遺言執行者とは――遺言の内容を実現する人

遺言執行者とは、亡くなった方(遺言者)の遺言の内容を実現するために、必要な手続きを行う人のことです(民法1006条以下)。民法1012条1項は、遺言執行者を「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」者と定めています。

遺言は、書いただけでは自動的に実現するわけではありません。たとえば「自宅は長男に相続させる」と書いてあっても、実際に法務局で名義を変える手続きをする人が必要です。「預貯金を3人で分ける」とあれば、銀行で解約して分配する人が要ります。こうした遺言を「実行に移す」役目を担うのが、遺言執行者なのです。

[遺言執行者がいると、手続きがスムーズ]
遺言執行者がいれば、その人が単独で名義変更や解約などを進められます。相続人が大勢いても、一人ひとりから印鑑をもらって回る必要が減り、手続きが早く、確実に進みます。相続人どうしの対立があるケースほど、中立的な執行者の存在が力を発揮します。

何ができるのか――遺言執行者の権限(民法1012条)

2019年(令和元年)に施行された相続法の改正で、遺言執行者の権限が条文上はっきりと定められました。主な権限を整理いたします。

権限 内容
遺言の執行に
必要な一切の行為
(民法1012条1項)
相続財産の管理、不動産の名義変更(相続登記)、預貯金の解約・払い戻し・分配など、遺言を実現するために必要な行為を行う。
遺贈の履行
(民法1012条2項)
遺言執行者がいる場合、遺贈(特定の人へ財産を渡すこと)は、遺言執行者だけが行える。受遺者は執行者に履行を求める。
預貯金の払い戻し等
(民法1014条)
特定の財産を相続させる遺言で対象となった預貯金について、払い戻しや解約の請求ができることが明確化された。
第三者への委任
(民法1016条)
自己の責任で、専門的な部分などを第三者に任せる(復委任)ことが、原則として認められる。

また、遺言執行者がその権限の範囲内で「遺言執行者である」ことを示して行った行為は、相続人に対して直接効力が生じます(民法1015条)。つまり、相続人がいちいち同意しなくても、執行者の行為で手続きが進むのです。

誰がなれるのか――未成年者・破産者以外

遺言執行者には、特別な資格は必要ありません。民法1009条は、「未成年者」と「破産者」は遺言執行者になれないと定めています。逆にいえば、それ以外であれば、原則として誰でもなれるということです。

実際には、次のような人が遺言執行者に選ばれます。

[専門家を選ぶメリット]
手続きが複雑な場合や、相続人どうしの対立が予想される場合、中立的な専門家を遺言執行者に指定しておくと安心です。相続人の一人が執行者になると、ほかの相続人から「自分に有利に進めているのでは」と疑われ、かえって争いになることもあります。財産が多い・相続人が多い・もめそう、というケースでは、専門家の起用を検討する価値があります。

どう選ぶのか――遺言での指定と家庭裁判所の選任

遺言執行者を決める方法は、大きく2つあります。

方法 1 遺言で指定する
方法 2 家庭裁判所が選任する

① 遺言で指定する(民法1006条)

もっとも一般的なのは、遺言書の中で、あらかじめ遺言執行者を指定しておく方法です(民法1006条1項)。「遺言執行者として、長男〇〇を指定する」「〇〇法律事務所の弁護士〇〇を指定する」などと書いておきます。なお、執行者を「誰にするかの決定」を第三者に委ねる(指定の委託)こともできます。生前にしっかり備えるなら、この方法が確実です。

② 家庭裁判所が選任する(民法1010条)

遺言で執行者が指定されていなかった場合や、指定された人が亡くなった・辞退したなどで執行者がいないときは、相続人や受遺者などの利害関係人が家庭裁判所に申し立てて、選任してもらうことができます(民法1010条)。執行者が必要なのに不在のときの、いわば「後からの手当て」です。

就任したら――相続人へ遺言内容を通知する義務

遺言執行者は、就任を承諾したら、ただちにその任務を始めなければなりません(民法1007条1項)。そして、2019年施行の改正で新設されたのが、相続人への通知義務です。

