後見制度支援信託・支援預貯金とは――「使うお金」と「動かさないお金」を分ける

成年後見制度そのものについては成年後見制度の記事で整理しています。ここでは、後見人が選ばれたあと、ご本人の財産をどう管理するかという場面の話をいたします。

最高裁判所事務総局家庭局の資料「後見制度支援信託等の利用状況等について」は、後見制度支援信託を次のように説明しています。

日常的な支払をするのに必要十分な金銭は
後見人が預貯金等として管理し
通常使用しない金銭は信託銀行等に信託する
最高裁判所事務総局家庭局「後見制度支援信託等の利用状況等について」

つまり、ご本人の財産を二つの箱に分けるということです。

分けかたどこに置くか動かすときは
日常的な支払に必要十分な金銭後見人が管理する預貯金口座後見人の判断で支払える(通常の後見事務)
通常使用しない金銭信託銀行等(支援信託)/金融機関の専用口座(支援預貯金)家庭裁判所が発行する「指示書」が必要

後見制度支援預貯金は「信託に並立・代替する仕組み」

同じ資料は、後見制度支援預貯金について、「預貯金の払戻し等に家庭裁判所が発行する指示書を必要とする金融商品であり、後見制度支援信託に並立・代替する仕組みとして導入された」と説明しています。

ねらいは同じで、入れ物が信託銀行等か、身近な金融機関の口座かという違いだと理解していただければ十分です。信託銀行の店舗が近くにない地域でも使えるように、信用金庫・信用組合・銀行などが取り扱う商品として広がってきたという経緯があります。

「後見人が信用されていない」という話ではありません

この案内を受けたご家族が、「私が疑われているのでしょうか」と気持ちを痛められることがあります。そうではありません。

このしくみは、後見人ご本人を守る側面も持っています。まとまったお金を手元の口座に置いたままにすると、他のご親族から「使い込んだのではないか」と疑われたときに、説明の負担がすべて後見人にのしかかります。家庭裁判所の指示書を通す形にしておけば、大きなお金の出入りには必ず裁判所の確認が入ったという記録が残ります。ご本人の財産を守ると同時に、まじめに務めている後見人の立場も守る――そう受け止めていただくのが、いちばん実情に近いと感じています。

なぜ生まれたのか――親族後見人による不正と、家庭裁判所が抱えた課題

成年後見制度は、判断能力が不十分になった方の財産と権利を守る制度です。ところが、その後見人自身がご本人の財産を私的に使ってしまう――いわゆる後見人による不正が、制度の大きな課題となってきました。

後見人には親族が選ばれる場合と、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれる場合があります。ご親族が後見人になること自体は、ご本人の生活を知っている方が支えるという意味で望ましい面があります。けれども、ご家族のお財布とご本人のお財布の区別があいまいになりやすいという難しさも、同時に抱えています。

[「親のお金だから、家族で使ってもいいだろう」が通らない理由]
成年後見制度における後見人は、ご本人の財産を、ご本人のために管理する立場です。ご本人の預金からご家族の生活費や学費を出すことは、原則として認められません。ここは、ご家族の感覚と制度の建前がもっともぶつかるところです。後見人に就任される前に、必ずご理解ください。

そこで、親族後見人にも安心して務めていただきながら、大きな金額の出入りには家庭裁判所が関与するという仕組みとして設けられたのが、後見制度支援信託でした。最高裁判所の資料は、支援信託が平成24年(2012年)2月1日に導入されたと記しています。

その後、信託銀行等以外の身近な金融機関でも同じしくみを使えるようにということで、後見制度支援預貯金が広がりました。最高裁判所が支援預貯金についての実情調査を開始したのは平成30年(2018年)1月とされています。

信託と預貯金の違い――使える類型が違い、任意後見ではどちらも使えない

ここが、実務でもっとも間違えられやすいところです。「後見制度」と名前が付いていても、後見・保佐・補助・任意後見のすべてで使えるわけではありません。

類型後見制度支援信託後見制度支援預貯金
成年後見利用できる利用できる
未成年後見利用できる対象とされているが、取扱いは各金融機関の商品内容による
保佐利用できない一部の金融機関で令和7年(2025年)10月から利用可能
補助利用できない一部の金融機関で令和7年(2025年)10月から利用可能
任意後見利用できない利用できない

