リバースモーゲージとは――自宅に住み続けながら、自宅を担保にお金を借りる
一般的な住宅ローンは、借りたお金を毎月少しずつ元金と利息で返していき、借入残高が減っていきます。これに対してリバースモーゲージは、毎月は利息だけを支払う(商品によっては利息も後払い)ことで月々の負担を抑え、元金は契約者が亡くなったときに一括で返すのが基本の形です。
「持ち家はあるけれど、年金収入だけでは手元資金が心もとない」「リフォームや住み替えの資金を、毎月の返済負担を増やさずに用意したい」――こうした高齢の方のニーズに応える仕組みとして利用されています。
3つのタイプ――リ・バース60・社協の不動産担保型生活資金・民間金融機関の商品
「リバースモーゲージ」と呼ばれるものには、大きく分けて次の3つのタイプがあります。お金の使いみちや対象者、亡くなったあとの扱いがそれぞれ異なるため、まずどのタイプかを確認することが出発点です。
| タイプ | 主な特徴 |
|---|---|
| 【リ・バース60】 (住宅金融支援機構と提携する金融機関) | 原則として満60歳以上の方向けの住宅ローン(満50歳以上60歳未満の方も、融資限度額を抑えて利用可能)。使いみちは住宅の建設・購入、リフォーム、住宅ローンの借換えなどの住宅関連資金で、生活資金には利用できません。融資限度額は原則として担保評価額の50%または60%(1億2,000万円以下で所要資金以内)。 |
| 不動産担保型生活資金 (都道府県社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度) | 低所得の高齢者世帯に、居住用不動産を担保として生活資金を貸し付ける公的制度。世帯の構成員が原則65歳以上、申込者が単独で所有(同居の配偶者との共有を含む)する不動産に居住、配偶者または親以外の同居人がいないことなどが要件。貸付限度額は土地の評価額の70%程度、月30万円以内。推定相続人の中から連帯保証人1名を選任。このほか、生活保護の要保護世帯向けの制度もあります。詳細・最新の要件は各都道府県社会福祉協議会でご確認ください。 |
| 民間金融機関の商品 (銀行など) | 生活資金・老後資金に使える商品もある。対象年齢、対象地域・物件(戸建てのみ、マンション可など)、融資枠、利息の支払方法、推定相続人の同意の要否などは商品ごとに大きく異なる。 |
とくに【リ・バース60】は「住宅ローン」であり、生活費の補てんには使えない点に注意が必要です。住宅金融支援機構も、利用できる年齢・使いみち・融資限度額などの商品内容は取扱金融機関ごとに異なると案内しています。
契約者が亡くなったら――元金は「一括返済」か「担保物件の売却」で返す
リバースモーゲージの元金の返済は、契約者が亡くなったときにやってきます。【リ・バース60】の場合、住宅金融支援機構は、元金は契約者が亡くなったときに相続人が一括して返済するか、担保物件(住宅および土地)の売却により返済すると案内しています。
① 相続人が一括返済 → 自宅を引き継げる
② 担保物件の売却代金で返済 → 自宅は残らない
夫婦で借りている場合
【リ・バース60】では、夫婦などで連帯債務として借り入れた場合、元金の返済は主債務者と連帯債務者がともに亡くなったときになると案内されています。つまり、先に夫が亡くなっても、妻が住み続けながら利息の支払いを続けられる設計です。一方、契約者が一人だけの商品・契約では、残された配偶者の住まいに影響することがあるため、契約内容の確認が欠かせません。
まず確認すべき書類
- 金銭消費貸借契約書・抵当権設定契約書どのタイプの商品か、返済期限、ノンリコース型かリコース型か、連帯債務者・連帯保証人の有無を確認します。
- 登記事項証明書自宅に抵当権(根抵当権)が設定されているか、借入先はどこかを確認します。
- 金融機関からの通知残高、返済期限、相続人が行うべき手続きの案内を確認します。返済の期限や手続きの期限は契約・商品によって異なります。
亡くなった方の財産と借金の全体像をつかむ方法は、相続財産の調べ方の記事で解説しています。
