「父の土地に、私が家を建てております」――いちばん多い土地の貸し借り

ご相続のご相談で、もっとも多くうかがう土地の形が、これです。

[ご相談で、実際にうかがったお話]
「三十年前に、父の土地の空いているところに私が家を建てました。地代は払っておりません。土地の名義は父のままです。父が亡くなりましたので、この土地を私が相続することになるのですが、私がずっと使ってきた土地ですから、そのぶん相続税は安くなるのでしょうか」
――お気持ちは、たいへんよくわかります。けれども、税務の答えは「安くなりません」です。理由は、この記事でご説明するたった一つの取扱いにあります。

「ただで貸している」という一点が、二つの税で逆にはたらく

使用貸借の話は、贈与税と相続税を、必ずセットでご覧いただく必要があります。片方だけを見ると、たいてい判断を誤ります。

賃貸借(借地権が生じる場合)使用貸借
地代支払う支払わない
借主の権利借地権(借地借家法の保護あり)使用借権(借地借家法の借地に関する規定は原則として適用されません)
設定したときの贈与税権利金の授受がないときは、借地権相当額の贈与と認定されることがあります使用の権利の価額は零。原則として課税されません
貸主の相続税評価貸宅地(自用地としての価額 - 借地権の価額)自用地としての価額(控除なし)
使用の権利の価額 = 零
昭和48年11月1日付 直資2-189ほか「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」
この一行が、贈与税をかけない理由であり、同時に相続税を下げない理由でもあります

つまり、「無償だから課税されない」のと、「無償だから評価も下がらない」のは、同じ一つの取扱いの表と裏なのです。ここを切り離して考えると、話がわからなくなります。

使用貸借とは――無償で借りて、返す契約(民法593条)

まず、民法の条文から確認してまいります。

民法593条(使用貸借)
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

要点は「無償で使用及び収益をして」「返還をすることを約する」の二つです。ただで借りて、いずれ返す。それが使用貸借です。

2020年4月の民法改正で「諾成契約」になりました

2020年(令和2年)4月1日施行の民法改正により、使用貸借は、物を引き渡さなくても合意だけで成立する契約(諾成契約)となりました。改正前は、物の引渡しがあってはじめて成立する要物契約とされていました。親子のあいだで契約書を交わしていなくても、実際に土地を無償で使わせている以上、使用貸借は成立しています。

借主が負担する費用――「通常の必要費」(民法595条1項)

民法595条1項
借主は、借用物の通常の必要費を負担する。

ここが、のちほど第6章でご説明する「固定資産税相当額を負担していたら、賃貸借になってしまうのか」という論点につながります。通常の必要費の負担は、使用貸借に当然に伴うものとして民法が定めているものであり、それだけで直ちに「地代を払っている」ことになるわけではありません。

借地借家法の保護は、原則としてありません

借地借家法にいう借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいいます。賃料の支払いがない使用貸借は、この借地権に当たりません。

使用貸借に、借地借家法の借地の保護は及ばないのが原則です

したがって、使用貸借には、原則として次のような保護がありません。

  • 30年などの存続期間の保障
  • 更新に関する保護(正当の事由がなければ更新を拒めない、という制限)
  • 建物買取請求権

「親子だから、いつまでも住めるはず」というのは、法律上の保障ではありません。ご兄弟のあいだで土地の相続がまとまらなかったとき、この差が現実の問題になります。個別の契約が使用貸借か賃貸借かの判断、明渡しの可否については、必ず弁護士にご確認ください。

借主が亡くなれば終了し、貸主が亡くなっても終わらない(民法597条3項)

使用貸借の終了について、民法597条は次のように定めています。

条項終了する場面
民法597条1項当事者が使用貸借の期間を定めたときは、その期間が満了することによって終了します。
民法597条2項期間を定めなかった場合で、使用及び収益の目的を定めたときは、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了します。
民法597条3項使用貸借は、借主の死亡によって終了します。

