特別寄与料とは――民法1050条で創設された制度のしくみ

特別寄与料とは、相続人ではない親族(=特別寄与者)が、亡くなった方(被相続人)に対して無償で療養看護その他の労務を提供し、それによって被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合に、相続人に対して、その貢献に応じた金銭の支払いを請求できる制度です。根拠は民法1050条にあります。

相続人以外の親族が
無償で介護・看病などをして
被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献
→ 相続人へ「特別寄与料」を請求できる
2019年7月1日以後に開始した相続(被相続人の死亡)について適用されます。

2019年の相続法改正で新設された

特別寄与料は、約40年ぶりに大きく見直された相続法(民法)改正の目玉の一つとして新設され、2019年7月1日に施行されました。これにより、これまで遺産分割の場で「蚊帳の外」だった相続人以外の親族の貢献に、法的に報いる道が開かれました。

なぜできたのか――「長男の嫁」が報われない不公平の解消

特別寄与料が設けられた背景には、長く指摘されてきた「介護をした人が報われない」という不公平の問題があります。

従来は「相続人」しか貢献を評価されなかった

従来の制度(寄与分)では、被相続人の財産形成に貢献した人の取り分を増やす仕組みがありましたが、これは相続人にしか認められませんでした。たとえば、長男の妻が義父を何年も自宅で介護しても、長男の妻は義父の相続人ではないため、遺産分割では一切考慮されなかったのです。

従来 相続人以外の介護の貢献は評価されない
2019年〜 特別寄与料で金銭請求が可能に
効果 介護した親族の不公平感を緩和
[典型例は「長男の妻による義親の介護」]
最も想定されている典型例が、長男がすでに亡くなっている、あるいは仕事で介護に関われない中で、長男の妻が義父母を長年無償で介護してきたケースです。こうした「相続人ではないが深く貢献した親族」に金銭を請求する道を開いたのが、この制度の趣旨です。

請求できる人と要件――誰が・どんな貢献をした場合に認められるか

特別寄与料は、貢献した人なら誰でも請求できるわけではありません。請求できる人(特別寄与者)と、認められるための要件が定められています。

請求できる人=被相続人の「親族」(相続人を除く)

特別寄与料を請求できるのは、被相続人の親族であって、相続人ではない人です。ここでいう「親族」とは、民法上、六親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族を指します。相続人や、相続を放棄した人・相続欠格・廃除によって相続権を失った人は、特別寄与者にはなれません。

認められるための主な要件

  1. 被相続人の親族であること(相続人を除く) 六親等内の血族・三親等内の姻族など、民法上の親族の範囲内であることが必要です。
  2. 無償で労務を提供したこと 介護や看病、家業の手伝いなどを「ただ働き」で行ったことが必要です。対価(報酬)を受け取っていた場合は原則認められません。
  3. 療養看護その他の労務の提供であること 特別寄与料の対象は「労務の提供」です。単なる金銭の援助だけでは原則対象になりません。
  4. 財産の維持・増加に特別の寄与をしたこと その労務によって、被相続人の財産が減らずに済んだ、または増えたという関係(貢献)が必要です。通常期待される程度を超える「特別の」貢献であることが求められます。

「無償」「労務の提供」「特別の寄与」がカギ

特別寄与料が認められるには、①無償であること、②療養看護などの労務を提供したこと、③それが財産の維持・増加につながる特別の貢献であったことが必要です。たとえば、ヘルパー代を払わずに済むほど手厚く介護した結果、被相続人の財産(預貯金)が減らずに済んだ、といった事情が評価されます。逆に、お金を渡しただけ・たまに様子を見に行った程度では、要件を満たさないことが多い点に注意が必要です。

寄与分との違い――相続人の貢献と相続人以外の貢献

特別寄与料とよく似た制度に「寄与分」があります。両者は「貢献を評価する」点で共通しますが、対象となる人がまったく異なります。

項目 寄与分 特別寄与料
対象となる人 相続人 相続人以外の親族
性質 遺産分割で取り分を増やす 相続人へ金銭を請求する
請求の相手 他の相続人(遺産分割の中で) 相続人
根拠 民法904条の2 民法1050条

つまり、貢献した人が相続人なら「寄与分」相続人以外の親族なら「特別寄与料」という整理になります。寄与分や特別受益など、相続人間の貢献・不公平の調整については特別受益と寄与分とは、生前贈与や介護の貢献を遺産分割で公平に調整するしくみもあわせてご覧ください。誰が相続人にあたるかについては法定相続人とは誰のこと、順位と範囲を図解をご参照ください。

