合同会社は「社員」が持ち主――株式会社と何が違うのか

まず、言葉の整理から始めます。合同会社でいう「社員」とは、従業員のことではありません。会社にお金や財産を出した出資者のことを指します。株式会社でいえば株主にあたる立場です。

会社法は、合名会社・合資会社・合同会社の3つをまとめて「持分会社」と呼んでいます(会社法575条1項)。このうち合同会社は、社員全員が有限責任(出資した額を限度に責任を負う)で、出資は設立時に全額払い込むしくみです。

株式会社合同会社
出資者の呼び方株主社員
出資者の地位株式持分
経営を行う人取締役(株主と別でよい)原則として社員全員(定款で業務執行社員を定められる)
出資者が亡くなったとき株式は原則としてそのまま相続される社員は退社する(会社法607条1項3号)
決算公告必要(会社法440条)規定なし

いちばん大きな違いは、合同会社では「出資者であること」と「経営すること」が、もともと一体になっているという点です。会社法590条1項は「社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する」と定めています。

つまり合同会社は、「この人たちで一緒にやる」という信頼関係を前提にした会社なのです。だからこそ、社員が亡くなったときに、会社が知らない相続人が自動的に経営に加わることがないように作られています。この考え方が、以下の条文の背景にあります。

[なぜ合同会社が増えているのか]
株式会社の設立には登録免許税15万円(最低額)と定款認証の手数料がかかりますが、合同会社は登録免許税6万円(最低額)で、公証人による定款認証も不要です。決算公告の義務もありません。こうした手軽さから、小規模な事業や資産管理会社として選ばれることが多くなっています。なお、税金の計算は法人税法上株式会社と基本的に同じ扱いです。費用や手続きの最新の取扱いは、法務局でご確認ください。

社員の死亡は「退社」――会社法607条1項3号と、定款で外せない理由

合同会社の社員が亡くなったとき、最初に適用される条文がこれです。

社員は、(中略)次に掲げる事由によって退社する。
三 死亡
会社法607条1項(法定退社)

「退社」というと自分から辞めることを思い浮かべますが、ここでいう退社は法律上、当然にその効果が生じるものです。亡くなった社員は、死亡の時点で社員ではなくなります。

ここで多くの方がつまずくのが、「では定款で『社員は死亡によっては退社しない』と書いておけばよいのでは」という発想です。しかし、会社法はそれを認めていません。

持分会社は、その社員が前項第五号から第七号までに掲げる事由の全部又は一部によっては退社しない旨を定めることができる。
会社法607条2項

定款で退社しないと定められるのは、5号(破産手続開始の決定)・6号(解散)・7号(後見開始の審判を受けたこと)だけです。3号の「死亡」は、この範囲に入っていません。

ここが要点です

「社員が死亡しても退社しない」と定款に書くことは、会社法607条2項の範囲外です。

死亡による退社そのものは避けられません。使えるのは、次に見る会社法608条1項の「持分を承継する旨の定め」のほうです。書き方を誤ると、いざというときに意図した効果が生じないおそれがありますので、定款の文言は司法書士・弁護士にご確認ください。

参考:会社法607条1項が定める退社事由

号退社事由定款で「退社しない」とできるか
1号定款で定めた事由の発生―
2号総社員の同意―
3号死亡できません
4号合併(法人である社員が消滅する場合に限る)できません
5号破産手続開始の決定できます(607条2項)
6号解散(4号・5号によるものを除く)できます(607条2項)
7号後見開始の審判を受けたことできます(607条2項)
8号除名―

定款に定めがなければ、相続人が受け継ぐのは「持分の払戻しを受ける権利」

亡くなった方が退社した結果、相続人には何が残るのでしょうか。条文はこう定めています。

退社した社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる。
ただし、第六百八条第一項及び第二項の規定により当該社員の一般承継人が社員となった場合は、この限りでない。
会社法611条1項(退社に伴う持分の払戻し)

