個人年金保険とは――相続で問題になるのは「受け取る権利」

まず、契約の形を確認します

個人年金保険は、ごく単純に申し上げれば、現役のうちに保険料を払い込み、一定の年齢から年金として受け取るという保険契約です。老後の備えとして、たいへん広く利用されています。

年金の受け取り方には、大きく次のような形があります。

種類内容
確定年金 あらかじめ決められた期間(10年、15年など)、生死にかかわらず年金を受け取る形
有期年金 決められた期間、生存している間年金を受け取る形
終身年金 生存している限り、生涯にわたって年金を受け取る形
保証期間付終身年金 終身年金のうち、一定の保証期間中は、亡くなっても遺族が受け取れる形
[この違いが、評価に効いてきます]
「確定年金なのか、終身年金なのか」「保証期間はあるのか」――この違いが、後で述べる相続税の評価の方法を分けます。ご相談の際は、まず保険証券をお手元にご用意ください。そこにすべて書かれています。

相続で問題になるのは、「年金」ではなく「年金受給権」です

ここが、いちばんの出発点です。

被相続人が亡くなったとき、相続税の対象として評価されるのは、「これから毎年受け取る年金の合計額」でも、「今年受け取った年金」でもありません。「これから年金を受け取ることができる権利」――年金受給権そのものです。

課税されるのは
「年金」ではなく「年金を受け取る権利」
相続税法では、これを「定期金に関する権利」と呼びます

そしてこの権利は、目に見えないぶん、いくらと評価するかが決まっていなければなりません。そのために置かれているのが、相続税法24条・25条や、財産評価基本通達214といった評価の規定です。どの規定によるかは、「年金の支給がもう始まっていたか」と「その契約が生命保険契約かどうか」で分かれます。

誰が保険料を負担していたかで、かかる税金が変わります

個人年金保険の税金を考えるとき、いちばんはじめに確認しなければならないのは、「誰が保険料を負担していたか」です。契約者の名義ではなく、実際にお金を出していたのは誰か――ここが判断の中心になります。

まず確認するのは「実際に保険料を出していたのは誰か」 被相続人が負担していた その方が亡くなり、遺族が権利を取得 みなし相続財産として 相 続 税 =この記事が扱うのは、こちらです 被相続人以外が負担していた 保険料負担者と受取人が違えば 贈与税の問題になり得る 同じであれば所得税(雑所得) =契約内容により結論が変わります
契約者・保険料負担者・被保険者・年金受取人――この4つの組み合わせで決まります

「契約者=保険料負担者」とは限りません

実務でもっとも問題になるのが、ここです。「契約者はお子さまの名義になっているが、保険料は親御さまの口座から引き落とされていた」――こうした形は、決してめずらしくありません。
税務上は、名義ではなく、実際に負担していた方を基準に判断されるのが原則とされています。いわゆる名義預金と同じ考え方です。「子どもの名義だから、相続財産ではない」とは限りません。この判断は難しい領域ですので、必ず税理士にご確認ください。名義財産の考え方については名義預金とは――家族名義でも相続財産、税務調査で最も指摘される預金の見分け方と対策を完全ガイドもあわせてご覧ください。

みなし相続財産のどれにあたるか――相続税法3条1項3号・4号・5号の違い

被相続人が保険料を負担していた場合、その年金受給権はみなし相続財産として相続税の対象になり得ます。その根拠は、相続税法3条1項にあります。

相続税法3条1項が定める「みなし相続財産」

号内容
1号 生命保険金等――被相続人の死亡により取得した保険金のうち、被相続人が負担した保険料に対応する部分
2号 退職手当金等――被相続人に支給されるべきであった退職手当金・功労金などで、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの
3号 生命保険契約に関する権利――まだ保険事故が発生していない生命保険契約について、被相続人が保険料を負担し、被相続人以外が契約者である場合
4号 定期金に関する権利――まだ定期金給付事由が発生していない定期金給付契約(生命保険契約を除く。)について、被相続人が掛金・保険料を負担し、被相続人以外が契約者である場合
5号 保証期間付定期金に関する権利――被相続人が定期金受取人であった契約について、その死亡後に遺族等が定期金の受取人となった場合
6号 契約に基づかない定期金に関する権利

