同族会社の株式は、相続で「止まる」財産です

預貯金や不動産と、決定的に違うところ

非上場の同族会社の株式は、相続財産のなかでも、たいへん特殊な性質を持っています。

預貯金であれば、金額がはっきりしています。不動産であれば、そこに建物が建ち、誰かが住んでいます。ところが自社株は、金額もはっきりせず、目にも見えず、それでいて「会社そのものを動かす力」がついています。

自社株は
「財産」であると同時に「支配権」
だからこそ、分割が終わるまでのあいだの扱いが問題になります

そして、ここが実務でいちばん困るところなのですが、会社は、社長が亡くなっても止まってくれません。取引先への支払いがあり、従業員への給与があり、金融機関との取引があります。役員の任期が来れば、株主総会を開いて選任しなければなりません。

「遺産分割が終わってから考えます」では、間に合いません

遺産分割の協議は、相続人が多い、財産の全体像が見えない、感情のもつれがあるといった事情があれば、1年、2年とかかることも決してめずらしくありません。
そのあいだ、会社の株主総会をどうするのか。――これは「あとで考える」ことができない問題です。相続開始の直後から、すでに走り出している問題だとお考えください。遺産分割そのものの進め方については遺産分割の4つの方法――現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の違いと選び方を完全ガイドもあわせてご覧ください。

遺産分割が終わるまで、株式は相続人全員の「準共有」(民法898条1項・264条)

まず、法律上の状態を正確に押さえます

相続人が複数いる場合、遺産分割が成立するまで、相続財産は相続人全員の共有とされています。根拠は民法898条1項です。

民法898条1項
「相続人が数人あるときは、
相続財産は、その共有に属する。」

もっとも、株式は「所有権」そのものではなく、株主としての地位(株主権)という財産権です。所有権以外の財産権について共有の規定を準用するのが、民法264条です。ですから、株式については「共有」ではなく「準共有」と呼ぶのが通例です。

[「1,000株を、法定相続分どおり分けて持っている」ではありません]
ここは、ほんとうに誤解の多いところです。被相続人が1,000株を持っていて、相続人が3人いる場合、遺産分割が終わるまでは「Aさんが何株、Bさんが何株」という状態にはなりません。
1,000株全体について、相続人全員が相続分に応じた持分を持っている――これが準共有です。「自分の相続分の分だけ、勝手に議決権を行使する」ということは、原則としてできません。
被相続人が持っていた1,000株は、分割が終わるまでどうなるか × よくある誤解 長男400株・二男300株・長女300株に 自動的に分かれている → そうはなりません 各自が単独で議決権を行使することはできません ○ 法律上の状態 1,000株「全体」について 相続人全員が持分を持つ = 準 共 有 民法898条1項・264条
遺産分割が成立してはじめて、「誰が何株」が確定します

遺言があれば、この問題は起きにくくなります

「株式はすべて長男に相続させる」という遺言――いわゆる特定財産承継遺言があれば、相続開始のときに、その株式は長男が承継すると整理されるのが原則です。準共有の期間が生じません。

[同族会社の事業承継で、遺言がとりわけ大切な理由]
個人の相続では「遺言がなくても、話し合えばよい」という場面も少なくありません。けれども、自社株については事情が違います。準共有の期間そのものが、会社の意思決定を止めてしまうからです。
会社を経営していらっしゃる方にとって、遺言は「あれば安心」ではなく、「事業を止めないための備え」だと、私どもは考えております。もっとも、株式を集中させれば他の相続人の遺留分が問題になり得ますので、全体の設計は必ず専門家とご相談ください。詳しくは事業承継とは、親族内・従業員・M&Aの3つの選択肢と進め方もご覧ください。

権利行使者を一人定めて会社に通知する――会社法106条

条文は、たいへんはっきりしています

準共有の状態にある株式について、会社に対してどう権利を行使するのかを定めているのが、会社法106条です。

会社法106条(共有者による権利の行使)
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。

ポイントは、次の3つです。

  1. 権利を行使する者は「一人」です――複数を立てることはできません。相続人全員がそろって議決権を行使する、という形でもありません。
  2. 会社に「通知」しなければなりません――共有者のあいだで決めただけでは足りず、その方の氏名を会社に通知してはじめて、権利を行使できるようになります。
  3. 通知がなければ、原則として権利を行使できません――議決権はもちろん、株主としての権利の行使が、原則としてできない状態になります。

