「税務調査が来ませんように」と、多くの方がおっしゃいます

相続税の申告書を提出し終えた直後、ご相談者からうかがう言葉は、たいてい似ています。

「これで、終わりでしょうか」――そして、少し間を置いて、「調査って、来るものなんでしょうか」と続きます。

ご不安になるのは、当然のことだと思います。相続税の申告は、多くの方にとって一生に一度か二度のことです。「自分のやり方が正しかったのか、確かめるすべがない」――その居心地の悪さが、そのまま不安になります。

[不安の正体は、「説明する場がない」ことです]
よくよくお話をうかがうと、「隠しごとがあるから怖い」という方は、ほとんどおられません。むしろ「精一杯調べたつもりだけれど、それが伝わる場所がない」という、もどかしさに近いご不安です。
父の通帳は10年分そろえた。祖父名義の土地も探した。母の口座に移していたお金についても、税理士に相談して判断した。――それだけの作業をなさっても、申告書という様式に載るのは、結果の数字だけです。過程は、どこにも残りません。

書面添付制度は、まさにその「過程を残す」ための制度です。

申告書は、財産の一覧と税額という「結論」を書く様式です。そこには、どの銀行を何行あたったのか、名義の違う預金についてどう考えたのか、土地の評価でどの減額規定を検討したのかといった、判断の道筋は書けません。

その道筋を、税理士が自らの責任で書き添えるのが、添付書面です。そして、その書面があると、税務署の側の手続の順番が変わります。

  1. 書面添付がない場合――調査を行うと判断されれば、納税者と税理士に事前通知があり、そこから調査に入ります。
  2. 書面添付がある場合――調査を行おうとするときは、原則として事前通知の「前」に、税理士に意見を述べる機会が与えられます。

この「前」の一手が、書面添付制度のかなめです。以下、条文にそって見てまいります。

書面添付制度とは何か――税理士法33条の2の「添付書面」

書面添付制度の根拠は、税理士法33条の2です。

書面添付制度(税理士法33条の2)
申告書の作成にあたって
計算し、整理し、相談に応じた事項を
記載した書面を添付することができる
添付するかどうかは任意です。法律上の義務ではありません

この書面は、同条1項のものが「計算事項等記載書面」、同条2項のものが「審査事項等記載書面」と呼ばれています(税理士法施行規則に定める様式の名称です)。相続税の申告で通常用いられるのは、1項の計算事項等記載書面です。

「添付することができる」――義務ではありません

ここは、最初に押さえておいていただきたい点です。添付書面は、税理士が「添付することができる」ものであって、添付しなければならないものではありません。

ですから、「添付書面が付いていない申告書は、いいかげんな申告だ」ということには、まったくなりません。添付するかどうかは、税理士の判断によります。

[添付されないことにも、理由があります]
添付書面には、税理士が「確かめた」と書いたことについての責任が伴います。虚偽の記載をすれば懲戒の対象にもなり得ます(後述)。
そのため、資料が十分にそろわなかった、判断に確信が持てない論点が残った、依頼者から必要な説明が得られなかったといった場合には、あえて添付しないという判断もあり得ます。これは誠実な対応であって、手抜きではありません。

誰が添付できるのか

添付できるのは、税理士または税理士法人です。ご自身で申告書を作成された場合には、添付書面という制度は使えません。

ここは、相続税の申告をご自身でなさる方には、少し残念なところかもしれません。書面添付制度は、税理士に依頼することとセットの制度だとお考えください。

もう一つ必要なもの――税務代理権限証書

意見聴取が行われるためには、添付書面だけでなく、税務代理権限証書が提出されていることが前提になります。

税務代理権限証書は、「この申告について、この税理士が税務代理をします」ということを税務署に示す書類です。相続税の申告を税理士に依頼した場合、通常は申告書とあわせて提出されます。