ノンリコース型とリコース型――売っても足りないとき、相続人は払うのか
担保物件を売却しても、売却代金が残っている債務に届かないことがあります。この不足分を誰が負担するかで、リバースモーゲージは「ノンリコース型」と「リコース型」に分かれます。
| 型 | 売却代金で返しきれなかった残債務 |
|---|---|
| ノンリコース型 | 相続人は残った債務を返済する必要がない(【リ・バース60】の場合) |
| リコース型 | 相続人は残った債務を返済する必要がある |
住宅金融支援機構によると、【リ・バース60】では2025年度の申込件数の約99%がノンリコース型を選択しており、全期間固定金利タイプはノンリコース型のみの取扱いです。どちらの型を扱うか、選べるかは金融機関によって異なります。
ノンリコース型でも「税金」の論点が残ることがある
住宅金融支援機構は、ノンリコース型で返済が不要となる残債務分について、債務免除益とみなされ一時所得が発生し、所得税等が課税される可能性があると注意喚起しています。「売っても足りない分は払わなくてよい」で終わりではなく、税務上の扱いを税務署や税理士に確認する必要があります。
なお、売却代金が債務を上回った場合は、残ったお金は相続人に引き継がれます。売却代金は相続財産として遺産分割の対象になるため、相続人が複数いる場合は分け方を話し合う必要があります。
相続人が選べる道――自宅を残す・売却に任せる・相続放棄する
相続人が実際に選べるのは、おおむね次の3つです。
| 選択肢 | ポイント |
|---|---|
| ① 一括返済して自宅を残す | 相続人の手元資金や、相続人自身の借入れで返済します。【リ・バース60】は、相続人が相続した【リ・バース60】の債務を完済するための借換えにも利用できます。ただし、相続人自身が【リ・バース60】の利用条件(年齢等)を満たす必要があり、取扱いは金融機関によって異なります。返済後は、抵当権の抹消登記と相続登記が必要です。 |
| ② 自宅の売却代金で返す | 自宅は残りません。売却のためには、原則として先に相続登記をして相続人名義にする必要があります。売却益が出れば、相続人に譲渡所得税がかかる場合があります。 |
| ③ 相続放棄する | 自宅も借金も含め、一切の財産を引き継がない選択です。原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述します(民法915条1項・938条)。 |
相続放棄を考えるときの注意
リコース型で、自宅を売っても債務が残りそうな場合や、ほかにも借金がある場合は、相続放棄が選択肢になります。ただし、相続放棄をすると自宅だけでなく預貯金などのプラスの財産も引き継げません。また、財産を処分すると単純承認とみなされ、放棄できなくなるおそれがあります(民法921条)。借金の額がはっきりしない場合は、限定承認という方法もあります。
相続放棄の手続きは相続放棄の記事、限定承認は限定承認の記事で詳しく解説しています。
相続人が複数いるとき
借金は、遺産分割協議で「自宅を相続する長男が返す」と決めても、金融機関(債権者)の承諾がなければ、金融機関に対しては法定相続分に応じて各相続人が負担するのが原則です。誰が自宅を引き継ぎ、誰が返済するかは、金融機関と相談しながら決める必要があります。借金の相続のしくみは借金・保証債務の相続の記事をご覧ください。
相続税の扱い――残った債務は債務控除の対象になるか
相続税の計算では、被相続人の債務で相続開始の際に現に存するもののうち、確実と認められるものを、相続人・包括受遺者が取得した財産から差し引くことができます(相続税法13条1項・14条1項)。これを債務控除といいます。
リバースモーゲージの借入残高は、契約者が亡くなった時点で存在する借入金ですから、一般的には債務控除の対象になり得ると考えられます。自宅の評価額から差し引いて考えると、相続税の課税価格が大きく下がるケースもあります。
また、相続放棄をした人は相続人ではなくなるため、原則として債務控除はできません(葬式費用を実際に負担した場合の取扱いなどは別途確認が必要です)。個別の取扱いは、国税庁のタックスアンサーや税理士でご確認ください。債務控除の全体像は葬儀費用と債務控除の記事でも解説しています。
