健康保険からのお金は「待っていても届きません」

ご家族が亡くなられたあとの手続きには、大きく分けて二種類あります。

ひとつは、「しなければならない届出」です。死亡届、世帯主変更届、健康保険証の返却、年金の受給停止――これらは期限が決まっていて、しないと困ることが起きる種類の手続きです。詳しくは身近な人が亡くなったらすぐやる手続き――死亡届7日・世帯主変更14日・年金停止、期限つき手続きの一覧でまとめております。

もうひとつが、「請求すれば受け取れるお金」です。こちらは、しなくても、誰にも叱られません。そして誰も、教えてくれないことがあります。

死亡後の手続きは、性質が二つに分かれます ① しなければならない届出 死亡届・世帯主変更届 保険証の返却・年金の受給停止 しないと、困ることが起きます =周囲から案内されやすい ② 請求すれば受け取れるお金 埋葬料・埋葬費・家族埋葬料 葬祭費・高額療養費・傷病手当金 しなくても、誰も困りません =知らないまま時効になりやすい
②は、ご遺族が動かなければ、そのまま消えてしまいます

そもそも、どの制度に入っておられたか

受け取れるお金の名前と金額は、亡くなった方がどの医療保険に加入しておられたかで変わります。まず、ここを確認してください。

加入していた制度主な対象死亡時の給付の名前
健康保険(協会けんぽ・健康保険組合) 会社にお勤めの方とそのご家族 埋葬料・埋葬費・家族埋葬料
国民健康保険 自営業の方、退職後74歳までの方など 葬祭費(条例で定める額)
後期高齢者医療制度 原則75歳以上の方 葬祭費(広域連合の条例で定める額)
各種共済組合 公務員・私学教職員の方など 埋葬料に相当する給付(組合により名称・額が異なります)
[確認のしかた]
いちばん確実なのは、お手元の健康保険証(または資格確認書・マイナ保険証の資格情報)に記載された保険者名を見ることです。「全国健康保険協会」とあれば協会けんぽ、「○○健康保険組合」とあれば健保組合、市区町村名が保険者になっていれば国民健康保険、「○○県後期高齢者医療広域連合」とあれば後期高齢者医療です。返却する前に、必ず控えを取っておいてください。返却後に「どこに請求すればよいかわからない」というご相談は、実際にございます。

埋葬料は一律5万円――健康保険法100条1項、受け取れるのは誰か

会社の健康保険からの給付です。

金額は、全国一律5万円

健康保険法100条1項は、被保険者が亡くなったとき、その方により生計を維持していた者であって埋葬を行うものに対し、埋葬料として政令で定める金額を支給するという趣旨を定めています。そして、その「政令で定める金額」を5万円と定めているのが、健康保険法施行令35条です。協会けんぽも健康保険組合も、この5万円が基本となります(健康保険組合によっては、規約にもとづく付加給付が上乗せされることがあります)。

[条文の読み方]
法律(健康保険法100条1項)は「政令で定める金額」とだけ定め、具体的な金額は政令(健康保険法施行令35条)が定める――という二段構えになっています。家族埋葬料を定める113条も、「第百条第一項の政令で定める金額を支給する」という形ですので、同じ5万円になります。いずれにしても、金額は全国一律です。この点が、次にご説明する国民健康保険の葬祭費と大きく違うところです。
埋葬料 = 一律 5万円
(健康保険法100条1項。実際にかかった葬儀費用の額とは関係なく、定額です)

ここは、誤解されやすいところです。「葬儀にいくらかかったか」を証明する必要はありません。領収書の額が5万円を下回っていても、200万円かかっていても、埋葬料は5万円です。定額の給付だからです。

受け取れるのは「生計を維持されていた方で、埋葬を行う方」

条文の要件を、そのまま分けて読みます。

  1. 被保険者により生計を維持していたこと――同居していたかどうかは、決定的な要件ではありません。仕送りを受けていた別居のご家族も、生計維持の関係が認められることがあります。また、生計の一部を維持されていた場合でも該当し得るとされています。
  2. 埋葬を行う方であること――実際に埋葬を執り行う立場にある方、という意味です。

