「私たちがいなくなった後、この子はどうなるのか」

このご相談には、ほかのどのご相談とも違う重さがあります。

[ご相談で、実際にうかがったお話]
「私も家内も、七十を超えました。娘には知的障害があります。日中は作業所に通っていますが、お金の管理は、正直むずかしいと思います。私たちが死んだ後、通帳を渡して『これで暮らしなさい』と言っても、たぶん、どうにもならないでしょう。かといって、誰かに預けるにも、その人が信用できるかどうか――そこが、いちばん怖いのです」
――「お金を残す」ことと、「お金が使えるようにする」ことは、別のことなのです。

「親なきあと」という言葉

障害のあるお子さまをお持ちのご家庭では、「親なきあと」という言葉が使われます。親御さまが亡くなった後、お子さまの生活をどう支えるかという問題です。

ここには、大きく三つの心配があります。

心配ごと内容
お金が足りるか年金や工賃だけで、生涯の生活費・医療費をまかなえるか
お金を管理できるかまとまった財産を、ご本人が適切に扱えるか
誰が支えるかご兄弟に負担をかけてよいか。第三者に任せて大丈夫か

遺言を書けば、一つめにはある程度こたえられます。けれども、二つめと三つめには、遺言だけでは足りません。遺言は「誰に渡すか」を決める道具であって、「渡した後の管理」までは決められないからです。

「多額の預金が、かえって重荷になる」ということ

ご本人名義の預金がまとまってあると、その管理をめぐって、かえって難しい問題が生じることがあります。ご本人が自由に引き出せる状態は、いわゆる悪意ある第三者に狙われるおそれもはらみます。
逆に、ご本人が引き出せない状態のままでは、成年後見の申立てが必要になることもあります。「残しておけば安心」とは、必ずしも言えないのです。

特定贈与信託とは――相続税法21条の4が定める贈与税の非課税

制度の骨格

特定贈与信託は、一般にそう呼ばれていますが、税法上の契約の名称は「特定障害者扶養信託契約」です。根拠は相続税法21条の4です。

特定贈与信託のしくみ
親などが財産を信託銀行等に信託する
↓
信託銀行等が管理・運用する
↓
障害のあるご本人(受益者)へ、定期的に生活費等を給付する
この信託受益権について、一定額まで贈与税が非課税とされています

登場人物

立場誰が役割
委託者親御さま、祖父母、ご親族など個人財産を信託する
受託者信託銀行等財産を管理・運用し、給付する
受益者特定障害者であるご本人生活費・医療費等の給付を受ける
[ご家族が受託者になる信託とは、別のものです]
いわゆる家族信託(民事信託)は、ご家族が受託者となって財産を管理するしくみです。これに対して、特定贈与信託は、信託銀行等が受託者となる商事信託です。
贈与税の非課税という税制上の措置が用意されているのは、特定贈与信託のほうです。家族信託を組んでも、この非課税が使えるわけではありません。
家族信託については、家族信託(民事信託)とは、認知症に備える財産管理のしくみと費用・注意点を完全ガイドをご覧ください。

なぜ、この制度が置かれているのか

通常、親が子に財産を贈与すれば、贈与税がかかります。年間110万円の基礎控除を超える部分については、原則として課税されます。

けれども、障害のある方の生涯の生活を支えるためのまとまった資金にまで、同じように課税するのは酷です。そこで、信託というかたちで、確実にご本人のために使われることが担保されるのであれば、一定額まで非課税とする――これが、この制度の考え方です。

非課税になるのは「贈与税」です

特定贈与信託で非課税とされるのは、信託受益権を取得したことについての贈与税です。すべての税金が一切かからなくなる、という制度ではありません。
信託が終了したときの残余財産の扱いや、委託者の相続との関係など、別途の検討を要する場面があります。必ず税理士にご確認ください。

6,000万円と3,000万円――特別障害者と、それ以外の特定障害者

非課税限度額

受益者の区分非課税限度額
特別障害者6,000万円
特別障害者以外の特定障害者3,000万円

この金額は、信託される財産(信託受益権)の価額を基準に判定されます。

「特定障害者」「特別障害者」とは

国税庁は、特定障害者について、特別障害者、または特別障害者以外の方で精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある方など、一定の要件に当てはまる方という趣旨の説明をしています。