ここで見落とされるのが、4号の「(生命保険契約を除く。)」です

表の4号を、もういちどご覧ください。「定期金給付契約(生命保険契約を除く。)」と書かれています。この括弧書きが、実務ではたいへん重要です。

生命保険会社の個人年金保険は「生命保険契約」です

相続税法3条1項4号と、その評価規定である同法25条には、いずれも「(生命保険契約を除く。)」という括弧書きが置かれています。生命保険会社が販売する個人年金保険は、生命保険契約にあたるのが通常です。
ですから、まだ年金の支給が始まっていない生命保険会社の個人年金保険は、4号・25条ではなく、財産評価基本通達214により解約返戻金の額を基礎として評価する――これが基本の枠組みになります。
なお、3条1項3号は「被相続人が保険料の全部または一部を負担し、かつ、被相続人以外の者がその生命保険契約の契約者であるもの」を対象としています。ですから、被相続人ご自身が契約者であった場合は、3号のみなし相続財産ではなく、契約者としての地位が本来の相続財産として承継されると整理されるのが原則です。いずれにしても評価は通達214によりますので、実務の入口は変わりません。
4号・25条が正面から働くのは、生命保険契約以外の定期金給付契約です。ネット上の解説には、この括弧書きに触れずに「個人年金保険は25条で評価する」と書かれているものも見受けられます。ご自身の契約がどれにあたるかは、必ず税理士にご確認ください。

ご自身のケースは、3号か、5号か

生命保険会社の個人年金保険で問題になるのは、多くの場合、3号か5号のいずれかです。分かれ目は、「被相続人が亡くなった時点で、年金の支給がもう始まっていたかどうか」です。

  1. まだ年金を受け取り始めていなかった(給付事由が発生していない)――たとえば、65歳から受け取る契約で、63歳で亡くなったという場合です。被相続人が保険料を負担し、契約者が被相続人以外であれば、生命保険契約については相続税法3条1項3号「生命保険契約に関する権利」の問題になるのが原則です。生命保険契約以外の定期金給付契約であれば、同項4号の問題になります。
  2. すでに年金を受け取っていた(給付事由が発生している)――被相続人が年金を受け取っている途中で亡くなり、保証期間中であるため遺族が引き続き受け取るという場合です。これは、原則として相続税法3条1項5号にあたるとされています。5号には生命保険契約を除く旨の括弧書きはありませんので、生命保険会社の保証期間付終身年金でも、この号の問題として検討します。
[被相続人ご自身が契約者だった場合]
被相続人ご自身が契約者であり、かつ年金受取人であったという場合には、「みなし相続財産」ではなく、本来の相続財産として年金受給権が承継されると整理されることもあります。どの構成になるかは、契約の内容と、保険会社の約款によって異なり得ます。結論として相続税の対象になる点は多くの場合共通しますが、正確な整理は必ず税理士にご確認ください。

給付事由が発生している場合の評価――相続税法24条「3つのうち最も多い金額」

いよいよ、評価の話です。相続開始のときに、すでに年金の支給が始まっていた(定期金給付事由が発生していた)場合の評価は、相続税法24条によります。

評価の基本ルール

次の3つの金額のうち、最も多い金額で評価
①解約返戻金の額
②定期金に代えて一時金を受け取れる場合の、その一時金の額
③1年あたりの平均額に予定利率等による率を乗じて計算した金額
(相続税法24条)

「最も少ない金額」でも「平均」でもなく、「最も多い金額」です。ここを取り違えると、評価額が大きく変わってしまいます。

③の計算は、年金の種類で変わります

種類③の計算のしかた(概要)
有期定期金 1年あたりの平均額 × 残存期間に応じた予定利率による複利年金現価率
無期定期金 1年あたりの平均額を、予定利率で現在価値に割り戻した金額
終身定期金 1年あたりの平均額 × その目的とされた者の余命年数に応じた複利年金現価率(権利を取得した時における、その目的とされた者の年齢に応じます)
[なぜ「割り引く」のか]
いまの100万円と、20年後の100万円は、同じ価値ではありません。いま手にすれば、それを運用することができるからです。将来受け取る年金の総額から、この時間の分を差し引いて現在の価値に直す――それが「現価率を乗じる」という作業です。
ですから、「20年×100万円=2,000万円が相続財産」ということにはなりません。実際の評価額は、それより小さくなるのが通常です。