「書面添付」と「税務代理権限証書」は別のものです

この二つは、混同されやすい書類です。税務代理権限証書は、税理士に依頼すれば通常提出されるもの。添付書面は、それとは別に、税理士が任意で作成して添える書面です。
「税理士に頼んだのだから、当然に書面添付もされている」とは限りません。気になる場合は、「添付書面も付けていただけますか」とお尋ねになって差し支えありません。

33条の2第1項と第2項の違い――自ら作成した申告書か、他人の申告書の審査か

税理士法33条の2には、1項と2項があります。この二つは、場面が違います。

区分場面書面の内容
33条の2第1項
(計算事項等記載書面)
税理士または税理士法人が、申告書を自ら作成した場合その申告書の作成に関し、計算し、整理し、または相談に応じた事項を記載
33条の2第2項
(審査事項等記載書面)
税理士または税理士法人が、他人の作成した申告書について相談を受け、審査した場合審査した事項および、その申告書が法令の規定に従って作成されている旨を記載

相続税の申告では、税理士に一連の作業を依頼するのが通例ですので、実際に用いられるのは、ほぼ1項です。

2項が使われるのは、どんな場面か

2項は、すでにできあがっている申告書を、別の税理士が点検するという場面を想定した規定です。

相続の場面では、たとえば「ご自身で作られた申告書を、提出前に税理士に見てもらう」といったケースが考えられます。もっとも、他人が作った申告書について「法令の規定に従って作成されている」と書くには、結局、財産の裏付けを一から確かめる必要があります。そのため、実務上は多くありません。

[「セカンドオピニオン」とは別の話です]
他の税理士が作成した申告書について意見を求めること自体は、いつでもできます。ただし、それがただちに33条の2第2項の書面につながるわけではありません。
2項の書面は、「審査した」という税理士自身の責任を伴う書面です。相談を受けた税理士が、資料を確認したうえで判断することになりますので、「ひととおり拝見しました」という程度では作成されません。

意見聴取とは――税理士法35条1項、事前通知の「前」に置かれた手続

ここが、書面添付制度の中心です。

意見聴取(税理士法35条1項)
添付書面が付いた申告書について
調査を行おうとする場合
事前通知の「前」に、税理士に
意見を述べる機会を与えなければならない
前提として、税務代理権限証書が提出されていることが必要です

「事前通知」とは何か

税務調査を行う場合、税務署は原則として、あらかじめ納税者と税理士に、調査の日時・場所・目的・対象となる税目や期間などを通知します。これが事前通知で、根拠は国税通則法74条の9です。

通常の流れでは、この事前通知が「調査の入口」になります。ところが、添付書面がある場合には、その入口の手前に、もう一つ手続が置かれるのです。

添付書面がない場合添付書面がある場合
① 最初の手続納税者・税理士への事前通知(国税通則法74条の9)税理士への意見聴取(税理士法35条1項)
② 次に起こること調査の実施調査の要否の判断。必要と判断されれば事前通知へ
③ 納税者への連絡①の段階であります意見聴取は、原則として税理士に対して行われます

意見聴取は「調査」ではありません

ここは、とても大切な点です。意見聴取は、税務調査そのものではありません。調査を行うかどうかを判断するために、その前に置かれた手続です。

ですから、意見聴取があったからといって、「調査に入られた」ということにはなりません。ご自宅に税務職員が来ることも、原則としてありません。やり取りは、税務署と税理士のあいだで行われます。

[ご相談者の反応で、いちばん多いもの]
「税務署から連絡が来た、と税理士さんから言われました。もう調査ですか」――このように、ひどく驚かれる方がおられます。
けれども、それが意見聴取であれば、まだ調査ではありません。まず、「それは意見聴取ですか、事前通知ですか」と、担当の税理士にお尋ねください。この二つでは、意味がまったく違います。

何が聴かれるのか

意見聴取では、添付書面に記載された事項について、税務職員が税理士に質疑を行います。

相続税であれば、たとえば「家族名義の預金について、どのように確認されましたか」「被相続人の過去の預金の動きは、どこまでさかのぼって確認されましたか」「この土地の評価で、この減額をどう判断されましたか」といった内容です。