区分一般に挙げられる例
特別障害者身体障害者手帳1級・2級の方、精神障害者保健福祉手帳1級の方、重度の知的障害と判定された方、常に就床を要し複雑な介護を要する方など
特別障害者以外の特定障害者中度・軽度の知的障害と判定された方、精神障害者保健福祉手帳2級・3級の方など

身体障害だけでは、対象にならないことがあります

ここは、最初に確かめていただきたいところです。特別障害者以外の特定障害者は、相続税法施行令の定めにより、精神上の障害がある方に限られます。
つまり、身体障害者手帳をお持ちであっても、その等級が特別障害者に当たらず、かつ精神上の障害がない場合には、この制度の対象とならないことがあります。
「障害者手帳があるのだから使えるはずだ」とはお考えにならないでください。該当するかどうかは、必ず信託銀行等および税理士にご確認ください。最新の要件は国税庁のホームページでもご確認いただけます。

この区分は、手帳の等級だけで機械的に決まるものではありません

上の表は一般に挙げられる例であり、実際の判定は、相続税法および同法施行令が定める障害の状態と、それを証する書類によります。
「うちの子はどちらに当たるのか」を、この表だけでご判断にならないでください。身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳(判定書)などをそろえたうえで、信託銀行等と税理士にご確認ください。最新の要件は国税庁のホームページでもご確認いただけます。

限度額を超えたらどうなるか

信託財産の価額が非課税限度額を超える場合、超えた部分は非課税になりません。その部分については、通常の贈与税の課税関係が問題になります。

また、いったん枠を使い切った後で、追加の財産を信託する場合も、残っている枠の範囲でしか非課税は適用されません。

[「いくら信託するか」は、家計の設計そのものです]
非課税枠いっぱいまで信託すればよい、というものではありません。信託した財産は、原則としてご本人のために給付されていくものですから、親御さまご自身の老後の生活資金まで入れてしまうと、今度はご自身が困ります。
ご本人の年金・工賃・障害福祉サービスの利用状況と、想定される生活費・医療費を並べたうえで、いくら必要かを考えることが先です。金額の設計は、信託銀行等・税理士・ファイナンシャルプランナーとご相談ください。

信託できる財産と、給付のされ方

どんな財産を信託できるのか

特定贈与信託に入れられる財産は、何でもよいわけではありません。国税庁の資料では、次のようなものが挙げられています。

  1. 金銭
  2. 有価証券
  3. 金銭債権
  4. 立木、または立木とともに信託されるその土地
  5. 継続的に相当の対価を得て他人に使用させる不動産(賃貸不動産)
  6. 受益者である特定障害者の居住の用に供する不動産で、上記1から5までの財産のいずれかとともに信託されるもの

「不動産なら何でも入れられる」わけではありません

ご相談で多いのが、「使っていない土地を入れておけばよいか」というお尋ねです。収益を生まない更地や、単なる投資用の不動産を、無条件に信託できるわけではありません。
ご本人がお住まいになる不動産についても、ほかの財産とともに信託する場合という条件が付いています。
さらに、税法上の対象になるかどうかと、信託銀行等が実際に受託してくれるかどうかは、別の問題です。金融機関ごとに受託の基準があります。最新の取扱いは、国税庁および各信託銀行等にご確認ください。

お金は、どのように渡るのか

特定贈与信託の特徴は、一度にまとめて渡すのではないところにあります。

1信託銀行等が、信託財産を分別して管理・運用する
2契約で定めた方法により、生活費・医療費等が定期的に給付される
3臨時の出費が必要なときは、契約の定めに従って支払われる
4受益者であるご本人が亡くなり、信託が終了する

この「毎月、決まった額が入ってくる」というかたちが、じつはこの制度のいちばんの値打ちです。使い切ってしまう心配も、一度に失う心配も、小さくなります。

信託が終わったあとの財産は

受益者であるご本人が亡くなると、信託は終了します。そのとき残っている財産(残余財産)の行き先は、信託契約の定めによります。

[残余財産の行き先も、税金の問題になります]
残余財産を受け取る方には、その取得の原因に応じて、贈与税または相続税の問題が生じ得ます。「非課税で信託したのだから、最後まで税金はかからない」ということではありません。
ご兄弟に残すのか、お世話になった団体に寄付するのか――契約の段階で決めておく必要があります。課税関係は、必ず税理士にご確認ください。

