社長の土地に会社の建物――中小企業にいちばん多い形

中小企業の事業承継のご相談をお受けしていて、いちばん多く出会うのが、次の形です。

土地社長個人の名義
(先代から引き継いだ土地)
建物会社の名義
(工場・店舗・事務所)
地代取っている/取っていない
(ここが分かれ目)

会社を興したとき、土地を会社に買わせるだけの資金はなかった。だから社長個人の土地を会社に使わせて、その上に会社の建物を建てた。――ごく自然な成り行きです。

ところが、この形は税務上、そのままにしておくわけにいかない関係を生みます。なぜなら、土地を借りて建物を建てれば、通常は「借地権」という財産が発生するからです。

この論点は「相続税だけの話」ではありません

社長個人の土地を会社に貸すという行為は、法人税(会社側)、所得税(社長個人の不動産所得)、そして相続税(社長の相続のとき)の三つにまたがります。

そして、会社を設立したときにどう処理したかが、何十年も先の相続税に、そのまま効いてくるのです。「昔のことだから分からない」では済まない論点ですので、契約書と届出書の控えは、必ずお探しください。

まず確かめていただきたい4つのこと

ご相談をお受けするとき、私どもが最初にうかがうのは、次の四つです。

  1. 権利金を受け取ったかどうか 会社から社長個人へ、借地権の設定の対価として一時金を支払ったかどうか。多くの中小企業では、支払っていないのが実情です。
  2. 地代を取っているかどうか、いくらか まったく取っていないのか、固定資産税相当額なのか、近隣相場並みなのか、それ以上か。金額の水準によって、取扱いが変わります。
  3. 「土地の無償返還に関する届出書」を出しているかどうか これがいちばん大事です。会社の申告書の控えに、この届出書の写しが綴じられていることがあります。顧問税理士にお尋ねください。
  4. 賃貸借契約書があるかどうか、何と書いてあるか 将来、土地を無償で返還する旨の定めがあるかどうか。契約書そのものが見当たらないことも、少なくありません。

なぜ「借地権」が問題になるのか――権利金の認定課税

借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいいます。

都市部では、土地を借りて建物を建てるとき、権利金という一時金を支払う慣行があります。この慣行のある地域で、権利金を払わずに土地を借りたとしたら、どうなるでしょうか。

税務の世界では、「本来払うべきものを払わずに済んだのだから、その分の利益を受け取ったのと同じだ」と考えます。会社が土地を借りた側であれば、会社に、借地権相当額の利益が移転した――そう見るわけです。

権利金の慣行がある地域で
権利金を払わずに借りると
借地権相当額の利益を受けたものとして扱われ得ます
いわゆる「権利金の認定課税」の考え方です

この取扱いの根拠として挙げられるのは、法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)や法人税法施行令137条(土地の使用に伴う対価についての所得の計算)、そして法人税基本通達13-1-1以下の借地権課税に関する定めです。

認定課税を避ける、二つの道

もっとも、中小企業の実態を考えれば、社長個人と会社の間で権利金をやりとりするというのは、現実的でないことが多いものです。そこで、権利金を支払わなくても認定課税を受けずに済む道が、二つ用意されています。

道内容主な根拠
① 相当の地代権利金の代わりに、相当に高い地代を支払う法人税基本通達13-1-2
② 無償返還の届出将来、土地を無償で返還することを契約で定め、届出書を提出する法人税基本通達13-1-7

中小企業で圧倒的に多く使われているのが、②の無償返還の届出です。地代を高くしなくて済むうえ、届出書一枚で足りるからです。

[国税庁の説明でも二つが挙げられています]
国税庁のタックスアンサー(法人税)でも、権利金の認定課税が行われない場合として、土地の価額からみて相当の地代を収受しているときと、将来その土地を無償で返還することが定められており、「土地の無償返還に関する届出書」を提出しているときが挙げられています。
法人税の取扱いの詳細は、必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。

