付言事項とは――遺言書に添える「想いのメッセージ」

付言事項(ふげんじこう)とは、遺言書の本文(財産の分け方などの指示)に添えて、遺言者が自分の想いや気持ち、遺言の理由などを書き残す部分のことです。多くの場合、遺言書の最後のほうに「付言」として書き添えられます。「付け足しの言葉」と書くとおり、法律上の指示ではなく、家族へのメッセージという位置づけです。

たとえば、「長い間、本当にありがとう」という感謝の言葉、「この家は、長年一緒に暮らしてくれた長男に遺したい」という分け方の理由、「どうか兄弟仲良く、助け合って生きてほしい」という願い――こうした、財産の分け方だけでは伝わらない「気持ち」を、遺言者の言葉で残せるのが、付言事項です。

[財産の指示と「想い」は分けて考える]
遺言書は、大きく分けると「財産をどう分けるか」という法的な指示の部分と、「なぜそうするのか・家族への想い」という付言の部分からできています。前者には法的な効力があり、後者(付言)には法的な効力はありません。しかし、後者があるかないかで、遺言が家族にどう受け止められるかは大きく変わります

付言事項に法的効力はあるのか――「効力はない」が基本

付言事項について、まず正しく理解しておきたいのが、「付言事項には、法的な効力はない」という点です。付言に何を書いても、相続人がそのとおりに従う法的な義務を負うわけではありません。

付言事項 = 法的効力なし
(想いを伝える・納得を得るための言葉)
= 財産の分け方などの「法定遺言事項」には効力があるが、付言はあくまでメッセージ

たとえば、付言に「兄弟は仲良くしてほしい」「遺留分は請求しないでほしい」と書いたとしても、それによって相続人の権利が制限されたり、義務が生じたりすることはありません遺留分を持つ相続人が、付言の願いに反して権利を主張することも、法律上は可能です。

では、法的効力がないなら意味がないのかというと、決してそうではありません。付言事項の価値は、「法的な強制力」ではなく、「人の心に働きかける力」にあります。遺言者本人の言葉で「なぜこうしたのか」「どんな想いでいるのか」が伝わることで、遺された家族が納得しやすくなり、結果として争いを避けられる――ここに、付言事項の本当の役割があります。

法定遺言事項との違い――効力があること・ないこと

付言事項を理解するうえで大切なのが、法定遺言事項(ほうていゆいごんじこう)との違いです。法定遺言事項とは、遺言に書くことで法的な効力が生じる、法律で定められた事項のことです。これに対し、付言事項は、それ以外の「想い」の部分を指します。

区分内容の例
法定遺言事項
(効力あり)
相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈遺言執行者の指定、子の認知、推定相続人の廃除 など
付言事項
(効力なし)
家族への感謝、遺言の理由、葬儀やお墓の希望、遺された人へのお願い・願い など

ポイントは、「効力のある指示」は法定遺言事項として本文に、「想い・理由」は付言事項として、それぞれ書き分けることです。たとえば「長男に自宅を相続させる」は法定遺言事項(効力あり)、「長男には長年同居して支えてもらったから、この家を遺したい」は付言事項(効力なし・理由の説明)、という具合です。

[「お墓を継いでほしい」は少し特殊]
お墓や仏壇などの祭祀財産を「誰に継いでもらうか(祭祀主宰者の指定)」は、法的な効力を持つ指定として扱われる場面があります。一方、「立派に供養してほしい」といった希望そのものは付言(想い)にあたります。境目が分かりにくい部分もあるため、迷ったら専門家にご確認ください。

付言事項に書くとよい5つの内容

付言事項に「これを書かなければならない」という決まりはありません。自由に書いてよいものですが、実務でよく書かれ、効果的とされる内容を5つ、ご紹介します。

  1. 家族への感謝の言葉 「長い間、支えてくれてありがとう」など。まず感謝を伝えることで、遺言全体が温かいメッセージとして受け止められやすくなります。
  2. 財産の分け方にした理由 「なぜこの人に多く遺すのか」を、遺言者自身の言葉で説明します。理由が分かると、相続人の納得感が大きく変わります。
  3. 遺留分に配慮したお願い 分け方に偏りがある場合、「どうか争わず、この配分を尊重してほしい」という願いを、理由とともに添えます。
  4. 葬儀・お墓・供養などの希望 「葬儀は身内だけで」「お墓は〇〇に」など。法的効力はありませんが、遺族が迷わず動ける道しるべになります。
  5. 家族への願い・メッセージ 「これからも兄弟仲良く、助け合ってほしい」など。遺言者の最後の願いは、家族の絆を守る力になります。