つまり、添付書面に書いてあることが、そのまま質疑の土俵になるということです。書面の中身が薄ければ、聴取も形だけのものになりがちですし、丁寧に書かれていれば、税務署の疑問がその場で解けることもあります。

意見聴取のあと、どうなるか――お知らせが来る場合と、調査に進む場合

意見聴取が行われたあと、進み方は大きく二つに分かれます。

① 調査を行わないこととされた場合

意見聴取の結果、特に問題とすべき事項が認められないと判断された場合には、その旨が書面で知らされます。国税庁の文書上の名称は、「意見聴取結果についてのお知らせ」です。この書面は、納税者ご本人ではなく、意見聴取を受けた税理士に送付されますので、内容は担当の税理士からお聞きになることになります。

この文書には、意見聴取の結果、特に問題とすべき事項は認められず、現在までのところ調査は行わないこととした旨が記載されます。

「今後いっさい調査が来ない」という意味ではありません

この「お知らせ」は、将来の調査を完全に否定するものではありません。国税庁の事務運営指針にも、後日、新たな疑問等が生じた場合には調査を行うことがある旨が記載されています。
「調査はもうない」ではなく、「現在までのところ、調査は行わないこととした」――この言い回しのとおりに受け取っていただくのが正確です。

② 調査が必要と判断された場合

意見聴取を経てもなお確認すべき事項が残ると判断されれば、通常どおり事前通知を経て、税務調査が行われます。

この場合、書面添付があったから調査が重くなる、ということはありません。むしろ、添付書面と意見聴取で論点が整理されている分、確認すべき点が絞られることが期待できます。

意見聴取のあとに修正申告をした場合の加算税

意見聴取の質疑のなかで、申告内容に不足があると気づくことがあります。その場合に、自主的に修正申告を提出することが考えられます。

国税庁は、意見聴取における質疑等のみを契機として修正申告書が提出された場合、それは国税通則法65条にいう「更正があるべきことを予知してされたもの」には当たらないという考え方を示しています。

[ただし、条件があります]
国税庁のQ&Aで過少申告加算税を賦課しないと整理されているのは、意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出され、かつ、その提出が調査の通知前である場合です。「意見聴取のあとなら、いつでもよい」というわけではありません。
裏を返せば、調査の通知以後にされた修正申告については、平成28年度の改正により、「更正があるべきことを予知」する前のものであっても、一定の割合で過少申告加算税が課されることとされています(原則として5%、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)。
加算税が課されるかどうかは、個別の事実関係によって結論が変わります。実際の取扱いは、必ず担当の税理士にご確認ください。

加算税や延滞税の全体像については、相続税を申告しない・払い遅れるとどうなる――無申告加算税・過少申告加算税・重加算税・延滞税を完全ガイドもあわせてご覧ください。

虚偽の記載をした場合――税理士の責任

添付書面は、税理士が自らの責任で作成する書面です。そのため、内容が虚偽であれば、税理士自身が責任を問われます。

税理士法46条(一般の懲戒)は、税理士が33条の2第1項または第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたときを、懲戒処分の対象として明記しています。懲戒処分の種類は、戒告、2年以内の税理士業務の停止、税理士業務の禁止の3種です(税理士法44条)。なお、故意に真正の事実に反して税務書類の作成をしたときは、45条(脱税相談等をした場合の懲戒)の対象にもなり得ます。