「権利行使者=株式を取得する人」ではありません

ここは、必ず押さえておいていただきたいところです。権利行使者に指定されたからといって、その方がその株式を取得することが決まるわけではありません。
権利行使者の指定は、あくまで「分割が終わるまでのあいだ、誰が会社に対して権利を行使するか」という手続の問題です。遺産分割で誰が株式を取得するかは、まったく別の話です。ここを混同したまま「権利行使者になったら株を取られる」と身構えてしまい、話し合いが止まってしまう――そういうご相談を、実際にお受けしたことがあります。

権利行使者は誰が決めるのか――持分の価格の過半数(最高裁平成27年2月19日判決)

「全員一致でなければ決められないのか」という問題

会社法106条は、「共有者は、権利を行使する者一人を定め」とは書いていますが、その一人を、どういう手続で決めるのかまでは書いていません。

もし全員一致でなければ決められないとすると、相続人のうち一人でも反対すれば、いつまでも権利行使者を決められないことになります。それでは、会社が止まってしまいます。

最高裁平成27年2月19日判決の判断

共有株式の議決権行使は
特段の事情がない限り「管理に関する行為」
= 各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する
最高裁判所第一小法廷 平成27年2月19日判決(民法252条本文=現行の民法252条1項本文)

最高裁判所は、平成27年2月19日の判決で、共有に属する株式についての議決権の行使は、それによって直ちに株式を処分したり株式の内容を変更したりすることになるなどの特段の事情がない限り、株式の管理に関する行為にあたり、民法252条本文(現行の民法252条1項本文に相当します)により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するとしました。

相続人の持分権利行使者を決められるか(原則)
長男2分の1・二男2分の1 どちらも「過半数」になりません。原則として、お二人の合意がなければ決められないことになります
長男2分の1・二男4分の1・長女4分の1 長男だけでは2分の1で足りませんが、長男といずれか一人で4分の3となり、過半数になります
長男4分の3・二男4分の1 長男の持分だけで過半数です。二男が反対しても、原則として権利行使者を決められます

相続人が二人で持分が半々のとき――ここがいちばん詰まります

お子さまが二人で、法定相続分が2分の1ずつ――同族会社ではきわめてよくある形です。この場合、2分の1は「過半数」ではありませんから、原則としてお二人の合意がなければ、権利行使者を決められないことになります。
お二人の関係がこじれていれば、株主総会が開けない状態が続きます。――だからこそ、経営者の方には、生前の遺言や株式の集中を強くおすすめしているのです。実際にこの状態に陥ってしまった場合の打開策は、事案によって大きく異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。

会社法106条ただし書――「会社が同意すれば大丈夫」ではありません

ただし書だけを読むと、抜け道があるように見えます

会社法106条には、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない」というただし書が置かれています。

これだけを読むと、「権利行使者を決められなくても、会社が同意しさえすれば、相続人の一人が議決権を行使できる」と読めそうです。実際、そう考えて株主総会を開いてしまった会社があり、それが争われたのが、先ほどの平成27年の事件でした。

最高裁は、その読み方を否定しました

最高裁平成27年2月19日判決は、共有に属する株式について会社法106条本文の指定・通知を欠いたまま権利が行使された場合、その権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が同条ただし書の同意をしても、その権利行使は適法とはならないとしました。
つまり、ただし書は「会社の側が同意しないかぎり権利行使を認めない」という会社の利益のための規定であって、共有者の内部で決めるべきことを飛ばしてよい、という規定ではないという理解です。
「会社が認めたのだから問題ない」――この理解のまま株主総会を開くと、後日、決議の効力そのものを争われるおそれがあります。実際の判断は事案によって異なりますので、必ず弁護士にご確認ください。

[実務としては、こう進めます]
①相続人と、その相続分(持分)を確認する → ②持分の価格の過半数で権利行使者を決める → ③決まった方の氏名を、書面で会社に通知する → ④会社は株主名簿とあわせて、その通知を保管する。
後から争いになったときに効いてくるのは、この「書面」です。口頭のやりとりだけで済ませないでください。相続人の確定そのものについては相続の戸籍収集と法定相続情報一覧図とは、相続人確定の進め方と必要書類を完全ガイドもご覧ください。