利用前に家族で話しておくこと――推定相続人の同意・同居家族・配偶者の住まい
リバースモーゲージは、相続人にとって「自宅を相続できるかどうか」を左右する契約です。そのため、商品によっては契約時に推定相続人の同意や確認を求めるものがあり、社協の不動産担保型生活資金では推定相続人の中から連帯保証人1名を選任することになっています。
家族で確認しておきたいチェックリスト
- どのタイプ・どの型か【リ・バース60】か、社協の制度か、民間の商品か。ノンリコース型かリコース型か。
- 亡くなったあと、自宅をどうしたいか子どもが住む予定があるなら、一括返済の資金をどう用意するかを考えておきます。
- 残された配偶者の住まい夫婦の連帯債務にするか、配偶者が契約を引き継げるか。契約者一人の死亡で返済期限が来る契約では、配偶者の住まいが問題になります。
- 同居家族の条件社協の制度は配偶者または親以外の同居人がいないことが要件です。子どもとの同居を予定している場合は注意が必要です。
- 金利上昇・担保評価の変動変動金利なら毎月の利息が増えることがあります。担保評価が下がると、借入枠の見直しがある商品もあります。
- 遺言やエンディングノートへの記載借入先・契約内容を書面で残しておくと、相続人が慌てずにすみます(エンディングノートの記事)。
契約の内容を家族が知らないまま相続が始まると、相続放棄の3か月の期限のなかで判断を迫られることになります。「親の借金のことは聞きにくい」と感じる方も多いのですが、リバースモーゲージは「家」のことだからこそ、家族で共有しておくことをおすすめします。
リバースモーゲージと相続でよくある7つの落とし穴
- 家族が契約の存在を知らない 相続が始まってから金融機関の通知で知ると、一括返済・売却・相続放棄の判断を短期間で迫られます。
- ノンリコース型なら何も心配ないと思う 不足分の返済は不要でも、自宅は残らず、返済不要分に所得税等が課税される可能性もあります。
- リコース型の不足分を見落とす 売却代金で返しきれなかった分は、相続人が返済しなければなりません。
- 【リ・バース60】で生活費を借りられると思う 【リ・バース60】は住宅関連資金のための住宅ローンで、生活資金には利用できません。
- 遺産分割で「返済者」を決めれば金融機関にも通ると思う 債権者の承諾がなければ、金融機関に対しては法定相続分に応じた負担が原則です。
- 自宅を売却したり片づけたりしてから相続放棄を考える 財産を処分すると単純承認とみなされ、放棄できなくなるおそれがあります。
- 残された配偶者の住まいを考えずに一人で契約する 契約者一人の死亡で返済期限が来ると、配偶者が住み続けられなくなることがあります。
「実家を担保に借りていたなんて」――Kさまのご相談
Kさま(50代・女性)は、お母さまが亡くなったあと、金融機関から「リバースモーゲージの元金について、一括返済か担保物件の売却かをご選択ください」という通知を受け取り、ご相談に来られました。お母さまが自宅のリフォーム資金を借りていたことを、Kさまとごきょうだいは知らなかったそうです。
Kさまは「実家を手放したくないけれど、一括で返すお金はありません。家を売っても足りなかったら、私たちが払うのでしょうか」と不安そうでした。
私からは、「まず契約書で、ノンリコース型かリコース型かを確認しましょう。ノンリコース型であれば、売却代金で足りなくても不足分の返済は求められないのが基本です。ただ、ほかの財産や借金も含めて、相続放棄の3か月の期限までに全体像をつかむことが大切です」とお伝えしました。
契約はノンリコース型で、ほかに目立った借金もなかったことから、ごきょうだいで話し合い、自宅の売却代金で返済することを選ばれました。税金の扱いは提携の税理士に確認していただきました。Kさまは「母が一人で決めていたことを、もっと早く一緒に聞いておけばよかった」とおっしゃっていました。
「家で借りたお金」は、家族みんなの話