就任したら、遅滞なく「遺言の内容」を相続人に通知する

民法1007条2項により、遺言執行者は、任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。これは、相続人が「どんな遺言があり、何が行われるのか」を把握できるようにするためのものです。通知は、遺言で財産を受け取らない相続人や、遺留分を持つ相続人も含め、すべての相続人に対して行う必要があります。これにより、手続きの透明性が確保されます。

遺言執行者がいると、相続人は勝手に処分できない

遺言執行者が指定・選任されている場合、相続人は、遺言の執行を妨げるような遺産の処分(勝手な売却・贈与など)をすることができません(民法1013条1項)。これは、遺言の内容が、相続人の身勝手な行動でくつがえされないようにするための、重要な決まりです。

また、前述のとおり、遺言執行者がいる場合の遺贈の履行は、執行者だけが行えます(民法1012条2項)。これにより、遺言で「Aさんに渡す」とされた財産を、相続人が勝手に他へ動かす、といった事態が防がれます。遺言執行者は、いわば遺言の番人として、亡くなった方の意思を守る役割を果たすのです。

[もめそうなときほど、執行者が効く]
相続人の中に、遺言に不満を持つ人がいる場合、その人が遺産を勝手に動かそうとすることがあります。遺言執行者がいれば、こうした行為を制限でき、遺言の内容を守れます。「争いになりそう」という見込みがある相続こそ、遺言執行者の指定が有効です(争いが調停に発展した場合は「おひとりさまの相続」の生前対策の考え方も参考になります)。

遺言執行者が必須になるケースと報酬

遺言執行者が必須になるケース

多くの場合、遺言執行者は「いると便利」な存在ですが、次の2つの内容を遺言で行う場合は、遺言執行者がいなければ手続きを進められません(実質的に必須)

ケース 内容
遺言による認知
(民法781条2項)
遺言で、婚外子を自分の子として認知する場合。その届出などは遺言執行者が行うこととされている。
推定相続人の廃除
(民法893条)
遺言で、著しい非行のあった相続人の相続権をはく奪(廃除)する場合。家庭裁判所への申立ては遺言執行者が行う

これらを遺言に盛り込む場合は、必ず遺言執行者の指定もセットで考えておく必要があります。

遺言執行者の報酬

遺言執行者の報酬は、法律で料率が決まっているわけではありません。遺言で報酬額を定めておくか、定めがなければ、家庭裁判所に相当な額を決めてもらいます。専門家に依頼する場合の実務的な目安として、遺産総額の1〜3%程度とされることが多いですが、これはあくまで慣行であり、依頼先や財産の内容によって異なります。事前に費用を確認しておくとよいでしょう。

遺言執行者でよくある7つの落とし穴

ご相談の現場で実際によく見かける、遺言執行者をめぐる誤解と失敗を7つに整理いたしました。

  1. 遺言に執行者を指定していない 指定がないと、必要なときに家庭裁判所での選任手続きが要り、時間も手間もかかります。遺言作成時に指定を。
  2. 未成年者や破産者を執行者にしてしまう この2者は遺言執行者になれません(民法1009条)。指定が無効にならないよう、要件を確認しましょう。
  3. 相続人の一人を執行者にして、対立を招く 他の相続人から「公平に進めていない」と疑われ、争いの原因に。もめそうなら中立の専門家を。
  4. 就任後の通知義務を怠る 遺言執行者は、遺言の内容をすべての相続人に通知する義務があります(民法1007条2項)。怠るとトラブルのもとに。
  5. 相続人が遺言を無視して遺産を処分してしまう 執行者がいる場合、執行を妨げる処分は制限されます(民法1013条)。勝手な売却・贈与は避けましょう。
  6. 認知・廃除を遺言に書いたのに執行者を決めていない これらは執行者が手続きの主体。指定がないと実現できず、改めて選任が必要になります。
  7. 高齢の知人を執行者に指定し、いざというとき動けない 執行者が先に亡くなったり高齢で動けなかったりすると、再選任が必要に。予備の指定や専門家の起用を検討しましょう。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「遺言執行者を指定しておいたことで、相続がもめずに進んだケース」

