そのうえで直すべきものを直す――この順で十分です。とくに②は、一度やっておけば以後の転居に自動で対応できる可能性があるという点で、もっとも費用対効果の高い一手だと考えています。

そして、相続を専門にお手伝いしてきた立場から、もう一つだけ申し上げたいことがあります。登記簿に書かれた住所は、ご自身のためのものではなく、いずれご家族が財産を探すときの手がかりになるものだということです。私たちは、ご遺族が「父の不動産がどこにあるのか分からない」と途方に暮れる場面を、何度も見てきました。所有不動産記録証明制度という新しい道具はできましたが、法務省自身が「網羅性には限界がある」と明記しています。そして探し漏れがいちばん起きやすいのが、登記の住所が古いままの不動産なのです。住所を直しておくことは、義務を果たすためというより、ご家族が確実に見つけられる状態にしておくための作業だとお考えいただきたいのです。

最後に、実務的なお願いです。相続登記が済んでいない不動産をお持ちの方は、住所の変更登記より先に相続登記を進めてください。順番を間違えると、費用も手間も二重になります。当センターでは、司法書士と連携し、どの不動産にどの手続きが必要かの棚卸しからお手伝いしております。「登記事項証明書を見ても、何が問題なのか分かりません」――そういうご相談で結構です。まずはお電話ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

住所等変更登記でよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談の中で見えてきた、住所等変更登記の義務化をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 「これから引っ越す人だけの話」だと思い込む 施行日前に生じていた住所・氏名の変更にも適用されます。法務省は、施行日前の変更については2028年3月31日までに変更登記が必要であると案内しています。すでに古い住所のままの不動産は、今まさに期限の中にあります。
  2. 自宅の登記だけ直して、他の不動産を忘れる 貸している物件、相続した田舎の土地や山林、共有持分だけ持っている不動産も同じ義務の対象です。まず自分がどれだけ不動産を持っているかを一覧にすることから始めてください。
  3. 亡くなった方の名義のまま、住所の変更登記をしようとする 名義人がお亡くなりになっている不動産で先に必要なのは相続登記です。相続登記をすれば、そのなかで新しい所有者の現在の住所が記録されますので、住所の問題も一緒に解決します。順番を逆にすると費用と手間が二重になります。
  4. 「スマート変更登記があるから何もしなくてよい」と考える 職権による変更登記を受けるには、まず検索用情報を申し出る必要があり、また本人の了解を得たうえで行われるとされています。申し出をしていなければ、従来どおり自分で申請する義務を負ったままです。逆に、申出を済ませていて職権の手続がされていない状態は、法務省が「正当な理由」の例に挙げていますので、申出そのものに大きな意味があります。なお、申出ができるのは国内に住所を有する自然人に限られるとされています。
  5. 所有不動産記録証明書を「完璧な財産目録」として扱う 法務省は、氏名・住所等で検索する仕様上、抽出される不動産の網羅性には限界があると明記しています。同名異人の不動産が混じる場合もあります。名寄帳や固定資産税の納税通知書など、従来の方法と必ず併用してください。
  6. 住所のつながりを示す書類が簡単に揃うと考える 住民票の写しでは前住所までしか遡れないことが多く、転居を重ねている場合は戸籍の附票などが必要になります。住居表示の実施や市町村合併があった地域では、さらに書類が増えます。不動産の売却が決まってから慌てると、決済日に間に合わないことがあります。
  7. 相続登記を終えたら登記の話は終わりだと考える 相続で不動産を取得した相続人が、その後に引っ越せば、今度はその方に住所等変更登記の義務が生じます。とくに住む予定のない相続不動産は放置されやすいため、持ち続けるかどうかも含めてご検討ください。

この記事のまとめ

  • 2026年(令和8年)4月1日から、所有権の登記名義人の氏名・名称または住所に変更があったときは、変更の登記を申請することが義務となった(不動産登記法76条の5)。
  • 申請の期限は、変更があった日から2年以内である。
  • 正当な理由なく申請を怠った場合は、5万円以下の過料の対象とされている。過料は刑罰ではなく秩序罰である。
  • 法務省は、登記官が過料通知を行うのは、相当の期間を定めて義務の履行を催告したにもかかわらず、正当な理由なくその期間内に申請・申出がされないときに限られると明示している。
  • 法務省が挙げる「正当な理由」の例は、①検索用情報の申出または会社法人等番号の登記がされているが職権による住所等変更登記の手続がされていない場合、②行政区画の変更等による住所の変更、③義務を負う者自身に重病等の事情がある場合、④DV被害者等で生命・身体に危害が及ぶおそれがあり避難を余儀なくされている場合、⑤経済的に困窮して登記費用を負担する能力がない場合の5つである。
  • 市町村合併や住居表示の実施のような行政区画の変更等は、上記②の「正当な理由」の例に挙げられており、自ら急いで申請すべき中心的な場面ではない。
  • 施行日前に生じていた変更も対象で、法務省は2028年3月31日までに変更登記が必要であると案内している(変更があった日または施行日のいずれか遅い日から2年以内という考え方による)。
  • 個人(自然人)だけでなく法人も対象となる。一方、抵当権者などの担保権の登記名義人は義務の対象ではない。
  • 対になる制度である相続登記の申請義務化は、2024年4月1日施行・取得を知った日から3年以内・10万円以下の過料であり、根拠は不動産登記法76条の2である。
  • 負担軽減策として、検索用情報を申し出れば法務局が職権で変更登記をする「スマート変更登記」が用意されている(同法76条の6、2026年4月1日施行)。
  • 検索用情報として案内されているのは、氏名、氏名の振り仮名(外国人はローマ字氏名)、住所、生年月日、メールアドレスである。検索用情報の申出の受付は2025年4月21日から始まっている。
  • 法務省の案内では、検索用情報の申出ができるのは「国内に住所を有する自然人」に限られるとされている。海外にお住まいの方はこの仕組みを利用できない前提で考える必要がある。
  • 法人については、住民基本台帳ネットワークを使う自然人向けの仕組みとは別に、商業登記との連携により変更情報を不動産登記に反映させる建付けが取られている。
  • 所有不動産記録証明制度は2026年(令和8年)2月2日に施行され、根拠は不動産登記法119条の2である。
  • 所有不動産記録証明書を請求できるのは、所有権の登記名義人と、その相続人その他の一般承継人(いずれも法人を含む)であり、代理人による請求も可能とされている。
  • 手数料は検索条件1件につき1通当たり、書面請求1,600円、オンライン請求・郵送交付1,500円、オンライン請求・窓口交付1,470円である。不動産の個数ではなく検索条件の件数で決まる。
  • 法務省は、この証明書について氏名・住所等で検索する仕様上、抽出される不動産の網羅性には限界があり、同名異人の不動産が抽出される場合もあると明記している。
  • 登記名義人の住所・氏名の変更登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円とされている(免税・非課税の取扱いがある場合もある)。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。住所等変更登記の義務の範囲、「正当な理由」の判断、過料に至る手続きの運用、検索用情報の申出の方法、所有不動産記録証明書の請求手続きは、いずれも個別の事情や運用によって取り扱いが異なることがあります。期限・手数料・登録免許税の額・様式は法令改正により変更される可能性があります。本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいていますが、実際の手続きにあたっては、必ず法務省法務局の一次情報で最新の内容をご確認のうえ、司法書士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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