また、民法598条は、期間も目的も定めなかったときは貸主がいつでも契約の解除をすることができることなどを定めています。

ここが、賃貸借といちばん違うところです

借主(家を建てた子)が亡くなったとき――使用貸借は終了します(民法597条3項)。賃借権のように、当然に借主の相続人へ引き継がれるものではありません。

貸主(土地を貸していた親)が亡くなったとき――使用貸借は当然には終了しません。貸主の地位は、相続によって相続人に承継されます。土地を相続した方が、そのまま貸主になるということです。

ただし、相続の後に、期間の満了、目的の終了、解除といった終了原因が生じることはあり得ます。実際の契約関係がどちらに当たるか、明渡しを求められるかどうかは、必ず弁護士にご確認ください。

「借主の死亡で終了する」が意味すること

たとえば、父の土地に長男が家を建てて住んでいたという場合。長男が父より先に亡くなると、使用貸借は終了します。長男のお子さま(父から見れば孫)が、当然にその土地を無償で使い続けられる、というわけではありません。

もちろん、実際にはあらためて新しい使用貸借の合意がなされたと評価される場合が多いでしょう。しかし、土地の相続でご兄弟の意見が分かれたときには、この「終了している」という点が持ち出されることがあります。建物が残っているのに土地を使う権利の根拠があいまい、という事態を避けるためにも、書面を残しておくことをおすすめしております。

借地権相当額の贈与税はかからない――昭和48年直資2-189という一枚の通達

ここからが税務のお話です。

本来なら、無償で借地権を得たら贈与税がかかるはず

権利金をやりとりする慣行のある地域では、他人の土地を借りて建物を建てるとき、通常は権利金を支払います。もし、その権利金を支払わずに借地権を得たとすれば、その分の経済的利益を無償で受けたことになり、理屈のうえでは贈与税の対象になり得ます。

ところが、親子や夫婦のあいだの無償の貸し借りにまでこの理屈を当てはめると、日本中の親子が贈与税を課されてしまいます。そこで国税庁は、昭和48年に一枚の個別通達を出しました。

昭和48年11月1日付
直資2-189・直所2-76・直法2-92
「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」

この通達の要点は、次のとおりです。

国税庁のタックスアンサーでも、No.4552「親の土地に子供が家を建てたとき」として、この取扱いが説明されています。

[よくいただくご質問]
「では、親の土地を無償で借りて家を建てても、贈与税の申告は要らないのですね」
――使用貸借であるかぎり、借地権相当額についての贈与税は原則としてかかりません。ただし、地代や権利金のやりとりがある場合、当事者に法人が含まれる場合などは取扱いが異なります。個別の課税関係は、必ず税理士にご確認ください。

親の「借地」に子が家を建てる場合は、別の手続きがあります

お父さまご自身が地主から土地を借りていて(=借地権をお持ちで)、その借地の上に子が家を建てるという場合。これは借地の転貸にあたり、扱いが変わります。

この場合も、無償であれば使用貸借による使用の権利の価額は零として取り扱われますが、「借地権の使用貸借に関する確認書」を所轄の税務署長に提出するという手続きが定められています。国税庁のタックスアンサーNo.4555「親の借地に子供が家を建てたとき」をご確認いただき、必ず税理士にご相談ください。

相続税評価は「自用地としての価額」――貸宅地にも貸家建付地にもなりません

そして、ここが本記事のいちばんの要点です。

使用貸借の土地の相続税評価
= 自用地としての価額
借地権相当額の控除はありません(昭和48年直資2-189)

賃貸借(借地権あり)との比較

土地の使われ方貸主(地主)の相続税評価
他人に賃貸し、借地権が生じている貸宅地=自用地としての価額 - 借地権の価額
(借地権割合が60%の地域なら、おおむね40%の評価)
子に無償で貸している(使用貸借)自用地としての価額(そのまま)
控除するものはありません