定款にあると効いてくる「相続人等に対する売渡しの請求」――会社法174条〜177条

相続には、譲渡制限が効きません

同族会社の株式には、ほぼ例外なく譲渡制限がついています。「株式を譲り渡すには、会社の承認が必要」という定款の定めです。会社にとって望ましくない人が株主になるのを防ぐための仕組みです。

ところが、相続は「譲渡」ではありません。被相続人の地位をそのまま引き継ぐ一般承継だからです。ですから、相続によって株式が移転する場面では、会社の譲渡承認は不要とされています。

[つまり、こういうことが起こり得ます]
会社と何の関わりもない相続人――たとえば、経営にまったく関与していないご親族や、そのさらに次の世代の方が、譲渡制限をすり抜けて株主になるということが、制度上あり得ます。
この「穴」をふさぐために用意されているのが、会社法174条以下の「相続人等に対する売渡しの請求」です。

4つの条文を、順に押さえます

条文内容(概要)
会社法174条 定款の定めが必要――相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を売り渡すよう請求できる旨を、あらかじめ定款で定めておくことができます。定款に定めがなければ、この制度は使えません。
会社法175条 株主総会の決議――請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議で「売渡しの請求をする株式の数」と「その株式を有する者の氏名または名称」を定めます。この決議は特別決議とされており(会社法309条2項3号)、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(定款でこれを上回る要件を定めることもできます)。そして、その対象となった方は、原則としてその株主総会で議決権を行使できません(175条2項)。
会社法176条 1年の期限――会社は、対象者に対して売渡しを請求できますが、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、請求できません(176条1項ただし書)。請求は株式数を明らかにして行い、会社はいつでも撤回できます。
会社法177条 売買価格の決定――価格は会社と対象者の協議で定めます。協議が調わないときは、売渡請求があった日から20日以内に、会社または対象者が裁判所に売買価格の決定を申し立てることができます。その期間内に申立てがなく、協議も調わなかったときは、売渡しの請求は効力を失います(177条5項)。

いちばんの落とし穴――後継者自身が対象にされることがあります

この制度は「会社と関わりのない人が株主になるのを防ぐ」ためのものですが、条文は「相続その他の一般承継により株式を取得した者」と定めているだけです。後継者として自社株を相続した方も、形の上では「相続により株式を取得した者」にあたります。
そして会社法175条2項により、売渡請求の対象とされた方は、原則としてその株主総会で議決権を行使できません。――つまり、過半数の株式を相続したはずの後継者が、その株式について議決権を行使できないまま、他の株主だけで売渡請求の決議が通ってしまうという事態が、制度上は起こり得ます。
あわせて、定款の定足数にもご注意ください。特別決議の定足数は、定款によって議決権を行使できる株主の議決権の3分の1以上の割合まで引き下げることができます(会社法309条2項)。同族会社では定足数を緩和している定款が実際に少なくなく、緩めてあるほど、後継者を除いた決議が成立しやすくなります。
「定款に売渡請求の定めがあるかどうか」は、経営者の方が生前に必ず確認しておくべき一点です。定款の見直しが必要かどうかは、会社の株主構成によって結論が変わりますので、必ず弁護士・司法書士にご相談ください。

[会社が買い取るには、お金の裏づけも必要です]
売渡請求による取得は、会社による自己株式の取得です。したがって、会社法が定める分配可能額による財源規制(会社法461条)を受けるのが原則です。「定款に定めがあるから、いつでも買い取れる」というものではありません。資金と分配可能額の裏づけを、あらかじめご確認ください。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「株主総会が開けないまま、半年が過ぎました」――Iさまのご相談

Iさま(50代・男性)は、建設業を営む同族会社の専務をなさっていた方です。半年前に、社長であったお父さまを亡くされました。

お父さまは、発行済株式のほぼすべてを一人で保有しておられました。相続人は、お母さま、Iさま、そして東京にお住まいの妹さまの3人です。

ご相談の入口は、「役員の任期が切れるのに、株主総会が開けません」というものでした。

お話をうかがうと、妹さまとのあいだで、遺産分割の協議が止まっているとのことでした。「会社は私が継ぐと父も言っていたし、妹も分かっているはずなのですが、自宅の評価のところで折り合いがつかなくて」と、Iさまはおっしゃいました。