手続きの流れ――障害者非課税信託申告書は、信託会社を経由します

これを出さなければ、非課税になりません

特定贈与信託でもっとも大切な手続が、障害者非課税信託申告書の提出です。

障害者非課税信託申告書
信託会社(受託者)の営業所等を経由して
受益者の納税地の所轄税務署長に提出
提出期限は、原則として信託がされる日まで
根拠は相続税法21条の4です。詳しくは国税庁の手続案内をご確認ください

「後から出せばよい」ものではありません

提出期限は、原則として特定障害者扶養信託契約に基づいて信託がされる日までです。信託を設定した後で気づいて提出する、という進め方は想定されていません。
実務上は、信託銀行等が手続を案内してくれるのが通常ですが、ご家族の側でも「この申告書が出ているか」を必ず確認なさってください。

添付する書類

書類内容
信託契約書の写し特定障害者扶養信託契約であることを示すもの
障害の状態を証する書類身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳(判定書)など
信託受益権の価額の明細非課税限度額の判定に用いるもの

必要書類の詳細は、金融機関および国税庁の手続案内でご確認ください。

進め方の目安

1ご本人の生活費・医療費の見込みを整理し、必要額を試算する
2特定贈与信託を取り扱う信託銀行等に相談し、受託の可否と手数料を確認する
3障害の状態を証する書類をそろえ、区分(特別障害者かどうか)を確認する
4給付の方法・金額・残余財産の帰属先を決めて、契約内容を固める
5障害者非課税信託申告書を、信託会社を経由して提出する
6信託を設定し、給付が始まる
[手数料のこともお尋ねください]
特定贈与信託は、信託銀行等が長期にわたって管理・給付を行うしくみです。当然ながら、手数料がかかります。
設定時の手数料、毎年の管理報酬、給付のたびの費用など、体系は金融機関によって異なります。「非課税だから得」ではなく、手数料まで含めて、ご家庭にとって意味があるかをお考えください。複数の金融機関でお比べになることを、おすすめします。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「通帳を渡すだけでは、だめなのですね」――Sさまご夫妻のご相談

Sさま(70代・男性)とその奥さまは、知的障害のある娘さん(40代)と三人でお暮らしの方です。娘さんは平日、就労継続支援の事業所に通っておられます。

ご相談の入口は、奥さまの「私たちも、いつまで元気でいられるか分かりません。娘には、できるだけお金を残してやりたいのですが、渡し方が分からないのです」というお話でした。

Sさまは、こうおっしゃいました。「預金は、それなりにあります。私の名義の口座から、娘の名義に移しておけばよいのでしょうか。それとも、遺言を書いておけばよいのでしょうか」と。

私は、まず「お金を残すこと」と「そのお金が娘さんのために使われること」は、別の問題ですと申し上げました。

Sさまは、少し驚いたご様子でした。「別の問題、ですか」と。

私は、「娘さんの名義に移せば、それは娘さんの財産です。けれども、その管理は誰がなさいますか」とお尋ねしました。「ご両親がお元気なうちはよいのですが、その後は――というのが、いまのご心配ですね」と。

奥さまは、「そうなのです。息子――娘の兄がおりますが、あの子にも家庭がありますし、そこまで頼るのは酷だと思うのです」とおっしゃいました。

そこで私は、「特定贈与信託という制度があります」とご説明しました。「信託銀行が財産をお預かりして、娘さんに毎月、生活費として給付していくしくみです。相続税法に定めがあって、一定額までは贈与税がかからないことになっています」と。

Sさまは、「銀行が、そんなことをしてくれるのですか」とお尋ねになりました。

私は、「取り扱っている信託銀行等にご相談いただくことになります。手数料もかかりますし、どの財産を入れられるかにも決まりがあります」とお答えし、「それから、これがいちばん大事なのですが」と続けました。「障害者非課税信託申告書という書類を、信託がされる日までに、信託会社を通じて税務署に出す必要があります。これを出さなければ、非課税にはなりません」と。

Sさまは、手帳に書き留めながら、「出し忘れたら、それまでということですか」とお尋ねになりました。私は、「そうお考えください」と申し上げました。

奥さまが、最後にこうおっしゃいました。「兄のほうにも、話しておいたほうがよいのでしょうね」と。

私は、「ぜひ、そうなさってください」と申し上げました。「信託が終わったときに残ったお金を、どなたに渡すかも決めておく必要があります。それに、お兄さまが事情をご存じであることが、娘さんにとっていちばんの支えになります」と。