借地権割合が60%の地域であれば、賃貸借か使用貸借かで、土地の評価額がおよそ2.5倍違ってくることになります。設例で申し上げます。

[制度の骨格をご理解いただくための、単純化した設例です]
自用地としての価額が5,000万円、借地権割合60%の地域の宅地。
・第三者に賃貸し借地権が生じている場合の貸宅地の評価 …… 5,000万円 - 5,000万円×60% = 2,000万円
・子に無償で貸している(使用貸借)場合の評価 …… 5,000万円
※実際の評価額は、路線価、各種の補正率、評価単位の判定などによって変わります。実際の申告にあたっては、必ず税理士にご確認ください。

建物を第三者に貸していても、貸家建付地にはなりません

ここも、よく取り違えられるところです。

土地の所有者と建物の所有者が違えば、貸家建付地にはなりません

たとえば、次のような形です。

  • 土地の所有者 …… 父
  • 建物の所有者 …… 子(父の土地を使用貸借して建てた)
  • その建物を、子が第三者に賃貸している

この場合、建物には借家権が生じています。しかし、父と子のあいだに借地権はありません(使用の権利の価額は零)。したがって、父の相続における土地の評価は、貸家建付地ではなく、自用地としての価額です。国税庁のタックスアンサーNo.4553「使用貸借に係る土地を贈与により取得したとき」にも、同じ考え方が示されています。

貸家建付地の減額は、土地の所有者がご自分で建物を所有し、その建物を貸している場合の取扱いだとご理解ください。

評価単位はどうなるか――財産評価基本通達7-2

宅地は、利用の単位となっている1画地の宅地ごとに評価します(財産評価基本通達7-2)。使用借権は評価上の価額が零ですから、使用貸借があるという一点だけを理由に、土地を貸宅地の部分と自用の部分に分けて評価するということはありません。

もっとも、現実の利用状況が明らかに分かれている場合――たとえば、同じ地番の土地の一部にご自宅があり、別の部分に子が建てた別棟の家がある――といった場合には、利用の単位ごとに区分して評価する余地があります。この判定は個別性が高いところですので、必ず税理士にご確認ください。

賃貸借との分かれ目――地代・権利金・固定資産税相当額の負担

「うちは、少しだけ地代を渡している」というご相談も、よくいただきます。どこからが賃貸借になるのか。ここを整理しておきます。

いくら払っていたら賃貸借なのか

国税庁は、使用貸借を「地代も権利金も支払うことなく土地を借り受けること」という趣旨で説明しています(タックスアンサーNo.4552)。一方で、民法595条1項が定めるとおり、借主が借用物の通常の必要費を負担することは、使用貸借に当然に伴うものです。

[実務でよく用いられる整理]
実務では、借主が負担しているのが固定資産税・都市計画税相当額の程度にとどまる場合には、なお使用貸借と解されるという整理が一般的に用いられています。ただし、これを一義的に定めた法令の規定や、確定した最高裁判例が確認できるわけではありません。負担している金額、支払いの継続性、契約の内容、当事者の合意の実質などを総合して判断すべき事柄です。ご自分のケースが使用貸借か賃貸借かの判断は、必ず税理士および弁護士にご確認ください。

判断のときに見られるところ

小規模宅地等の特例はどうなるか――「生計を一にしていたか」が分かれ目

「使用貸借だと、小規模宅地等の特例は使えないのですか」――これも、たいへん多くいただくご質問です。

使用貸借であること自体が、特例を排除するわけではありません

小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)は、宅地等の区分ごとの要件を満たすかどうかで判定します。使用貸借だから一律に使えない、というものではありません。ただし、区分によって結論が大きく変わります。