つまり、添付書面は「付けておけば得をする紙」ではなく、「書いた以上は責任が伴う書面」だということです。ここが、この制度の重みです。

相続税の添付書面には何を書くのか――財産をどう探し、何を確かめたか

では、相続税の添付書面には、実際にどのようなことが書かれるのでしょうか。

条文の言葉では、「計算し、整理し、または相談に応じた事項」です。相続税に引き直すと、おおむね次のような内容になります。

  1. 財産の把握の方法――どの金融機関に残高証明を請求したのか、名寄帳や固定資産税の課税明細をどう確認したのか、証券の残高の証明をどう取得したのか。
  2. 預金の異動の確認――被相続人の口座について、何年分の取引履歴を確認したのか。大口の入出金について、使いみちをどう確かめたのか。
  3. 家族名義の預金についての検討――いわゆる名義預金について、資金の出どころ、通帳や印鑑の管理の状況、贈与の事実の有無をどう確認し、どう判断したのか。
  4. 生前贈与の確認――贈与税の申告の有無、贈与契約書の有無、相続時精算課税の適用の有無。
  5. 土地の評価の判断――現地を確認したか、どの減額規定を検討し、適用した理由・適用しなかった理由は何か。
  6. 小規模宅地等の特例などの適用判断――要件をどの資料で確認したのか。
  7. 債務・葬式費用――どの資料で確認したのか。
  8. 相談を受け、判断した事項――依頼者から特に相談を受けた論点と、それについての税理士の判断。

相続税で、いちばん厚く書かれるのは「名義預金」です

相続税の税務調査でもっとも多く指摘されるのは、名義預金です。したがって、相続税の添付書面でも、この論点をどう確認したかが中心になります。
お子さま・お孫さま名義の預金について、資金の出どころは誰か。通帳と印鑑を誰が管理していたか。贈与の事実があったといえるか。――この確認の過程を書いておくことが、そのまま説明になります。
名義預金そのものについては、名義預金とは――家族名義でも相続財産、税務調査で最も指摘される預金の見分け方と対策を完全ガイドで詳しく整理しております。

依頼者にできること――「聞かれたことに、隠さず答える」

添付書面を作成するのは税理士ですが、その材料をお持ちなのは、ご依頼者ご自身です。

私どもがお願いしたいのは、たった一つです。税理士から聞かれたことに、隠さずお答えいただくこと。これに尽きます。

[「言わないほうがいい」は、逆効果になります]
「これは言わなくてもいいだろう」とお考えになった事柄が、あとから調査で出てくる――これが、いちばん困る展開です。
とくに添付書面が付いている場合、税理士は「確認しました」と書いています。そこに書かれていない事実が後から出てくると、書面の信頼そのものが揺らぎます。
ですから、迷われたことほど、先に税理士にお話しください。「判断が難しい」ことと「隠している」ことは、まったく別の扱いになります。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「税務署から連絡が来たと言われて、眠れませんでした」――Sさまのご相談

Sさま(60代・男性)は、1年半ほど前にお父さまを亡くされ、相続税の申告を税理士に依頼なさった方です。財産はご自宅の土地建物と、複数の金融機関の預貯金が中心でした。

ご相談の入口は、「税理士さんから、税務署から連絡が来たと言われました」というものでした。Sさまは、「調査でしょうか。私は何か間違えたのでしょうか」と、たいへん気にしておられました。

私はまず、「その連絡が、意見聴取なのか、事前通知なのかを確かめましょう」と申し上げました。この二つは、まったく別のものだからです。

担当の税理士にご確認いただいたところ、意見聴取でした。申告書には添付書面が付けられていたとのことでした。

私はこう申し上げました。「それは、調査ではありません。税務署が、調査をするかどうかを決める前に、税理士さんに説明を求めている段階です」と。

Sさまは、驚かれた様子でした。「そんな段階があるのですか。まったく知りませんでした」と。

後日うかがったところでは、聴取の内容は、お母さま名義の定期預金についてのものだったそうです。その預金は、お母さまご自身が長年のお勤めの収入から積み立ててこられたもので、税理士はその入金の経緯を通帳で確認したうえで、被相続人の財産には含めないと判断し、その理由を添付書面に記載していたとのことでした。

結果として、担当の税理士のもとに「意見聴取結果についてのお知らせ」が届いたそうです。この書面は納税者ご本人ではなく税理士に送付されますので、Sさまは税理士からご報告を受けてお知りになりました。