後日うかがったところでは、Sさまご夫妻はお兄さまを交えて信託銀行の窓口に相談に行かれ、あわせて税理士に課税関係を確認なさっているとのことでした。

※上記は一般的な整理であり、実際の取り扱いは個別の事情により異なります。制度の適用と課税関係は、必ず税理士および取扱金融機関にご確認ください。

相続税の障害者控除(相続税法19条の4)とは別の制度です

ここは、混同がとても多いところです。

特定贈与信託相続税の障害者控除
根拠相続税法21条の4相続税法19条の4
どの税金か贈与税が非課税になる相続税額から直接引ける
いつの話か親御さまのご存命中(生前)相続が起きたとき
何が必要か信託契約と、障害者非課税信託申告書相続または遺贈により財産を取得すること

障害者控除の計算

相続税の障害者控除(相続税法19条の4)
一般障害者:(85歳 − 相続開始時の年齢)× 10万円
特別障害者:(85歳 − 相続開始時の年齢)× 20万円
1年未満の期間があるときは、1年に切り上げて計算します

この控除を受けるには、相続または遺贈により財産を取得した方であって、相続税法上の居住無制限納税義務者であり、被相続人の法定相続人であり、相続開始時に85歳未満の障害者であることが必要とされています。

[控除しきれないときは、扶養義務者から引けます]
障害者控除の額が、ご本人の相続税額より大きいために引ききれない場合には、引ききれなかった部分を、その障害者の扶養義務者の相続税額から控除することができるとされています。
なお、過去の相続ですでに障害者控除の適用を受けている場合には、今回控除できる額に制限があります。計算は必ず税理士にご確認ください。
障害者控除の詳細は、障害者控除と未成年者控除とは、相続税から直接引ける税額控除のしくみと計算方法を完全ガイドで整理しております。

「どちらかを選ぶ」ものではありません

特定贈与信託と障害者控除は、場面がまったく違う制度です。生前に特定贈与信託を設定しておき、相続が起きたときには障害者控除も検討する――そういう関係になります。
ただし、特定贈与信託を設定したことが、その後の相続税の計算にどう影響するかは、信託の内容とご家庭の状況によって異なります。この点は断定的に申し上げられません。必ず税理士にご確認ください。

「親なきあと」を支える、ほかの備え

特定贈与信託は、強力ですが、万能ではありません。ほかの制度と組み合わせてこそ、意味を持ちます。

備え受けもつ役割
特定贈与信託まとまった財産を託し、生活費等を定期的に給付する
成年後見制度契約や財産管理について、ご本人を法的に支える
遺言信託に入れなかった財産の行き先を決める
負担付遺贈財産を渡す代わりに、面倒をみるという負担を課す
生命保険親御さまの死亡時に、まとまった資金を確保する
家族信託ご家族が受託者となって、財産を管理する

成年後見制度

お金の管理を信託が引き受けても、契約を結ぶ、施設に入所する、医療に同意するといった場面では、ご本人を法的に支える人が必要になることがあります。

詳しくは、成年後見制度とは――法定後見(後見・保佐・補助)と任意後見の違い・手続き・注意点を完全ガイドをご覧ください。

遺言と、遺留分への配慮

信託に入れられない財産(ご自宅など)は、遺言で行き先を決めておく必要があります。公正証書遺言の作り方、公証人が作る「もっとも確実な遺言」の費用・必要書類・流れもご参照ください。

また、障害のあるお子さまに手厚く配分すると、ほかのお子さまの遺留分が問題になることがあります。遺留分とは、最低限保障される取り分をご覧のうえ、ご家族全体でお話し合いください。

負担付遺贈

「財産を渡す代わりに、面倒をみてほしい」という定め方もあります。ただし、受遺者が負担を果たさないリスクがあります。負担付遺贈とは――「ペットの世話」「親の扶養」を条件に財産を渡す遺贈のしくみと落とし穴を完全ガイドで整理しております。

生命保険

親御さまが亡くなったときに、まとまった資金を確実に用意する手段としては、生命保険も検討されます。生命保険を使った相続対策、非課税枠「500万円×法定相続人」の正しい活かし方をご覧ください。

[障害福祉サービスや年金との関係も、必ずご確認ください]
障害のある方の生活は、障害年金、障害福祉サービス、各種手当によって支えられています。まとまった財産や、給付の受け取りが、これらの制度にどう影響するかは、制度ごとに扱いが異なります。
本記事では断定的に申し上げられませんので、お住まいの市区町村の障害福祉担当課、および年金事務所に、必ずご確認ください。
― 私たちから一言 ―