相当の地代とは――自用地としての価額の年6%程度

まず、①の相当の地代から見てまいります。

相続税・贈与税の取扱いを定めた相当地代通達1は、借地権の設定に際し、権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行のある地域において、その一時金の支払に代え、当該土地の自用地としての価額に対しておおむね年6%程度の地代を支払っている場合には、借地権者について、その借地権の設定による利益はないものとして取り扱う旨を定めています。この「おおむね年6%程度の地代」が相当の地代です。

相当の地代
= 自用地としての価額 × おおむね年6%
相当地代通達1(昭和60年6月5日付 直資2-58ほか1課共同)

「自用地としての価額」は、過去3年間の平均額によります

ここでいう「自用地としての価額」とは、財産評価基本通達25(貸宅地の評価)の(1)に定める自用地としての価額をいいます。

そして、相当地代通達1の(注)1は、相当の地代の額を計算する場合に限り、この「自用地としての価額」は、財産評価基本通達25の(1)に定める自用地としての価額の過去3年間における平均額によるものとする旨を定めています。

ここでいう「過去3年間」とは、相当地代通達1の(注)1の文言では、借地権を設定し、又は借地権若しくは貸宅地について相続若しくは遺贈又は贈与があった年以前3年間をいいます。なお、法人税側の平成元年3月30日付 直法2-2の(注)は「借地権を設定し、又は地代を改訂する年以前3年間」としており、相続税・贈与税側とは定義が異なりますのでご注意ください。地価が動く年がある以上、平均をとれるという点は実務上たいへん重要です。

法人税の「年8%」との関係

ここで、実務でしばしば混乱が生じる点を整理しておきます。

法人税基本通達13-1-2(使用の対価としての相当の地代)の本文は、「年8%」という数字を用いています。ところが、平成元年3月30日付 直法2-2「法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて」という個別通達により、当分の間、この「年8%」は「年6%」と読み替えることとされました。

同じ通達により、基礎となる土地の価額についても、財産評価基本通達第2章の例により計算した価額に加えて、当該価額の過去3年間における平均額によることができるとされています(平成3年課法2-4により改正)。

[整理]
相続税・贈与税――相当地代通達1により、おおむね年6%程度。
法人税――法人税基本通達13-1-2の本文は年8%だが、平成元年3月30日付 直法2-2により、当分の間、年6%として取り扱われる。
実務上は、いずれも年6%を基準に考えることになります。

相当の地代方式には、副作用があります

相当の地代を支払う方式を選んだ場合、相当地代通達3により、権利金を支払っていない場合又は特別の経済的利益を供与していない場合には、借地権の価額は零として扱われます。そして相当地代通達6の(1)により、貸宅地の価額は自用地としての価額の100分の80に相当する金額となります。

ただし、この方式には見落としやすい副作用があります。年6%という地代は、実際にはかなり高額です。

たとえば自用地としての価額が1億円の土地であれば、年間の地代は600万円ということになります。この地代は社長個人の不動産所得として毎年課税され、しかも手元に残った現金が、社長個人の相続財産として積み上がっていきます。

土地の評価を20%下げる代わりに、現金が毎年積み上がる。――トータルで相続税が減るとは限らない、ということです。だからこそ、多くの中小企業では②の無償返還の届出が選ばれているのです。

「土地の無償返還に関する届出書」――借地権は零、貸宅地は80%

いよいよ本題です。

「土地の無償返還に関する届出書」とは、借地権の設定等により土地を使用させた場合において、将来その土地を無償で返還することが契約書で定められているときに、土地の所有者と借地人の連名で、所轄税務署長に提出する届出書です。根拠は法人税基本通達13-1-7です。

借地権の価額は「零」(相当地代通達5)

相当地代通達5は、次のように定めています。

[相当地代通達5(要旨)]
借地権が設定されている土地について、「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の当該土地に係る借地権の価額は、零として取り扱う。

つまり、会社の側に借地権という財産は計上されません。将来無償で返すと約束している以上、財産価値はないものとして扱う、という考え方です。

貸宅地の価額は「自用地としての価額の100分の80」(相当地代通達8)

では、貸している側――社長個人の土地はどうなるか。相当地代通達8が、次のように定めています。

[相当地代通達8(要旨)]
借地権が設定されている土地について、無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価する。
貸宅地の価額
= 自用地としての価額 × 80%
相当地代通達8。届出書が提出され、かつ賃貸借であることが前提です

