「死後に役立ててほしい」という願いには、2つの制度があります
献体と臓器提供は、どちらも「亡くなった後の体を、誰かのために役立てる」制度ですが、目的も手続きもまったく別です。まず全体像をつかんでおきましょう。
| 献体 | 臓器提供 | |
|---|---|---|
| 目的 | 医学・歯学の大学での解剖学の教育・研究 | 病気の人への臓器の移植 |
| 根拠となる法律 | 医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(昭和58年法律第56号) | 臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号) |
| 生前の手続き | 大学または献体の会に登録 | マイナンバーカードなどに意思を表示 |
| 亡くなった後 | 遺体を大学へ。解剖学実習の後に火葬され、遺骨が遺族に返還 | 臓器の摘出後、遺体は家族のもとへ |
| 家族の関わり | 遺族が拒まないことが前提(献体法4条) | 書面の意思があっても遺族が拒めば行われない(臓器移植法6条) |
どちらの制度も無償が前提です。献体は「無条件・無報酬」で遺体を提供するものとされていますし、臓器提供についても、臓器の提供の対価として財産上の利益を受けることは法律で禁止されています(臓器の移植に関する法律11条)。
献体とは――医学・歯学教育の「正常解剖」のために遺体を提供すること(献体法2条)
献体については、医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(以下「献体法」)が、次のように定義しています。
(以下「正常解剖」という。)の解剖体として提供することを希望することをいう。
そして3条は、「献体の意思は、尊重されなければならない」と定めています。献体法は昭和58年(1983年)に成立し、同年11月25日に施行されました。
献体の登録者は、全国で33万人を超えています
献体の普及に取り組む公益財団法人日本篤志献体協会によると、全国の献体篤志家団体は61団体、献体登録者の総数は334,612名を超え、そのうちすでに献体された方は168,431名に達しています(令和7年3月31日現在)。
同協会の案内によれば、登録者数が多い大学では登録を一時見合わせているところも多くなっている一方、登録者の少ない大学もあり、大学ごとの差が目立つようになっているとのことです。「申し込めば、どこでも受け付けてもらえる」とは限らない点は知っておいてください。
献体の登録――申込先は大学または献体の会、肉親の同意が大切です(献体法4条)
どこに申し込むのか
日本篤志献体協会の案内では、申込先は医科・歯科の大学、または献体篤志家団体(献体の会)であり、大学病院ではないとされています。お住まいの都道府県にある大学医学部・歯学部か献体の会に問い合わせ、申込書を取り寄せるのが一般的な流れです。
問い合わせる
肉親の同意を得る
会員証(登録証)を受領
伝えておく
登録できる年齢や手続きの形式(郵送か面談か)は、大学・団体によって異なります。登録が済むと会員証(献体登録証)が交付され、そこに献体先の大学名と死亡時の連絡方法が書かれています。大切に保管し、家族にも場所を伝えておきましょう。
なぜ「肉親の同意」が必要なのか――献体法4条
献体の登録には、肉親の同意を求められるのが一般的です。その理由は、献体法4条を読むとよく分かります。
一 学校長が、死亡した者が献体の意思を書面により表示している旨を遺族に告知し、遺族がその解剖を拒まない場合
二 死亡した者に遺族がない場合
つまり、本人が書面で献体の意思を示していても、遺族がいて、その遺族が解剖を拒めば、献体は行われないということです。日本篤志献体協会も、献体を実際に実行するのは本人ではなくご遺族であり、遺族が知らなかったり反対したりすると遺志が生かされないことになりかねないとして、登録時に同意を得ておくことの大切さを説明しています。
同意を得ておく「肉親」の範囲
同協会の案内では、同意を得ておく肉親は配偶者および、同居・別居を問わず親、子、兄弟姉妹などとされ、親族の中に反対する人がいないように同意を得ておくことが特に必要とされています。
ただし、具体的な範囲は大学・献体の会ごとに異なります。身寄りのない方の場合も含め、詳しくは登録先にご相談ください。
献体できない場合もあります
- 一部の感染症で亡くなった場合は、献体を遠慮してもらうことがあります(生前の病気や手術の痕は、ほとんどの場合支障ないとされています)。
- 遠方で亡くなった場合には、登録した大学へ献体できないことがあります。遠方に転居した場合は、最寄りの大学に登録し直すよう求められることもあります。