宅地等の区分使用貸借の土地での考え方
特定居住用宅地等
(限度330㎡・80%減額)
被相続人の居住の用に供されていた宅地等であれば、取得者・居住継続・保有継続などの要件を満たすことで適用され得ます。また、被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等についても、その親族が取得し、相続開始前から申告期限まで引き続き居住し、相続開始時から申告期限まで引き続き保有していることなどを要件に適用され得ます(措置法69条の4第3項2号ハ)。親の土地に、生計を一にする子が家を建てて住んでいるという形は、ここに当てはまる可能性があります。
特定事業用宅地等
(限度400㎡・80%減額)
被相続人の事業の用、または被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用に供されていた宅地等であることなどが要件です。生計が別のお子さまが親の土地を無償で借りて事業をなさっている場合は、この要件を満たさないことになります。
貸付事業用宅地等
(限度200㎡・50%減額)
該当しません。措置法69条の4にいう「事業に準ずるもの(準事業)」は、租税特別措置法施行令40条の2第1項により「相当の対価を得て継続的に行うもの」とされています。無償の使用貸借は、対価を得ていませんから、貸付けの事業には当たりません。

「生計を一にしていたか」で、答えが変わります

ここが実務上いちばんの分かれ目です。同じ敷地に親子で住んでいても、生計が別であれば、生計一親族の居住用としての適用は受けられません。逆に、生計を一にしていれば、親御さまがその建物にお住まいでなくても、生計一親族の居住用として適用の余地が生じます。

[ご注意]
「生計を一にする」の判定は、同居しているかどうかだけで決まるものではありません。生活費や療養費の送金の状況など、実態にそって判断されます。小規模宅地等の特例の適用の可否、限度面積の調整、選択の有利不利は、必ず税理士にご確認ください。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「ただで借りていたのだから、安くなると思っていました」――Kさまのご相談

Kさま(60代・男性)は、お父さま(90代)を亡くされ、相続税の申告のご相談にお越しになりました。

ご相談の入口は、「父の土地に、私が三十年前に家を建てました。地代は一度も払っておりません。この土地は、私がずっと使ってきたのですから、そのぶん評価は下がりますよね」というお話でした。

私はまず、「その三十年のあいだ、権利金や地代を、いくらかでもお父さまにお渡しになったことはございますか」とお尋ねしました。Kさまは、「いいえ、まったくありません。固定資産税だけは、私が払っておりました」とお答えになりました。

私は、「それは、使用貸借という形になります」と申し上げました。そのうえで、「使用貸借には、税務の取扱いを定めた古い通達がございまして、そこでは、使用貸借による土地の使用の権利の価額は零として取り扱うことになっております」とご説明しました。

Kさまは、「零、ですか。それはつまり、私には何の権利もないということですか」と、少し驚かれたご様子でした。

私は、「税務の評価の話としては、そういうことになります」とお答えしました。「そのかわり、家を建てられたときに、借地権相当額の贈与税はかかっておりません。ただで借りたのに課税されなかったのは、この取扱いのおかげなのです」と。

Kさまは、しばらく黙ってから、「では、相続のときには、まるまるの評価になるということですか」とお尋ねになりました。

私は、「自用地としての価額で評価することになります。借地権のぶんを差し引く、ということはありません」と申し上げました。そのうえで、「ただ、まだ確かめるべきことがございます」と続けました。「Kさまは、お父さまと生計を一にしていらっしゃいましたか。生活費のやりとりや、お食事はどうなさっていましたか」と。

Kさまは、「父の生活費は、ここ十年ほど私が出しておりました。食事も、母が亡くなってからは一緒です」とおっしゃいました。

私は、「でしたら、小規模宅地等の特例のうち、居住用の区分について検討する余地があるかもしれません」と申し上げました。「ただし、これは要件の当てはめが細かいところです。生計を一にしていたといえるか、どなたが土地を取得なさるか、申告期限まで住み続け、持ち続けるか。ここは、必ず税理士に見ていただいてください」と。

