相続人が破産していても相続人であることは変わらない――破産は欠格・廃除の事由ではない

まず前提として、自己破産をしたことで相続人でなくなる、ということはありません。相続人となることができない相続欠格の事由(民法891条)は、被相続人を故意に死亡させて刑に処せられた場合や、遺言書を偽造・破棄した場合などに限られており、破産は含まれていません。被相続人の請求で相続権を失わせる廃除(民法892条)も、虐待・重大な侮辱・著しい非行が対象で、破産したこと自体は廃除の理由になりません。

したがって、破産している相続人も、ほかの相続人と同じように法定相続分を持ち、相続を承認するか放棄するかを選ぶことになります。相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかをしなければなりません(民法915条1項)。

[破産者がなれないもの]
相続人にはなれますが、遺言執行者には、未成年者と破産者はなることができません(民法1009条)。遺言で破産中の子を遺言執行者に指定していた場合は注意が必要です(遺言執行者の記事)。

分かれ目は「いつ相続が開始したか」――破産手続開始決定の前か後か

自己破産の手続きは、おおまかに「申立て → 破産手続開始の決定 → (財産があれば)破産管財人による換価・配当 → 免責許可の決定」という流れで進みます。財産がほとんどなく手続費用をまかなえない場合には、開始決定と同時に破産手続を終える同時廃止(破産法216条)となることもあります。

破産法は、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産を破産財団とすると定めています(破産法34条1項)。破産財団は、破産管財人が管理・換価して債権者への配当に充てる財産です。つまり、「開始決定の時点で持っていた財産かどうか」が基準になり、これを固定主義と呼びます。

相続は、被相続人の死亡の時に開始し、相続人はその時から被相続人の権利義務を承継します(民法896条)。そのため、被相続人が亡くなったのが開始決定の前か後かで、相続財産の扱いが分かれます。

時期相続財産の扱い(原則)主な条文
開始決定の前に相続が開始相続により取得した権利は破産財団に属する。承認・放棄が開始決定の後なら、特別なルールあり破産法34条1項・238条
開始決定の後に相続が開始開始後に新たに得た財産(新得財産)として、原則破産財団に属しない破産法34条1項(固定主義)
免責許可の決定が確定した後に相続が開始破産手続とは関係なく、通常どおり相続できる破産法253条

開始決定の前に相続が開始していた場合――相続した財産は破産財団に入る(破産法34条)

被相続人が破産手続開始の決定より前に亡くなっていた場合、相続人である破産者は、開始決定の時点ですでに相続による権利を持っています。そのため、相続した財産(遺産分割前であれば相続分・共有持分)は、原則として破産財団に属します(破産法34条1項)。

破産手続開始の決定があると、破産財団に属する財産の管理・処分をする権利は破産管財人に専属します(破産法78条1項)。そのため、遺産分割協議が終わっていない場合は、破産者本人ではなく破産管財人が遺産分割の当事者として関わることになるのが一般的です。ほかの相続人にとっては、破産管財人と遺産分割の話し合いをすることになり、法定相続分を前提とした分け方や、代償金の支払いを求められることがあります。

申立ての準備中に相続が起きたら、必ず代理人に伝える

自己破産の申立てを準備している最中に親が亡くなった、というケースもあります。この場合、相続による権利は申立て時の財産として扱われる可能性が高く、申立書の財産目録にも関わります。財産を隠したり、債権者を害する目的で処分したりすると、免責不許可事由(破産法252条1項1号)に当たるおそれがあります。相続が起きたことは、申立てを依頼している弁護士に必ず伝えてください。

開始決定の後に承認・放棄をした場合――破産法238条「限定承認の効力」と破産管財人

相続の開始は開始決定の前でも、相続人が承認や放棄をするのは、3か月の熟慮期間の間であれば開始決定の後になることもあります。この場面について、破産法238条は特別なルールを置いています。

開始決定の前に相続が開始し、破産者が開始決定の後にした
・単純承認 → 破産財団に対しては限定承認の効力
・相続放棄 → 同様に、破産財団に対しては限定承認の効力
破産法 238条1項

単純承認が「限定承認の効力」になる理由

被相続人に借金が多い場合、破産者が単純承認をすると、被相続人の借金まで破産財団の負担になり、破産者自身の債権者が害されてしまいます。そこで、破産財団との関係では、相続財産の範囲でだけ被相続人の債務を負担する限定承認の効力にとどめる、というのが1項前段の考え方です(限定承認のしくみは限定承認の記事)。

放棄も「限定承認の効力」になり、管財人が放棄を認めることもできる

反対に、遺産にプラスの財産が多いのに破産者が開始決定の後に相続放棄をすると、破産財団に入るはずの財産が失われ、債権者が害されます。そこで1項後段は、開始決定後の放棄も、破産財団に対しては限定承認の効力を有するとしています。