- アイバンク(角膜提供)などとの同時登録は、受け付ける所と受け付けない所があります。
献体が実行されるまで――葬儀は行える、遺骨が戻るのは普通2年ほど
亡くなったら、まず登録先の大学へ連絡
献体登録者が亡くなったときは、ご遺族や身近な方が、会員証に書かれた連絡先(登録大学)に電話します。その際に、葬儀の日取りなどご遺族側の予定や希望も伝え、遺体の引取りの日時や手順を大学と相談します。
通夜・告別式は、ふつうに行えます
「献体をすると葬儀ができないのでは」と心配される方がいますが、日本篤志献体協会は、通夜・告別式など通常の葬儀を行うことは献体の障害にならないと案内しています。違うのは、出棺後に向かう先が火葬場ではなく大学になるという点です。
また同協会の案内では、大学へのご遺体の移送費と火葬費は大学が負担するとされています。ただし、取扱いの細部は登録先によって異なることがありますので、登録時に確認しておくと安心です。
遺骨が戻るまで、普通は2年ほど
献体の後、遺骨がご遺族に返還されるまでの期間は、大学によって差がありますが、同協会の案内では普通は2年ほど、長い場合は3年以上かかることがあるとされています。
| 段階 | おおよその期間(同協会の案内) |
|---|---|
| 防腐処理など解剖の準備 | 3〜6か月くらい |
| 解剖学実習 | 通常3〜7か月ぐらい |
| その年の実習に間に合わない場合 | 翌年の実習まで保管 |
| 実習終了後 | 大学が一体ごとに火葬し、遺骨を遺族に返還 |
遺骨が戻るまでの間、遺髪や遺爪をおまつりしたい場合は、あらかじめ大学に相談するよう案内されています。また、いずれの大学でも、献体された方々のために毎年慰霊祭が行われているとのことです。
臓器提供とは――臓器移植法6条の「本人の書面による意思」と「家族の承諾」
臓器提供は、臓器の移植に関する法律(以下「臓器移植法」)にもとづいて行われます。同法2条1項は、死亡した者が生存中に有していた臓器提供に関する意思は、尊重されなければならないと定めています。
そして、医師が臓器を摘出できる場合を、6条1項が次の2つに限っています。
その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないとき。
二 死亡した者が生存中に……提供する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、
遺族が当該臓器の摘出について書面により承諾しているとき。
この条文から、次の3つのことが読み取れます。
- 本人が書面で「提供する」と表示していても、遺族が拒めば摘出されない(1号)
- 本人が意思を表示していなくても、遺族が書面で承諾すれば提供できる(2号)
- 本人が「提供しない」と表示していれば、遺族が承諾しても提供されない(2号の「意思がないことを表示している場合以外」)
「脳死」についても、6条は定義と判定の条件を定めています。脳死下での提供か、心臓が停止した後の提供かによって、提供できる臓器は異なります。医学的な内容は、公益社団法人日本臓器移植ネットワークや厚生労働省の案内でご確認ください。
臓器提供の意思表示の方法――4つの方法と「15歳以上」、親族優先提供
意思表示の4つの方法
公益社団法人日本臓器移植ネットワークは、臓器提供に関する意思表示の方法として、次の4つを案内しています。
| 方法 | ポイント |
|---|---|
| マイナンバーカード | カードに設けられた意思表示欄に記入します。 |
| 運転免許証 | 免許証の意思表示欄に記入します。 |
| インターネットによる意思登録 | 日本臓器移植ネットワークのウェブサイトから登録できます。 |
| 臓器提供意思表示カード | カードに記入して携帯します。 |
意思表示欄では、①脳死後・心臓が停止した死後のいずれでも提供する、②心臓が停止した死後に限り提供する、③提供しない、の3つから1つを選び、提供したくない臓器に×をつけることもできます。記入のしかたの詳細は、同ネットワークの案内をご確認ください。
「提供する」は15歳以上、「提供しない」は年齢を問わず
日本臓器移植ネットワークの案内では、臓器を提供する意思表示は15歳以上の方が有効とされ、提供しない意思表示は年齢にかかわらず有効とされています。お子さんが「提供したくない」と考えている場合、その意思は尊重されます。
親族への優先提供(臓器移植法6条の2)
臓器移植法6条の2は、臓器を提供する意思の表示に併せて、親族に優先的に提供する意思を書面により表示できると定めています。日本臓器移植ネットワークの案内では、親族優先提供には次の3つの条件をすべて満たす必要があるとされています。
- 本人(15歳以上)が臓器を提供する意思表示に併せて、親族への優先提供の意思を書面により表示していること