つまり、定款に608条1項の定めがない場合、相続人が相続するのは「会社の持分」そのものではなく、会社に対して「お金を払ってください」と言える権利(持分払戻請求権)です。

ここが実務でいちばん誤解されるところです。整理すると、次のようになります。

定款に608条1項の定めがない定款に608条1項の定めがある
相続人の立場社員にはなりません持分を承継した時に社員となります(608条2項)
相続するもの持分の払戻しを受ける権利(611条1項)持分そのもの
会社の意思決定関与できません社員として関与します
会社の資金払戻しのため資金が社外に出ます社外に出ません
社員が1人だけの会社解散します(641条4号)解散を避けられます

払戻しの額は、いつの時点で計算するのか

会社法611条2項は、「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない」と定めています。相続の場合、退社の時=死亡の時です。

また同条3項により、持分は、出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができます。現物(不動産など)で出資していた場合でも、会社は金銭で払い戻すことができる、ということです。

合同会社では、払戻しに「債権者の異議手続」が必要になることがあります

合同会社は社員全員が有限責任ですので、会社財産が会社の債権者にとっての唯一のよりどころになります。そのため、持分の払戻しには特別な制限が置かれています。

合同会社が持分の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額(=持分払戻額)が
当該持分の払戻しをする日における剰余金額を超える場合には、
当該合同会社の債権者は、持分の払戻しについて異議を述べることができる。
会社法635条1項(債権者の異議)

この場合、会社は官報に公告し、知れている債権者には各別に催告しなければならず、異議を述べることができる期間は1か月を下ることができません。さらに持分払戻額が純資産額(法務省令で定める方法により算定される額)を超える場合には、2か月を下ることができません(会社法635条2項ただし書)。

「相続はしたが、お金はすぐには受け取れない」ということが起こります

持分払戻請求権を相続しても、会社に払える現金がなければ、実際には受け取れません。会社の財産の大半が事業用の不動産や機械である場合、払戻しのために事業用資産を売らざるを得なくなることもあります。

一方で、相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です(相続税法27条1項)。お金が入る前に納税期限が来るという事態が起こり得ます。具体的な見込みは、必ず税理士にご相談ください。

定款に「相続人が持分を承継する」と定めておく――会社法608条1項・2項・3項

ここまで見てきた問題を、あらかじめ防ぐための条文が会社法608条です。

持分会社は、その社員が死亡した場合(中略)における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。
会社法608条1項(相続及び合併の場合の特則)

この定款の定めがある場合、相続人は持分を承継した時に、その持分を有する社員となります(会社法608条2項)。なお同項は「同項の一般承継人(社員以外のものに限る。)は」と定めており、もともと社員である方が持分を承継した場合は、あらためて社員になるという場面ではありません。会社法604条2項は、社員の加入には定款の変更が必要だと定めていますが、608条2項は「第六百四条第二項の規定にかかわらず」として、その例外を認めているのです。

さらに、手続き面でも配慮があります。

第一項の定款の定めがある場合には、持分会社は、同項の一般承継人が持分を承継した時に、
当該一般承継人に係る定款の変更をしたものとみなす。
会社法608条3項

つまり、あらためて他の社員の同意を取って定款変更の手続きを踏む必要はありません。相続人の氏名・住所への書き換えは、みなし規定によって自動的に行われたものとして扱われます。

[定款の文言の例(理解のための例示です)]
「当会社の社員が死亡した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人は、当該社員の持分を承継して社員となる。」といった定め方が一般的とされています。
ただし、相続人を限定したい場合(例:「業務を承継する者に限る」など)や、他の社員の同意を要件としたい場合など、会社の事情によって書き方は変わります。有効性や登記実務上の取扱いには専門的な判断を要しますので、必ず司法書士・弁護士にご相談のうえ作成してください。