リバースモーゲージは、住み慣れた自宅に住み続けながら、老後の安心やリフォームの資金を得られる、上手に使えば心強い仕組みです。私たちは、この制度そのものを否定するつもりはありません。
ただ、相続のご相談の現場では、「子どもが契約を知らなかった」ことが混乱のいちばんの原因になっています。元金の返済が亡くなったときに来る以上、相続人は、契約の当事者に近い立場にあるといえます。
ご利用を考えている方は、ノンリコース型かリコース型か、配偶者の住まいはどうなるか、自宅を誰が引き継ぐのかを、ぜひご家族と一緒に確認してください。すでに相続が始まっている方は、3か月の期限を意識しながら、落ち着いて選択肢を整理しましょう。
私たちは、ご家族の状況を伺いながら論点を整理し、必要に応じて税理士・司法書士・弁護士などの専門家におつなぎしております。どうぞお気軽にご相談ください。
この記事のまとめ
- リバースモーゲージは、自宅を担保にお金を借り、元金は契約者が亡くなったときに一括で返すのが基本の仕組みです。
- 主なタイプは、【リ・バース60】(住宅関連資金。生活資金には使えない)、社協の不動産担保型生活資金(低所得の高齢者世帯向け。土地評価額の70%程度・月30万円以内)、民間金融機関の商品の3つです。
- 契約者が亡くなると、相続人は一括返済して自宅を残すか、担保物件の売却代金で返すかを選びます。夫婦の連帯債務なら、二人とも亡くなったときが返済のタイミングです(【リ・バース60】)。
- 売却代金で足りないとき、ノンリコース型なら不足分の返済は不要、リコース型なら相続人が返済します。ノンリコース型の返済不要分には所得税等が課税される可能性があります。
- 引き継がない場合は、原則3か月以内に相続放棄(民法915条1項)。財産を処分すると放棄できなくなるおそれがあります。
- 亡くなった時点の借入残高は、一般的に相続税の債務控除の対象になり得ます(相続税法13条・14条)が、個別の判断は税理士にご確認ください。
- 利用前に家族で契約内容・型・配偶者の住まいを共有しておくことが、大切な相続対策の一つです。最新の制度は住宅金融支援機構・厚生労働省・国税庁でご確認ください。
参考文献(一次情報)
- 住宅金融支援機構「【リ・バース60】」 https://www.jhf.go.jp/kojin/yushihoken_revmo/index.html
- 住宅金融支援機構「【リ・バース60】ご利用条件」 https://www.jhf.go.jp/kojin/yushihoken_revmo/jouken.html
- 厚生労働省「生活福祉資金貸付条件等一覧」(平成20年度時点の一覧。現行の要件・利率は各都道府県社会福祉協議会でご確認ください) https://www.mhlw.go.jp/seisaku/28a.html
- 厚生労働省「生活福祉資金(長期生活支援資金)の概要について(平成14年度創設)」(平成19年時点の概要。現行の要件・利率は各都道府県社会福祉協議会でご確認ください) https://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/seikatsu-fukushi-shikin2.html
- 国税庁 タックスアンサー No.4126「相続財産から控除できる債務」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4126.htm
- e-Gov法令検索 相続税法(第13条・第14条) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- e-Gov法令検索 民法(第915条・第921条・第938条) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
親のリバースモーゲージ、相続でどうすればいい?
自宅を残すか、売却に任せるか、相続放棄するか。3か月の期限のなかで、まずは契約書を見ながら一緒に整理しませんか。
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