[子が健在なら「孫の妻」は対象外になりやすい点に注意]
たとえば長男が健在で相続人である場合、その妻(長男の妻)は相続人ではないため特別寄与料を請求できますが、長男自身が介護に貢献していれば長男の「寄与分」として評価される余地もあります。誰の貢献として整理するかで結論が変わるため、家族構成に応じた検討が必要です。

請求の手続きと期限――話し合いと家庭裁判所、見落とせない期限

特別寄与料は、自動的に支払われるものではありません。特別寄与者が自ら相続人に対して請求する必要があります。

まずは相続人との話し合い

特別寄与料は、まず特別寄与者と相続人との間の話し合い(協議)で金額を決めるのが基本です。相続人が複数いる場合は、各相続人が相続分に応じて負担します。

話し合いがまとまらないときは家庭裁判所へ

協議が調わない、または協議ができない場合は、特別寄与者は家庭裁判所に対して、協議に代わる処分(特別寄与料の額を定める申立て)を求めることができます。家庭裁判所が、貢献の内容や遺産の額などの一切の事情を考慮して金額を定めます。

請求には厳しい期限がある――「6か月/1年」を見逃さない

特別寄与料の家庭裁判所への請求(協議に代わる処分の申立て)には、期限があります。特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6か月を経過したとき、または相続開始の時から1年を経過したときは、家庭裁判所への申立てができなくなります。介護で疲れている時期と重なりがちですが、この期限を過ぎると権利を行使できなくなるため、早めの対応が重要です。

段階 内容
① 協議 特別寄与者と相続人が話し合い、金額を決める
② 家庭裁判所 協議が調わない・できないときは、協議に代わる処分を申し立てる
申立ての期限 相続開始・相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年を経過すると不可

金額はどう決まるか――特別寄与料の考え方

特別寄与料の金額は、法律で「いくら」と決まっているわけではありません。貢献の内容や程度、遺産の額などを踏まえて決められます。

目安となる考え方

実務では、療養看護型の場合、「介護に相当する報酬(日当)× 介護日数 × 一定の裁量割合」のような考え方で算定されることがあります。たとえば、本来であればヘルパーを雇って支払うべきだった金額を一つの基準にしつつ、親族としての貢献の度合いなどを考慮して調整します。

遺産の額による上限がある

特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできないとされています。つまり、遺産の額を超えて支払われることはありません。

[記録を残しておくことが認められるカギ]
特別寄与料が認められるには、「いつ・どのような介護や労務を・どれだけ行ったか」を具体的に示せることが重要です。介護日誌、通院の付き添い記録、立て替えた費用の領収書などを残しておくと、協議でも家庭裁判所でも貢献を裏づけやすくなります。

税金はどうなる――特別寄与料と相続税の関係

特別寄与料を受け取った場合、税金の扱いにも注意が必要です。

受け取った人には相続税がかかる

特別寄与料を受け取った特別寄与者は、その特別寄与料を被相続人から遺贈によって取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。さらに、特別寄与者は被相続人の一親等の血族や配偶者ではないことが多いため、相続税額が2割加算される対象になる点にも注意が必要です。

支払った相続人は債務として控除できる

一方、特別寄与料を支払った相続人は、その負担した金額を、自分の相続税の計算上、課税価格から控除できます。つまり、支払った分は相続人側の相続税の対象から外れる扱いになります。

立場 相続税の扱い
特別寄与料を受け取った人 遺贈により取得したものとみなされ課税対象。2割加算の対象になることが多い
特別寄与料を支払った相続人 負担した額を自分の相続税の課税価格から控除できる
[申告期限にも注意]
特別寄与料が確定したことで新たに相続税の申告が必要になる場合や、すでにした申告を見直す必要が生じる場合があります。税額の計算や申告の要否は個別の事情によって変わるため、税理士などの専門家に確認することをおすすめします。
よくある相談事例
※以下の事例は実際のご相談をもとにした架空のケースです。実在の個人・団体とは関係ありません。

「長年義母を介護してきた長男の妻のケース」

Kさん(50代・女性)は、夫(長男)の母を、約7年間にわたり自宅で無償で介護してきました。通院の付き添いや食事・入浴の世話を続け、ヘルパーの利用も最小限に抑えてきました。ところが義母が亡くなった後、義母の相続人は夫を含むきょうだい3人で、相続人ではないKさんには何も渡されない流れになり、ご相談にいらっしゃいました。