注目していただきたいのは、「相続人であること」が要件になっていないという点です。

埋葬料は「相続人の権利」ではありません

埋葬料は、亡くなった方の財産を承継して受け取るお金ではありません。健康保険法が、一定の要件を満たす方に対して直接与えた、その方自身の権利です。
ですから、相続人ではない方が受け取ることもあり得ますし、逆に相続人であっても、生計維持の関係がなければ埋葬料の対象にはならないことがあります。そして、この性質から、後述するとおり相続放棄との関係も、相続税の扱いも変わってきます。

申請に必要なもの

協会けんぽの場合、おおむね次のようなものが必要になります(健康保険組合や共済組合では、様式や添付書類が異なることがありますので、必ず保険者にご確認ください)。

種類内容
申請書 健康保険 埋葬料(費)支給申請書
死亡の事実がわかる書類 事業主の証明、または埋葬許可証の写し・死亡診断書の写し・戸籍(除籍)謄本など
生計維持がわかる書類 住民票など(同一世帯でない場合に求められることがあります)
振込先 申請者名義の預金口座

お勤め先の総務・人事のご担当者が手続きを進めてくださることも多いのですが、退職直後の場合や、ご家族が個別に請求される場合は、ご遺族が保険者に直接申請することになります。

埋葬料を受ける方がいないとき――埋葬費(100条2項)と家族埋葬料(113条)

埋葬費――実費で、5万円が上限

生計を維持されていた方がいらっしゃらない場合があります。おひとりで暮らしておられた方が亡くなり、ご兄弟や、ご友人、あるいは会社の方が葬儀を執り行った――こうしたケースです。

この場合、健康保険法100条2項により、実際に埋葬を行った方に対して「埋葬費」が支給されます。

埋葬費 = 実際に埋葬に要した費用の額(ただし5万円が上限)
(健康保険法100条2項)

埋葬料との違いは、二つです。

埋葬料(100条1項)埋葬費(100条2項)
受け取る方 生計を維持していた方で、埋葬を行う方 埋葬料を受ける方がいない場合に、実際に埋葬を行った方
金額 一律5万円(実費の証明は不要) 実費(5万円が上限)。領収書等の提出が必要
時効の起算日 死亡日の翌日 埋葬を行った日の翌日
[埋葬費の対象になる「費用」]
埋葬費は、「葬儀一式の総費用」がそのまま対象になるわけではありません。対象となるのは、埋葬に直接要した費用とされており、協会けんぽのご案内では、霊柩車代、霊柩運搬代、霊前供物代、火葬料、僧侶への謝礼などの実費額が挙げられています。葬儀社へのお支払いのうち、どこまでがこれにあたるかは、内訳によって判断が分かれます。参列者の飲食費や香典返しなど、埋葬そのものと直接の関係が薄い費用は、対象にならないことがあります。いずれにしても上限は5万円ですので、領収書の合計が5万円を超えていれば、実務上は5万円が支給されるという整理になります。対象範囲の判断は保険者によりますので、申請前にご確認ください。

家族埋葬料――被扶養者が亡くなったとき

ここまでは「被保険者ご本人が亡くなった場合」のお話でした。

被扶養者――たとえば、被保険者である息子さんの扶養に入っておられたお母さま――が亡くなった場合は、健康保険法113条により、被保険者に対して「家族埋葬料」5万円が支給されます。

家族埋葬料 = 5万円(被扶養者が亡くなったとき、被保険者本人に支給)
(健康保険法113条)

受け取るのは、被扶養者ご本人ではなく、扶養していた被保険者です。この点も、埋葬料と同じく、被保険者ご自身の権利として発生する給付という整理になります。

国民健康保険・後期高齢者医療の「葬祭費」――国民健康保険法58条1項

次に、自営業の方、退職された方、そして75歳以上の方の場合です。

全国一律ではありません

国民健康保険法58条1項は、市町村および国民健康保険組合は、条例または規約の定めるところにより、葬祭費の支給または葬祭の給付を行うものとするという趣旨を定めています。後期高齢者医療制度についても、高齢者の医療の確保に関する法律86条などにもとづき、各都道府県の後期高齢者医療広域連合の条例で定められています。

ここが、健康保険の埋葬料と決定的に違うところです。健康保険の埋葬料は、健康保険法施行令35条という「全国共通の政令」で5万円と定められているため、どこにお住まいでも同じ額です。これに対して国民健康保険・後期高齢者医療の葬祭費は、保険者ごとの条例・規約で定められるため、お住まいの自治体によって金額が変わります。