Sさまは、こうおっしゃいました。「税理士さんが、私の代わりに説明してくださったのですね」と。

――そのとおりだと思います。ただし、ここで見落としてはならないことがあります。税理士が説明できたのは、Sさまが「母が自分の収入から積み立てたものです」と、事前に正直にお話しになっていたからです。

もしSさまが「聞かれていないから、言わないでおこう」とお考えになっていたら、添付書面にその記載はなく、意見聴取の場で説明の材料がなかったことになります。

私は、Sさまにこう申し上げました。「制度が守ってくれたのではありません。Sさまが最初に正直にお話しになったことが、そのまま守りになったのです」と。

※上記は一般的な整理であり、実際の取扱いは個別の事情により異なります。相続税の申告と書面添付、名義預金の判断については、必ず税理士にご確認ください。

添付割合と、依頼するときの確かめ方――「書いていただけますか」と聞いてよい

この制度が、実際にどのくらい使われているのかを見ておきましょう。

相続税の添付割合は、およそ4分の1

国税庁が公表している税理士法33条の2に規定する添付書面の添付割合は、次のとおりです。

税目令和5事務年度令和6事務年度
所得税1.5%1.5%
相続税24.3%24.6%
法人税10.0%10.2%

この割合は、税理士が関与した申告のうち、添付書面が付けられた申告の割合です。相続税は、他の税目に比べて突出して高いことがお分かりいただけると思います。

[なぜ相続税だけ高いのか]
理由は、相続税の申告が「財産を探し出す作業」を含んでいるからだと考えられます。
所得税や法人税には、基本的に帳簿という出発点があります。ところが相続税には、「これで全部です」と言い切れる出発点がありません。亡くなった方の財産を、残された資料から推し量って探すという作業になります。
だからこそ、「どこまで探したか」を書き残す意味が大きいのです。数字だけでは伝わらない手間が、相続税にはいちばん多く含まれているということでもあります。

依頼するときに、聞いてよいこと

相続税の申告を税理士に依頼なさるとき、次のようにお尋ねになって、失礼にはあたりません。

  1. 「書面添付は、していただけますか」――まずは、この一言です。
  2. 「する」「しない」の理由――どちらのお答えでも、理由をうかがっておくと安心です。「資料がそろえば付けます」というお答えは、誠実なものです。
  3. 費用に影響するか――添付書面の作成には相応の手間がかかります。報酬に含まれるのか、別途なのかを、最初に確かめておくと行き違いがありません。
  4. 意見聴取があった場合の対応――連絡はどうなるのか、費用は別に必要か。ここも、あらかじめ確認しておける事柄です。

「付けてくれないなら不誠実」ではありません

繰り返しになりますが、添付書面は義務ではありません。そして、書いた以上は税理士自身の責任が伴います。
「資料が十分にそろわない財産があるので、今回は付けません」というお答えは、むしろ制度を正しく理解していると申し上げてよいものです。大切なのは、付ける・付けないという結論ではなく、その理由を説明していただけるかどうかです。

申告後に気づいたときは――更正の請求という道

なお、申告を終えたあとで、財産の評価に減額の余地があったと気づかれた場合には、更正の請求という手続があります。原則として法定申告期限から5年以内です(国税通則法23条1項)。詳しくは相続税の更正の請求――払い過ぎた相続税を取り戻す手続き、通則法23条の5年と相続税法32条の4か月を完全ガイドをご覧ください。

― 私たちから一言 ―

「調査を避ける制度」ではなく、「説明を残す制度」です

書面添付制度について、私どもがもっとも申し上げにくく、しかし申し上げなければならないと思っていることがあります。

それは、この制度は「税務調査を避けるための道具」ではないということです。

ご相談のなかで、「書面添付をすれば、調査は来ないのですよね」とお尋ねになる方がおられます。お気持ちはよく分かるのですが、そうではありません。意見聴取のあとに調査が必要と判断されれば、通常どおり調査は行われます。