私は、「株主総会そのものは、遺産分割が終わらなくても開ける可能性があります」とお伝えしました。Iさまは、驚いた顔をなさいました。「え、分割が終わらないと株主じゃないのでは」と。

――ここが、たいへん多い誤解です。遺産分割が終わっていなくても、株式は相続人全員の準共有として、すでに相続人のもとにあります。問題は「誰が権利を行使するか」であって、「株主かどうか」ではありません。

そこで、「権利行使者を一人お決めになって、会社に通知する」という会社法106条の手続をご説明しました。そして、「決め方は、全員一致ではなく、持分の価格の過半数によるとされています」と申し上げました。

Iさまは、指を折って数えておられました。「母が2分の1、私と妹が4分の1ずつ……。母と私で4分の3ですね」と。

――そのとおりです。お母さまとIさまの意見がそろえば、持分の価格の過半数になります。もっとも、これは遺産分割の話し合いとはまったく別のことですから、妹さまにも、その趣旨をきちんとご説明しておいたほうがよいとお伝えしました。「株を取られる」という誤解が入ると、分割の話し合いまで硬直してしまうからです。

あわせて、「会社の定款は、お手元にありますか」とおたずねしました。相続人等に対する売渡しの請求の定めがないかどうかを、確認していただくためです。

Iさまは、こうおっしゃって帰られました。「定款なんて、設立以来一度も読んでいませんでした」と。

――これも、Iさまだけのお話ではありません。同族会社の定款は、相続が起きてはじめて読まれることが、ほんとうに多いのです。できれば、経営者の方がお元気なうちに、一度お読みください。

株主名簿の名義書換えと、相続税・売却の税務

名義書換えは、相続人が単独で請求できます

遺産分割が終わって取得者が確定したら、会社の株主名簿の名義を書き換えてもらいます。

株主名簿の名義書換えの請求は、原則として、株式を取得した人と、名簿上の株主(またはその相続人その他の一般承継人)とが共同でしなければならないとされています(会社法133条2項)。もっとも同項は、「利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合」を、この共同請求の例外としています。そして、一般承継により株式を取得した者が、その一般承継を証する書面その他の資料を提供して請求したときは、単独で請求できるとされています(会社法施行規則22条1項4号)。

[実務で用意するもの]
被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍、遺産分割協議書または遺言書、相続人の印鑑証明書――といったものが一般的です。会社によって求められる書類が異なりますので、まずは会社(多くの場合は顧問税理士や総務のご担当)にご確認ください。

相続税――評価は「取引相場のない株式」の方法によります

非上場の同族会社の株式は、財産評価基本通達の定める「取引相場のない株式」の評価方法によって評価します。類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式といった方法があり、会社の規模や、株式を取得する方の議決権割合によって、どの方法によるかが変わります。

「換金できないのに、相続税だけかかる」という問題

自社株の相続で、いちばん重い問題がここです。非上場株式は、買い手がすぐに見つかるものではありません。それでいて、相続税の評価額は高く出ることが少なくありません。
結果として、「売れない財産に、多額の相続税がかかる」という事態が起こり得ます。納税資金をどう手当てするかは、事業承継の設計そのものです。評価と税額は必ず税理士にご確認ください。詳しくは非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価――類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式を完全ガイドをご覧ください。

納税資金の手当てに使われる、2つの特例

  1. 相続税の取得費加算の特例――相続した財産を、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに譲渡した場合、納付した相続税額のうち一定の金額を、譲渡所得の計算上、取得費に加算できる制度です(租税特別措置法39条)。
  2. 相続財産に係る株式を発行会社に譲渡した場合の特例――相続により取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までにその発行会社に譲渡した場合、通常であればみなし配当として課税される部分について、株式の譲渡所得等として取り扱う特例が設けられています(租税特別措置法9条の7)。
[期限の数え方に、ご注意ください]
いずれの特例も、期限は「相続開始から3年」ではなく、「相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日まで」です。相続税の申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月ですので、実質的には相続開始からおよそ3年10か月ということになります。
適用の要件、必要な手続や添付書類は細かく定められており、会社法上の売渡請求による取得の場合の取扱いを含め、判断の難しい領域です。実際に適用できるかどうかは、必ず税理士に、また国税庁の最新の情報でご確認ください。事業承継税制については事業承継税制(法人版)とは――自社株の相続税・贈与税が100%猶予されるしくみと、2027年9月30日に延びた特例承継計画の期限を完全ガイドもあわせてご覧ください。
― 私たちから一言 ―