なぜ20%下がるのか

借地権の価額は零としながら、土地の評価は80%にとどめる。一見、ちぐはぐに見えます。

しかし、実態を考えれば納得がいきます。その土地の上には、他人名義(会社名義)の建物が現に建っているのです。すぐに更地として売ることはできませんし、自由に使うこともできません。その利用上の制約を、20%という形で評価に反映させている――そう理解すればよいでしょう。

相当の地代の場合との比較

ここまでの内容を、表にまとめます。

状況借地権の価額貸宅地の価額根拠
相当の地代を収受
(権利金なし)
零自用地価額×80%相当地代通達3・6の(1)
相当の地代に満たない地代を収受算式により計算自用地価額−借地権価額
(上限は自用地価額×80%)
相当地代通達4・7
無償返還届出書あり
(賃貸借)
零自用地価額×80%相当地代通達5・8
無償返還届出書あり
(使用貸借)
―自用地価額(減額なし)相当地代通達8の(注)

相当地代通達7は、収受している地代が相当の地代に満たない場合について、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額で評価するとしたうえで、ただし、その金額が自用地としての価額の100分の80に相当する金額を超える場合には、自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価すると定めています。80%が「上限」として働くということです。

消えた20%はどこへ行くのか――昭和43年直資3-22通達と自社株

さて、ここからが、多くの方が見落とされる部分です。

土地の評価が20%下がったのなら、その20%はどこへ行ったのでしょうか。

答えは――会社側、すなわち同族会社の株式の評価に乗ってきます。

相当地代通達8の「なお書き」

相当地代通達8には、次のようななお書きが付いています。

[相当地代通達8 なお書き(要旨)]
なお、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合には、昭和43年10月28日付 直資3-22ほか2課共同「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」通達(43年直資3-22通達)の適用があることに留意する。この場合において、同通達中「相当の地代を収受している」とあるのは「『土地の無償返還に関する届出書』の提出されている」と読み替えるものとする。

この43年直資3-22通達により、同族会社の株式を評価するにあたって、自用地としての価額の20%に相当する金額を、借地権の価額として純資産価額に算入するという取扱いが行われます。

土地で引いた20%は
会社の株式の評価に乗ってきます
43年直資3-22通達(昭和43年10月28日付 直資3-22ほか2課共同)

つまり、家族全体で見れば「消えていない」のです

社長個人の相続財産は、土地(80%)+同族会社の株式です。そして、その株式の評価には土地の自用地としての価額の20%が乗っている。

ですから、「無償返還届出書を出せば、20%まるごと相続財産が減る」というのは、正確ではありません。

ただし、まったく効果がないわけでもありません

同族会社の株式の評価は、純資産価額方式のほか、類似業種比準方式や、その併用によることがあります。会社の規模区分によっては、純資産価額方式の割合が小さくなるため、20%がそのまま株価に反映されるとは限りません。

また、株式を取得する方と、土地を取得する方が別である場合には、誰の課税価格がどれだけになるかという配分の問題も生じます。

非上場株式の評価方式については、非上場株式の相続税評価の記事もあわせてご覧ください。実際の評価額の計算は、必ず税理士にご確認ください。

会社に繰越欠損金があるときは、なおさら注意が必要です

純資産価額方式で株式を評価するとき、会社の純資産がマイナスであれば、株価は零となることもあります。その場合、20%を加算しても株価に影響しない――すなわち、結果として20%が課税価格から落ちるということも、理屈の上ではあり得ます。

逆に、会社が優良で純資産が厚ければ、20%がそのまま株価に上乗せされることになります。

どちらになるかは、会社の財務内容と株式の評価方式次第です。個別の判断は、必ず税理士にご確認ください。

使用貸借だと80%になりません――通達8の(注)という落とし穴

本記事で、いちばんお伝えしたい落とし穴です。

相当地代通達8には、次の(注)が付されています。

[相当地代通達8(注)]
使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る貸宅地の価額は、当該土地の自用地としての価額によって評価するのであるから留意する。