「残す」の先にある、「使えるようにする」ということ

このご相談をお受けするとき、私どもがいつも思うことがあります。

親御さまは、もう何十年も、考え続けてこられたということです。

私どものところへ来られる時点で、すでに、ご自分なりに調べ、悩み、ご夫婦で何度も話し合ってこられている。そのうえで、「それでも、どうしたらよいか分からないのです」とおっしゃる。

ですから私どもは、まず、その時間に敬意を払いたいと思っています。「よく、ここまで考えてこられましたね」と。

そのうえで、申し上げていることが一つあります。「残すこと」と「使えるようにすること」は、別の設計が要るということです。

預金を残す。これは、残すことです。けれども、そのお金が毎月きちんとご本人の暮らしに届くかどうかは、また別の話です。特定贈与信託は、その「別の話」のほうに答えを出そうとする制度です。

もう一つ、申し上げていることがあります。ご兄弟に、話しておいてくださいということです。

私どもがお会いしてきたご家庭のなかには、「上の子には迷惑をかけたくないから、何も言わずにおいた」という方がおられました。お気持ちは、痛いほど分かります。けれども、何も知らされないまま残されるほうが、はるかに重いのです。

お金の道筋がついていること。誰に相談すればよいか分かっていること。それが分かっているだけで、残されたご兄弟の負担は、まるで違います。

「この子のために」と考えてこられた時間を、形にするお手伝いを、私どもはさせていただきたいと思っております。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

特定贈与信託でよくある7つの落とし穴

  1. 障害者非課税信託申告書を出し忘れる この申告書を提出しなければ、贈与税の非課税は適用されません。提出先は受益者の納税地の所轄税務署長で、信託会社(信託銀行等)の営業所を経由して提出します。提出期限は、原則として特定障害者扶養信託契約に基づいて信託がされる日までです。「後から出せばよい」ものではありません。金融機関が案内してくれるのが通常ですが、ご家族の側でも必ず確認なさってください。
  2. 非課税限度額を、6,000万円だと思い込む 6,000万円は特別障害者の場合です。特別障害者以外の特定障害者は3,000万円です。どちらに当たるかは、手帳の等級だけで機械的に決まるものではなく、相続税法および同法施行令が定める障害の状態と、それを証する書類によって判定されます。さらに、特別障害者以外の特定障害者は、施行令の定めにより精神上の障害がある方に限られます。身体障害者手帳をお持ちでも、等級が特別障害者に当たらず、かつ精神上の障害がない場合には、そもそもこの制度の対象とならないことがあります。ご自身でご判断にならず、信託銀行等および税理士にご確認ください。
  3. 「非課税だから、いくら入れても損はない」と考える 非課税限度額を超えた部分は、非課税になりません。また、信託した財産は原則としてご本人のために給付されていくものですから、親御さまご自身の老後の資金まで入れてしまうと、ご自身が困ります。加えて、信託銀行等の手数料もかかります。「いくら必要か」から逆算してください。
  4. 使っていない土地を入れようとする 信託できる財産の範囲は限られています。国税庁の資料では、金銭、有価証券、金銭債権、立木(およびその土地)、継続的に相当の対価を得て他人に使用させる不動産、そして受益者である特定障害者の居住用不動産で、これらの財産とともに信託されるものが挙げられています。収益を生まない更地を無条件に入れられるわけではありません。また、税法上の対象性と、信託銀行等が受託するかどうかは別です。
  5. 相続税の障害者控除と混同する 特定贈与信託(相続税法21条の4)は贈与税の非課税、障害者控除(相続税法19条の4)は相続税額から直接引く税額控除です。場面も税目も違います。障害者控除は(85歳 − 相続開始時の年齢)× 10万円(特別障害者は20万円)で、相続または遺贈により財産を取得した居住無制限納税義務者である法定相続人であることなどが要件とされています。「どちらかを選ぶ」ものではありません。
  6. 信託が終わったあとのことを決めていない 受益者であるご本人が亡くなると、信託は終了します。そのとき残っている財産の行き先は、信託契約の定めによります。残余財産を受け取る方には、その取得の原因に応じて贈与税または相続税の問題が生じ得ます。「非課税で信託したのだから、最後まで税金はかからない」ということではありません。契約の段階で、必ず決めておいてください。
  7. ご兄弟に何も知らせないまま、設定してしまう 「上の子に迷惑をかけたくないから」というお気持ちは、私どももよく理解しております。けれども、何も知らされないまま残されるご兄弟の負担は、はるかに重くなります。また、障害のあるお子さまに手厚く配分すると、ほかのお子さまの遺留分が問題になることもあります。ご家族全体でお話し合いのうえ、進めてください。