定款を、一度お読みになってください

同族会社の相続のご相談で、私どもが最初におたずねするのは、「定款は、お手元にありますか」ということです。

意外に思われるかもしれません。ですが、ここまでご説明してきたことの多くが、定款の書きぶりで結論を変えてしまうのです。相続人等に対する売渡しの請求の定めがあるかどうか。株式の譲渡制限がどう書かれているか。役員の任期は何年になっているか。――そのどれもが、相続が起きたときに、まっすぐ効いてきます。

そして、設立以来、一度も定款を読み返していない会社が、ほんとうに多いのです。司法書士の先生に作っていただいたまま、金庫の奥に眠っている。――決してめずらしいことではありません。

そのうえで、三つ、お伝えしたいことがあります。

ひとつめは、会社は、社長が亡くなっても止まらないということです。遺産分割は時間をかけて丁寧にお進めになってよいのですが、会社の意思決定だけは、待ってくれません。まず権利行使者を決めて会社に通知する――これは、遺産分割の話し合いとは切り離して、早い段階でお進めください。

ふたつめは、権利行使者の指定と、遺産分割は別物だということです。ここを混同したまま「株を取られる」という警戒心が生まれると、手続の問題が、感情の問題に変わってしまいます。ご家族にご説明なさるときは、この点をはっきり分けてお伝えください。

みっつめは、経営者の方には、遺言をおすすめしたいということです。自社株についてだけでも構いません。「株式は誰に」がはっきりしていれば、準共有の期間そのものが生じません。これは、ご家族のためであると同時に、従業員と取引先のための備えでもあります。もちろん、他の相続人の遺留分にも目を配った設計が必要です。

――私どもは弁護士でも税理士でもございませんので、決議の効力や税額を申し上げることはできません。ですが、「定款は読まれましたか」「権利行使者は決まりましたか」とおたずねすることはできます。その一言で止められることが、思いのほか多いのです。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

同族会社の株式の相続でよくある7つの落とし穴

最後に、実務でとくに多い誤解を7つ、整理いたします。

  1. 「遺産分割が終わるまで、株主はいない」と思い込む そうではありません。相続人が数人あるときは、相続財産は相続人の共有に属します(民法898条1項)。株式については、民法264条により「準共有」と整理されます。分割が終わっていなくても、株式はすでに相続人のもとにあります。問題は「誰が権利を行使するか」です。
  2. 「法定相続分どおりに、株数が分かれている」と考える 1,000株が自動的に400株・300株・300株に分かれるわけではありません。1,000株全体について、相続人が相続分に応じた持分を持つのが準共有です。したがって、相続人が自分の相続分の分だけ単独で議決権を行使する、ということは原則としてできません。
  3. 権利行使者を決めないまま、株主総会を開いてしまう 会社法106条本文により、権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ、その株式についての権利を行使することができません。これを欠いたまま開いた株主総会は、後日、決議の効力を争われるおそれがあります。
  4. 「権利行使者を決めるには全員一致が必要」と思い込む 最高裁平成27年2月19日判決は、共有株式の議決権行使は特段の事情がない限り管理に関する行為であり、民法252条本文(現行の民法252条1項本文に相当します)により各共有者の持分の価格に従いその過半数で決するとしました。ただし、相続人が二人で持分が2分の1ずつの場合は過半数になりませんので、原則としてお二人の合意が必要になります。
  5. 「会社が同意すれば、権利行使者は要らない」と考える 会社法106条ただし書だけを読むとそう見えますが、同判決は、権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が同意しても適法にはならないとしました。「会社が認めたのだから問題ない」は、通らないとお考えください。
  6. 定款の「相続人等に対する売渡しの請求」に気づかない 定款にこの定めがあると、会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内に、相続人に対して株式の売渡しを請求できます(会社法174条・176条1項)。しかも対象とされた方は、原則としてその株主総会で議決権を行使できません(175条2項)。後継者ご自身が対象にされ得る点に、とくにご注意ください。
  7. 「売れない株なのに、相続税だけかかる」ことを想定していない 非上場株式は換金性が乏しいいっぽうで、相続税の評価額は高く出ることが少なくありません。取得費加算の特例(租税特別措置法39条)や、発行会社への譲渡の特例(同法9条の7)は、いずれも相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までという期限があります。納税資金の手当ては、相続が起きてから考えるのでは遅いとお考えください。