つまり――地代を取っていない(使用貸借である)ならば、無償返還届出書を出していても、80%にはならない。自用地としての価額、すなわち100%で評価されるということです。

届出書を出していても
使用貸借なら20%の減額はありません
相当地代通達8の(注)

なぜこうなるのか

理屈は、一貫しています。使用貸借では、そもそも借地借家法の保護を受ける借地権が生じないと考えられているからです。

親の土地に子が家を建てる場合も同じで、使用貸借の土地の相続税評価は「自用地としての価額」とされています。詳しくは使用貸借の土地の記事をご覧ください。

会社相手であっても、無償で使わせているのであれば、土地の所有者が受ける制約は、賃貸借の場合ほど強くない――そう整理されているわけです。

「地代を取っている」と言えるのは、どの水準からか

ここで当然、次の疑問が生じます。いくら取っていれば、使用貸借ではなく賃貸借と言えるのか。

この点について、通達に明確な金額基準はありません。実務では、固定資産税・都市計画税の額と同程度、あるいはそれを下回る程度の地代では、使用貸借と判断される可能性があると考えられています。逆にいえば、固定資産税等の負担を明らかに上回る地代であることが、一つの目安とされています。

いくらなら大丈夫、と言い切れる基準はありません

この判断は、地代の額、近隣の相場、契約書の内容、実際の支払の有無と継続性など、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。「固定資産税の何倍なら安全」といった数字が独り歩きしていることがありますが、通達に定められた基準ではありません。

地代の水準をどう設定すべきかは、必ず税理士にご相談ください。また、最新の取扱いは国税庁のホームページでご確認ください。

いちばん怖いのは「昔は取っていたが、いつの間にか止めた」

実務で、もっともよくお見かけするのが、この形です。

創業当初はきちんと地代を払っていた。ところが業績が苦しくなった時期に、社長のご判断で地代を止めた。そのまま何年も過ぎ、契約書だけが賃貸借のまま残っている。

このとき、実態としては使用貸借と判断されるおそれがあります。契約書の文言ではなく、実際にお金が動いているかどうかが見られます。

通帳を確認し、地代の入金が現に続いているかどうかを、いますぐお確かめください。

小規模宅地等の特例――特定同族会社事業用宅地等は400㎡・80%減額

もう一つ、大きな論点があります。小規模宅地等の特例です。

社長個人の土地を同族会社が事業に使っている場合、特定同族会社事業用宅地等として、400㎡を限度に、評価額の80%を減額できる可能性があります。根拠は租税特別措置法69条の4です。

区分限度面積減額割合
特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
貸付事業用宅地等200㎡50%

主な要件

国税庁のタックスアンサーによれば、特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前において、一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除きます。)の用に供されていた宅地等とされています。主な要件は、次のとおりです。

  1. 法人の要件 被相続人および被相続人の親族等が、法人の発行済株式の総数または出資の総額の50%超を有していること。
  2. 取得者の役員要件 その宅地等を取得した親族が、相続税の申告期限において、その法人の役員(法人税法2条15号に規定する役員。清算人を除きます。)であること。
  3. 保有継続要件 その宅地等を、相続税の申告期限まで有していること。
  4. 法人の事業の用に供されていること その法人の貸付事業以外の事業の用に供されていること。不動産貸付業などは対象外とされています。

使用貸借の場合は、適用が難しいと考えられています

実務上、被相続人が同族会社に土地を無償で使わせている(使用貸借の)場合には、特定同族会社事業用宅地等には当たらないと取り扱われるのが一般的です。被相続人等がその宅地を相当の対価を得て継続的に貸し付けていたとはいえない、という考え方によります。

一方、無償返還届出書を提出していること自体は、この特例の適用を妨げるものではありません。相当額の地代を継続して受け取っており、その他の要件を満たすのであれば、適用の余地があります。

ここは適用の可否が大きく分かれる部分であり、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。必ず税理士にご確認のうえ、判断なさってください。

「80%」が二つ出てきますが、別のものです

混乱しやすいので、整理しておきます。

 何の話か効果
相当地代通達8の
80%
土地の評価方法の話自用地としての価額の80%で評価する
小規模宅地等の特例の
80%
課税価格からの減額の話評価額から80%を減額する

