相続税の税務調査とは――申告後にやってくる確認

相続税の税務調査とは、提出された相続税の申告内容が正しいかどうかを、税務署(または国税局)が確認する手続きです。申告した財産に漏れがないか、評価(「相続財産の評価方法」参照)が適正か、特例の適用要件を満たしているかなどを、資料や聞き取りによって調べます。

税務署は、亡くなった方の過去の収入や財産の動きを、確定申告のデータ、不動産の登記、金融機関への照会、保険会社からの支払調書など、さまざまな情報源から把握しています。「申告された財産が、生前の収入や資産の規模に比べて少なすぎないか」といった観点で、いわば答え合わせをするわけです。

[「悪いことをした人」だけが対象ではない]
税務調査というと、脱税のような不正をした人が対象、というイメージがあるかもしれません。しかし相続税では、悪意のない「うっかり」の申告漏れ――とくに名義預金――が指摘の中心です。きちんと申告したつもりでも調査の対象になり得る、と知っておくことが大切です。

どのくらい来る?――割合と「8割超」の指摘率

国税庁は毎年、「相続税の調査等の状況」を公表しています。近年の傾向を整理すると、次のようになります。

項目 近年の傾向
実地調査の割合 相続税の申告件数のうち、調査官が訪れる「実地調査」が行われるのはおおむね6%前後(近年は5〜8%程度で推移)。
申告漏れの指摘率 実地調査に入られたケースの約8割超(8割以上)で、申告漏れなどが指摘されている。
簡易な接触も含めると 電話・文書での「簡易な接触」も含めると、申告件数の2割前後が何らかの形で税務署と接触している。

つまり、実地調査そのものに当たる確率は1割未満ですが、いったん調査に入られると、高い確率で何らかの指摘を受けるのが実情です。調査は「ねらいを定めて」来るため、入られた以上は手ぶらでは帰らない、と考えておくとよいでしょう。

[財産が多いほど調査されやすい傾向]
一般に、申告した遺産の総額が大きいほど、また財産の構成が複雑(金融資産が多い、海外資産がある、同族会社のオーナーなど)なほど、調査の対象に選ばれやすい傾向があります。とはいえ「平均的な規模だから絶対に来ない」とは言い切れません。

いつ・どう来る?――時期と任意調査・事前通知

来るのは「申告の1〜2年後」が多い

相続税の税務調査は、申告のおおむね1〜2年後に行われることが多いとされています。時期としては、夏の終わりから秋(おおむね7〜10月ごろ)がピークになりやすい、というのが実務上よく語られる傾向です。申告してしばらく経ってからやってくるため、「もう大丈夫だろう」と思ったころに連絡が来る、ということが起こります。

多くは「任意調査」、原則として事前通知がある

相続税の税務調査の多くは「任意調査」として行われます。これは、相続人の協力(任意)を前提に進められるもので、いきなり予告なく来るわけではありません。原則として、調査日の数週間〜1か月ほど前に、税務署から代表の相続人または税理士へ電話で連絡があり、日程を調整します。

事前通知 税務署から電話・日程調整
実地調査 自宅などで聞き取り・確認
結果 指摘・修正申告の検討

実地調査は、多くの場合、亡くなった方が住んでいたご自宅で行われ、午前から午後にかけて、相続人への聞き取りや、通帳・印鑑・保管書類などの確認が進められます。「任意」とはいえ、正当な理由なく拒否し続けることは難しく、質問に対して虚偽の答えをすれば重いペナルティの対象になり得ます。

最大の指摘原因は「名義預金」

相続税の申告漏れの中で、件数・金額ともに最も大きいのが現金・預貯金であり、その中心にあるのが「名義預金」でございます。これは相続税の税務調査における最大の論点と言ってよいものです。

名義預金とは――「名義」と「実態」がずれた預金

名義預金とは、口座の名義は家族(配偶者・子・孫など)になっているが、実際にはお金を出して管理していたのは亡くなった方、という預金のことです。たとえば「子ども名義で親がコツコツ積み立てていた」「専業主婦の妻名義の口座だが、入金していたのは夫」といったケース。名義が家族でも、実質的に被相続人の財産と判断されれば、相続財産に含めて申告しなければなりません。これを漏らしていると、調査で指摘されます。

名義預金と判断されやすいポイント

税務署は、次のような点から「名義だけのものか、本当にその名義人の財産か」を総合的に判断します。

[「贈与」のつもりが名義預金に]
「毎年子や孫の口座にお金を移していたから贈与済み」と思っていても、子や孫が口座の存在を知らず、通帳も親が管理していた――という場合は、贈与が成立しておらず名義預金とされることがあります。生前贈与をするなら、贈与契約書を作り、受け取る側が口座を管理し、本人が使える状態にしておくことが大切です(「生前贈与」もご覧ください)。

