総則6項とは――財産評価の「原則」に対する例外規定

相続税や贈与税を計算するとき、財産をいくらと見積もるかを決めるのが財産評価です。法律の大もとには、相続税法22条があります。

相続税法22条(評価の原則)

相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、(中略)当該財産の取得の時における時価により(以下略)

つまり法律は、財産を「時価」で評価すると定めています。とはいえ「時価」といっても、土地一つひとつの本当の値段を毎回鑑定していては、手間もかかり、納税者ごとに結果がばらついてしまいます。そこで国税庁は、財産評価基本通達という取扱いのルールを定め、土地は路線価、家屋は固定資産税評価額、というように画一的・簡便に評価できるしくみを用意しています。

この財産評価基本通達の冒頭近く、いわば「総則」の部分に置かれているのが総則6項です。条文は次のとおりです。

財産評価基本通達 総則6項

この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する

要するに総則6項は、「通達どおりに評価するのが著しく不適当な場合には、通達によらず評価し直す」という、原則に対する例外の扉です。国税当局が持つこの切り札は、めったに抜かれないものの、抜かれると強い効果を持つことから、実務では「伝家の宝刀」と呼ばれています。

なぜ路線価などの「通達評価」があるのか

総則6項を理解するには、まず「なぜ通達で画一的に評価するのか」を押さえておく必要があります。

公平と効率のための「画一的な評価」

もし財産評価をすべて個別の鑑定に委ねれば、鑑定人や評価の前提によって結果が変わり、同じような土地でも人によって評価額が違うという不公平が生じかねません。また、膨大な数の相続について毎回鑑定するのは現実的ではありません。そこで、路線価などの通達によってあらかじめ決まった方法で評価することで、納税者間の公平手続きの効率を両立させているのです。

通達評価は「時価より低め」に出やすい

もっとも、路線価は一般に公示価格のおおむね8割程度を目安に設定されるなど、通達による評価額は実際の取引価格(実勢価格)より低めに出やすい傾向があります。貸家建付地のように、貸していることでさらに評価が下がるしくみもあります。この「通達評価は時価より低くなりやすい」という性質そのものは、通常は問題になりません。多くの納税者に等しく当てはまるからです。

[「低めに出る」こと自体は悪ではない]
通達評価が実勢価格より低くなること自体は、制度が想定している範囲のことです。問題になるのは、その性質を意図的に利用して、極端に相続税を圧縮しようとするケース。総則6項が顔を出すのは、まさにそうした場面です。

総則6項が問題になる場面――「著しく不適当」とは

総則6項は、条文上「著しく不適当」という抽象的な言葉を使っています。では、どんな場合に「著しく不適当」とされるのでしょうか。典型的に問題とされてきたのが、「借入金+不動産購入」による相続税の圧縮です。

借入で不動産を買うと、なぜ相続税が下がるのか

仕組みはおおまかに次のとおりです。

  1. 銀行から多額の借入をする借入金は、相続のときに債務控除としてマイナスの財産になります。
  2. その資金で不動産(マンションなど)を購入する手元の現金・預金が、不動産に姿を変えます。
  3. 不動産は通達評価で「低く」評価される購入額(実勢価格)よりも、路線価・固定資産税評価額などによる評価額のほうが低くなりやすいため、資産の評価額だけが大きく下がる一方、借入金は額面のまま債務として引けます。

この結果、「低く評価された不動産」から「額面どおりの借入金」を差し引くことで、課税対象となる財産を大きく圧縮でき、極端な場合には相続税をほぼゼロにすることもできてしまいます。総則6項は、こうした行き過ぎた圧縮に歯止めをかける役割を担ってきました。

[「タワマン節税」との関係]
高層マンションの高層階を購入する、いわゆる「タワマン節税」も、通達評価と実勢価格の乖離を利用する点で、根は同じ問題です。マンションの評価については、2024年から通達自体が見直されました(後述)。ただし、通達の見直しと総則6項は別の話であることに注意が必要です。