最高裁判所の資料は、支援信託について「後見制度支援信託の対象となるのは、成年後見及び未成年後見のみであり、保佐、補助及び任意後見では利用できない」と明記しています。

また、支援預貯金については「後見制度支援預貯金の対象となるのは、成年後見、未成年後見、保佐及び補助であり、任意後見では利用できない」としたうえで、「保佐及び補助は一部の金融機関で令和7年10月から利用可能となった。未成年後見が利用対象となるか否か、指示書を必要とする取引の内容等は各金融機関の商品内容によって異なる」と注記しています。

任意後見を選んだ方は、別の備えを考えてください

任意後見は、お元気なうちにご自分で後見人を選んでおく契約です(成年後見制度の記事をご覧ください)。ご自分で信頼できる方を選べる点が大きな長所ですが、後見制度支援信託・支援預貯金というブレーキは使えません。

そのかわり、任意後見には任意後見監督人という監督のしくみが法律上組み込まれています。それでも、まとまった財産を分けて管理したいというご希望があるのなら、家族信託(民事信託)などの別の手段を、契約の段階から設計に織り込んでおく必要があります。任意後見契約を結んでから「支援信託を使いたい」と言っても、選べません。

「保佐・補助でも使える」は、令和7年10月からの新しい話です

従来、このしくみは後見類型(成年後見・未成年後見)だけのものでした。保佐・補助については、支援預貯金の道が一部の金融機関で開かれたのが令和7年(2025年)10月です。最高裁判所の資料も、保佐及び補助に関する実情調査を令和7年10月から開始したと注記しています。

[お取引の金融機関で扱っているとは限りません]
支援預貯金は金融機関ごとの商品です。取扱いの有無、対象となる類型、指示書を必要とする取引の範囲は、各金融機関の商品内容によって異なります。ご検討の際は、必ず申立てをする家庭裁判所と、ご利用予定の金融機関の双方にご確認ください。

利用までの流れ――専門職後見人の関与と、家庭裁判所が発行する「指示書」

実際の進み方は家庭裁判所によって運用に幅がありますが、おおまかな流れは次のようになります。

  1. 後見開始の申立てと、家庭裁判所による検討 後見開始等の申立てを受けた家庭裁判所が、ご本人の財産の状況やご親族の状況を踏まえ、後見制度支援信託・支援預貯金の利用が適切かどうかを検討します。
  2. 専門職後見人が関与する場合があります ご親族が後見人になる事案でも、財産の調査と、信託・預貯金契約の設定のために、弁護士・司法書士などの専門職が後見人(または後見人の一人)として関与する運用がとられることがあります。
  3. 財産の調査と、預ける金額の検討 ご本人の収入と支出を見積もり、「日常的な支払に必要十分な金銭」がいくらかを算出します。残りが、信託・預貯金に回す金額の目安になります。
  4. 家庭裁判所への報告と、指示書の発行 検討結果を家庭裁判所に報告し、家庭裁判所が「指示書」を発行します。
  5. 指示書に基づいて契約を締結 後見人が信託銀行等または金融機関に出向き、指示書に基づいて信託契約・預貯金契約を締結します。
  6. 専門職後見人が関与した場合は、役割を終えて交代することがあります 設定が終わったあとは、ご親族の後見人が通常の後見事務を続けるという形になることがあります。その後の運用(辞任・交代の有無、報酬の扱い)は家庭裁判所が判断します。

専門職後見人の報酬は、ご本人の財産から支払われます

設定のために専門職後見人が関与した場合、その報酬は家庭裁判所が決め、ご本人の財産から支払われます。金額は事案の内容によって異なり、あらかじめ一律に決まっているものではありません。