ほかに狙われるポイント――現金・生前贈与・海外資産

名義預金以外にも、調査で重点的に確認されるポイントがあります。代表的なものを整理いたします。

ポイント 見られる内容
現金・タンス預金 亡くなる直前に多額を引き出していないか。手元に残った現金(手元現金)を申告に含めているか。引き出した使途は何か。
生前贈与 死亡前の大口の贈与、孫や養子への預金移動が、相続税逃れの形式的なものでないか。贈与税の申告がされているか。
海外資産(国外財産) 海外の口座・不動産などの申告漏れ。国外送金や国外財産調書、国際的な口座情報交換の仕組みで把握される。
生命保険・死亡退職金 保険料を実際に負担していたのは誰か、保険金の帰属は誰か。契約者名義の変更がないか。
非上場株式・同族会社 オーナー社長の相続では、会社への貸付金、社長名義の資産、株式の評価などが重点的に見られる。

とくに「亡くなる直前の多額の引き出し」は、ほぼ確実にチェックされます。葬儀費用や入院費の支払いなど正当な使途であれば問題ありませんが、引き出した現金が手元に残っているのに申告していない、というのは典型的な指摘事項です。

何年さかのぼる?――除斥期間は原則5年・不正は7年

税務署が相続税を追加で課税できる期間には、法律上の限度(除斥期間)があります。これを過ぎれば、もう課税されません。

区分 さかのぼれる期間
原則 申告期限から5年(通常の申告漏れなど)。
偽りその他不正がある場合 申告期限から7年(仮装・隠ぺいなど、重加算税の対象となる悪質なケース)。

相続税の申告期限は「相続の開始を知った日の翌日から10か月以内」ですから、その期限を起点に、原則5年・不正なら7年がさかのぼれる期間になります。なお、これは「課税できる期間」の話であり、調査の際に生前の預金の動きそのものは、必要に応じて10年程度さかのぼって確認されることもあります(事実確認の範囲と、課税できる期間は別物です)。

指摘されると、本来の税金に加えてペナルティ

調査で申告漏れが見つかると、不足していた相続税の本税に加えて、過少申告加算税・無申告加算税・延滞税がかかります。仮装・隠ぺいなど悪質と判断されれば、さらに重い重加算税(最大35〜40%)が課されます。これらのペナルティの詳細は「相続税の申告と納付」で解説しています。「ばれなければ」という考えは、結果的に高くつきます。

調査に備える――書面添付制度と日頃の準備

税務調査は、いつ来るか相続人側からは選べません。しかし、調査に入られにくくし、また入られても短く済ませるための「備え」はできます。

書面添付制度(税理士法33条の2)

書面添付制度とは、税理士が申告書を作成するにあたって、どのように財産を確認し、どう評価・判断したかを記した書面(意見書)を申告書に添付できる制度です(税理士法33条の2)。財産の評価方法や、名義預金をどう検討したか、特例適用の前提などを詳しく記載することで、「税理士がしっかり確認した申告である」ことを税務署に示せます。

書面添付がある申告については、税務署はまず税理士への意見聴取(質問)を行い、その段階で疑問が解消されれば、実地調査に至らずに済むことがあります。「絶対に調査が来なくなる」わけではありませんが、調査に選ばれにくくなる・調査が来ても範囲が限定されやすいという効果が期待できる、有力な備えです。

日頃・申告時にできる準備

税務調査でよくある7つの落とし穴

ご相談の現場で実際によく見かける、税務調査をめぐる誤解と失敗を7つに整理いたしました。

  1. 「うちは少額だから調査は来ない」と油断する 平均的な規模でも調査の対象になり得ます。財産が多い・複雑なほど確率は上がりますが、ゼロではありません。
  2. 家族名義の預金を「家族のもの」と思い込み申告しない 最大の指摘原因が名義預金です。お金の出どころと管理の実態で判断されます。
  3. 子や孫への送金を「贈与済み」と思い込む 受け取る側が知らず、通帳も親が管理していると、贈与が不成立で名義預金とされることがあります。
  4. 亡くなる直前に引き出した現金を申告に入れ忘れる 手元に残った現金は相続財産です。直前の多額引き出しはほぼ確実に確認されます。
  5. 海外資産は分からないだろうと考える 国外送金の記録や国際的な口座情報交換で把握されます。海外資産の申告漏れは重点項目です。
  6. 「ばれなければ」と隠す 仮装・隠ぺいは重加算税(最大35〜40%)の対象で、さかのぼれる期間も7年に延びます。結果的に高くつきます。
  7. 備えをせず申告して、後から慌てる 相続に強い税理士による申告や書面添付制度で、調査リスクは下げられます。最初の申告の質が肝心です。
よくある相談事例
※以下の事例は架空のものであり、実在の個人・団体とは関係ありません。