金額は、必ずお住まいの自治体でご確認ください

参考として、東京23区の国民健康保険の葬祭費は7万円とされています。ただし、他の市町村では3万円程度から7万円程度まで幅があり、後期高齢者医療についても広域連合ごとに異なります。
本記事の金額はあくまで目安です。実際の支給額・申請期限・必要書類・「葬祭を行った方」の範囲は、必ず市区町村の国民健康保険窓口、または後期高齢者医療広域連合の最新のご案内でご確認ください。条例は改正されることがあります。

受け取れるのは「葬祭を行った方」

葬祭費は、条例の定めによりますが、多くの自治体で「葬祭を行った方(喪主)」に支給されるものとされています。健康保険の埋葬料のような「生計を維持されていたこと」という要件が置かれていない自治体も多いため、要件の立て方が健康保険とは異なる点にご注意ください。

申請の際は、一般に会葬御礼のはがきや葬儀社の領収書など、喪主であることがわかる書類を求められます。領収書の宛名が喪主のお名前になっているか――申請の段階で、ここでつまずくことがあります。葬儀社にお支払いの際、宛名をご確認ください。

[健康保険と国保、両方に請求できるか]
原則として、できません。亡くなった方が加入しておられた制度は、原則としてひとつです。退職直後に亡くなられた場合など、「会社の健康保険の資格喪失後の給付」と「国民健康保険の葬祭費」のどちらに該当するかが分かれることはありますが、同じ死亡について両方を受け取ることは、通常できません。判断に迷われる場合は、両方の窓口にご事情をお伝えのうえ、どちらに請求すべきかをご確認ください。

請求期限は2年――健康保険法193条と、給付ごとに違う起算日

この記事で、もっともお伝えしたいのがこの節です。

2年を過ぎると、請求できなくなります

健康保険法193条は、保険給付を受ける権利は2年を経過したときは時効によって消滅するという趣旨を定めています。国民健康保険についても国民健康保険法110条、後期高齢者医療についても高齢者の医療の確保に関する法律160条に、同趣旨の時効の規定があります。

そして――ここが実務でとても大切なのですが、起算日は給付ごとに違います。

給付時効の起算日(一般的な取扱い)期間
埋葬料 死亡日の翌日 2年
家族埋葬料 被扶養者の死亡日の翌日 2年
埋葬費 埋葬を行った日の翌日 2年
国保・後期高齢者医療の葬祭費 葬祭を行った日の翌日とされるのが通常(条例等によります) 2年
高額療養費 診療月の翌月1日が基本(自己負担額を診療月の翌月以後に支払った場合は、支払った日の翌日とされることがあります) 2年
傷病手当金 労務不能であった日ごとに、その翌日 2年

「もう2年経ってしまった」と思われた方へ

あきらめる前に、起算日をご確認ください。たとえば埋葬費は「埋葬を行った日の翌日」が起算日です。ご事情によって納骨が遅くなった場合、死亡日から2年を過ぎていても、まだ請求できることがあります。
また、高額療養費は「診療月ごと」に時効が進みます。亡くなる前の入院が数か月にわたっていた場合、古い月は時効でも、新しい月はまだ間に合うということが起こります。一括であきらめず、月ごとにご確認ください。
具体的な時効の起算日と、その事案での適用については、加入しておられた保険者(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村・広域連合)に直接ご確認いただくのが確実です。

相続手続きの期限とは、まったく別の時計です

ここで、混同されやすい点を整理しておきます。

手続期限根拠
相続放棄・限定承認 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月 民法915条1項
準確定申告 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月 所得税法124条・125条
相続税の申告・納付 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月 相続税法27条1項
相続登記の申請 所有権を取得したことを知った日から3年以内(2024年4月1日から義務化。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象) 不動産登記法76条の2・164条
埋葬料・葬祭費などの請求 2年(起算日は給付ごとに異なります) 健康保険法193条ほか

相続の期限が終われば全部終わり、ではありません。3か月・4か月・10か月の山を越えたあと、2年の時計だけが、静かに動き続けている――そうお考えください。相続手続きの全体像は相続手続きのスケジュール、7日・3か月・10か月で押さえる期限の一覧をご覧ください。