この記事のまとめ

  • 特定贈与信託は、税法上は特定障害者扶養信託契約といい、根拠は相続税法21条の4です。信託銀行等が受託者となって財産を管理し、障害のあるご本人(受益者)に生活費等を定期的に給付します。
  • この信託受益権について、特別障害者は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者は3,000万円まで、贈与税が非課税とされています。限度額を超えた部分は非課税になりません。
  • 非課税とされるのは贈与税です。すべての税金が一切かからなくなる制度ではありません。
  • 適用を受けるには、障害者非課税信託申告書を、信託会社(信託銀行等)の営業所を経由して、受益者の納税地の所轄税務署長に提出します。提出期限は、原則として信託がされる日までです。これを出さなければ非課税になりません。
  • 特定障害者・特別障害者の区分は、相続税法および同法施行令が定める障害の状態と、それを証する書類によって判定されます。手帳の等級だけで機械的に決まるものではありません。
  • 特別障害者以外の特定障害者は、施行令の定めにより精神上の障害がある方に限られます。身体障害者手帳をお持ちでも、等級が特別障害者に当たらず、かつ精神上の障害がない場合には、この制度の対象とならないことがあります。
  • 信託できる財産は限られています。国税庁の資料では、金銭、有価証券、金銭債権、立木(およびその土地)、継続的に相当の対価を得て他人に使用させる不動産、受益者である特定障害者の居住用不動産(これらの財産とともに信託されるもの)が挙げられています。
  • 信託は、受益者であるご本人の死亡により終了する設計が基本です。残余財産の行き先は信託契約の定めによります。残余財産を取得した方には、その原因に応じて贈与税または相続税の問題が生じ得ます。
  • 相続税の障害者控除(相続税法19条の4)は、まったく別の制度です。(85歳 − 相続開始時の年齢)× 10万円、特別障害者は × 20万円で計算し、1年未満の期間は1年に切り上げます。
  • 障害者控除は、相続または遺贈により財産を取得した居住無制限納税義務者であり、被相続人の法定相続人であり、相続開始時に85歳未満の障害者であることが要件とされています。本人の税額から引ききれない部分は、扶養義務者の相続税額から控除できます。過去に適用を受けている場合には制限があります。
  • 「親なきあと」の備えは、特定贈与信託だけで完結しません。成年後見制度、遺言、負担付遺贈、生命保険、家族信託などと組み合わせて設計します。
  • 手数料がかかります。設定時・毎年の管理報酬など、体系は金融機関によって異なります。複数の金融機関でお比べください。
  • 障害年金・障害福祉サービス・各種手当との関係は制度ごとに扱いが異なりますので、市区町村の障害福祉担当課および年金事務所に必ずご確認ください。
  • 制度の適用と課税関係については必ず税理士に、遺言・遺留分など法的な事項については必ず弁護士に、登記については必ず司法書士にご確認ください。最新の要件は国税庁のホームページでご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は税務上または法律上の助言を提供するものではなく、特定の方に特定贈与信託の非課税が適用されること、障害者控除が適用されること、税額がいくらになることを保証するものではありません。特定障害者・特別障害者に当たるかどうかの判定、信託できる財産の範囲、非課税限度額の判定、申告書の提出要件、信託終了時の残余財産の課税関係は、個別の事実関係と信託契約の内容によって結論が変わり得る事項です。とくに、障害の区分の判定、特定贈与信託が委託者の相続税の計算に及ぼす影響、障害年金・障害福祉サービス・各種手当との関係は、誤りやすく、また制度ごとに扱いが異なる領域です。本文中の例示や整理は、制度の骨格をご理解いただくために単純化したものであり、実際の税額や給付額を示すものではありません。記載した法令名・条項・数値・手続は執筆時点で確認したものですが、法令・通達・金融機関の取扱いは変更される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず国税庁、e-Gov法令検索などの一次情報と、取扱金融機関の最新の商品説明書、および障害福祉サービス・年金についてはお住まいの市区町村・年金事務所で最新の内容をご確認のうえ、制度の適用と課税関係については必ず税理士に、遺言・遺留分など法的な事項については必ず弁護士に、登記については必ず司法書士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

「この子に、どう残せばよいのでしょうか」――そのご相談からで結構です

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