では、何のための制度か。私どもは、「申告書に書けなかったことを、書き残しておくための制度」だと考えています。

相続税の申告は、亡くなった方の一生分の財産を、残された方が手さぐりで組み立てていく作業です。通帳を10年分そろえ、名寄帳を取り、古い権利証を探し、記憶をたどって「あの土地は、どうなっていたか」と親戚に尋ねる。そうやってようやくできあがった申告書に載るのは、結果の数字だけです。

その数字にならなかった部分を、税理士が言葉にして添える。それが添付書面です。ですから私どもは、この制度を「守りの制度」というより、「記録の制度」としてご説明しています。

そして、その記録の材料は、ご依頼者ご自身の口からしか出てきません。税理士がどれほど力を尽くしても、お話しいただいていないことは書けないのです。

迷っていること、後ろめたく感じていること、判断がつかないこと。――そういうものほど、先に税理士にお話しください。それが、いちばん確かな備えになります。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

相続税申告の書面添付制度でよくある7つの落とし穴

  1. 「書面添付をすれば税務調査は来ない」と思い込む そうではありません。意見聴取の結果、調査が必要と判断されれば、通常どおり国税通則法74条の9の事前通知を経て調査が行われます。また、調査を行わないこととされた場合の「意見聴取結果についてのお知らせ」も、将来の調査を否定するものではありません。国税庁の事務運営指針にも、後日、新たな疑問等が生じた場合には調査を行うことがある旨が記載されています。
  2. 「税理士に頼んだから、当然に書面添付もされている」と考える 添付書面は、税理士が「添付することができる」ものであって、義務ではありません(税理士法33条の2)。税務代理権限証書とは別の書類です。国税庁の公表値では、相続税の添付割合は令和6事務年度で24.6%――4件のうち3件には付いていないということでもあります。気になる場合は、依頼のときにお尋ねください。
  3. 「意見聴取」と「事前通知」を同じものだと思う 意見聴取(税理士法35条1項)は、調査そのものではありません。調査を行うかどうかを判断するために、事前通知の「前」に置かれた手続です。事前通知(国税通則法74条の9)は、調査の入口です。税理士から連絡があったときは、まず「どちらですか」とお尋ねください。
  4. 「意見聴取のあとの修正申告なら、加算税は絶対にかからない」と考える 断定はできません。国税庁が過少申告加算税を賦課しないと整理しているのは、意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出され、かつ、その提出が調査の通知前である場合です。調査の通知以後の修正申告には、更正の予知前であっても一定の割合で過少申告加算税が課され得ます(平成28年度改正)。加算税の取扱いは、必ず税理士にご確認ください。
  5. 税理士に「言わなくてもよさそうなこと」を伝えない 添付書面には、税理士が「確認した」と記載します。そこに書かれていない事実が後から出てくると、書面全体の信頼が損なわれます。とくに家族名義の預金、過去の大口の出金、生前贈与は、相続税の調査でもっとも問われるところです。判断が難しいことほど、先にお話しください。
  6. 「添付書面を付けてくれない税理士は不誠実だ」と決めつける 添付書面には、税理士自身の責任が伴います。税理士法46条(一般の懲戒)は、33条の2第1項または第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたときを懲戒の対象として明記しており、処分の種類は戒告、2年以内の税理士業務の停止、税理士業務の禁止の3種です(同法44条)。資料が足りない、確信の持てない論点が残る、といった場合に「付けない」と判断することは、誠実な対応です。
  7. ご自身で申告するのに、書面添付を当てにする 添付書面を作成できるのは、税理士または税理士法人です。ご自身で申告書を作成された場合には、この制度は使えません。また、他人が作成した申告書を審査して添付する33条の2第2項の書面は制度としてありますが、「審査した」と書くには財産の裏付けを一から確認する必要があり、実務上は多くありません。