退職後に亡くなった場合でも受けられることがある――健康保険法105条

もうひとつ、見落とされやすい論点です。

「会社を辞めたあとに亡くなったのだから、健康保険からは何も出ないだろう」――そうお考えになる方が多いのですが、健康保険法105条には、資格喪失後の埋葬料等の支給についての定めがあります。

協会けんぽのご案内によれば、次のいずれかにあてはまる場合、資格喪失後でも埋葬料または埋葬費の対象になるとされています。

  1. 資格喪失後3か月以内に亡くなられたとき
  2. 資格喪失後の傷病手当金または出産手当金の継続給付を受けている間に亡くなられたとき
  3. その継続給付を受けなくなってから3か月以内に亡くなられたとき
[注意点]
資格喪失後に加入した別の健康保険から埋葬料を受け取っている場合、重ねて受け取ることはできません。また、資格喪失後に「元被扶養者」が亡くなった場合、家族埋葬料は支給されないとされています。ご事情が入り組んでいる場合は、加入しておられた保険者に直接おたずねください。

退職の直後に体調を崩されて亡くなった、というケースは、決してめずらしくありません。「退職しているから対象外」と決めつけず、退職日と亡くなられた日の間隔をご確認ください。

ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「母の入院費、あんなに払ったのに」――Eさまのご相談

Eさま(50代・女性)が当センターにお越しになったのは、お母さまが亡くなられてから一年半ほどが経ったころでした。ご用件は、実家の名義変更についてです。

登記のお話がひととおり終わったあと、Eさまが世間話のようにおっしゃいました。「母は最後の三か月、ずっと入院しておりまして。窓口でずいぶんお支払いしました」と。

私は、少し姿勢を正しておたずねしました。「その入院費について、高額療養費の払い戻しは、受け取られましたか」と。

Eさまは、きょとんとしておられました。「……何も、届いていないと思います」。

ここが、まさに「請求しないと動かないお金」です。ご説明したのは、次の点でした。

ひとつめ。お母さまは国民健康保険にご加入でしたので、葬祭費が支給される可能性があること。そして時効は2年ですから、まだ間に合う可能性が高いこと。

ふたつめ。入院された三か月分について、自己負担限度額を超えた高額療養費が、未請求のまま残っている可能性があること。こちらも時効は2年ですが、起算日は診療月ごとですので、古い月から順に期限が来てしまうこと。

Eさまは、しばらく黙っておられました。そして「両方とも、こちらから言わないと、もらえないのですか」とおたずねになりました。

そのとおりです、とお答えしました。「役所は、亡くなったことは知っています。けれども、請求書は送ってきません」と。

もうひとつ、お伝えしなければならないことがありました。葬祭費とちがって、高額療養費の未請求分は、性質が違うということです。

「葬祭費は、葬儀をなさったEさまご自身の権利です。けれども高額療養費は、お母さまが生前に持っておられた権利です。ですからこれは、相続財産にあたります」――そうご説明したところ、Eさまは「同じ役所からのお金なのに、扱いが違うのですか」と驚いておられました。

違います。そして、相続財産である以上、相続人の間での取り扱いを整理しておく必要があります。Eさまの場合は弟さまとお二人が相続人でしたので、請求の前に弟さまにご一報いただくようお願いしました。「後で知った」という形が、いちばん、ご兄弟の間に溝をつくります。

――お帰りぎわ、Eさまがおっしゃいました。「登記のご相談に来て、まさか別の話をいただくとは思いませんでした」。私どもがご相談を「相続の相談」と限定せず、まず全体をおうかがいするようにしているのは、こういうことがあるからです。どうぞ、雑談のつもりで、なんでもお話しください。

未請求の高額療養費・傷病手当金は「相続財産」――埋葬料との決定的な違い

ここが、この記事のいちばん大事な論点です。

権利が「誰に」発生したかで、すべてが変わります

同じ「健康保険からのお金」でも、権利がご遺族に発生したのか、亡くなった方ご本人に発生していたのかで、扱いがまったく変わります。

権利が「誰に」発生したかで、扱いが分かれます ご遺族に発生する権利 埋葬料・埋葬費・家族埋葬料 国保・後期高齢者医療の葬祭費 相続財産では ありません 相続放棄をしても請求できます ご本人に発生していた権利 未請求の高額療養費 未支給の傷病手当金 相続財産に あたります 相続人が承継して請求します
同じ保険者から振り込まれても、性質は別物です