ご家族としては「なぜ費用がかかるのか」と感じられる場面ですが、財産の調査と契約設定は責任の重い作業です。具体的な見込みは、申立てをする家庭裁判所にご確認ください。

「指示書」がすべての入口であり、出口です

このしくみの中核は、家庭裁判所が発行する指示書です。最高裁判所の資料は、「後見制度支援信託を利用すると、信託財産を払い戻したり、信託契約を解約したりするにはあらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要となる」と説明しています。支援預貯金についても、払戻し等に指示書を必要とする金融商品とされています。

払戻し・解約には
あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書が必要
後見人の一存では動かせない、というのがこの制度の要です

まとまったお金が必要になったら――一時金交付の手続きと、かかった日数

では、急にまとまったお金が必要になったときはどうするのか。ここが、ご家族がいちばん不安に思われる点です。

そのための手続きが、一時金の交付です。後見人が家庭裁判所に報告書を提出し、家庭裁判所が指示書を発行すれば、信託または預入れ財産の一部について払戻しを受けられます。

令和7年の実績――708件の指示書が発行されています

最高裁判所の資料によると、令和7年(2025年)1月から12月までの1年間に、一時金の交付を受けるために必要な指示書を家庭裁判所が発行した件数は合計708件でした。内訳は支援信託が280件、支援預貯金が428件です。

請求のあった一時金交付の額(令和7年)件数割合
50万円未満56件約7.9%
50万円以上100万円未満82件約11.6%
100万円以上500万円未満472件約66.7%
500万円以上1,000万円未満49件約6.9%
1,000万円以上49件約6.9%

100万円以上500万円未満が約66.7%と、もっとも多くなっています。自宅の修繕、施設への入居、医療費など、生活の中で現実に起こるまとまった出費が、この帯に収まっているということでしょう。同資料は、一時金交付の請求理由としては「被後見人等の生活費・学費」が多いとも記しています。

どのくらい待つのか――7日以内の発行が約82.5%

「裁判所を通すと、何か月もかかるのではないか」というご心配をよくうかがいます。最高裁判所の資料は、家庭裁判所に一時金の交付を求める報告書が提出されてから、指示書が発行されるまでに要した期間について、次のように記しています。

報告書の提出から指示書発行まで(令和7年)割合
即日または翌日に発行約35.0%
7日以内に発行約82.5%

公表されている数字の上では、8割以上が1週間以内に発行されていることになります。もっとも、これは報告書が提出されてからの期間です。報告書の準備(見積書や請求書をそろえ、必要性を説明する)にかかる時間は、この数字には含まれていません。

[「今日中に現金が要る」には向きません]
葬儀費用、急な入院費など、その日のうちに現金が必要になる場面には、このしくみは向きません。だからこそ、日常的な支払に必要十分な金銭を後見人の管理する口座に残しておく設計になっています。「手元にいくら残すか」の見積もりは、設定のときにしっかりご相談ください。

数字で見る利用状況――令和7年の新規615人・2,005人、累計と財産額

最高裁判所事務総局家庭局が毎年公表している「後見制度支援信託等の利用状況等について」から、令和7年(2025年)1月~12月の数字をご紹介します。

令和7年1月~12月後見制度支援信託後見制度支援預貯金
新たに利用した方の数615人2,005人
信託・預入れ財産額約283億7,300万円約585億6,400万円
1人あたりの平均額約4,614万円約2,921万円

累計では、平成24年2月から令和7年12月までの支援信託の利用者数が31,234人、支援預貯金の利用者数が13,511人(ただし平成30年1月以降)、信託及び預入れ財産額の累計は約1兆4,873億6,300万円とされています。

[数字の読み方にご注意ください]
同資料の注記によれば、同一の方が同時期に信託契約と預貯金契約の両方を締結した場合は、そのいずれについても利用者として計算されています。また、各数値は実情調査に基づく概数であり、今後の集計整理により異同訂正が生じることがあるとされています。信託と預貯金の人数を単純に足して「実人数」とすることはできません。

