「株式ではないのに、相続税がかかるのですか」
医療法人の相続でいただくご相談は、ほとんどが同じ一言から始まります。
――「持っている実感がない財産に、多額の相続税がかかる」。これが、医療法人の相続の、いちばん厄介なところです。
まず、言葉を整理します
医療法人をめぐる話は、似た言葉が並ぶために混乱しやすいところです。最初に、位置づけを整理しておきます。
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 社員 | 社団医療法人の構成員。従業員のことではありません。社員総会で議決権を持ちます |
| 理事・理事長 | 法人の業務を執行する役員。理事長は原則として医師または歯科医師である理事から選出されます |
| 出資持分 | 持分の定めのある社団医療法人において、出資者が持つ財産権。相続の対象となるのは、これです |
| 持分なし医療法人 | 出資持分の定めがない医療法人。財産権としての持分が存在しないため、相続財産にもなりません |
「社員の地位」と「出資持分」は別のものです
ここは、ご相談のなかでもっとも混同されるところです。
社員たる地位(社員権)は、一般に一身専属的なものと解されており、当然には相続されないとされています。相続人が新たに社員となるには、定款の定めにしたがって社員総会の承認を得るなどの手続きが必要になるのが通常です。
これに対して、出資持分は財産権ですから、相続の対象となります。
つまり、「議決権はないのに、相続税だけがかかる」という状態が生じ得ます。実際の取り扱いはその法人の定款によって異なりますので、必ず定款の原本をご確認のうえ、弁護士および税理士にご相談ください。
持分あり医療法人(経過措置型医療法人)とは――2007年4月以後は新設できません
第五次医療法改正で入口が閉じられました
良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)が、平成19年(2007年)4月1日に施行されました。いわゆる第五次医療法改正です。
この改正により、同日以後に新たに設立される社団医療法人は、原則として持分の定めのないものに限られることとなりました。
↓
持分あり医療法人として存続できる
2007年4月1日以後に設立
↓
持分なし医療法人しか設立できない
「いつか強制的に持分がなくなる」という趣旨ではありませんが、制度の方向は一貫しているとご理解ください。
それでも、持分あり医療法人は多数残っています
2007年4月以後に新設できなくなったとはいえ、それ以前に設立された医療法人は、なお数多く存続しています。開業から二十年、三十年という医院の多くが、これに当たります。
つまり、いま相続の場面に登場してくる医療法人の多くは、持分あり医療法人だということです。「うちは新しい法人だから関係ない」という判断は、設立年月日を確認してからになさってください。
配当が禁止されているのに、評価額だけがふくらむ理由(医療法54条)
医療法54条は、たった一行です
医療法54条は、次のように定めています。
医療は営利を目的とするものではない、という考え方にもとづく規定です。株式会社であれば、利益が出れば配当として株主に還元することができます。医療法人には、その道がありません。
そして、利益は法人の内部に積み上がっていきます
配当ができないということは、毎年の利益が、そのまま法人の純資産として積み上がっていくということです。
内部に留保される
年々増えていく
評価額がふくらむ
「100万円の出資が、数億円の相続財産になる」ということ
設立時に払い込んだ出資額が数百万円であっても、相続税の評価は払込額ではありません。三十年にわたって積み上がった純資産を反映した価額になり得ます。
そして、相続税は原則として現金で、申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)までに納めます。ところが、出資持分は市場で売れる財産ではありません。
「評価は高い、現金化はできない、納税は現金」――この三つが重なるところに、医療法人の相続の難しさがあります。
申告と納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。医療法人の出資持分は、評価そのものに時間を要します。「10か月あるから大丈夫」とはお考えにならず、できるだけ早く税理士にご相談ください。
出資持分の相続税評価――財産評価基本通達194-2が準用するもの、しないもの
根拠は財産評価基本通達194-2です
医療法人の出資の評価は、財産評価基本通達194-2(医療法人の出資の評価)に定めがあります。同項は、取引相場のない株式の評価に関する定めを準用する、という構造になっています。