この記事のまとめ

  • 書面添付制度の根拠は、税理士法33条の2です。税理士または税理士法人が、申告書の作成に関し、計算し、整理し、または相談に応じた事項を記載した書面を添付することができる制度です。
  • 33条の2第1項は、税理士が自ら作成した申告書についての書面(計算事項等記載書面)、同条2項は、他人の作成した申告書について相談を受け、審査した場合の書面(審査事項等記載書面)です。相続税では、通常1項が用いられます。
  • 添付は義務ではありません。「添付することができる」という規定です。ご自身で申告書を作成した場合には利用できません。
  • 添付書面が付され、税務代理権限証書が提出されている申告書について調査を行おうとする場合、税務職員は、原則として国税通則法74条の9の事前通知を行う前に、その税理士に意見を述べる機会を与えなければなりません(税理士法35条1項)。これが意見聴取です。
  • 意見聴取は、税務調査そのものではありません。調査を行うかどうかを判断するための手続で、やり取りは原則として税務署と税理士のあいだで行われます。
  • 意見聴取の結果、調査の必要がないと認められた場合には、「意見聴取結果についてのお知らせ」が出されます。この書面は、納税者ご本人ではなく、意見聴取を受けた税理士に送付されます。ただし、後日、新たな疑問等が生じた場合には調査を行うことがある旨も、国税庁の事務運営指針に記載されています。
  • 国税庁は、意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出され、かつ、その提出が調査の通知前である場合には、国税通則法65条にいう「更正があるべきことを予知してされたもの」に当たらず、過少申告加算税は賦課されないという整理を示しています。もっとも、調査の通知以後の修正申告には、更正の予知前でも一定の割合で過少申告加算税が課され得ます(平成28年度改正。原則5%、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)。個別の取扱いは必ず税理士にご確認ください。
  • 相続税の添付書面では、名義預金の確認の過程がとくに重要です。資金の出どころ、通帳・印鑑の管理者、贈与の事実の有無をどう確認したかが、そのまま説明になります。
  • 国税庁の公表値では、添付割合は令和6事務年度で相続税24.6%、所得税1.5%、法人税10.2%です。相続税は他の税目より突出して高いのが特徴です。
  • 依頼のときには、「書面添付はしていただけますか」とお尋ねになって差し支えありません。する・しないという結論より、その理由を説明していただけるかどうかが大切です。
  • 添付書面には、税理士自身の責任が伴います。税理士法46条(一般の懲戒)は、33条の2第1項または第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたときを懲戒の対象として明記しており、処分の種類は戒告・2年以内の税理士業務の停止・税理士業務の禁止の3種です(同法44条)。故意に真正の事実に反して税務書類の作成をしたときは、45条(脱税相談等をした場合の懲戒)の対象にもなり得ます。
  • 申告後に評価の減額もれ等に気づいた場合の更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内です(国税通則法23条1項)。
  • 制度が守ってくれるのではなく、正直にお話しいただいた内容が守りになります。迷われた事柄ほど、先に税理士にお伝えください。加算税や調査の見通しについては必ず税理士に、登記については必ず司法書士に、法的な紛争については必ず弁護士にご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は税務上または法律上の助言を提供するものではなく、書面添付をすれば税務調査が行われないことを保証するものでも、意見聴取の結果や加算税の取扱いを保証するものでもありません。書面添付制度に関する判断は、申告内容、資料の整備の状況、税理士の関与の範囲、意見聴取における質疑の内容、調査通知との前後関係など、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。とくに、意見聴取後の修正申告と加算税の関係、「更正があるべきことを予知してされたもの」に当たるかどうかの判断は、誤りやすい領域です。本文中の整理は、制度の骨格をご理解いただくために単純化したものであり、実際の結論を示すものではありません。記載した法令名・条項・数値は執筆時点で一次情報により確認したものですが、法令・通達・税制および国税庁の公表値は改正・更新される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、国税庁などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、申告と書面添付、加算税の取扱いについては必ず税理士に、登記については必ず司法書士に、法的な紛争については必ず弁護士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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