一方、遺産が債務超過である場合など、放棄を認めたほうが破産財団にとって得になることもあります。そのため破産法238条2項は、破産管財人は相続の放棄の効力を認めることができるとし、その場合は放棄があったことを知った時から3か月以内に、その旨を家庭裁判所に申述しなければならないと定めています。なお、破産管財人がこの承認をするには、破産裁判所の許可が必要です(破産法78条2項6号)。また、同時廃止の場合は破産管財人が選任されないため、こうした管財人の関与は通常問題になりません。

このように、開始決定後の承認・放棄は、破産者本人の判断だけで結果が決まるわけではありません。破産手続中の相続人が承認・放棄を検討する場合は、破産管財人・申立代理人の弁護士と必ず相談してください。

開始決定の後に相続が開始した場合――新たに得た財産として本人の手元に残るのが原則

被相続人が破産手続開始の決定の後に亡くなった場合、破産者が相続で取得する財産は、開始決定の時点では持っていなかった財産です。破産法34条1項の固定主義により、こうした開始後に新たに得た財産(新得財産)は、原則として破産財団に属しません。つまり、相続した財産は債権者への配当に回らず、本人の手元に残るのが原則です。

ただし、次の点には注意が必要です。

相続放棄と遺産分割協議の違い――詐害行為取消・否認の対象になるか

「弟が破産しているので、弟の取り分はゼロにして、私が全部相続する」という話し合いは、よく見られます。しかし、家庭裁判所で相続放棄をすることと、遺産分割協議で取り分をゼロにすることは、法律上まったく違う扱いになります。

方法法的な性質債権者との関係
相続放棄(家庭裁判所への申述、民法938条)初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法939条)最高裁昭和49年9月20日判決は、相続放棄は詐害行為取消権の対象とならないと判断。破産手続でも、開始決定の前にした放棄は、一般に否認の対象にならないと解されている
遺産分割協議で取り分をゼロにする(いわゆる「事実上の放棄」)いったん相続人として権利を取得したうえで、その財産を他の相続人に帰属させる合意最高裁平成11年6月11日判決は、遺産分割協議は詐害行為取消権の対象となり得ると判断。開始決定の前にした遺産分割は、破産手続で否認(破産法160条など)の対象となり得るほか、免責不許可事由の問題も生じ得る

相続放棄が詐害行為取消の対象とならないのは、放棄が既にある財産を積極的に減らす行為ではなく、財産が増えるのを妨げるにとどまること、また、取消しを認めると相続の承認を事実上強制することになるためだと説明されています。これに対し、遺産分割協議は、相続した財産の帰属を確定させる財産権を目的とする行為であるため、債権者を害する場合には取消しの対象となり得るとされました。

「0円の遺産分割」は、かえって家族を巻き込む

特に、破産手続開始の決定の前に相続が開始していた場合(申立ての準備中を含みます)に、破産している相続人が、支払不能の状態で遺産分割協議により取り分をゼロにすると、債権者や破産管財人から、その協議の効力を争われるおそれがあります。そうなると、財産を多く取得したほかの相続人も、返還などを求められる当事者になり得ます。破産している相続人が遺産を受け取らないと決めているなら、熟慮期間内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをすることを検討してください。ただし、前章のとおり開始決定の後の放棄には破産法238条の制限がありますので、時期によって扱いが変わります。

免責後の相続と、ほかの家族への影響――被相続人の借金・遺言での備え

免責許可の決定が確定した後の相続

免責許可の決定が確定すると、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について責任を免れます(破産法253条1項。租税等の請求権など一部の例外あり)。その後に相続が開始した場合は、破産手続とは関係なく、通常どおり相続することができます。「過去に自己破産したから相続できない」ということはありません。

ほかの相続人への影響

相続人の一人が破産していても、ほかの相続人の法定相続分が変わるわけではありません。ただし、開始決定の前に相続が開始していた場合は、前述のとおり破産管財人が遺産分割の相手方になることがあり、不動産を売却して分けることを求められるなど、話し合いの進め方が変わることがあります。

また、破産者の相続人が相続放棄をすると、ほかの同順位の相続人の取り分が増えたり、次の順位の相続人に相続権が移ったりします。被相続人に借金がある場合は、親族全体で放棄の連鎖が必要になることもあります(借金・保証債務の相続の記事)。

親の側でできる備え――遺言

子の一人が経済的に困難な状況にある場合、親が遺言で、どの財産を誰に相続させるかを決めておくことはできます。遺言によって財産の行き先を定めることは、遺言者の自由な意思にもとづくものです。ただし、遺留分(民法1042条以下)の問題は残りますし、子がすでに破産手続中である場合の影響は個別の判断になります。債権者を害する目的で財産を移すような対応は避け、弁護士などの専門家と相談のうえで検討してください。