国税庁が公表している通達194-2の本文は、178(取引相場のない株式の評価上の区分)の本文、179(取引相場のない株式の評価の原則)から181(類似業種)本文まで、182から183-2まで、184の(2)、185(純資産価額)の本文、186から186-3まで、187の(2)、189(特定の評価会社の株式)、189-2から189-4(185のただし書の定め及び188-2(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)の定めを適用する部分を除く。)まで及び189-5から192までの定めに準じて計算した価額によって評価する、としています。
列挙が長いのは、取引相場のない株式の評価のしくみを、ほぼそのまま持ち込んでいるからです。正確な列挙は、必ず国税庁の通達本文をご確認ください。
| 評価方式 | 医療法人の出資での扱い |
|---|---|
| 類似業種比準方式 | 準用されます。ただし配当が禁止されているため、配当の要素は考慮されない取り扱いが示されています |
| 純資産価額方式 | 準用されます(185本文、186から186-3まで) |
| 配当還元方式(188-2) | 194-2が明文で適用除外しています(189-2から189-4までを準用するにあたり、188-2の定めを適用する部分を除く、とされています) |
「少数だから配当還元で安く済む」とはなりません
取引相場のない株式であれば、同族株主以外の株主等が取得した株式は、配当還元方式という簡便で低い評価によることができます。
ところが、194-2は、配当還元方式を定める188-2(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)の定めを適用する部分を、明文で除外しています。そもそも医療法人は配当ができませんから、配当を資本還元するという考え方が成り立たないためです。
したがって、「持分をわずかしか持っていないから、評価は低いはずだ」というお考えは、通用しないことがあります。評価方式の判定は必ず税理士にご確認ください。
類似業種比準方式の「業種目」も問題になります
類似業種比準方式は、同じような業種の上場会社の株価と比べて評価する方法です。ところが、医療法人に対応する上場会社の業種目は存在しません。
この点について、通達194-2は、181(類似業種)の「評価会社の事業が該当する業種目」を「その他の産業」とする旨を、明文で定めています。どの業種目を用いるかによって評価額は大きく変わりますので、この判断は必ず税理士にお任せください。
払戻請求という論点――最高裁平成22年4月8日判決が示したこと
「出資額に応じて返還する」という定款の一文
持分あり医療法人の定款には、社員が退社したときに、その出資額に応じて払戻しを請求できる旨の規定が置かれていることがあります。
この「出資額に応じて」という文言を、どう読むか。ここが、長く争われてきた論点でした。
| 読み方 | 結論 |
|---|---|
| 払い込んだ出資額そのものを返す | 設立時に100万円を出資したなら、返るのは100万円 |
| 退社時の法人財産のうち、出資割合に対応する部分を返す | 純資産が積み上がっていれば、返る額もそれに応じて大きくなる |
最高裁は、後者の読み方を採りました
最高裁平成22年4月8日判決(民集64巻3号609頁)は、解散時に残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の定款規定がある事案について、退社した社員が「その出資額に応じて返還を請求することができる」とする定款の規定の意味を、次のように解しました。
つまり、払い込んだ額がそのまま返るのではなく、退社の時点における法人財産を評価したうえで、出資割合に対応する額の返還を請求できるという趣旨に解されたわけです。
これは、法人にとって重い意味を持ちます
相続をきっかけに、後継者以外の相続人が持分を相続し、その方が払戻しを求めるという展開があり得ます。純資産が厚い医療法人であれば、払戻額は法人の資金繰りを直撃します。
払戻しに応じるために借入れを起こす、あるいは医院の継続そのものが危うくなる――そうした事態は、現実に起こり得ます。
なお、定款の定めは法人によって異なり、退社や払戻しの要件も一様ではありません。ご自身の法人でどうなるかは、定款を確認のうえ、必ず弁護士にご相談ください。
相続税の評価と、実際に返ってくる額は、別の話です
ここも、混同しやすいところです。相続税の評価額は、財産評価基本通達194-2にしたがって算定されるものです。これに対して、払戻請求によって実際に受け取れる額は、定款の定めと法人の財産状況によって決まります。