「社員になること」と「代表社員になること」は別の話です

ここで注意が必要なのは、持分を承継して社員になったとしても、亡くなった方が持っていた業務執行社員・代表社員の地位まで当然に引き継ぐとは限らないという点です。

合同会社では、定款で業務執行社員を定めることができ(会社法590条1項は「社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する」としており、定款で別段の定めを置くことができます)、さらにその中から代表社員を定めることができます(会社法599条3項)。定款で「社員Aを業務執行社員とする」と個人名で定めていた場合、その地位が相続人に引き継がれるかどうかは、定款の定め方によって変わり得ます。

登記との関係も見ておきましょう。合同会社では、業務執行社員・代表社員の氏名などが登記事項とされています(会社法914条)。そして登記事項に変更が生じたときは、次のとおりです。

会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、
二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。
会社法915条1項(変更の登記)

2週間という期間は、相続の手続きとしてはきわめて短いものです。戸籍を集め、遺産分割の話し合いをしているうちに、あっという間に過ぎてしまいます。必要となる書類や具体的な登記の進め方は、早い段階で司法書士にご相談ください。

相続人が複数いるとき――権利行使者を1人決める(会社法608条5項)

定款に608条1項の定めがあり、相続人が複数いる場合、持分はどうなるのでしょうか。条文はこう定めています。

第一項の一般承継人(相続により持分を承継したものに限る。)が二人以上ある場合には、
各一般承継人は、承継した持分についての権利を行使する者一人を定めなければ、
当該持分についての権利を行使することができない。
ただし、持分会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
会社法608条5項

これは、株式会社で相続により株式が共同相続人の準共有になったときに権利行使者の指定・通知が必要とされること(会社法106条)と、よく似た考え方です。会社としては、誰の意思を会社の意思決定に反映させればよいのかをはっきりさせる必要があるからです。

権利行使者が決まらないあいだ、原則としてその持分についての権利を行使できません。社員が他にいない会社では、会社の意思決定が止まってしまうおそれがあります。

STEP 1相続の開始
(社員の死亡)
STEP 2定款に608条1項の
定めがあるか確認
STEP 3相続人が複数なら
権利行使者を1人決める
STEP 4遺産分割・
変更登記(2週間以内)
[出資の払込みが終わっていない場合]
会社法608条4項は、出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していない一般承継人が2人以上あるときは、各一般承継人が連帯してその履行をする責任を負うと定めています。もっとも合同会社では、設立に際して社員になろうとする者は、設立の登記をする時までに出資の全額を払い込む(または給付する)こととされています(会社法578条)。設立後に加入する場合も、払込み等を完了した時に社員となるとされています(会社法604条3項)。そのため、この条項が実際に問題になるのは、主として合名会社・合資会社の場面です。

社員が1人だけの合同会社は、死亡で解散し「継続」もできない

ここが、本記事でもっともお伝えしたい部分です。社員が1人しかいない合同会社で、その唯一の社員が亡くなった場合を考えてみましょう。

定款に608条1項の定めがなければ、その社員は死亡によって退社します(607条1項3号)。その結果、会社に社員が1人もいなくなります。会社法は、これを解散の事由としています。

持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。
四 社員が欠けたこと。
会社法641条4号(解散の事由)

そして、多くの方が見落とすのが、次の条文です。

持分会社は、前条第一号から第三号までに掲げる事由によって解散した場合には、
次章の規定による清算が結了するまで、社員の全部又は一部の同意によって、持分会社を継続することができる。
会社法642条1項(持分会社の継続)

「社員が欠けたこと」による解散は、継続の規定の対象外です

会社法642条1項が継続を認めているのは、641条1号(存続期間の満了)・2号(定款で定めた解散事由の発生)・3号(総社員の同意)によって解散した場合です。

4号の「社員が欠けたこと」は、この範囲に含まれていません。つまり、定款に608条1項の定めがないまま一人社員が亡くなると、会社は解散し、清算の手続きに入ることになります。個別の事案でどのような手続きが可能かは必ず司法書士・弁護士にご確認くださいが、少なくとも「あとから相続人が社員になって、そのまま会社を続ける」という形が当然に認められるわけではないことは、知っておいていただきたい点です。