この二つは、順番に働きます。まず相当地代通達により自用地としての価額の80%で評価し、その評価額に対して、小規模宅地等の特例による減額を検討する――という流れです。小規模宅地等の特例そのものについては、小規模宅地等の特例の記事をご覧ください。

ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「届出書は出しています。ところが地代は……」――Nさまのご相談

Nさま(60代・男性)は、お父さまが創業なさった製造業の会社を、二代目として引き継いでいらっしゃいます。ご相談は、お父さまの相続の見通しについてでした。

工場の敷地はお父さま個人の名義、建物は会社の名義。よくある形です。

私はまず、「土地の無償返還に関する届出書は、出していらっしゃいますか」とお尋ねしました。Nさまは、「はい、たしか会社を設立したときに、税理士の先生が出してくださったはずです」とお答えになりました。

私は、「それでしたら、土地は80%で評価されることになりますね」と申し上げました。そのうえで、「ところで、会社から社長個人へ、地代はお支払いになっていますか」とうかがいました。

Nさまは、少し言いよどまれました。「……昔は払っていたと思います。ただ、リーマンショックのあと、資金繰りが苦しくて、父が『うちの土地なんだから、しばらく止めておけ』と言いまして」

私は、「それは、いつごろのお話でしょうか」とお尋ねしました。「もう15年ほど前になります。そのままです」とのお答えでした。

私は、「それですと、いま現在は使用貸借とみられるおそれがございます」と申し上げました。

Nさまは驚かれて、「届出書は出しているのに、ですか」とおっしゃいました。

私は、「はい。通達に、はっきり書かれております」とご説明しました。「使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の価額は、自用地としての価額によって評価する――こう定められているのです。届出書は、権利金の認定課税を避けるためのものであって、地代を払わなくてよいという意味ではございません」と。

そして、もう一つ申し上げました。「さらに、小規模宅地等の特例のほうにも影響が及ぶおそれがあります。特定同族会社事業用宅地等として400㎡まで80%減額できるかどうかは、相当の対価を得て継続的に貸し付けていたといえるかにかかってまいります。工場の敷地ですから、面積も相当におありでしょう」

Nさまは、しばらく黙っていらっしゃいました。そして、「それは……、金額にすると、どのくらい違うものでしょうか」とおっしゃいました。

私は、「そこは正確に計算しなければ申し上げられません」とお答えしました。「ただ、工場の敷地ほどの面積になりますと、決して小さくない差が出る可能性がございます。本日中に、事業承継に詳しい税理士をご紹介いたします」と。

最後に、私は申し上げました。「そして、お父さまがお元気でいらっしゃるうちに、地代のお支払いを立て直せるかどうかも、税理士とご相談なさってください。いまから直せることと、もう直せないことがございます。その線引きを、専門家に見てもらうのがよろしいかと存じます」

Nさまは、「届出書さえ出していれば大丈夫だと思っておりました」とおっしゃって、すぐに動かれました。

― 私たちから一言 ―

「会社と個人は別」――創業のときの一枚が、何十年も効いてきます

中小企業のご相続をお手伝いしていて、いつも思うことがあります。創業のときにした処理が、何十年も経ってから、そのまま相続税に効いてくるということです。

「土地の無償返還に関する届出書」は、たった一枚の紙です。会社を設立したとき、顧問税理士が黙って出してくださっていることも多く、社長ご本人が、その存在を知らないことさえ珍しくありません。

ですから、私どもは必ずお尋ねします。「会社の申告書の控えを、一度お探しになってください」と。そこに綴じられた一枚の届出書が、土地の評価を2割変えるのです。

そしてもう一つ。この論点は、「会社と個人は別の人格である」ということを、ご家族に思い出していただく機会でもあります。

オーナー経営者の方にとって、会社と個人の区別は、日々の感覚としては薄いものです。「うちの土地、うちの会社」――そのお気持ちは、よく分かります。だからこそ、地代も止めてしまう。