相続人が自己破産している相続でよくある7つの落とし穴

  1. 破産したら相続人でなくなると思う 破産は相続欠格(民法891条)・廃除(民法892条)の事由ではありません。相続人のままです。
  2. 相続の時期を確認しない 被相続人の死亡が破産手続開始の決定の前か後かで、遺産の扱いが大きく変わります。
  3. 遺産分割で取り分をゼロにすれば安全だと思う 遺産分割協議は詐害行為取消・否認の対象となり得ます。受け取らないなら家庭裁判所での相続放棄を検討します。
  4. 開始決定の後なら、放棄も承認も自由だと思う 開始決定の前に相続が開始していれば、開始決定後の承認・放棄は破産財団に対しては限定承認の効力になります(破産法238条1項)。
  5. 手続中の相続を代理人や管財人に伝えない 破産者には説明義務があり、財産の隠匿は免責不許可事由に当たるおそれがあります。
  6. 開始決定後に亡くなった親の借金も免責されると思う 開始決定の後に亡くなった被相続人の借金は、原則として免責の対象外です。必要なら相続放棄を検討します。
  7. 破産中の子を遺言執行者に指定したままにする 破産者は遺言執行者になれません(民法1009条)。遺言の見直しが必要です。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「弟の分も私が相続すれば丸く収まる?」――Sさまのご相談

Sさま(50代)のお父さまが亡くなり、相続人はSさまと弟さんの二人。弟さんは事業の失敗で自己破産の手続き中で、お父さまが亡くなる数か月前にすでに破産手続開始の決定を受けていました。Sさまは「弟の取り分はゼロにして、私が全部相続する遺産分割協議書を作ろうと思うのですが、大丈夫でしょうか」とご相談に来られました。

私からは、「お父さまが亡くなったのが開始決定の後であれば、弟さんが相続する財産は原則として破産財団には入りません。ただ、手続中の相続は、まず弟さんの代理人の弁護士に伝えて扱いを確認していただくのが先です。取り分をゼロにする遺産分割は、状況によっては問題になり得ますので、自己判断で進めないでください」とお伝えしました。

弟さんの代理人の弁護士に確認したところ、相続の時期と財産の状況が整理され、弟さんはご自身の法定相続分を相続し、ご兄弟で実家の扱いを話し合うことになりました。Sさまは「弟の分を守るつもりで、かえって弟を危ない立場に置くところでした」とおっしゃっていました。

― 私たちから一言 ―

「いつ」と「どうやって」を、自己判断で決めない

相続人の一人が自己破産している、というご相談は、ご家族にとってとても話しにくいものです。そのため、家族の中だけで「弟の分はゼロにしておこう」と決めてしまうケースが少なくありません。

しかし、破産と相続が重なる場面では、相続が開始した時期と、相続放棄か遺産分割かという方法の違いによって、結果が大きく変わります。よかれと思った対応が、かえって破産手続や免責に悪影響を与え、ほかの家族まで巻き込むこともあります。

破産手続中であれば、まず申立てを担当している弁護士・破産管財人に相続が起きたことを伝えることが第一歩です。そのうえで、ご家族としての進め方を一緒に整理していきましょう。

私たちは、ご事情を伺いながら論点を整理し、必要に応じて弁護士・司法書士・税理士などの専門家におつなぎしております。どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 自己破産は相続欠格(民法891条)・廃除(民法892条)の事由ではなく、破産者も相続人です。ただし遺言執行者にはなれません(民法1009条)。
  • 分かれ目は、被相続人の死亡が破産手続開始の決定の前か後か。破産財団は開始の時に有する財産が基準です(破産法34条1項)。
  • 開始決定の前に相続が開始していれば、相続による権利は原則破産財団に属し、遺産分割には破産管財人が関わります。
  • 開始決定の前に相続が開始し、開始決定の後に単純承認・放棄をした場合は、破産財団に対しては限定承認の効力。管財人は、放棄を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述して放棄の効力を認めることができます(破産法238条。承認には破産裁判所の許可が必要、78条2項6号)。
  • 開始決定の後に相続が開始した場合は、新得財産として原則本人の手元に残ります。免責確定後の相続も通常どおりです。
  • 相続放棄は詐害行為取消の対象とならない(最判昭和49年9月20日)一方、遺産分割協議は対象となり得ます(最判平成11年6月11日)。「0円の遺産分割」は避け、専門家に相談を。最新の法令はe-Gov法令検索・裁判所でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上の助言を提供するものではなく、特定の相続財産が破産財団に属するかどうかや、相続放棄・遺産分割・免責の結果を保証するものではありません。破産手続における相続財産の扱い、破産管財人の判断、否認・詐害行為取消の成否、免責の可否などは、相続開始の時期、財産・債務の内容、手続の種類などの個別の事情によって異なります。本文中の条文の引用は、読みやすさのために一部を省略し、要旨として示した箇所があります。本記事の内容は2026年10月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず法務省、裁判所、e-Gov法令検索で最新の内容をご確認のうえ、破産手続を担当する弁護士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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