未請求の高額療養費は、ご本人の債権です

高額療養費は、ひと月の医療費の自己負担額が自己負担限度額を超えたときに、超えた分が払い戻される制度です。限度額は、年齢と所得の区分によって決まります。

この給付は、医療を受けて自己負担額を支払った、ご本人に対して発生する権利です。ですから、ご本人が請求しないまま亡くなられた場合、その請求権は、亡くなった時点でご本人の財産として存在していたことになります。

だから、次の三つが変わります

① 請求できるのは相続人です。「葬儀を行った方」ではありません。保険者からは、戸籍謄本など相続人であることがわかる書類、相続人代表者の本人確認書類、場合によっては他の相続人の同意書や委任状を求められることがあります。
② 相続放棄をすると、請求できません。相続財産である以上、放棄をすれば承継しません。さらに、相続放棄をお考えの段階で受け取って使ってしまうと、民法921条1号の法定単純承認にあたり、放棄ができなくなるおそれがあります。放棄をご検討中の方は、受け取られる前に必ず弁護士・司法書士にご確認ください。
③ 相続税の課税対象になります。亡くなった時点で支給要件を満たしていた未収の債権として、相続財産に計上するのが原則です。

未支給の傷病手当金も、同じ考え方です

傷病手当金は、療養のため労務に服することができなかった日について支給される給付です(健康保険法99条ほか)。労務不能であった日ごとに支給要件を判断するという構造ですから、亡くなる前の期間について要件を満たしていた未支給分は、ご本人に発生していた請求権ということになります。

したがって、これも相続人が承継して請求するものであり、相続財産に含めるのが原則です。亡くなった日より後の日について当然に支給されるわけではない点には、ご注意ください。

課税関係の一覧

給付権利の性質相続財産か相続放棄との関係
埋葬料・埋葬費 受け取る方固有の権利 原則、含まれません 原則、放棄をしても請求できます
家族埋葬料 被保険者固有の権利 原則、含まれません ――
国保・後期高齢者医療の葬祭費 葬祭を行った方固有の権利 原則、含まれません 原則、放棄をしても請求できます
未請求の高額療養費 ご本人に発生していた債権 原則、含まれます 原則、放棄をすると請求できません
未支給の傷病手当金 ご本人に発生していた債権 原則、含まれます 原則、放棄をすると請求できません
[葬儀費用の債務控除との関係]
「埋葬料をもらったら、相続税の葬式費用から差し引かなければならないのか」というご質問をいただくことがあります。相続税の葬式費用の控除は、相続人等が実際に負担した葬式費用について認められるものです(国税庁タックスアンサー No.4129)。給付金を受け取ったことによる調整の要否については、個別の事実関係によりますので、申告の際に必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。葬儀費用の債務控除そのものについては葬儀費用は相続財産から引ける?債務控除の対象になるもの・ならないもので詳しく解説しております。

年金の未支給分は、また別の扱いです

ややこしいのですが、年金の未支給分(未支給年金)は、また別の考え方になります。未支給年金は、国民年金法・厚生年金保険法が定める一定の遺族が、自己の名で請求できるとされており、最高裁平成7年11月7日判決もこの趣旨を示したものと理解されています。相続財産ではなく、受け取った遺族の一時所得として扱われるのが原則です。

同じ「亡くなった方が受け取っていなかったお金」でも、健康保険の高額療養費とは扱いが逆になる――ここは、実務でもっとも混乱しやすいところです。年金については亡くなった人の年金の手続き――未支給年金と遺族年金、相続財産になるか・税金はかかるかで詳しくご説明しております。

― 私たちから一言 ―

「知らなかった」で消えていくお金を、一つでも減らしたい

この記事は、金額としては、決して大きくないお話です。埋葬料は5万円、葬祭費も数万円。相続税や不動産のご相談とくらべれば、桁が二つも三つも違います。

それでも、あえて一本の記事にまとめたのには、理由があります。「知っていれば受け取れたのに、知らないまま時効になった」というご相談が、あまりにも多いからです。

私どもがご相談をおうかがいするとき、最初の十分ほどは、あえて相続の話から離れるようにしております。「最後はどんなご様子でしたか」「入院は長かったのですか」――そうしたおたずねのなかから、高額療養費が未請求のまま残っていることや、退職直後に亡くなられていたことが見えてくるからです。ご相談者ご自身は、それが「相続の話」だと思っておられません。だから、こちらからおたずねしなければ、出てこないのです。