けれども税務は、そこをきっちり分けて見ます。会社が個人から借りているなら、対価を払う。払わないなら、それは使用貸借として扱われる。その線引きが、相続のときに、はっきりと数字になって現れるのです。

最後に、事業承継に取り組んでいらっしゃる方へ申し上げます。自社株の評価と、土地の評価は、連動しています。土地で2割引いたものが、株式に乗る。片方だけを見て対策を立てると、思ったような結果になりません。

会社の決算書と、土地の登記事項証明書と、賃貸借契約書。この三つをお持ちになってご相談ください。現状を整理したうえで、事業承継に詳しい税理士におつなぎいたします。お父さまがお元気でいらっしゃるうちに動かれることが、何よりの対策です。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

同族会社への土地の貸付けでよくある7つの落とし穴

  1. 「無償返還届出書を出しているから、地代は払わなくてよい」と思い込む 届出書は、将来その土地を無償で返還することを定めて提出するものであり、毎年の地代まで無償でよいという意味ではありません。相当地代通達8の(注)は、使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の価額は、その土地の自用地としての価額によって評価すると定めています。地代を払っていなければ、20%の減額は受けられません。
  2. 届出書を出したかどうか、誰も分からないまま相続を迎える この届出書は、土地の所有者と借地人の連名で所轄税務署長に提出するものです(法人税基本通達13-1-7)。会社の申告書の控えに綴じられていることが多いので、顧問税理士にお尋ねください。出ているかどうかで、土地の評価が2割変わります。提出の有無や記載内容の確認は、必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。
  3. 土地で引いた20%が「消えた」と思ってしまう 相当地代通達8のなお書きにより、被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸し付けている場合には、43年直資3-22通達の適用があることに留意するとされています。この通達により、自用地としての価額の20%相当額が、同族会社の株式の評価上、純資産価額に算入されます。ただし株式の評価方式(類似業種比準方式との併用など)や会社の財務内容により、株価への影響は変わります。必ず税理士にご確認ください。
  4. 「昔は地代を取っていた」まま、いつの間にか止めている 契約書が賃貸借のままでも、実際に地代の支払が止まっていれば、実態として使用貸借と判断されるおそれがあります。通帳の入金を確認してください。なお、いくら以上なら賃貸借と言えるかについて、通達に明確な金額基準はありません。固定資産税等の額を明らかに上回ることが一つの目安とされていますが、個別の事実関係により結論が変わり得ます。地代の水準は必ず税理士にご相談ください。
  5. 小規模宅地等の特例まで影響することに気づかない 使用貸借の場合、特定同族会社事業用宅地等(400㎡・80%減額)には当たらないと取り扱われるのが一般的です。工場や店舗の敷地は面積が大きいことが多く、影響額は小さくありません。一方、無償返還届出書を出していること自体は、特例の適用を妨げるものではありません。取得者が申告期限において役員であること、申告期限まで保有していることなどの要件もあります。適用の可否は必ず税理士にご確認ください。
  6. 「相当の地代なら得だ」と、副作用を考えずに選ぶ 相当の地代は自用地としての価額のおおむね年6%程度(相当地代通達1)であり、実際にはかなり高額です。その地代は個人の不動産所得として毎年課税され、手元に残った現金が相続財産として積み上がります。土地の評価を下げる効果と、現金が積み上がる効果は、方向が逆です。どちらの方式が有利かは、必ず税理士に試算していただいてください。
  7. 「借地権割合が高い地域だから、大きく下がる」と期待する 無償返還届出書が提出されている場合、相当地代通達5により借地権の価額は零とされ、貸宅地は一律に自用地としての価額の80%で評価されます。路線価図の借地権割合が70%であっても、その割合で下がるわけではありません。借地権割合が高い地域ほど、通常の貸宅地評価と比べて減額幅が小さく感じられることになります。この点も、試算のうえで方針をお決めください。