預けられている金額の分布――半数は2,000万円以下

「うちは支援信託を使うほどの財産はない」と思われる方もいらっしゃいます。実際の分布は次のとおりです(令和7年、支援信託と支援預貯金の合計)。

信託及び預入れ財産額人数割合
2,000万円以下1,383人53.0%
2,000万円超5,000万円以下762人29.2%
5,000万円超1億円以下348人13.3%
1億円超114人4.4%

半数を超える53.0%が2,000万円以下です。「資産家のための制度」ではないということが、この数字からうかがえます。

類型別では、圧倒的に成年後見

令和7年1月から12月までの1年間に、後見制度支援信託等を利用した方を類型別に見ると、成年後見(禁治産を含む)が2,552人、保佐及び補助が7人、未成年後見が48人でした。保佐・補助の7人という数字は、令和7年10月から実情調査が始まったばかりのものですので、今後の推移を見ていく必要があります。

使ってみてどうなのか――安心できる点と、知っておきたい制約

安心できる点

知っておきたい制約

相続が起きたあとの扱いは、通常の財産と同じです

ご本人がお亡くなりになると、後見は終了します。信託・預貯金に置かれていた財産は、ご本人の相続財産として、相続人の方々が受け継ぐことになります。後見制度支援信託は、遺言のように「誰に渡すか」を決めるしくみではありません。

ここを取り違えて、「支援信託にしておけば、相続のときに長男に渡るのでしょう」と思い込まれる方がいらっしゃいます。そうではありません。誰にどう渡すかを決めたいのであれば、ご本人に十分な判断能力があるうちの遺言や家族信託が本来の手段です。判断能力が低下してからでは、これらを利用することは難しくなります。(成年被後見人の遺言については、民法973条が、事理を弁識する能力を一時回復した時に医師2人以上の立会いを得て行う方法を定めていますが、要件は厳格です。詳しくは遺言能力の記事をご覧ください。)

また、後見が終了したあとは、後見人が家庭裁判所に管理の計算を報告し、相続人の方へ財産を引き継ぐという手続きが必要になります。解約や払戻しの具体的な進め方は、家庭裁判所と金融機関にご確認ください。

後見制度支援信託・支援預貯金でよくある7つの落とし穴

  1. 「任意後見でも使える」と思い込む 最高裁判所の資料は、支援信託・支援預貯金のいずれについても、任意後見では利用できないとしています。お元気なうちに任意後見契約を結ぶ方針であれば、財産を分けて管理するしくみは、契約の設計段階で別に考えておく必要があります。
  2. 「保佐・補助でも信託が使える」と勘違いする 後見制度支援信託の対象は、成年後見及び未成年後見のみです。保佐・補助については支援預貯金の側で、一部の金融機関において令和7年(2025年)10月から利用可能になったとされています。信託と預貯金で対象が違うという点を、まず押さえてください。
  3. 「後見人になったのだから、自由にお金を使える」と考える 後見人はご本人の財産をご本人のために管理する立場です。ご家族の生活費や学費に充てることは、原則として認められません。支援信託・支援預貯金があるかどうかにかかわらず、ここは制度の根幹です。
  4. 手元に残す金額を少なく見積もりすぎる 信託・預貯金に回しすぎると、日常の支払のたびに一時金の交付を求めることになり、かえって負担が増えます。施設の費用、医療費、固定資産税、保険料など、1年間の支出を実際に書き出してから金額を決めてください。
  5. 「指示書はすぐ出る」と当てにして準備を怠る 令和7年の実績では7日以内の発行が約82.5%ですが、これは報告書が提出されてからの期間です。見積書や請求書をそろえて必要性を説明する準備の時間は含まれていません。支出の見込みが立った段階で、早めに動いてください。
  6. 「支援信託にしておけば、相続のときに希望どおり渡せる」と思う 後見制度支援信託は財産の承継先を決める制度ではありません。ご本人が亡くなれば、通常の相続財産として相続人が受け継ぎます。渡し方を決めたいのであれば、判断能力があるうちの遺言や家族信託をご検討ください。
  7. 金融機関の商品内容を確認しないまま進める 支援預貯金は金融機関ごとの商品です。未成年後見が対象になるか、指示書を必要とする取引の内容、手数料や最低預入額などは、各金融機関の商品内容によって異なります。必ず、申立先の家庭裁判所とご利用予定の金融機関の双方にご確認ください。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「母の預金を、私が下ろせなくなりました」――後見人になったTさまのご相談