両者が一致するとはかぎりません。「評価額どおりの現金が返ってくるはずだ」という前提での資金計画は、危険です。
認定医療法人制度――「持分なし」へ移行するという選択肢
制度の骨格
出資持分があることによる相続税・贈与税の負担を解消するため、持分なし医療法人へ移行するという選択肢が用意されています。移行計画について厚生労働大臣の認定を受けた医療法人を、認定医療法人といいます。
認定を受ける
放棄する
移行する
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 認定の申請期限 | 厚生労働省は、本制度の期限を令和11年(2029年)12月31日までとしており、利用する場合はその期日までに移行計画の認定を受ける必要があるとしています |
| 移行の期限 | 移行計画には、認定日から5年を超えない範囲で移行の期限を定める必要があるとされています |
| 認定の主体 | 厚生労働大臣 |
持分を放棄すると、法人に贈与税がかかるのが原則です
ここが、この制度の核心です。出資者が持分を放棄すると、その分だけ医療法人が経済的利益を受けたことになります。
そして相続税法66条4項は、持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合において、贈与者の親族等の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、その法人を個人とみなして贈与税を課すという趣旨の規定を置いています。
放棄すれば税金がなくなる、という単純な話ではありません
「持分を放棄すれば相続税がかからなくなるのだから、すぐ放棄すればよい」――このようにお考えになる方がおられます。そのままでは、法人側に贈与税が課される可能性があります。
この課税を受けないための道筋のひとつが、認定医療法人としての移行です。
租税特別措置法に置かれている特例
認定医療法人に関する税制上の特例は、租税特別措置法に置かれています。条文の見出しは、次のとおりです。
| 条文 | 見出し |
|---|---|
| 70条の7の9 | 医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の納税猶予及び免除 |
| 70条の7の10 | 医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の税額控除 |
| 70条の7の12 | 医療法人の持分についての相続税の納税猶予及び免除 |
| 70条の7の13 | 医療法人の持分についての相続税の税額控除 |
| 70条の7の14 | 医療法人の持分の放棄があつた場合の贈与税の課税の特例 |
このうち70条の7の14は、一定の要件のもとで、持分の放棄によって認定医療法人が受けた経済的利益について相続税法66条4項の規定を適用しない旨を定めるものです。
期限と要件は、改正のたびに動きます
認定制度の申請期限と、税制上の特例の対象となる認定の期限は、それぞれの法令で定められており、改正によって変動します。厚生労働省が示す制度の期限と、租税特別措置法の条文が定める期間が、時点によって一致しないこともあり得ます。
また、移行後に認定が取り消された場合には、さかのぼって贈与税が課されるしくみも置かれています。
本記事の記載は執筆時点で確認したものです。実際にご検討される際は、必ず厚生労働省および国税庁の最新の情報をご確認のうえ、税理士にご相談ください。
医院を継がないご兄弟にとっては、「持分があれば受け取れたはずのもの」がなくなるわけですから、ご家族全体の納得なしに進められる話ではありません。税負担の話と、ご家族の公平の話を、同時に机の上に載せてください。
「兄が医院を継ぎます。ですが、私にも持分があると言われまして」――Kさまご姉弟のご相談
Kさま(50代・女性)は、お父さま(80代)が理事長を務める医療法人について、ご相談にお越しになりました。お父さまは平成初期に個人開業から法人化されており、持分の定めのある医療法人でした。
ご相談の入口は、「兄が医師で、医院を継ぐことは家族で決まっています。ただ、税理士から『出資持分は財産ですから、妹さんにも相続の権利があります』と言われまして、どうしたものかと」というお話でした。
私はまず、「出資持分の評価額を、概算でよいので出していただきましたか」とお尋ねしました。
Kさまは、「はい。二億円を超えるかもしれない、と」とおっしゃいました。そして、「父が出したお金は、たしか三百万円ほどだったはずなのです。どうして、そんなことになるのでしょうか」と続けられました。