平成22年度税制改正で、大きく変わりました

この評価方法は、平成22年度税制改正で見直されたものです。それ以前は、残存期間に応じた一定の割合・倍数によって評価する方式がとられていました。

「昔は評価が低かった」という説明に、ご注意ください

改正前の評価方法では、実際の経済的価値に比べて評価額が低くなる場合があり、これを利用した節税が行われていたとされています。この見直しが、平成22年度改正の背景です。
適用開始の時期は、24条と25条で1年ずれています。24条(給付事由が発生しているもの)の改正後の規定は、原則として平成23年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得する権利に適用されます。ただし、平成22年4月1日から平成23年3月31日までに締結された一定の定期金給付契約に関する権利で、平成23年3月31日までに取得したものについては、原則にかかわらず改正後の24条が適用されるという特則が設けられていました。
いっぽう、25条(給付事由が発生していないもの)の改正後の規定は、平成22年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得する権利に適用されます。古い書籍やインターネット上の記事には、改正前の評価方法が残っていることがあります。必ず現行の規定でご確認ください。

年金開始前の評価――生命保険契約は解約返戻金、それ以外の定期金は相続税法25条

いっぽう、相続開始のときに、まだ年金の支給が始まっていなかった場合です。ここは、契約が「生命保険契約」かどうかで、根拠となる規定が分かれます。

①生命保険会社の個人年金保険――財産評価基本通達214(解約返戻金の額)

すでに述べたとおり、相続税法25条には「(生命保険契約を除く。)」という括弧書きが置かれています。生命保険会社の個人年金保険は生命保険契約にあたるのが通常ですから、年金の支給が始まる前は、25条によらないのが原則です。被相続人が保険料を負担し、契約者が被相続人以外であった場合は相続税法3条1項3号の「生命保険契約に関する権利」として、被相続人ご自身が契約者であった場合は本来の相続財産として承継されると整理されますが、いずれも評価は次の通達によります。

生命保険契約に関する権利の評価
= 相続開始のときに解約したとした場合の解約返戻金の額
財産評価基本通達214(解約返戻金のほかに支払われる前納保険料や剰余金の分配額などがあるときは、それらを加算し、源泉徴収されるべき所得税相当額を控除します)
[結論としては、実務の入口は同じところに戻ります]
根拠となる条文は違いますが、「相続開始日で解約したら、いくら戻ってくるか」を保険会社に出していただくという実務の第一歩は、どちらの枠組みでも変わりません。まずは「相続開始日時点の解約返戻金相当額証明書」を発行してもらうところから始めてください。

②生命保険契約以外の定期金給付契約――相続税法25条

いっぽう、生命保険契約以外の定期金給付契約で、まだ定期金給付事由が発生していないものについては、相続税法25条によって評価します。解約返戻金の定めがあるかどうかで、次のように分かれます。

区分評価の方法(概要)
解約返戻金を支払う旨の定めがない場合 次の金額に100分の90(90%)を乗じた金額
・保険料等を一時払いした契約……払込保険料に予定利率による複利計算をした元利合計額
・保険料等を分割払いした契約……経過期間中に払い込まれた保険料等の1年あたり平均額 × 予定利率による複利年金終価率
解約返戻金を支払う旨の定めがある場合 原則として、相続開始のときに解約したと仮定した場合に支払われるべき解約返戻金の額
[どちらの枠組みでも、まず解約返戻金です]
年金開始前の評価は、生命保険契約なら財産評価基本通達214、それ以外の定期金給付契約なら相続税法25条――根拠は分かれますが、解約返戻金の定めがある契約であれば、いずれも「相続開始日で解約したら、いくら戻ってくるか」が評価の中心になります。
保険会社に「相続開始日時点の解約返戻金相当額証明書」を発行してもらうのが、実務の第一歩です。相続財産の調査については相続財産の調べ方――不動産は名寄帳、預金は残高証明、株は「ほふり」、保険は生命保険契約照会制度で漏れなく把握するもご覧ください。