遺留分に配慮する付言の書き方――「争族」を防ぐ一文

付言事項が、とりわけ大きな意味を持つのが、遺留分がからむ場面です。遺留分とは、一定の相続人(配偶者・子・直系尊属)に法律で保障された、最低限の取り分のことです。特定の相続人に財産を集中させる遺言をすると、ほかの相続人の遺留分を侵害し、遺留分侵害額請求というトラブルに発展することがあります。

付言で「請求を止める」ことはできないが、「気持ちを和らげる」ことはできる

大前提として、付言事項に「遺留分を請求しないでほしい」と書いても、法的に請求を封じることはできません。遺留分侵害額請求は、権利として認められています。しかし、「なぜこの分け方にしたのか」という理由と、家族への想いを、遺言者自身の言葉で丁寧に伝えておくことで、感情的な対立が和らぎ、結果として請求という形の争いに至らずに済むケースは、少なくありません。付言は、争いの「予防薬」なのです。

たとえば、事業を継ぐ長男に財産を多く遺す場合、付言に「会社を守っていくために、やむを得ずこのような配分にしました。ほかの子たちには本当に申し訳なく思っています。どうか事情を汲んで、争わずにいてくれることを願っています」といった言葉を添えることで、遺された家族が事情を理解し、感情的なしこりを残しにくくなります。

[遺留分そのものへの根本対策は別に検討を]
付言はあくまで「気持ち」の対策です。遺留分の侵害を根本的に避けたいのであれば、分け方そのものを見直す、生命保険を活用する、生前に話し合っておくなど、別の対策も併せて検討する必要があります。なお、遺留分侵害額の請求には期間制限(一般に、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年など)があるとされますが、詳しくは遺留分の記事や専門家にご確認ください。

付言事項の書き方と例文

付言事項の書き方に、決まった形式はありません。遺言者自身の言葉で、素直な気持ちを書くのがいちばんです。ここでは、参考として一般的な例文をご紹介します(あくまで文例であり、そのまま使うことを保証するものではありません)。

例文①:家族への感謝と、分け方の理由を伝える

「これまで、家族みんなに支えられて、幸せな人生を送ることができました。心から感謝しています。自宅は、長年一緒に暮らし、面倒を見てくれた長男に遺すことにしました。ほかの子たちにも、それぞれ精一杯のものを遺したつもりです。どうか、この気持ちを汲んで、みんなで仲良く助け合っていってください。」

例文②:偏った配分について、理解を求める

「長女には、私が病気になってからずっと、そばで介護をしてもらいました。その苦労に少しでも報いたく、多めに財産を遺すことにしました。ほかのみんなには申し訳ない気持ちもありますが、どうか私の思いを理解してください。争いごとにならないことが、私の一番の願いです。」

[書くときのコツ]
①まず感謝から始める、②理由を具体的に書く、③誰かを責める表現は避ける、④最後に前向きな願いで結ぶ――この流れにすると、読んだ家族の心に届きやすくなります。長さは自由ですが、思いを込めつつ、簡潔にまとめるとよいでしょう。
相談事例
※以下は、よくあるご相談をもとに再構成した架空の事例です。実在の方とは関係ありません。

「たった数行の付言で、兄弟げんかが起きずに済みました」

あるご遺族から、こんなお話を伺いました。「父の遺言では、実家を同居していた兄が相続することになっていて、私を含む弟妹は少なめの配分でした。正直、最初は『不公平だ』という気持ちもありました。でも、遺言書の最後に、父の字で付言が書かれていたのです」。

そこには、「兄には、母の介護と実家の維持で、長年苦労をかけた。だからこの家を遺したい。弟妹には申し訳ないが、どうか分かってほしい。みんな、私の大切な子どもたちだ。仲良くやってくれることが、何よりの願いだ」という言葉が、遺言者ご本人の筆跡で綴られていました。「その数行を読んだとき、父の気持ちが伝わってきて、争う気持ちが消えました。付言に法的な力はないと後で知りましたが、私たち家族にとっては、どんな条文より重い言葉でした」。付言事項が持つ力を、あらためて教えていただいたご相談でした。

― 私たちから一言 ―

「法的効力はなくても、家族を守る『最後の言葉』になる」

遺言書のご相談をお受けするとき、私たちは、財産の分け方だけでなく、付言事項を書くことを、いつもおすすめしています。付言に法的な効力はありません。それでも――いえ、法的な力がないからこそ――そこに込められた遺言者ご本人の「生の言葉」には、条文にはない力が宿ります。

相続をめぐる争いの多くは、「お金」そのものよりも、「なぜ自分だけ少ないのか」「なぜ何も言ってくれなかったのか」という、感情のもつれから生まれます。付言事項は、その感情のもつれを、そっとほどいてくれます。「ありがとう」の一言、「こういう理由で、こう分けました」という説明、「仲良くしてほしい」という願い。たったそれだけで、遺されたご家族の受け止め方は、大きく変わるのです。