この記事のまとめ

  • 相続人が複数いる場合、遺産分割が成立するまで、相続財産は相続人全員の共有に属します(民法898条1項)。株式は所有権以外の財産権ですので、民法264条により「準共有」と整理されます。
  • 準共有は「株数が分かれている状態」ではありません。被相続人が持っていた株式の全体について、相続人が相続分に応じた持分を持ちます。
  • 会社法106条本文により、共有に属する株式については、権利を行使する者一人を定め、その氏名または名称を会社に通知しなければ、その株式についての権利を行使することができません。
  • 権利行使者の指定は、遺産分割で誰が株式を取得するかとは別の問題です。指定されても、その方が株式を取得することが決まるわけではありません。
  • 最高裁平成27年2月19日判決は、共有株式の議決権行使は特段の事情がない限り管理に関する行為であり、民法252条本文(現行の民法252条1項本文に相当します)により各共有者の持分の価格に従いその過半数で決するとしました。
  • あわせて同判決は、権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社が会社法106条ただし書の同意をしても適法にはならないとしています。
  • 相続は「譲渡」ではなく一般承継ですので、譲渡制限株式であっても、相続による移転に会社の譲渡承認は不要とされています。
  • その代わりに置かれているのが「相続人等に対する売渡しの請求」(会社法174条〜177条)です。定款の定めが前提で、その都度、株主総会の特別決議が必要です(会社法175条1項、309条2項3号)。
  • 売渡請求ができるのは、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内です(会社法176条1項ただし書)。
  • 対象とされた方は、原則としてその株主総会で議決権を行使できません(会社法175条2項)。そのため、後継者ご自身が対象とされるおそれがあり、定款の確認は生前にお済ませください。
  • 売買価格は協議で定め、調わないときは、売渡請求があった日から20日以内に裁判所へ申立てができます。その期間内に申立てがなく協議も調わなければ、請求は効力を失います(会社法177条5項)。
  • 会社による買取りは自己株式の取得ですので、分配可能額による財源規制(会社法461条)を受けるのが原則です。
  • 株主名簿の名義書換えは、一般承継を証する書面その他の資料を提供すれば、取得者が単独で請求できるとされています(会社法133条2項、会社法施行規則22条1項4号)。
  • 非上場株式は換金性が乏しいのに評価額は高く出ることが少なくありません。取得費加算(租税特別措置法39条)と発行会社への譲渡の特例(同法9条の7)は、いずれも相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までという期限があります。評価・税額・特例の適用は、必ず税理士にご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上または税務上の助言を提供するものではなく、特定の会社における株主総会決議の効力、権利行使者の指定の有効性、売渡請求の可否、株式の評価額や税額を保証するものでもありません。同族会社の株式の相続は、定款の定め、株主構成、相続人の範囲と相続分、遺言の有無、会社の規模や資産状況など、個別の事実関係によって結論が大きく変わり得る事項です。とくに、権利行使者の指定をめぐる判断、会社法106条ただし書の適用、相続人等に対する売渡しの請求の可否と手続、非上場株式の評価と納税資金の手当てについては、判断を誤りやすい領域です。本文中の設例は、制度の構造をご理解いただくために単純化したものであり、実際の結論を示すものではありません。記載した法令名・条項・判決・数値は執筆時点で一次情報により確認したものですが、法令・通達・税制は改正される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、国税庁などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、会社法上の手続については必ず弁護士・司法書士に、相続税・譲渡所得の課税関係については必ず税理士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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