生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えるのか

これは、ほんとうによくいただくご質問です。

結論――原則として、使えません

500万円 × 法定相続人の数
(相続税法12条1項6号)
この非課税枠の対象は、相続税法3条1項1号の「生命保険金等」です

相続税法12条1項6号が定める「500万円 × 法定相続人の数」という非課税限度額は、相続税法3条1項1号に規定する生命保険金等について適用される制度です。

[号数が「5号」から「6号」に変わっています]
この非課税規定は、従前は相続税法12条1項5号でした。公益信託に関する法律(令和6年法律第30号)の施行に伴う関係法律の整備により、同条1項の各号が繰り下がり、2026年4月1日以後は6号になっています。古い書籍やインターネット上の記事には、いまも「12条1項5号」と書かれているものが残っています。号数まで引用される場合は、e-Gov法令検索で現行条文をご確認ください。

いっぽう、年金受給権を、相続税法3条1項4号または5号の「定期金に関する権利」として取得する場合、それは同項1号の生命保険金そのものではありません。したがって、「年金の形で受け取るから、500万円の枠が使える」という理解は、原則として成り立ちません。また、年金開始前の生命保険契約に関する権利(同項3号)や、契約者の地位を本来の相続財産として承継する場合も、同項1号の生命保険金等ではありませんので、この非課税枠の対象にはなりません。

ただし、契約の内容によって取扱いが分かれ得る領域です

「死亡保険金を、一時金ではなく年金の形で受け取る」という契約(年金払特約付きの生命保険など)もあります。この場合に、どの号にあたるものとして課税され、非課税枠の適用があるかどうかは、契約の内容によって取扱いが分かれ得る、判断の難しい論点です。
本記事の記載をもって、ご自身の契約に非課税枠が使える・使えないと結論づけないでください。保険証券と契約内容を前提に、必ず税理士にご確認ください。生命保険の非課税枠そのものについては生命保険を使った相続対策、非課税枠「500万円×法定相続人」の正しい活かし方をご覧ください。

ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「年金なので、申告しなくてよいと思っていました」――Hさまのご相談

Hさま(50代・女性)は、半年前にお父さまを亡くされた方でした。ご相談の入口は、「相続税の申告が必要かどうか、判断がつかなくて」というものです。

財産のご状況をうかがうと、ご自宅、預貯金、上場株式が少し。ざっと足すと、基礎控除には届かないかもしれないという、微妙なところでした。

ひととおりうかがったあと、私は「保険は、どうなっていますか」とおたずねしました。Hさまは、「死亡保険金は500万円の枠に収まったので、大丈夫だと聞いています」とお答えになりました。

そこで、もうひとつおたずねしました。「お父さまが、ご自身で年金を受け取っておられた保険は、ありませんでしたか」と。

Hさまは、少し考えてから、こうおっしゃいました。「あ……父が個人年金に入っていて、毎年受け取っていました。父が亡くなったあとは、母が続けて受け取れることになったと、保険会社から連絡がありました」と。

そして、こう続けられたのです。「あれは年金ですよね。母がこれから受け取るものですから、父の財産ではないと思っていました」。

――ここが、たいへん多い誤解です。お母さまがこれから受け取ることになった「年金を受け取る権利」は、お父さまから承継したものです。相続税法では「定期金に関する権利」として、みなし相続財産にあたり得ます。

Hさまは、驚いておられました。「では、それも足さないといけないのですね。いくらになるんでしょうか」と。

私は、こうお答えしました。「これから受け取る年金の総額そのものではありません。相続税法24条という規定があって、解約返戻金の額、一時金の額、予定利率で計算した金額――この3つのうち、最も多い金額で評価することになります」と。

そして、「まずは保険会社に、相続開始日時点での解約返戻金相当額と、一時金で受け取る場合の金額を出していただいてください」とお伝えし、そのうえで税理士の先生に評価と申告要否をご判断いただくようお願いしました。

Hさまが、帰りぎわにこうおっしゃいました。「保険証券を、ちゃんと見たことがありませんでした」。

――これは、Hさまだけのお話ではありません。生命保険は「保険金」の話として意識されやすいのですが、「年金として受け取る権利」は、見落とされがちです。ご自宅の引き出しに眠っている保険証券を、一度すべて広げてみてください。そこに、答えの多くが書かれています。

長崎年金二重課税事件と、相続後に受け取る年金の所得税

ここからは、相続税がかかったあとの話です。

問題の所在――同じものに、二度課税されるのか

年金受給権に相続税がかかりました。そして、相続人は、毎年その年金を受け取ります。――このとき、受け取った年金に、さらに所得税がかかるのでしょうか。

もしかかるとすれば、相続税を課された同じ経済的価値に、もういちど所得税を課すことになります。これが「二重課税」の問題です。

最高裁平成22年7月6日判決(長崎年金二重課税事件)