私は、「医療法人は、法律で配当が禁じられているのです」とご説明しました。「利益が出ても、外に出せません。ですから、三十年ぶんの利益が、そのまま法人のなかに積み上がっているのです。相続税の評価は、その積み上がりを見ます」と。
Kさまは、しばらく黙っておられました。それから、「では、私がその半分を相続すると、兄と私で一億円ずつということですか。私は医院とは何の関係もないのですが」とお尋ねになりました。
私は、「相続としては、そういう整理になり得ます」と申し上げたうえで、「ただ、ここからが難しいところです」と続けました。「その持分は、売れません。買い手がいないのです。そして、Kさまが法人に払戻しを求めれば、法人からお金が出ていきます。お兄さまが継がれた医院の資金が、そこで抜けることになります」と。
Kさまは、「私が受け取ろうとすると、兄の医院が苦しくなる、ということですか」とおっしゃいました。私は、「率直に申し上げれば、そういう構図になり得ます」とお答えしました。
そのうえで、私は「お父さまがご存命のうちに、選べる道がいくつかあります」と申し上げました。「ひとつは、認定医療法人の制度を使って、持分そのものをなくしていく道です。もうひとつは、持分はお兄さまに集約して、Kさまには別の財産をご用意する道です。どちらにも、税金の話と、ご家族の納得の話が、両方ついてまわります」と。
Kさまは、「父が元気なうちに、兄と三人で話したほうがよいということですね」とおっしゃいました。私は、「そうしていただきたいのです」と申し上げました。「相続が起きてからでは、選べる道がぐんと減ります」と。
後日うかがったところでは、Kさまはお兄さまとお父さまを交えて、医療法人の税務に詳しい税理士と、弁護士に相談を始められたとのことでした。
※上記は一般的な整理であり、実際の取り扱いは定款の定めおよび個別の事情により異なります。評価と課税関係については必ず税理士に、定款・遺留分など法的な事項については必ず弁護士にご確認ください。
相続が起きてしまった後にできること――納税猶予・税額控除・遺産分割の設計
まず、期限を押さえます
| 期限 | やること |
|---|---|
| 3か月 | 相続放棄・限定承認の申述期限(相続の開始があったことを知った時から) |
| 4か月 | 被相続人の準確定申告 |
| 10か月 | 相続税の申告・納付(相続の開始があったことを知った日の翌日から) |
医療法人がからむ相続では、出資持分の評価に時間がかかります。決算書、定款、社員名簿、出資者名簿、不動産の評価――そろえる資料が多く、10か月はけっして長くありません。
相続後にも、認定医療法人の制度は使い得ます
租税特別措置法には、認定医療法人の持分を相続または遺贈により取得した場合の相続税の納税猶予(70条の7の12)と、持分を放棄した場合の税額控除(70条の7の13)が置かれています。
制度の骨格としては、認定医療法人の持分について、移行計画に記載された移行期限まで相続税の納税を猶予し、その後に持分を放棄すれば、猶予されていた税額が免除されるという考え方です。
要件は厳格で、手続きも複雑です
これらの特例は、認定を受けていること、申告書に所定の記載と書類の添付があること、移行が実際に行われることなど、多くの要件のもとで適用されるものです。要件を満たさなくなれば、猶予されていた税額と利子税を納めることになります。
「使えるはずだ」という前提で計画を立てず、必ず医療法人の税務にくわしい税理士に、早い段階でご相談ください。最新の要件は国税庁のホームページでご確認ください。
遺産分割の設計――「誰が持分を持つか」を決めきる
実務でもっとも大切なのは、出資持分を後継者に集約できるかどうかです。持分が分散したまま放置されると、次の相続でさらに分散し、後戻りができなくなります。
| 方法 | 考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 代償分割 | 後継者が持分をすべて取得し、他の相続人に代償金を支払う | 後継者に代償金の原資が必要。生命保険の活用が検討されます |
| 他の財産で調整 | 持分は後継者、自宅・預貯金・保険金は他の相続人へ | 持分の評価が大きいと、調整しきれないことがあります |
| 生前の対策 | 認定医療法人としての移行、生前贈与、遺言の作成 | 相続が起きてからでは選べない道が多くあります |
遺留分については遺留分とは、最低限保障される取り分、事業の承継そのものについては事業承継とは、親族内・従業員・M&Aの3つの選択肢と進め方もあわせてご覧ください。
「地域の医療を続けること」と「家族が納得すること」は、両立できます
医療法人の相続のご相談をお受けするとき、私どもがいつも感じることがあります。