解散すると、事業はどうなるのか

解散した会社は清算の手続きに入り、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなされます(会社法645条)。つまり、財産を売り、債務を払い、残りを分配して終わらせることが仕事になります。新しく事業を伸ばしていくための活動は、想定されていません。

清算を進める人は、裁判所が選任します

では、その清算を誰が進めるのでしょうか。通常であれば業務を執行する社員が清算人になりますが(会社法647条1項1号)、社員が欠けたことによって解散した場合には、そもそも清算人になる社員がいません。そこで、次の規定が置かれています。

前二項の規定にかかわらず、第六百四十一条第四号又は第七号に掲げる事由によって解散した清算持分会社については、
裁判所は、利害関係人若しくは法務大臣の申立てにより又は職権で、清算人を選任する。
会社法647条3項(清算人の就任)

ご遺族としては、利害関係人として裁判所に清算人の選任を申し立てることが、現実的な次の一歩になります。また、清算持分会社は、その債務を弁済した後でなければ、財産を社員に分配することができません(会社法664条本文)。具体的な申立ての手続きと見通しについては、必ず司法書士・弁護士にご相談ください。

許認可が必要な事業(建設業、運送業、不動産業、介護事業など)を営んでいた場合、その許認可も会社の解散とともに失われるのが原則です。事業を続けたければ、新しく会社を作り、許認可を取り直すことになりかねません。取引先との契約も、あらためて結び直す必要が生じます。

定款に一文あるかないかで、ここまで結果が変わります。一人で合同会社を営んでおられる方は、いますぐ定款を確認していただきたいと思います。

相続税では――持分会社の出資は取引相場のない株式に準じて評価する(通達194)

相続税の計算でも、合同会社の持分は財産として評価されます。評価のルールは次のとおりです。

会社法第575条第1項に規定する持分会社に対する出資の価額は、
178(取引相場のない株式の評価上の区分)から前項までの定めに準じて計算した価額によって評価する。
財産評価基本通達194(持分会社の出資の評価)

つまり、非上場の株式会社の株式と同じ考え方で評価します。会社の規模に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・その併用、あるいは少数の出資であれば配当還元方式が用いられる、という枠組みです。詳しくは非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価の記事で整理しています。

[定款に定めがなく、持分払戻請求権を相続した場合]
この場合に相続財産となるのは持分そのものではなく、会社に対する金銭債権です。会社法611条2項により、退社の時(=死亡の時)における会社の財産の状況に従って計算されることになります。この権利をどのように評価するかは、会社の財産内容や払戻しの合意の有無などによって取扱いが分かれ得る、個別性の高い事項です。必ず税理士にご確認ください。

事業承継税制の対象になるか

「自社株の相続税・贈与税の納税を猶予する」事業承継税制(法人版)は、株式会社だけの制度ではありません。租税特別措置法70条の7第2項2号は、猶予の対象となる「非上場株式等」を次のように定義しています。

号内容
イ当該株式に係る会社の株式の全てが金融商品取引所に上場されていないことその他財務省令で定める要件を満たす株式
ロ合名会社、合資会社又は合同会社の出資のうち財務省令で定める要件を満たすもの

この70条の7は贈与税の納税猶予の条文ですが、相続税の納税猶予(租税特別措置法70条の7の2)でも、その2項2号が「前条第二項第二号に定める株式等をいう」としており、同じ定義が用いられています。

このように、合同会社の出資も、条文上は「非上場株式等」に含まれています。ただし、制度を実際に使えるかどうかは、財務省令で定める要件のほか、認定要件・後継者の要件・特例承継計画の提出期限など多くの条件を満たす必要があります。制度の全体像は事業承継税制(法人版)の記事で整理していますが、個別の適用の可否は、必ず税理士および認定を行う都道府県にご確認ください。