Tさま(50代・女性)は、お母さま(80代)が認知症と診断され、施設への入居にあたって預金の解約が必要になったことから、成年後見開始の申立てをされました。ご自身が後見人に選ばれ、ほっとしていらしたところに、家庭裁判所から後見制度支援信託の検討を求められたとのことでした。

ご相談は、「母の預金は2,600万円ほどです。そのうち2,000万円を信託銀行に預けるように言われました。母のお金なのに、私が下ろせなくなるのでしょうか。何かあったときに困りませんか」というものでした。

私はまず、「下ろせなくなるのではなく、下ろすときに家庭裁判所の指示書が要る、ということなのです」とご説明しました。そのうえで、お母さまの1年間の支出を一緒に書き出してみましょうとお願いしました。

施設の費用が月15万円、医療費と日用品で月3万円、固定資産税と火災保険で年20万円――合わせて年間およそ236万円。お母さまには年金収入が年間およそ140万円ありましたので、預金から取り崩す分は年間100万円ほどという見当が立ちました。

Tさまは「それなら、手元に600万円残るなら5年以上もちますね」とおっしゃいました。私は、「はい。そして、施設の入居一時金や自宅の修繕のようにまとまった支出が必要になったときは、一時金の交付を求めることになります」とお伝えしました。

あわせて、「お兄さまがいらっしゃると伺いました。このしくみは、Tさまご自身を守る面もあるのです」と申し上げました。Tさまは少し驚かれた様子でしたが、「たしかに、兄からは『母の通帳はどうなっている』と何度も聞かれていました」とおっしゃいました。大きなお金の出入りに裁判所の指示書が入る形にしておけば、その記録がそのまま説明になります。

Tさまは、家庭裁判所の担当者と相談しながら、手元に残す金額を600万円として設定を進められました。その後、お母さまが施設を移られる際には一時金の交付を求める報告書を提出し、指示書を受けて払戻しを受けられたとのことです。「準備に2週間かかりましたが、提出してからは数日で出ました。早めに動いてよかったです」と振り返っておられました。

― 私たちから一言 ―

このしくみは「疑い」ではなく、「守り」だと受け止めてください

後見制度支援信託・支援預貯金のご案内を家庭裁判所から受けて、「私が信用されていないのでしょうか」と気落ちされるご家族に、これまで何度もお会いしてきました。お気持ちはよく分かります。親のために手を挙げたのに、ブレーキをかけられたように感じられるのですから。

けれども、ご相談を重ねてきた立場から申し上げると、このしくみに助けられた後見人の方のほうが、はるかに多いというのが実感です。いちばん多いのは、ごきょうだいから「親の預金はどうなっている」と繰り返し問われるという場面です。悪意がなくても、心配だから聞くのです。そのたびに通帳を見せ、領収書を並べて説明するのは、本当に消耗します。

大きなお金の出入りに家庭裁判所の指示書という第三者の記録が入っていれば、「裁判所の指示を受けて動いている」の一言で足ります。ご本人の財産を守ると同時に、まじめに務めている後見人の名誉を守る――私は、この制度をそう理解しています。

もうひとつ、大切なことをお伝えします。このしくみは、財産の渡し方を決める制度ではありません。ご本人が亡くなれば、預けた財産は通常の相続財産として相続人の方々に承継されます。「誰に、何を、どう渡すか」を決められるのは、ご本人に判断能力があるうちだけです。遺言も、家族信託も、財産管理委任契約も、任意後見契約も、ご本人に十分な判断能力があるうちでなければ、原則として利用できません。