そのうえで、三つ、お伝えしたいことがあります。

ひとつめは、健康保険証を返す前に、必ず控えを取っていただきたいということです。保険者名がわからなくなると、どこに請求すればよいのかを調べるところから始めなければなりません。スマートフォンで一枚、写真を撮っておく。それだけで十分です。

ふたつめは、「もう2年経ったから」と、ご自身で判断なさらないでいただきたいということです。本文でご説明したとおり、起算日は給付ごとに違います。埋葬費は埋葬を行った日から、高額療養費は診療月ごとに、それぞれ時計が動いています。窓口でおたずねになるのは、無料です。だめでもともと、とお考えになって、一度お問い合わせください。

みっつめは、この記事の後半でご説明した「性質の違い」です。埋葬料・葬祭費はご遺族ご自身の権利、未請求の高額療養費と傷病手当金は故人の権利。この違いは、相続放棄をご検討中の方にとっては、決定的な意味を持ちます。「役所から振り込まれたお金だから大丈夫だろう」と受け取って使ってしまわれると、相続放棄ができなくなるおそれがあります。借入金があって放棄をお考えの場合は、どんなに少額でも、受け取られる前に一度ご相談ください。

――ご家族を亡くされた直後に、書類の話をするのは、本当に心苦しいものです。けれども、これらはすべて、故人が保険料を納めてこられたことに対する、制度からのお返しです。受け取っていただくことに、なんの遠慮もいりません。どうぞ、お忘れなく請求なさってください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

埋葬料・葬祭費と死後の給付でよくある7つの落とし穴

最後に、実務でとくに多い誤解を7つ、整理いたします。

  1. 「役所から案内が来るはずだ」と待ってしまう 埋葬料も葬祭費も、申請しなければ支給されません。死亡届を出しているのだから自動的に処理されるだろう――というのは、よくある誤解です。死亡届の情報と、保険給付の請求は、別の手続きです。待っている間に、2年の時効が進みます。
  2. 「もう2年経った」と、死亡日だけで判断してしまう 時効の起算日は、給付ごとに違います。埋葬料は死亡日の翌日ですが、埋葬費は埋葬を行った日の翌日、高額療養費は診療月ごとです。死亡日から2年が過ぎていても、まだ請求できる給付が残っていることがあります。あきらめる前に、保険者にご確認ください。
  3. 「葬儀にかかった額だけもらえる」と思い込む 埋葬料(健康保険法100条1項、金額は同法施行令35条)は一律5万円の定額給付で、実際にかかった費用の証明は不要です。一方、埋葬費(同条2項)は実費で、5万円が上限です。この二つは、要件も金額の決め方も違います。ご自身がどちらに該当するかを、まずご確認ください。
  4. 国保の葬祭費の金額を、他の自治体の情報で判断してしまう 葬祭費の額は、国民健康保険法58条1項などにもとづき、条例・規約で定められます。ですから自治体ごとに異なります(東京23区は7万円とされていますが、他の市町村では異なります)。インターネットで見た金額と、お住まいの自治体の金額が同じとは限りません。必ず窓口の最新のご案内でご確認ください。
  5. 「退職していたから、健康保険からは何も出ない」と決めつける 健康保険法105条により、資格喪失後3か月以内に亡くなられた場合などには、埋葬料または埋葬費の対象になることがあります。退職日と亡くなられた日の間隔をご確認ください。ただし、別の健康保険から重ねて受け取ることはできません。
  6. 未請求の高額療養費を「葬儀を行った人のもの」と思ってしまう 未請求の高額療養費と未支給の傷病手当金は、ご本人に発生していた請求権であり、相続財産です。請求できるのは相続人で、戸籍謄本などの提出を求められます。喪主だから当然に受け取れる、というものではありません。相続人が複数いらっしゃる場合は、請求の前にご一報を。
  7. 相続放棄を考えているのに、給付金を受け取って使ってしまう 埋葬料・葬祭費はご遺族固有の権利ですから、相続放棄をしても請求できます。しかし未請求の高額療養費・未支給の傷病手当金は相続財産です。これらを受け取って処分すると、民法921条1号の法定単純承認にあたり、相続放棄ができなくなるおそれがあります。放棄をご検討中の方は、受け取られる前に必ず弁護士・司法書士にご確認ください。