年金受給権のうち
相続税の課税対象となった部分について
その後の年金受給時に所得税を課すことは許されない
最高裁判所 平成22年7月6日判決の判断内容

この事件では、夫を亡くした妻が、年金の形で受け取ることとされていた保険金について、相続税が課されたうえ、受け取った第1回の年金からも所得税が源泉徴収されたという事実関係が問題となりました。

最高裁判所は、平成22年7月6日、年金受給権のうち相続税の課税対象となった部分について、その後の年金受給時に所得税を課すことは許されないと判断しました。

この判決を受けて、所得税法9条1項17号により、相続・遺贈・個人からの贈与によって取得したもので、相続税または贈与税の課税対象となった部分については、所得税を課さないという取扱いが整備されています。

「毎年、全額が非課税になる」わけではありません

ここは、たいへん誤解されやすいところです。

非課税になるのは「相続税の課税対象となった部分」だけです

判決が言っているのは、「年金は所得税がかからない」ということではありません。相続税が課された価額に対応する部分についてだけ、所得税を課さないということです。
実務上は、年金受給権の相続税評価額を基礎として、各年に受け取る年金額のうち非課税となる部分を計算します。この非課税部分は、毎年同額ではなく、受給期間の経過に応じて変わっていく形で計算されます。非課税部分を超える金額は、雑所得として所得税の課税対象になります。
計算はかなり込み入っておりますので、実際の申告にあたっては、必ず税理士にご相談ください。

所得区分と必要経費

相続人が受け取る年金のうち、所得税の課税対象となる部分は、原則として雑所得です。

その年の雑所得
= その年の年金受取額 - その年の年金に対応する必要経費 - 所得税の非課税部分

必要経費(払い込まれた保険料)は、受け取った年に全額を差し引くのではなく、将来受け取る年金の総額に対する保険料の割合によって、各年に按分されるのが基本的な考え方です。

[過去分の還付措置がありました]
この判決を受けて、平成17年分以後の所得税について、一定の要件を満たす年金受給者に対する還付の措置が講じられました。通常の更正の請求ができる期間を過ぎた過去分についても、特別還付金という制度が設けられています。
すでに相当な年数が経過しており、現在も利用できるかどうかは、必ず税務署または税理士にご確認ください。相続税そのものの払い過ぎについては相続税の更正の請求――払い過ぎた相続税を取り戻す手続き、通則法23条の5年と相続税法32条の4か月を完全ガイドをご覧ください。
― 私たちから一言 ―

保険証券を、一度すべて広げてみてください

相続のご相談をお受けしていて、「見落とされやすい財産」の筆頭にくるのが、この年金受給権です。

理由は、はっきりしています。目に見えないからです。預金なら通帳があります。不動産なら権利証があり、固定資産税の通知が毎年届きます。株式なら証券会社から報告書が来ます。ところが「これから年金を受け取れる権利」には、残高が書かれた紙がありません。

そのうえ、「年金」という言葉が、誤解を招きます。公的年金の遺族年金は、遺族固有の権利であって相続財産ではありませんし、税金もかかりません。その感覚のまま「年金だから大丈夫」と思ってしまわれる――ご相談の場で、何度も見てまいりました。公的年金の扱いについては、別の記事で整理しております。

そのうえで、三つ、お伝えしたいことがあります。

ひとつめは、相続が起きたら、まず保険証券をすべて広げてくださいということです。死亡保険金だけでなく、「年金」と書かれた契約がないかどうか。生命保険契約照会制度という仕組みもありますが、まずはご自宅の引き出しと、通帳の引き落とし履歴です。毎月・毎年の保険料の引き落としは、契約が生きている何よりの証拠になります。

ふたつめは、「いくらになるか」を、ご自身で計算しようとなさらないでくださいということです。相続税法24条の評価は、予定利率、残存期間、受給者の年齢といった要素が絡み、保険会社から資料を出していただかないと計算できません。まずは保険会社に、相続開始日時点の解約返戻金相当額と、一時金で受け取る場合の金額を出していただく。そこからです。