ご相談に来られるのは、たいてい、跡を継がないほうのご家族だということです。
継がれるお子さまは、日々の診療でお忙しい。そして、継がないご兄弟のほうが、「自分はどうなるのだろう」と、先に不安になられる。これは、とても自然なことだと思います。
そのときに申し上げていることが、二つあります。
ひとつは、「評価額と、手に入る額は違います」ということです。相続税の評価が二億円だからといって、二億円の現金が手に入るわけではありません。持分は売れませんし、法人から払い戻せば、その医院の体力が落ちます。数字の大きさに驚かれる前に、その数字の性質をご理解いただきたいのです。
もうひとつは、「お父さま、お母さまがご健在のうちに話してください」ということです。
医療法人の相続は、相続が起きてからでは、選べる道が本当に少なくなります。認定医療法人の移行も、生前贈与も、遺言も、遺留分の手当ても、すべてご存命のうちにしかできないことです。
そして、その話し合いは、お金の分け前の話ではありません。お父さまが三十年、四十年かけて築いてこられた医院を、どう次に渡すかという話です。
私どもは、地域の医療が続くことと、ご家族が納得なさることは、両立できると考えております。ただしそれには、早さが要ります。どうか、お早めにご相談ください。
医療法人の出資持分の相続でよくある7つの落とし穴
- 「株式会社ではないから、相続財産は少ない」と思い込む 持分あり医療法人の出資持分は、財産権として相続の対象になります。そして医療法54条により配当が禁じられているため、利益が内部に積み上がり、評価額が大きくなりやすいという性質があります。まず設立年月日と定款を確認し、持分の定めがあるかどうかをお調べください。
- 「持分を相続すれば、社員として議決権も持てる」と考える 社員たる地位は、一般に一身専属的なものと解されており、当然には相続されないとされています。相続人が社員となるには、定款の定めにしたがった手続きが必要になるのが通常です。「相続税だけがかかり、法人の意思決定には関与できない」という状態が生じ得ます。実際の取り扱いは定款によりますので、必ず弁護士にご確認ください。
- 「少数持分だから配当還元方式で安く評価される」と考える 財産評価基本通達194-2は、配当還元方式を定める188-2(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)の定めを適用する部分を、明文で除外しています。医療法人は配当ができないため、配当を資本還元するという考え方が成り立たないからです。持分の割合が小さいことをもって、評価が低くなるとはかぎりません。評価方式の判定は必ず税理士にご確認ください。
- 「評価額どおりの現金が払い戻される」と考える 相続税の評価額は財産評価基本通達によるもの、払戻しで実際に受け取れる額は定款の定めと法人の財産状況によるものであり、両者は別の話です。最高裁平成22年4月8日判決は、「出資額に応じて返還する」旨の定款規定について、退社時の法人財産の評価額に出資割合を乗じた額の返還を請求できる趣旨と解しましたが、定款の定めは法人ごとに異なります。
- 払戻請求が、医院そのものを傷つけることに気づかない 払い戻された資金は、法人から出ていきます。純資産が厚い法人ほど払戻額も大きくなり、後継者が継いだ医院の資金繰りを直撃します。「自分の正当な取り分を求めただけ」が、結果として医院の継続を危うくすることがあり得ます。請求の前に、ご家族と、弁護士・税理士を交えてお話し合いください。
- 「持分を放棄すれば、それで終わり」と考える 持分の放棄によって医療法人が経済的利益を受けた場合、相続税法66条4項により、法人を個人とみなして贈与税が課される可能性があります。この課税を受けないための道筋のひとつが認定医療法人としての移行で、租税特別措置法70条の7の14に特例が置かれています。要件を満たさなければ課税されますし、移行後に認定が取り消された場合の取り扱いも定められています。必ず税理士にご確認ください。
- 「まだ元気だから、その話は後で」と先送りする 医療法人の相続は、相続が起きてからでは選べる道が大きく減ります。認定医療法人への移行も、生前贈与も、遺言も、遺留分の手当ても、ご存命のうちにしかできないことです。しかも認定制度には申請の期限があり、厚生労働省は本制度の期限を令和11年(2029年)12月31日までとしています。期限や要件は改正で動きますので、最新は厚生労働省・国税庁でご確認ください。
この記事のまとめ
- 相続の対象になるのは出資持分という財産権です。これを持つ医療法人を持分あり医療法人(経過措置型医療法人)といいます。