この記事のまとめ

  • ご家族が亡くなられたあとに健康保険から受け取れるお金は、申請しなければ支給されません。死亡届を出しても、給付は自動的には処理されません。
  • 会社の健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)では、健康保険法100条1項の「埋葬料」が一律5万円(金額は健康保険法施行令35条が定めています)。実際の葬儀費用の額とは関係のない定額給付です。
  • 受け取れるのは「被保険者により生計を維持していた者であって、埋葬を行うもの」です。相続人であることは要件ではありません。
  • 埋葬料を受ける方がいない場合は、健康保険法100条2項の「埋葬費」として、実際に埋葬に要した費用が5万円を上限に、実際に埋葬を行った方へ支給されます。領収書等の提出が必要です。
  • 被扶養者が亡くなった場合は、健康保険法113条の「家族埋葬料」5万円が、被保険者本人に支給されます。
  • 国民健康保険は国民健康保険法58条1項、後期高齢者医療は高齢者の医療の確保に関する法律86条などにもとづき、条例で定める「葬祭費」が支給されます。金額は全国一律ではなく、自治体ごとに異なります(東京23区は7万円とされています)。
  • 請求できる期間は2年(健康保険法193条、国民健康保険法110条、高齢者の医療の確保に関する法律160条)。起算日は給付ごとに異なり、埋葬料は死亡日の翌日、埋葬費は埋葬を行った日の翌日、高額療養費は診療月ごとです。
  • 退職後であっても、健康保険法105条により、資格喪失後3か月以内の死亡などの場合には埋葬料等の対象になることがあります。ただし、別の健康保険から重ねて受け取ることはできません。
  • 未請求の高額療養費・未支給の傷病手当金は、ご本人に発生していた請求権であり、相続財産にあたります。請求できるのは相続人で、相続税の課税対象になり、相続放棄をすると請求できません。
  • 埋葬料・埋葬費・家族埋葬料・葬祭費は、受け取る方ご自身の固有の権利であり、原則として相続財産には含まれず、相続放棄をしても請求できます。
  • 年金の未支給分(未支給年金)は、さらに扱いが異なり、一定の遺族が自己の名で請求する自己固有の権利とされ(最高裁平成7年11月7日判決)、受け取った遺族の一時所得として扱われるのが原則です。
  • 相続放棄をご検討中の場合、相続財産にあたる給付を受け取って処分すると、民法921条1号の法定単純承認にあたり、放棄ができなくなるおそれがあります。受け取られる前に、必ず専門家にご確認ください。
  • 健康保険証は、返却する前に必ず控えを取ってください。保険者名がわからないと、どこに請求すべきかを調べるところから始めなければなりません。
  • 金額・申請期限・必要書類・対象者の範囲は、保険者(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村・後期高齢者医療広域連合)によって異なります。必ず最新のご案内でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上または税務上の助言を提供するものではなく、特定の方についての支給の可否、支給額、時効の成否、課税関係を保証するものでもありません。健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療の給付は、加入しておられた保険者、お住まいの自治体の条例、資格の得喪の時期、生計維持の関係など、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。とくに、国民健康保険・後期高齢者医療の葬祭費の金額は条例で定められるため自治体ごとに異なり、本文に記載した金額はあくまで目安です。また、時効の起算日の判断、資格喪失後の給付の該当性、未請求の高額療養費・傷病手当金の相続財産としての取り扱いと相続放棄への影響は、判断を誤りやすい領域です。記載した法令名・条項・数値は執筆時点で一次情報により確認したものですが、法令・条例・通達・保険制度は改正される可能性があります。本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、全国健康保険協会、お住まいの市区町村・後期高齢者医療広域連合、国税庁などの一次情報で最新の内容をご確認ください。相続放棄に関わる事項は弁護士・司法書士に、課税に関する事項は税理士にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

「もう2年経ったから、無理でしょうか」――そのご相談からで結構です

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