最高裁令和4年4月19日判決――過度な節税に「待った」

総則6項をめぐって、実務に大きな影響を与えたのが最高裁令和4年(2022年)4月19日判決です。事案の骨格は、次のようなものでした。

事案の概要

通達評価と鑑定評価との間には、数倍もの大きな開きがありました。争点は、「通達によらず総則6項で評価し直すことが許されるのか」という点です。

[金額はおおよその数字です]
本記事で示す購入額・評価額は、判決や報道等で知られているおおよその金額です。正確な数値・事実関係は、最高裁判所の判決文(一次情報)でご確認ください。ここで大切なのは、細かい金額そのものより、通達評価と実勢価格に著しい乖離があったという構図です。

最高裁の結論

最高裁は、国税当局による総則6項の適用(鑑定評価に基づく課税)を適法と判断しました。つまり、納税者側の「通達どおりの評価でよい」という主張は認められなかったのです。ただし、その理由づけには重要な枠組みが示されました。次の項で見ていきます。

判決が示した枠組み――「乖離」だけでは足りない

この判決で特に注目されたのは、「通達評価と実勢価格が大きくかけ離れているというだけでは、総則6項を使う理由にはならない」とした点です。

乖離があるだけでは平等原則に反しない

最高裁は、通達による画一的な評価は納税者間の平等・公平という観点から合理性があるとしたうえで、ある財産について通達評価と実勢価格に乖離があるというだけで、その納税者にだけ通達と異なる評価をすれば、かえって不公平になり得るという考え方を示しました。つまり、「乖離が大きいこと」自体は、総則6項を発動する十分な理由にはならないのです。

「合理的な理由」があるかどうか

そのうえで最高裁は、通達評価によらないことに「合理的な理由」があると認められる場合には、平等原則に反しないとしました。本件では、相続税の負担を大きく減らすことを意図して、あえて借入と不動産購入を行ったとみられる事情などがあり、通達評価をそのまま用いると他の納税者との間に看過し難い不均衡が生じ、実質的な租税負担の公平に反する――こうした点に「合理的な理由」があるとして、総則6項の適用を認めたのです。

乖離が大きい + 租税負担の軽減を意図した行為
= 通達によらないことに「合理的な理由」あり(総則6項を適用し得る)

ポイントは「意図」と「不均衡」

この判決の要点は、単なる評価の乖離ではなく、租税負担の軽減を意図した行為の有無と、他の納税者との間の看過し難い不均衡にあります。したがって、実勢価格と通達評価に差があるからといって、直ちに総則6項が使われるわけではありません。逆に、明らかな節税目的での極端な圧縮は、否認されるリスクが高いということです。

2024年からのマンション評価通達との関係

マンション、とりわけ高層階の実勢価格と通達評価の乖離が大きいことは、かねてから指摘されてきました。これを受けて、国税庁はマンションの相続税評価のルールそのものを見直し2024年(令和6年)1月1日以後の相続・贈与から、新しい評価方法が適用されています。くわしくはマンションの相続税評価が2024年から変わったの記事で解説しています。

通達の見直しと総則6項は「別のもの」

ここで混同しやすいのが、マンション評価通達の見直しと、総則6項の関係です。両者は次のように整理できます。

項目マンション評価通達の見直し(2024年〜)総則6項
性格評価方法そのもののルール変更個別事案での例外的な評価
対象居住用の区分所有財産(マンション)財産全般(土地・建物など)
ねらい実勢価格との乖離を一定程度是正著しく不適当な評価を正す
関係通達の見直しで乖離が縮まっても、なお著しく不適当な事案には総則6項が及び得る

つまり、マンション評価通達の見直しによって「乖離」自体は一定程度縮まりましたが、それでもなお極端な節税と評価されるような事案については、総則6項という切り札は残っているということです。「ルールが変わったから、もう総則6項の心配はない」とは言い切れません。