当センターで状況を整理したところ、Kさんは義母の一親等の姻族(親族)であり、相続人ではないこと、長年無償で療養看護の労務を提供し、ヘルパー代の支出を抑えるなど財産の維持に貢献していたことから、特別寄与料を請求できる可能性があることをご説明しました。あわせて、介護日誌や領収書など貢献を示す記録を整理すること、請求には期限があることをお伝えしました。

その後、Kさんは記録を整理したうえで相続人と話し合い、貢献に見合う金額の支払いを受けることで合意できました。「制度を知らなければ、泣き寝入りするところでした」とのお言葉をいただきました。権利と期限を正しく知ることが、報われるための第一歩になります

― 私たちから一言 ―

「介護の貢献は『黙っていては』報われない。期限と記録がカギ」

特別寄与料は、長く問題とされてきた「介護した相続人以外の親族が報われない」という不公平に応えるために、2019年の相続法改正で新設された制度です。長男の妻が義親を介護するようなケースで、その貢献に金銭で報いる道が開かれたことは、大きな前進だと考えています。

一方で、この制度には注意すべき点が多くあります。まず、特別寄与料は自動的に支払われるものではなく、自分から相続人に請求しなければなりません。そして、家庭裁判所への申立てには「相続の開始・相続人を知った時から6か月、相続開始から1年」という厳しい期限があります。介護の疲れが残る中で見落としやすい期限ですが、過ぎると権利を行使できなくなります。また、認められるには「無償の労務提供」「財産の維持・増加への特別の貢献」が必要で、それを裏づける記録の有無が結論を左右します。

さらに、受け取った特別寄与料には相続税がかかり、2割加算の対象になることも多いため、税務面の検討も欠かせません。「介護したのに報われないのはおかしい」と感じている方は、感情だけで諦めず、まず権利の有無と期限を確認することが大切です。当センターでは、相続全体を見渡したうえで中立的にご相談に応じ、必要に応じて弁護士・税理士などの提携専門家とも連携いたします。お一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

特別寄与料でよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、特別寄与料をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 請求の期限(6か月/1年)を見逃す 相続の開始・相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年を過ぎると、家庭裁判所への申立てができなくなります。期限管理が最も重要です。
  2. 「親族」でない人も請求できると誤解する 請求できるのは被相続人の親族(六親等内の血族・三親等内の姻族など)に限られます。内縁の配偶者や友人など、親族でない人は対象外です。
  3. 「金銭援助だけ」で認められると思う 特別寄与料の対象は療養看護などの「労務の提供」です。お金を渡しただけでは、原則として特別寄与料の対象にはなりません。
  4. 対価をもらっていたのに請求できると思う 労務が「無償」であることが要件です。報酬や対価を受け取っていた場合は、原則として特別寄与料は認められません。
  5. 貢献の記録を残していない 「いつ・何を・どれだけ」介護したかを示せないと、特別の寄与と認められにくくなります。介護日誌・領収書などの記録が重要です。
  6. 自動的にもらえると思い込む 特別寄与料は黙っていても支払われません。自分から相続人に請求し、話し合いや家庭裁判所の手続きを起こす必要があります。
  7. 税金(相続税・2割加算)を考えていない 受け取った特別寄与料は相続税の課税対象で、2割加算の対象になることも多いです。手取り額や申告の要否を事前に確認しましょう。

この記事のまとめ

  • 特別寄与料は、相続人以外の親族が被相続人を無償で介護・看病するなどして財産の維持・増加に特別の貢献をした場合に、相続人へ金銭を請求できる制度。民法1050条、2019年7月1日施行。
  • 請求できるのは被相続人の親族(六親等内の血族・三親等内の姻族など)で相続人でない人。典型例は長男の妻による義親の介護。
  • 要件は「無償の労務提供」「療養看護等」「財産の維持・増加への特別の寄与」。金銭援助だけ・対価ありでは原則認められない。
  • 相続人の貢献を評価する「寄与分」とは別物。相続人なら寄与分、相続人以外の親族なら特別寄与料という整理になる。
  • まず相続人と協議し、調わなければ家庭裁判所へ。申立ては「相続開始・相続人を知った時から6か月、相続開始から1年」が期限。
  • 受け取った特別寄与料は相続税の課税対象(2割加算の対象になることが多い)。記録の保存と期限管理がカギ。迷ったら専門家に相談を。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。特別寄与料が認められるかどうか、金額の算定、請求の手続きや期限、相続税の課税・2割加算・申告の要否は、個別の事情によって変わります。また、法律・税制は随時改正される場合があります。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づいていますが、具体的な要件・金額・手続き・税務については、必ず弁護士・税理士などの専門家、および民法(e-Gov法令検索)・国税庁等の一次情報をご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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