後見が始まってからできることは、どうしても限られます。ご家族に「最近、少し物忘れが」という気配があるのなら、それがいちばんのご相談どきです。どうか、そのタイミングを逃さないでください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 後見制度支援信託は、ご本人の財産のうち日常的な支払をするのに必要十分な金銭を後見人が預貯金等として管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託するしくみです。最高裁判所の資料によれば平成24年(2012年)2月1日に導入されました。
  • 後見制度支援預貯金は、預貯金の払戻し等に家庭裁判所が発行する指示書を必要とする金融商品で、支援信託に並立・代替する仕組みとして導入されたものです。
  • 信託財産の払戻し・信託契約の解約には、あらかじめ家庭裁判所が発行する「指示書」が必要です。後見人の一存では動かせません。
  • 後見制度支援信託の対象は、成年後見及び未成年後見のみです。保佐・補助・任意後見では利用できません。
  • 後見制度支援預貯金の対象は、成年後見・未成年後見・保佐・補助で、任意後見では利用できません。保佐及び補助は一部の金融機関で令和7年(2025年)10月から利用可能になったとされています。
  • 未成年後見が利用対象となるか、指示書を必要とする取引の内容等は、各金融機関の商品内容によって異なります。
  • ご親族が後見人になる事案でも、財産の調査と契約の設定のために、専門職が後見人として関与する運用がとられることがあります。その報酬はご本人の財産から支払われます。
  • 令和7年(2025年)1月~12月に新たに利用した方は、支援信託615人(財産額 約283億7,300万円、平均 約4,614万円)、支援預貯金2,005人(約585億6,400万円、平均 約2,921万円)でした。
  • 累計は、支援信託31,234人(平成24年2月以降)、支援預貯金13,511人(平成30年1月以降)、信託及び預入れ財産額の累計 約1兆4,873億6,300万円です。
  • 令和7年の財産額の分布は、2,000万円以下が53.0%(1,383人)、2,000万円超5,000万円以下が29.2%、5,000万円超1億円以下が13.3%、1億円超が4.4%でした。
  • 令和7年の類型別利用者数は、成年後見2,552人、保佐及び補助7人、未成年後見48人です。保佐・補助の実情調査は令和7年10月から開始されました。
  • 一時金交付のための指示書の発行件数は、令和7年で合計708件(支援信託280件・支援預貯金428件)。請求額は100万円以上500万円未満が約66.7%と最多でした。
  • 報告書の提出から指示書の発行までは、即日または翌日が約35.0%、7日以内が約82.5%。ただしこれは報告書提出後の期間で、準備期間は含みません。
  • ご本人が亡くなると後見は終了し、預けられていた財産は通常の相続財産として相続人が承継します。このしくみは財産の承継先を決める制度ではありません。
  • 各数値は実情調査に基づく概数であり、今後の集計整理により異同訂正が生じることがあるとされています。最新の内容は裁判所・金融機関でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上・税務上の助言を提供するものではなく、特定の手続きや判断が正しいことを保証するものではありません。後見制度支援信託・後見制度支援預貯金を利用するかどうか、いくらを預けるか、専門職後見人が関与するか、一時金の交付が認められるかなどは、ご本人の財産や生活の状況、ご親族の状況、申立てをする家庭裁判所の運用によって結論が変わり得る事項です。とくに支援預貯金は金融機関ごとの商品であり、対象となる類型・指示書を必要とする取引の範囲・手数料・最低預入額などは各金融機関の商品内容によって異なります。本文中に引用した数値は、最高裁判所事務総局家庭局が公表した資料に基づくものですが、同資料自体が実情調査に基づく概数であり、今後の集計整理により異同訂正が生じることがあるとされています。本文中の条文・資料の引用は、読みやすさのために要旨として示した箇所があります。正確な文言は必ず原文をご確認ください。記載した年月日・人数・金額・割合は執筆時点で確認したものですが、制度・運用・統計は変更される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず裁判所、法務省、e-Gov法令検索、ご利用予定の金融機関などで最新の内容をご確認のうえ、法的な判断については必ず弁護士・司法書士に、税務については税理士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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