行き過ぎた節税を避けるための考え方

ここまでを踏まえると、不動産を活用した相続対策そのものが悪いわけではない、という点が見えてきます。大切なのは「行き過ぎ」を避けることです。

不動産の活用が直ちに否認されるわけではない

不動産を保有・購入すること自体は、多くの家庭で行われている正当な資産形成・資産承継です。小規模宅地等の特例のように、法律や通達が正面から認めている評価減もあります。総則6項が問題にするのは、こうした通常の範囲を超えて、租税回避のためだけに極端な圧縮を狙うような場面です。

「なぜその対策をするのか」という目的が問われる

最高裁判決の枠組みからすると、租税負担の軽減だけを目的とした不自然な行為は、否認のリスクが高まります。逆に、事業上の必要性や、長期的な資産承継の合理性など、税負担の軽減以外の目的・実態が伴っていれば、直ちに問題視されるものではありません。相続対策を考えるときは、「節税額」だけでなく「なぜその対策をするのか」という目的と実態を大切にすることが、結果的にリスクを下げます。

[「絶対に大丈夫」「必ず否認されない」はない]
総則6項が適用されるかどうかは、個別の事情を総合して判断されます。「この方法なら絶対に否認されない」と断定できるものではありません。相続対策として大きな借入や不動産購入を検討する際は、必ず税理士など専門家に相談し、目的・実態を含めて慎重に設計することをおすすめします。
相談事例
※以下は、よくあるご相談をもとに再構成した架空の事例です。実在の方とは関係ありません。

「借入でマンションを買えば相続税がゼロになる、と言われたのですが」

資産をお持ちの70代の男性から、こんなご相談がありました。「知人から『高齢でも銀行から借りて都心のマンションを買えば、路線価評価で相続税がほぼゼロになる』と勧められました。本当にそんなにうまくいくものでしょうか」。

私たちがお伝えしたのは、「仕組みとしてはあり得ますが、行き過ぎると総則6項で否認されるリスクがあります」ということでした。とくに、ご高齢になってから、相続税の圧縮だけを目的に、多額の借入で不動産を購入するような場合は、最高裁令和4年判決の枠組みに照らして、「租税負担の軽減を意図した行為」とみなされやすくなります。私たちは、その物件をなぜ持つのか(賃貸経営として続けたいのか、居住や事業に使うのか)という目的と実態を丁寧に整理し、税理士と連携しながら、無理のない範囲での対策をご提案しました。「『節税額』ばかり見ていましたが、目的が大事だと分かりました」と、男性はうなずいてくださいました。

― 私たちから一言 ―

「節税の『うまい話』ほど、目的と実態を問い直してください」

相続の現場では、「借入で不動産を買えば相続税がゼロになる」といった「うまい話」が、今も繰り返し語られています。確かに、通達評価が実勢価格より低く出やすいという性質は事実で、それを利用した対策には一定の効果があります。しかし、最高裁令和4年判決が示したのは、その効果を「行き過ぎ」て使えば、伝家の宝刀・総則6項によって否認され得るという、はっきりとした限界でした。

この判決の本質は、「不動産を買うな」ということでも、「乖離があれば必ず否認する」ということでもありません。問われているのは、「その対策に、税負担の軽減以外の目的と実態があるか」です。事業として賃貸経営を続ける、次の世代に住まいや事業を引き継ぐ――そうした合理的な目的が伴う対策と、相続直前に、節税だけを狙って組んだ不自然な取引とは、税務の世界では扱いが大きく異なります。

私たちがお客さまにお願いしているのは、「節税額の大きさ」だけで対策を選ばないでくださいということです。数字の魅力に引っ張られて実態のない取引を組むと、後になって否認され、加算税や延滞税まで含めてかえって重い負担を背負いかねません。相続対策は、税理士などの専門家とともに、目的・実態・無理のなさを一つずつ確かめながら、じっくり設計していくものです。「これは行き過ぎではないか」と迷ったときこそ、どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