- 平成18年法律第84号(平成19年4月1日施行)以後、持分の定めのある社団医療法人は新設できません。既存の法人が同法附則の経過措置により存続しています。
- 医療法54条は「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と定めています。配当できないぶん利益が内部に積み上がり、出資持分の評価額がふくらみやすいという性質があります。
- 出資持分の相続税評価は財産評価基本通達194-2により、取引相場のない株式の評価に関する定めを準用して行います。類似業種比準方式では、配当の要素は考慮されない取り扱いが示されています。
- 194-2は、配当還元方式を定める188-2の定めを適用する部分を、明文で除外しています。持分の割合が小さいことをもって、評価が低くなるとはかぎりません。
- 最高裁平成22年4月8日判決(民集64巻3号609頁)は、「出資額に応じて返還する」旨の定款規定について、退社時の法人財産の評価額に、その社員の出資割合を乗じて算定される額の返還を請求できる趣旨と解しました。
- 相続税の評価額と、払戻しで実際に受け取れる額は、別の話です。一致するとはかぎりません。
- 持分の放棄によって法人が経済的利益を受けた場合、相続税法66条4項により法人を個人とみなして贈与税が課される可能性があります。
- その課税を受けないための道筋のひとつが認定医療法人としての移行で、租税特別措置法70条の7の14に特例が置かれています。
- 相続税・贈与税の納税猶予等については、租税特別措置法70条の7の9・70条の7の10・70条の7の12・70条の7の13に定めがあります。
- 厚生労働省は、認定医療法人制度の期限を令和11年(2029年)12月31日までとしており、移行計画には認定日から5年を超えない範囲で移行期限を定める必要があるとしています。期限・要件は改正で動きます。
- 社員たる地位は、一般に当然には相続されないとされ、出資持分(財産権)だけが相続されるという状態が生じ得ます。取り扱いは定款によります。
- 遺産分割では、持分を後継者に集約できるかが要になります。代償分割の原資とほかの相続人の遺留分を、同時にご検討ください。
- 評価と課税関係については必ず税理士に、定款・遺留分など法的な事項については必ず弁護士に、登記については必ず司法書士にご確認ください。最新の情報は厚生労働省・国税庁のホームページでご確認ください。
参考文献(一次情報)
- e-Gov法令検索 医療法(第54条) https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- e-Gov法令検索 租税特別措置法(第70条の7の9〜第70条の7の14) https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- e-Gov法令検索 相続税法(第66条第4項) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 国税庁 財産評価基本通達(第194-2 医療法人の出資の評価) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01.htm
- 国税庁 質疑応答事例(財産評価・医療法人の出資の評価) https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/13/02.htm
- 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行計画認定制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000205627.html
- 厚生労働省「医療法人・医業経営」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
- 裁判所 裁判例検索(最高裁平成22年4月8日判決・民集64巻3号609頁/事件番号 平成20年(受)第1809号) https://www.courts.go.jp/hanrei/search1/index.html
- 国税庁 タックスアンサー No.4152「相続税の計算」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
- 国税庁ホームページ https://www.nta.go.jp/
「うちの医院は、持分ありなのでしょうか」――そのご確認からで結構です
定款と決算書をお持ちでしたら、まずは現状の整理からお手伝いいたします。
医療法人の税務にくわしい税理士・弁護士・司法書士におつなぎいたします。