「妻名義の預金が名義預金と指摘されかけ、事前の整理で乗り切ったケース」

お父様を亡くされたMさん(50代・長男)からのご相談でございました。相続税の申告を前に、お母様(被相続人の妻)の名義で数千万円の預金があることが分かりました。お母様はずっと専業主婦で、収入はほとんどありません。Mさんは「母の口座だから母のもの」と考えていましたが、当センターの提携税理士が確認すると、その入金の多くはお父様の給与や退職金が原資で、通帳もお父様が管理していたことが判明しました。

このままでは、税務調査で名義預金と認定され、申告漏れとして加算税までかかる典型的なパターンです。そこで、お母様自身の収入やもともとの財産で説明できる部分と、お父様が原資の部分とを丁寧に切り分け、後者は相続財産に含めて適正に申告。あわせて、税理士が確認した経緯を書面添付制度で申告書に添えました。結果として、申告後の税務署からの問い合わせにも書面で説明がつき、実地調査に至ることなく落ち着きました。

Mさんは「母の口座まで父の財産になり得るとは、考えもしませんでした。先に整理して、きちんと申告しておいて本当によかったです」とおっしゃってくださいました。名義預金は、隠すのではなく、最初に正しく整理することが最大の防御――そのことを実感していただいた一例でございます。

― 私たちから一言 ―

「税務調査の主役は脱税ではなく『名義預金』です」

相続税の税務調査と聞くと、身構えてしまう方が多いのですが、その実態は、多くの場合「悪いことをした人を捕まえる」ものではありません。圧倒的に多いのは、名義預金という、ごく普通のご家庭で起こる『うっかり』です。子や孫のためを思って積み立てたお金、専業主婦の奥さまの口座――そうした善意の財産が、知らないうちに申告漏れの原因になってしまうのです。

大切なのは、隠すことでも、おびえることでもなく、最初に正しく整理することです。家族名義の預金がどういう性質のものか、生前贈与がきちんと成立しているか。これらを申告の段階で丁寧に確認し、必要なものは適正に申告しておけば、調査が来ても怖くありません。むしろ、書面添付制度を活用して「しっかり確認した申告です」と示すことで、調査そのものを遠ざけることも期待できます。

当センターでは、提携の相続専門税理士と連携し、財産の洗い出しから名義預金・生前贈与の検証、漏れのない申告書の作成、書面添付制度の活用、そして万一の税務調査の立ち会いまで、一体的にお手伝いしております。「妻名義の預金は大丈夫?」「孫への贈与はちゃんと成立している?」――その不安こそ、申告の前に解消しておくべきものです。お電話一本、LINEで結構でございます。お気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 相続税の税務調査は、申告内容が正しいかを税務署が確認する手続き。脱税だけでなく、悪意のない「うっかり」の申告漏れが指摘の中心。
  • 実地調査が行われるのは申告件数のおおむね6%前後だが、入られると約8割超で申告漏れなどが指摘される。財産が多い・複雑なほど対象になりやすい。
  • 来るのは申告の1〜2年後、秋がピークになりやすい。多くは任意調査で、原則として事前に税務署から電話連絡があり日程を調整する。
  • 最大の指摘原因は名義預金。名義は家族でも、お金の出どころと管理の実態から実質的に被相続人の財産と判断されれば相続財産になる。
  • ほかに、直前の多額の引き出し・手元現金、生前贈与の成否、海外資産、生命保険、同族会社関連が重点的に見られる。
  • さかのぼれる期間(除斥期間)は原則5年、仮装・隠ぺいなど不正があれば7年。指摘されると加算税・延滞税、悪質なら重加算税も。
  • 書面添付制度(税理士法33条の2)や、名義預金・生前贈与の事前整理が有効な備え。最初の申告の質が、調査リスクを大きく左右する。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取扱いが異なる場合がございます。調査の割合・時期は年度や個別事情により変動し、名義預金の判定や除斥期間の適用は事実関係により判断が分かれる、専門性の高い分野です。記載した統計は近年の公表資料に基づく傾向であり、最新の数値は国税庁の各事務年度の公表資料をご確認ください。具体的な申告や税務調査への対応にあたっては、必ず税理士などの専門家、または所轄の税務署にご相談ください。本記事の内容は2026年6月時点の情報に基づきます。

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