「合同会社だから事業承継税制は使えない」と決めつけないでください

実務では「持分会社は対象外」と思い込まれていることがありますが、条文上は合同会社の出資も対象に含まれています。一方で要件は細かく、資産保有型会社・資産運用型会社に該当すると使えないなど注意点も多くあります。最新の要件は中小企業庁と国税庁でご確認ください。

合同会社の社員の死亡でよくある7つの落とし穴

  1. 「株式会社と同じように、持分も相続されるはず」と思い込む 持分会社では、社員の死亡は退社の事由です(会社法607条1項3号)。定款に608条1項の定めがなければ、相続人は社員になれません。まず定款を確認してください。
  2. 定款に「社員は死亡によっては退社しない」と書いて安心している 定款で退社しないと定められるのは607条1項5号から7号までであり、3号の死亡は含まれていません(会社法607条2項)。必要なのは608条1項の「持分を承継する旨の定め」です。
  3. 一人社員の合同会社で、定款に承継の定めを置いていない 唯一の社員が亡くなると「社員が欠けたこと」により解散します(会社法641条4号)。しかも642条1項の継続は1号から3号までの事由に限られており、4号は対象外です。許認可や取引先との契約にも影響が及びます。
  4. 持分払戻請求権を相続すれば、すぐ現金が入ると考える 会社に支払い能力がなければ受け取れません。さらに持分払戻額が剰余金額を超えるときは債権者の異議手続(会社法635条)が必要で、期間は1か月(純資産額を超えるときは2か月)を下ることができません。一方、相続税の申告期限は10か月です。
  5. 相続人が複数いるのに、権利行使者を決めない 会社法608条5項により、権利行使者1人を定めなければ、原則としてその持分についての権利を行使できません。遺産分割が長引くと、会社の意思決定が止まります。
  6. 社員になれば、代表社員の地位も自動的に引き継げると考える 業務執行社員・代表社員の地位を当然に引き継げるとは限らず、定款の定め方によります。しかも登記事項の変更は2週間以内(会社法915条1項)。早めに司法書士にご相談ください。
  7. 会社への貸付金(役員借入金)を相続財産から漏らす 亡くなった方が会社にお金を貸していた場合、その貸付金債権も相続財産です。持分の評価に気を取られて見落としやすい財産ですので、会社の決算書で確認してください。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「父の会社を継ぐつもりだったのに、解散していると言われて」――Nさまのご相談

Nさま(40代・男性)は、お父さま(70代)が一人で営んでいたデザイン制作の合同会社を継ぐつもりで、勤めていた会社を辞める準備をしておられました。ところが、お父さまが急な病で亡くなり、相続手続きを進めるなかで、司法書士から「定款に、社員が亡くなったときに相続人が持分を承継するという定めがありません」と指摘されたのです。

Nさまは「会社の株を相続すれば、そのまま社長になれると思っていました」とおっしゃいました。しかし合同会社の社員の死亡は退社の事由であり(会社法607条1項3号)、社員がお父さまお一人だったため、「社員が欠けたこと」による解散(同641条4号)の問題が生じている、というご説明を受けたとのことでした。

私からは、「会社法642条1項の継続は、641条1号から3号までの事由による解散が対象で、4号は含まれていません。今後の具体的な進め方は、登記を扱う司法書士と弁護士のご判断を仰いでください」とお伝えしました。あわせて、会社に残る財産や、お父さまが会社に貸していた資金(役員借入金)についても、相続財産として整理が必要であることをご案内しました。

Nさまは最終的に、ご自身で新たに会社を設立し、取引先との契約を結び直す方向で進められました。数か月後にお会いした際、「定款のたった一行で、こんなに違うとは思いませんでした。取引先には本当に迷惑をかけました」とおっしゃっていたのが、強く印象に残っています。