Kさまは、深くうなずかれました。そして、「評価が下がらないことばかり気にしておりましたが、別の道を見ていただけるのですね」とおっしゃいました。

使用貸借は、それ自体では評価を下げません。けれども、下げる道が別にないわけではない。私どもが、この場面でいつも申し上げていることです。

― 私たちから一言 ―

「ただで貸していたのだから」は、税務では通りません

使用貸借のご相談で、私どもがいちばん多くお伝えしているのは、「ただで貸していたことは、相続税を下げる理由になりません」ということです。

これは、多くの方にとって、直感に反するお話です。「三十年も使わせてきたのに」「もう自分の土地のようなものなのに」――そういうお気持ちは、たいへんよくわかります。

けれども、税務の筋道はこうです。ただで貸したから、借りた側に評価すべき権利が生まれなかった。権利が生まれなかったから、贈与税もかからなかった。そして、貸した側の土地も減らなかった。――この三つは、一続きの話なのです。

むしろ私どもが心配しているのは、評価の話よりも、その先の遺産分割です。

ご長男が親の土地に家を建てておられる。ご次男は別のところにお住まいで、遺産は自宅の土地だけ。――こうなると、その土地をどう分けるかが、そのままご兄弟の関係を決めてしまいます。使用貸借には借地借家法の借地の保護がありませんから、明渡しを求められる可能性が、法律上はあるのです。実際にそう言われる例は多くありませんが、「言われる可能性がある」ということ自体が、話し合いの重石になります。

ですから私どもは、お子さまが親御さまの土地に家を建てられるときには、必ず一言、申し上げるようにしております。「その土地を、将来どなたが継ぐのか。いま決めておかれませんか」と。

建てた家は動きません。土地の話は、建ててからでは動かしにくくなります。お元気なうちに、遺言という形で行き先を決めておく。それが、いちばん確実な備えだと考えております。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

使用貸借の土地でよくある7つの落とし穴

  1. 「ただで貸していたのだから、相続税評価も下がる」と思い込む 使用貸借による土地の使用の権利の価額は零として取り扱われます(昭和48年直資2-189)。したがって、貸主の相続では自用地としての価額で評価し、借地権相当額の控除はありません。賃貸借(借地権あり)の貸宅地とは、評価がまったく違います。
  2. 建物を人に貸しているから貸家建付地になる、と考える 土地の所有者と建物の所有者が異なり、その土地の使用関係が使用貸借である場合、貸家建付地にはなりません。建物に借家権があっても、土地に借地権がないからです。原則として自用地としての価額で評価します。
  3. 使用貸借なら小規模宅地等の特例は使えない、と決めつける 区分ごとの要件で判定します。特定居住用宅地等については、被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた宅地等として適用の余地があります(措置法69条の4第3項2号ハ)。ただし、貸付事業用宅地等には該当しません。無償の貸付けは「相当の対価を得て継続的に行うもの」(租税特別措置法施行令40条の2第1項)に当たらないからです。
  4. 少額の地代を渡しはじめて、かえって話をややこしくする 使用貸借か賃貸借かは、名称ではなく実質で判断されます。中途半端な金額のやりとりを始めると、どちらとも言いにくい状態になり、評価も課税関係も不安定になります。やりとりを変えるときは、その前に必ず税理士にご相談ください。
  5. 借主が先に亡くなったのに、そのままにしている 使用貸借は、借主の死亡によって終了します(民法597条3項)。賃借権のように当然に相続されるものではありません。建物だけが残って、土地を使う権利の根拠があいまいになるという事態が起こり得ます。新たな使用貸借の合意を書面にしておくことをおすすめします。
  6. 「親子だから、ずっと住めるはず」と考える 使用貸借には、借地借家法の借地に関する保護が原則として及びません。存続期間の保障も、更新の保護も、建物買取請求権もありません。遺産分割で土地が別の相続人のものになれば、明渡しを求められる可能性があります。親御さまがお元気なうちに、遺言で土地の行き先を定めておくことが、いちばん確実な備えです。
  7. 同族会社が借りている場合まで、同じ話だと思ってしまう 当事者に法人が含まれる場合は、まったく別の取扱いになります。法人税の取扱いに沿って、相当の地代の水準や、「土地の無償返還に関する届出書」が提出されているかどうかによって、土地の評価も課税関係も変わります。法人が関係する土地については、必ず税理士にご確認ください。