みっつめは、受け取り始めてからの所得税を、忘れないでいただきたいということです。相続税の申告が終わると、多くの方がほっとなさいます。ですが、年金は、そのあと何年も受け取り続けるものです。相続税がかかった部分に重ねて所得税を払ってしまっていないか――これは、あの最高裁判決が正面から示したところです。毎年の確定申告でも、一度は税理士の目を通していただくことをおすすめしております。

――私どもは税理士ではございませんので、評価額や税額を申し上げることはできません。ですが、「見落としていませんか」とおたずねすることはできます。それだけでも、ずいぶん違うと思っております。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

個人年金保険の相続でよくある7つの落とし穴

最後に、実務でとくに多い誤解を7つ、整理いたします。

  1. 「年金だから、相続財産ではない」と思い込む 課税されるのは年金そのものではなく、「年金を受け取る権利」です。被相続人が保険料を負担していた個人年金保険については、年金開始後なら「定期金に関する権利」(相続税法3条1項5号)としてみなし相続財産に、年金開始前なら、契約者が被相続人以外であれば「生命保険契約に関する権利」(同項3号)としてみなし相続財産に、被相続人ご自身が契約者であれば本来の相続財産として、いずれも相続税の対象になり得ます。公的年金の遺族年金とは、まったく別の話です。
  2. 「これから受け取る年金の総額」が相続財産だと考えてしまう 総額そのものではありません。給付事由が発生している場合は相続税法24条により、①解約返戻金の額、②一時金の額、③予定利率等による計算額――この3つのうち最も多い金額で評価します。「最も少ない金額」でも「平均」でもありません。
  3. まだ受け取り始めていない契約を、財産に数えない/条文の枠組みを取り違える 受給開始前でも、相続税の対象になり得ます。ただし相続税法3条1項4号と25条には「(生命保険契約を除く。)」という括弧書きがあるため、生命保険会社の個人年金保険は、財産評価基本通達214により解約返戻金の額を基礎として評価します。契約者が被相続人以外なら同項3号の「生命保険契約に関する権利」、被相続人ご自身が契約者なら本来の相続財産という整理の違いはありますが、評価の方法は変わりません。25条によるのは、生命保険契約以外の定期金給付契約で、解約返戻金の定めがなければ一定の算式による金額の90%、あればその解約返戻金の額が基本です。
  4. 「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使えると思っている 相続税法12条1項6号の非課税枠は、同法3条1項1号の生命保険金等について適用される制度です。定期金に関する権利(同項5号)や生命保険契約に関する権利(同項3号)として取得するものには、原則として適用されません。なお、この規定は2026年4月1日施行の改正で12条1項5号から6号に繰り下がっています。ただし死亡保険金を年金で受け取る契約など、契約内容によって取扱いが分かれ得る領域ですので、必ず税理士にご確認ください。
  5. 古い記事の「評価方法」を信じてしまう 定期金に関する権利の評価は平成22年度税制改正で大きく見直されました。適用開始は24条が原則として平成23年4月1日以後、25条が平成22年4月1日以後に取得する権利と、1年ずれています。改正前は残存期間に応じた割合・倍数による評価でした。インターネット上には、いまも改正前の説明が残っています。必ず現行の規定でご確認ください。
  6. 「契約者が子どもの名義だから、相続財産ではない」と考える 税務上は、名義ではなく、実際に保険料を負担していた方を基準に判断されるのが原則とされています。親御さまの口座から保険料が引き落とされていた契約は、名義がお子さまでも問題になり得ます。名義預金と同じ考え方です。判断の難しい領域ですので、税理士にご確認ください。
  7. 相続税を払ったあと、年金の所得税を確認しないまま何年も過ごす 最高裁平成22年7月6日判決により、年金受給権のうち相続税の課税対象となった部分について、その後の年金受給時に所得税を課すことは許されないとされ、所得税法9条1項17号による取扱いが整備されました。ただし毎年の年金の全額が非課税になるわけではなく、非課税部分は計算により求めます。毎年の確定申告についても、一度は税理士の目を通していただくことをおすすめします。