総則6項をめぐるよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談や情報収集の中で見えてきた、総則6項をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 「通達どおり評価すれば、絶対に否認されない」と思い込む 通達評価は原則ですが、著しく不適当な事案には総則6項が及び得ます。通達に沿っていても、目的や実態によっては評価をやり直される可能性があります。
  2. 「乖離が大きければ必ず否認される」と誤解する 最高裁は、通達評価と実勢価格の乖離だけでは総則6項の理由にならないとしました。乖離に加えて、租税負担の軽減を意図した行為などの事情が問われます。
  3. 「借入で不動産を買えば相続税がゼロ」を鵜呑みにする 仕組みとしては圧縮が可能でも、行き過ぎると否認のリスクが高まります。「うまい話」ほど、目的と実態を冷静に問い直す必要があります。
  4. マンション評価通達の見直しで「総則6項はもう関係ない」と考える 2024年の通達見直しで乖離は一定程度縮まりましたが、通達の見直しと総則6項は別のもの。極端な事案には、なお総則6項が及び得ます。
  5. 相続直前の駆け込み対策ほど安全だと考える 高齢になってから節税目的だけで組んだ取引は、租税負担の軽減を意図した行為とみなされやすく、否認リスクが高まる傾向があります。
  6. 否認された場合の「上乗せ負担」を見落とす 総則6項で評価をやり直されると、本来の相続税に加えて加算税・延滞税が課され得ます。「うまくいけば得、失敗しても元どおり」ではありません。
  7. 専門家に相談せず、自己判断で大きな対策を実行する 総則6項の適用は個別事情の総合判断で、絶対の安全はありません。大きな借入・不動産購入を伴う対策は、税理士など専門家と目的・実態を確認して設計すべきです。

この記事のまとめ

  • 相続税法22条は財産を「時価」で評価すると定め、実務は路線価などの財産評価基本通達で画一的に評価している。
  • 総則6項とは、「通達で評価することが著しく不適当な場合は、国税庁長官の指示で評価する」という例外規定。「伝家の宝刀」と呼ばれる。
  • 典型的な問題場面は、借入+不動産購入で通達評価と実勢価格の乖離を利用し、相続税を極端に圧縮するケース。
  • 最高裁令和4年4月19日判決は、借入でマンションを購入し相続税をほぼゼロと申告した事案で、総則6項による鑑定評価を適法とした。
  • 同判決は、通達評価との乖離があるだけでは足りず、租税負担の軽減を意図した行為などによる「合理的な理由」が必要という枠組みを示した。
  • 2024年からマンション評価通達が見直され乖離は一定程度縮まったが、通達の見直しと総則6項は別のもので、極端な事案には6項が及び得る。
  • 不動産活用そのものが否認されるわけではない。「節税額」より「なぜその対策をするのか」という目的と実態が問われる。
  • 総則6項の適用は個別判断で「絶対に大丈夫」はない。大きな対策は税理士など専門家に相談し、最新の取扱いは国税庁等でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。総則6項が適用されるかどうかは、財産の種類・取得の経緯・目的・実態などを総合して個別に判断されるものであり、本記事の内容が特定の事案の結論を保証するものではありません。本記事で示した最高裁令和4年4月19日判決の事案の金額はおおよその数値であり、正確な事実関係は判決文(一次情報)でご確認ください。法令・通達は今後の改正によって変わる可能性があります。本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいていますが、相続対策や申告にあたっては、必ず国税庁等の一次情報を確認のうえ、税理士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

その相続対策、「行き過ぎ」ではないか一緒に確かめませんか

FREE CONSULTATION

借入や不動産購入を伴う相続対策は、目的と実態が問われます。
総則6項のリスクも踏まえ、経験豊富な専門家が税理士と連携してご提案します。