この記事のまとめ

  • 使用貸借とは、無償で使用及び収益をして、契約が終了したときに返還することを約する契約です(民法593条)。2020年4月1日施行の改正により、合意だけで成立する諾成契約となりました。
  • 借主は、借用物の通常の必要費を負担します(民法595条1項)。この負担があることだけで、直ちに地代の支払いになるわけではありません。
  • 使用貸借は、借主の死亡によって終了します(民法597条3項)。一方、貸主が亡くなっても当然には終了せず、貸主の地位は相続人に承継されます。
  • 使用貸借には、借地借家法の借地に関する保護は原則として及びません。存続期間の保障、更新の保護、建物買取請求権はありません。
  • 税務では、昭和48年11月1日付 直資2-189ほか「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」により、建物等の所有を目的とする使用貸借による土地の使用の権利の価額は、零として取り扱われます。
  • そのため、親の土地を無償で借りて子が家を建てても、借地権相当額の贈与税は原則としてかかりません(国税庁タックスアンサーNo.4552)。
  • その裏返しとして、貸主の相続では、その土地を自用地としての価額で評価します。貸宅地としての借地権相当額の控除はありません。
  • 使用貸借で借りた土地の上の建物を第三者に貸していても、その土地は貸家建付地にはなりません(国税庁タックスアンサーNo.4553)。
  • 親の借地の上に子が家を建てる場合は、「借地権の使用貸借に関する確認書」を税務署長に提出する手続きが定められています(国税庁タックスアンサーNo.4555)。
  • 宅地は利用の単位となっている1画地の宅地ごとに評価します(財産評価基本通達7-2)。使用借権があるという一点だけで評価単位が分かれるわけではありません。
  • 小規模宅地等の特例は、使用貸借であること自体で排除されるものではありません。特定居住用宅地等については、被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用として適用の余地があります(措置法69条の4第3項2号ハ)。
  • 一方、無償の貸付けは貸付事業用宅地等には該当しません。「事業に準ずるもの」は「相当の対価を得て継続的に行うもの」とされているためです(租税特別措置法施行令40条の2第1項)。
  • 実務では、固定資産税相当額程度の負担にとどまる場合はなお使用貸借と解するという整理が用いられますが、これを一義的に定めた法令や確定した最高裁判例が確認できるわけではありません。総合的に判断される事柄です。
  • 土地の評価・課税関係については必ず税理士に、契約が使用貸借か賃貸借かの判断や明渡しについては必ず弁護士に、登記については必ず司法書士にご確認ください。最新の法令はe-Gov法令検索、税務の取り扱いは国税庁のホームページでご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は税務上または法律上の助言を提供するものではなく、特定の土地について贈与税がかからないこと、特定の評価額となること、小規模宅地等の特例が適用されることを保証するものではありません。使用貸借と賃貸借の区別、使用の権利の価額の取扱い、宅地の評価単位の判定、小規模宅地等の特例の適用の可否は、契約の内容・対価の有無と水準・現実の利用状況・生計を一にしていたかどうかなど、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。とくに、当事者に法人が含まれる場合は、相当の地代や「土地の無償返還に関する届出書」の提出の有無により、本記事とはまったく異なる取扱いになります。本文中の設例や金額の例示は、制度の骨格をご理解いただくために単純化したものであり、実際の評価額や税額を示すものではありません。記載した法令名・条項・通達・数値は執筆時点で確認したものですが、法令・通達・実務の取り扱いは変更される可能性があります。条文の号の番号は法改正により繰り上がり・繰り下がりが生じることがあります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、国税庁などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、土地の評価と課税関係については必ず税理士に、契約の性質や明渡しについては必ず弁護士に、登記については必ず司法書士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

「父の土地に、私が家を建てております」――そのご確認からで結構です

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