この記事のまとめ

  • 個人年金保険で相続税の対象になるのは、年金そのものではなく「年金を受け取る権利」です。年金の支給がすでに始まっていれば、相続税法上の「定期金に関する権利」にあたります。
  • まず確認すべきは、「実際に保険料を負担していたのは誰か」です。契約者の名義ではなく、負担の実態で判断されるのが原則とされています。
  • 相続税法3条1項4号と同法25条には「(生命保険契約を除く。)」という括弧書きがあります。したがって、まだ年金の支給が始まっていない生命保険会社の個人年金保険は、財産評価基本通達214により解約返戻金の額を基礎として評価します。契約者が被相続人以外であれば同項3号の「生命保険契約に関する権利」、被相続人ご自身が契約者であれば本来の相続財産として整理されるのが原則です。
  • 相続税法3条1項5号は、被相続人が定期金受取人であった契約について、その死亡後に遺族等が受取人となった場合――いわゆる保証期間付定期金に関する権利を定めています。この号には生命保険契約を除く旨の括弧書きはありません。
  • 給付事由が発生している場合の評価は、相続税法24条。①解約返戻金の額、②一時金の額、③予定利率等による計算額――この3つのうち最も多い金額で評価します。
  • ③の計算は、有期定期金は残存期間に応じた複利年金現価率、無期定期金は予定利率による割戻し、終身定期金はその目的とされた者の余命年数に応じた複利年金現価率によります。
  • 相続税法25条によるのは、生命保険契約以外の定期金給付契約で、まだ給付事由が発生していないものです。解約返戻金の定めがなければ一定の算式による金額の90%、定めがあればその解約返戻金の額が基本です。
  • これらの評価方法は平成22年度税制改正で見直されたもので、適用開始は24条が原則として平成23年4月1日以後、25条が平成22年4月1日以後に取得する権利と、1年ずれています。古い説明が残っていることがあるため、注意が必要です。
  • 生命保険金の非課税枠「500万円 × 法定相続人の数」(相続税法12条1項6号。2026年4月1日施行の改正で5号から繰り下がりました)は、相続税法3条1項1号の生命保険金等が対象であり、定期金に関する権利や生命保険契約に関する権利には原則として適用されません。
  • ただし死亡保険金を年金の形で受け取る契約など、契約内容によって取扱いが分かれ得る領域です。ご自身の契約については必ず税理士にご確認ください。
  • 長崎年金二重課税事件(最高裁平成22年7月6日判決)は、年金受給権のうち相続税の課税対象となった部分について、その後の年金受給時に所得税を課すことは許されないと判断しました。
  • これを受けて所得税法9条1項17号による取扱いが整備されましたが、毎年の年金の全額が非課税になるわけではありません。非課税部分は計算により求め、これを超える部分は雑所得として課税されます。
  • 実務の第一歩は、保険会社に「相続開始日時点の解約返戻金相当額」と「一時金で受け取る場合の金額」を出していただくことです。
  • そして、相続が起きたら保険証券をすべて広げること。通帳の保険料の引き落とし履歴も、契約を見つける手がかりになります。評価と申告の判断は、必ず税理士にご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は税務上または法律上の助言を提供するものではなく、特定の保険契約についての課税関係、相続税法3条1項の該当号、評価額、生命保険金の非課税枠の適用の有無、所得税の非課税部分の金額を保証するものでもありません。個人年金保険の課税関係は、契約者・保険料負担者・被保険者・年金受取人の組み合わせ、年金の種類(確定年金・有期年金・終身年金・保証期間付終身年金)、給付事由が発生しているかどうか、解約返戻金の定めの有無、契約の締結時期と権利の取得時期など、個別の事実関係によって結論が大きく変わり得る事項です。とくに、名義と保険料負担の実態が異なる場合の判断、死亡保険金を年金の形で受け取る契約における非課税枠の適用、所得税の非課税部分の各年の計算については、判断を誤りやすい領域です。本文中の計算式は、評価と課税の構造をご理解いただくために単純化したものであり、実際の評価額や税額を示すものではありません。記載した法令名・条項・判決・数値は執筆時点で一次情報により確認したものですが、法令・通達・税制は改正される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、国税庁などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、相続税・所得税の課税関係については必ず税理士に、保険契約の内容については保険会社にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

「保険証券が出てきたのですが、これは何でしょうか」――そのご相談からで結構です

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見落とされやすい財産こそ、はじめに洗い出しておくことが大切です。
評価と申告の最終的な判断は、税理士の先生におつなぎいたします。