この記事のまとめ

  • 社長個人の土地に同族会社の建物が建っている形は、中小企業でもっとも多く見られます。この関係は、法人税・所得税・相続税の三つにまたがります。
  • 権利金の授受の慣行がある地域で権利金を支払わずに土地を借りると、権利金の認定課税が問題になり得ます。これを避ける道は、①相当の地代を支払うか、②「土地の無償返還に関する届出書」を提出するかの二つです(法人税基本通達13-1-2・13-1-7など)。
  • 相当の地代とは、自用地としての価額に対しておおむね年6%程度の地代をいいます(昭和60年6月5日付 直資2-58ほか1課共同「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」=相当地代通達1)。
  • 相当の地代の計算に限り、「自用地としての価額」は財産評価基本通達25の(1)に定める自用地としての価額の過去3年間における平均額によるものとされています(相当地代通達1の(注)1)。なお法人税側(平成元年3月30日付 直法2-2)は平均額によることもできるという選択的な書きぶりで、両者は同じではありません。
  • 法人税基本通達13-1-2の本文は「年8%」ですが、平成元年3月30日付 直法2-2により、当分の間「年6%」と読み替えることとされています。実務上は、いずれも年6%が基準です。
  • 無償返還届出書が提出されている場合、借地権の価額は零とされます(相当地代通達5)。
  • 無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の価額は、自用地としての価額の100分の80に相当する金額で評価します(相当地代通達8)。
  • 相当の地代を収受している場合も、権利金を収受していないなど一定の前提のもとで、貸宅地は自用地としての価額の100分の80で評価します(相当地代通達6の(1))。
  • 相当の地代に満たない地代を収受している場合は、自用地としての価額から借地権の価額を控除しますが、その金額が自用地としての価額の100分の80を超えるときは80%が上限となります(相当地代通達7)。
  • 使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の価額は、その土地の自用地としての価額によって評価します(相当地代通達8の(注))。届出書を出していても、地代を取っていなければ20%の減額はありません。
  • 被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸し付けている場合には、昭和43年10月28日付 直資3-22ほか2課共同「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」通達の適用があるとされ、自用地としての価額の20%相当額が、同族会社の株式の評価上、純資産価額に算入されます。
  • したがって、土地で引いた20%は、家族全体で見れば消えていません。ただし、株式の評価方式や会社の財務内容によって、株価への影響の大きさは変わります。
  • 小規模宅地等の特例では、特定同族会社事業用宅地等として400㎡まで80%減額できる可能性があります(租税特別措置法69条の4)。被相続人および親族等が発行済株式の総数または出資の総額の50%超を有していること、取得者が申告期限においてその法人の役員であること、申告期限までその宅地等を有していることなどが要件です。
  • 使用貸借の場合、特定同族会社事業用宅地等には当たらないと取り扱われるのが一般的です。一方、無償返還届出書の提出自体は、特例の適用を妨げるものではありません。
  • 相当地代通達8の80%(評価方法)と、小規模宅地等の特例の80%(課税価格からの減額)は、まったく別のものです。順番に働きます。
  • 課税関係については必ず税理士に、契約書の内容については必ず弁護士にご確認ください。制度の状況は変わり得ますので、最新の内容は国税庁・e-Gov法令検索でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は税務上または法律上の助言を提供するものではなく、特定の評価額・税額や、特例の適用が認められることを保証するものではありません。土地の評価が自用地としての価額の80%となるか100%となるか、小規模宅地等の特例が適用できるか、株式の評価にどれだけ影響するかは、契約の内容、地代の水準と実際の支払状況、届出書の提出の有無、会社の財務内容と株式の評価方式、相続人の役員就任状況など、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。とくに、賃貸借と使用貸借のいずれと判断されるかについて、通達に明確な金額基準はなく、実質によって判断されます。本文中の説明は、制度の骨格をご理解いただくために単純化したものであり、要件のすべてを網羅したものではありません。本文で引用した通達の文言は、読みやすさのために要旨として示した箇所があります。正確な文言は必ず国税庁のホームページで原文をご確認ください。記載した法令名・条項・通達の番号および発遣日等は執筆時点で確認したものですが、法令・通達・実務の取り扱いは改正等により変更される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず国税庁、e-Gov法令検索、所轄の税務署などで最新の内容をご確認のうえ、課税関係については必ず税理士に、契約書の内容や権利関係については必ず弁護士に、登記については必ず司法書士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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