そして「同じ思いをする人が減ってほしいので、うちの新しい会社の定款には、最初から入れてもらいました」と話してくださいました。

― 私たちから一言 ―

定款は「作ったとき一度きり」の書類ではありません

合同会社は、手軽に作れることが大きな魅力です。設立を代行するサービスも増え、ひな形のまま定款を作って、そのまま何年も見直していないという会社は、決して少なくありません。

けれども、この記事で見てきたとおり、合同会社の相続は、定款に何が書いてあるかで結論が大きく変わります。株式会社であれば、株式はひとまず相続されて時間の余裕が生まれますが、持分会社にはその余裕がないのです。

とくにお一人で合同会社を営んでおられる方には、どうか一度、定款をご覧になっていただきたいと思います。「社員が死亡した場合には、その相続人その他の一般承継人が持分を承継する」という趣旨の一文があるかどうか。それだけでも、確認する価値があります。

私たちは登記や税の代理を行う立場ではありませんが、「どこに相談すればよいか分からない」という段階から、ご一緒に整理し、司法書士・税理士・弁護士におつなぎすることができます。会社のことも、ご家族のことも、どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 合同会社の「社員」は従業員ではなく出資者のことで、株式会社の株主にあたります。合名会社・合資会社・合同会社をまとめて持分会社といいます(会社法575条1項)。
  • 社員の死亡は「退社」の事由です(会社法607条1項3号)。株式会社の株式と違い、持分は当然には相続されません。
  • 定款で「退社しない」と定められるのは607条1項5号から7号までで、3号の死亡は対象外です(会社法607条2項)。
  • 定款に608条1項の定めがあれば、相続人は持分を承継した時に社員となり(608条2項)、定款変更をしたものとみなされます(608条3項)。
  • 定めがなければ、相続人が受け継ぐのは持分の払戻しを受ける権利です(会社法611条1項)。計算は退社の時の財産の状況によります(同2項)。
  • 合同会社では、持分払戻額が剰余金額を超える場合、債権者の異議手続が必要です(会社法635条)。期間は1か月(純資産額を超えるときは2か月)を下ることができません。
  • 相続人が2人以上のときは、権利行使者1人を定めなければ権利を行使できません(会社法608条5項)。
  • 社員が1人だけの合同会社は、その死亡で「社員が欠けたこと」により解散し(641条4号)、642条1項の継続は1号から3号までが対象で4号は含まれません。
  • 社員が欠けたことによる解散では清算人になる社員がいないため、裁判所が利害関係人若しくは法務大臣の申立てにより又は職権で清算人を選任します(会社法647条3項)。債務を弁済した後でなければ財産を社員に分配できません(同664条本文)。
  • 相続税では、持分会社の出資は取引相場のない株式に準じて評価します(財産評価基本通達194)。合同会社の出資も、条文上は事業承継税制の「非上場株式等」に含まれています(租税特別措置法70条の7第2項2号ロ)。
  • 最新の法令はe-Gov法令検索・法務省・国税庁でご確認のうえ、定款と登記は司法書士・弁護士に、相続税は税理士にご相談ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上・税務上の助言を提供するものではなく、特定の定款の有効性や、特定の会社における手続きの可否を保証するものではありません。定款の定めの有無による結論、業務執行社員・代表社員の地位の承継、解散後に採り得る手続き、持分払戻請求権の評価、事業承継税制の適用の可否などは、定款の全体の記載、会社の財産内容、社員構成などの個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。本文中の定款の文言は理解のための例示であり、そのまま使用できることを保証するものではありません。本文中の条文の引用は、読みやすさのために一部を省略し、要旨として示した箇所があります。正確な文言は必ず原文をご確認ください。記載した条文番号は執筆時点で確認したものですが、法令は改正等により変更される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、法務省、国税庁で最新の内容をご確認のうえ、定款・登記については必ず司法書士または弁護士に、相続税については税理士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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