生前に遺言の作成をご相談くださった、Tさん(70代)の事例でございます。Tさんには3人のお子さんがいましたが、それぞれ仲がよいとは言えず、「自分が亡くなった後、子どもたちが財産をめぐって争うのではないか」と心配されていました。とくに、お世話になった次女に少し多めに遺したいという希望があり、それが火種にならないかを案じていらっしゃいました。

当センターでは提携の弁護士・司法書士と連携し、公正証書遺言(「公正証書遺言の作り方」参照)の作成をお手伝いするとともに、その遺言の中で提携の専門家を遺言執行者に指定しておくことをご提案しました。Tさんが亡くなられた後、遺言執行者がただちに就任し、遅滞なく遺言の内容を3人のお子さん全員に通知。中立的な立場で、不動産の名義変更や預貯金の解約・分配を淡々と進めました。相続人が直接お金のやり取りで顔を突き合わせる場面が減り、感情的な対立に発展せずに済みました。

お子さんたちは「親の決めたことを、第三者がきちんと実行してくれたので、わだかまりが残りませんでした」と話されていました。遺言執行者は、遺言を確実に実現し、家族の争いを防ぐ『最後の仕上げ』――そのことを実感していただいた一例でございます。

― 私たちから一言 ―

「遺言は『書いて終わり』ではなく、『実現できて』はじめて意味を持ちます」

遺言のご相談を受けていて、見落とされがちなのが、この遺言執行者でございます。遺言書を立派に作っても、いざ相続が始まると、「誰が名義変更をするのか」「誰が銀行で手続きをするのか」でつまずくご家庭は少なくありません。とくに、相続人が大勢いたり、仲が良くなかったりすると、一人ひとりから同意や印鑑をもらうのは、たいへんな労力です。遺言執行者を決めておけば、その人が窓口となって、手続きをまとめて、確実に進められます。

2019年の改正で、遺言執行者の権限と義務がはっきり定められ、より使いやすくなりました。遺贈の履行は執行者だけが行える、相続人は執行を妨げる処分ができない、執行者は遺言の内容を相続人に通知する――こうしたルールは、いずれも「亡くなった方の意思を、確実に、公平に実現する」ためのものです。とりわけ、争いが予想される相続や、おひとりさまの相続では、信頼できる執行者の存在が決定的に重要になります。

当センターでは、提携の弁護士・司法書士・行政書士と連携し、遺言書の作成から、遺言執行者の指定、そして相続発生後の遺言執行(名義変更・解約・遺贈の履行など)まで、一貫してお手伝いしております。「遺言は作ったが、実現してくれる人がいるか不安」「誰を執行者にすればよいか分からない」――その仕上げの部分こそ、専門家にご相談いただく価値があります。お電話一本、LINEで結構でございます。お気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理や名義変更などの手続きを行う人(民法1006条以下・1012条)。
  • 2019年改正で権限が明確化。遺言の執行に必要な一切の行為ができ、遺贈の履行は執行者のみが行える(民法1012条)。その行為は相続人に直接効力が及ぶ(民法1015条)。
  • 未成年者・破産者以外なら誰でもなれる(民法1009条)。相続人本人、受遺者、弁護士・司法書士などの専門家、信託銀行などが選ばれる。
  • 選び方は、遺言での指定(民法1006条)か、いない場合の家庭裁判所による選任(民法1010条)。確実なのは生前に遺言で指定すること。
  • 就任したら、遅滞なく遺言の内容をすべての相続人に通知する義務がある(民法1007条2項)。
  • 遺言執行者がいると、相続人は遺言の執行を妨げる処分(勝手な売却・贈与)ができない(民法1013条)。遺言の「番人」として意思を守る。
  • 遺言による認知(民法781条2項)・推定相続人の廃除(民法893条)は、執行者が手続きの主体となるため、執行者の指定が実質必須。報酬は遺言で定めるか家裁が決定(実務目安は遺産の1〜3%程度)。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。遺言執行者の権限や、誰を指定すべきか、報酬の取り決めなどは、遺言の内容や財産・家族関係により異なることがあります。遺言執行者の指定や遺言執行の具体的な進め方にあたっては、必ず弁護士・司法書士・行政書士などの専門家にご確認・ご相談ください。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づきます。法令は改正される場合がありますので、最新の情報をご確認ください。

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