一方で、注意も必要です。付言に特定の誰かを責める言葉や、感情的な非難を書いてしまうと、かえって争いの火種になりかねません。だからこそ、私たちは、財産の分け方の設計から、付言に込める言葉の整え方まで、ご一緒に考えます。どの形式の遺言にするかとあわせて、「遺された家族が、笑顔で前を向けるような遺言」を、丁寧にお手伝いします。どうか、お気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

付言事項を書くときの注意点

想いを伝える付言事項ですが、書き方を誤ると逆効果になることもあります。次の点に注意しましょう。

① 法的効力があると誤解させない

付言に「必ず〇〇すること」などと命令口調で書いても、法的な効力は生じません。効力を持たせたい事項は、付言ではなく、法定遺言事項として本文に正しく書く必要があります。書き分けを誤ると、実現したかったことが実現しないおそれがあります。

② 特定の人を責める・非難する内容は避ける

「〇〇は親不孝だったから相続させない」といった非難は、相続人どうしの感情を逆なでし、かえって争いを大きくしかねません。付言は、前向きな言葉・感謝・願いを中心にまとめるのが鉄則です。

③ 本文(財産の指示)と矛盾させない

付言の内容が、本文の分け方と食い違っていると、相続人が混乱します。「本文ではAに、付言ではBに」といった矛盾がないよう、全体の整合性を確認しましょう。

[公正証書遺言でも付言は書ける]
付言事項は、自筆証書遺言でも公正証書遺言でも書き添えることができます。公正証書遺言の場合は、公証人に「こういう想いを付言として残したい」と伝えれば、内容を整えて遺言書に盛り込んでもらえます。形式にかかわらず、想いを残せると考えてよいでしょう。

付言事項でよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談の中で見えてきた、付言事項をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 付言に法的効力があると思い込む 付言事項に法的効力はありません。相続人を従わせたい指示は、法定遺言事項として本文に正しく書く必要があります。
  2. 「遺留分を請求するな」で請求を止められると考える 付言でそう書いても、遺留分の権利は制限できません。止めるのではなく、理由と想いで気持ちを和らげる、と考えましょう。
  3. そもそも付言を書かない 分け方だけの遺言は、家族に「なぜ?」を残しがちです。理由と想いを付言で伝えるだけで、争いの芽を減らせます。
  4. 特定の相続人を責める言葉を書く 非難は感情を逆なでし、かえって争いを大きくします。付言は感謝・理由・前向きな願いを中心にまとめましょう。
  5. 本文の分け方と付言の内容が矛盾する 本文と付言が食い違うと相続人が混乱します。全体の整合性を必ず確認してから仕上げましょう。
  6. 効力を持たせたい事項を付言に書いてしまう 遺言執行者の指定などは法定遺言事項です。付言に書いても効力が生じないため、書く場所を誤らないようにしましょう。
  7. 付言さえあれば遺留分対策は万全だと安心する 付言は「気持ち」の対策です。偏った配分の遺留分リスクには、分け方の見直しなど別の対策も併せて検討が必要です。

この記事のまとめ

  • 付言事項とは、遺言書に添えて、遺言者が家族への想いや遺言の理由を書き残す部分のこと。
  • 付言事項に法的効力はない。相続人が付言のとおりに従う法的な義務は生じない。
  • それでも、遺言者本人の言葉で理由と想いを伝えることで、家族の納得を得て「争族」を防ぐ効果が期待できる。
  • 法定遺言事項(相続分の指定・遺贈・遺言執行者の指定など)は効力あり。想い・理由は付言として書き分ける。
  • 書くとよいのは、感謝・分け方の理由・遺留分への配慮のお願い・葬儀やお墓の希望・家族への願い。
  • 遺留分は付言では止められないが、理由と想いを丁寧に伝えることで、感情的な対立を和らげられる。
  • 誰かを責める内容は逆効果。感謝・理由・前向きな願いを中心に、本文と矛盾しないようまとめる。
  • 付言は自筆証書遺言でも公正証書遺言でも書ける。遺留分対策そのものは別に検討し、迷ったら専門家に相談を。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。付言事項の効果、法定遺言事項との区別、遺留分に関する取り扱い、遺言の形式や有効要件などは、遺言の内容・時期・家族関係などによって個別に判断されるものであり、本記事の内容や例文が特定の結果を保証するものではありません。とくに遺留分侵害額請求の期間や計算方法などの数値・要件は、必ず最新の情報をご確認ください。本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づいていますが、実際の遺言作成にあたっては、必ず法務省日本公証人連合会等の一次情報を確認のうえ、弁護士・司法書士・公証人などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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