- 臓器提供の際、親族(配偶者、子ども、父母)が移植希望登録をしていること
- 医学的な条件(適合条件)を満たしていること
ここでいう配偶者は婚姻届を出している配偶者に限られ、事実婚は含まれません。また、運用上、自ら命を絶った方からの親族への優先提供は行われないこととされています。親族優先の意思を示しても、必ず親族に提供されるわけではありません。
相続・葬儀・終活との関係――遺言は間に合わないことがある、家族への共有がすべて
遺言に書いても、法的な拘束力はありません
「献体したい」「臓器を提供したい」という希望は、民法が定める遺言事項(相続分の指定や遺贈など)ではないため、遺言に書いても法的な拘束力は生じません。遺言の付言事項として思いを書き添えることはできますが、それはあくまで家族へのメッセージです。付言事項については遺言書の付言事項の記事で解説しています。
遺言は「死後すぐ」には読まれないことが多い
献体も臓器提供も、亡くなった直後に家族が判断・連絡する必要があります。ところが遺言は、葬儀が終わってから、あるいは数か月後に見つかることも珍しくありません。自筆証書遺言は家庭裁判所の検認を経ることもあります。
つまり、遺言にだけ書いておいても、間に合わないおそれがあるのです。献体なら会員証、臓器提供ならマイナンバーカード・運転免許証・意思表示カード・インターネット登録という本来の方法で意思を示し、そのうえで家族に直接伝えておくことが何より大切です。
エンディングノートには「どこに何があるか」を
エンディングノートは、法的な効力はありませんが、家族がいざというときに開くものです。献体の登録先と会員証の保管場所、臓器提供の意思をどの方法で表示したかを書いておくと、家族が迷わずにすみます。
相続手続きは、遺骨の返還を待たずに進みます
献体をした場合、遺骨が戻るのは2年ほど先になることがあります。けれども、死亡届(死亡の事実を知った日から7日以内)、相続放棄の期間(3か月)、準確定申告(4か月)、相続税の申告(10か月)といった期限は、遺骨の返還とは関係なく進みます。「納骨が済んでから相続の話を」と考えていると、期限を過ぎてしまうおそれがありますので注意してください。亡くなった後の手続きの一覧は亡くなったらすぐやる手続きの記事にまとめています。
おひとりさまの場合は、託す相手を決めておく
身寄りのない方の場合、献体法4条2号・臓器移植法6条1項1号には「遺族がない場合」の定めもありますが、実際には亡くなったことを登録先に連絡する人が必要です。死後事務委任契約で、葬儀・連絡の手配を託しておくことも考えられます。詳しくは死後事務委任契約の記事をご覧ください。献体の受入れについては、登録先の大学・献体の会に事前にご相談ください。
献体・臓器提供の意思表示でよくある7つの落とし穴
- 家族に相談せずに献体登録しようとする 本人が書面で意思を示していても、遺族が拒めば献体は行われません(献体法4条)。登録時には肉親の同意を得ておくことが大切だと案内されています。
- 献体の申込先を「大学病院」だと思う 申込先は医科・歯科の大学または献体の会です。大学病院ではありません。登録を一時見合わせている大学もあります。
- 献体をすると葬儀ができないと思い込む 通夜・告別式は通常どおり行えます。出棺後に向かう先が火葬場ではなく大学になるという違いです。
- 遺骨がすぐに戻ると思って、納骨の予定を立ててしまう 遺骨の返還は普通は2年ほど、長い場合は3年以上かかることがあります。お墓や納骨の計画は返還時期を前提に。
- 臓器提供の意思を、遺言にだけ書いておく 遺言は死後すぐに読まれないことが多く、法的な拘束力もありません。マイナンバーカード・運転免許証・インターネット登録・意思表示カードで表示し、家族に伝えておきましょう。
- 献体と臓器提供を、両方とも必ずできると思う 正常解剖には臓器がそろった遺体が望ましいとされ、角膜提供などとの同時登録を受け付けない大学もあります。両方を希望する場合は、登録先に事前に確認してください。
- 「親族優先」と書けば、必ず家族に提供されると思う 親族優先提供は15歳以上の書面による表示・親族(法律婚の配偶者、子、父母)の移植希望登録・医学的条件の3つが必要です。事実婚の配偶者は含まれません。
「献体したいと言ったら、娘に泣かれました」――Tさまのご相談
Tさま(70代・女性)は、ご主人を見送ったあと、ご自身の終活を始められた方です。「お墓の心配をかけたくないし、若いお医者さんの勉強の役に立てたら」と、地元の大学の献体の会への登録を考えていらっしゃいました。
ところが、ご長女に話したところ、「お母さんの体を、そんなふうにするのは嫌だ」と泣かれてしまったそうです。Tさまは「私の体なのだから、私が決めてよいのでは」と戸惑っておられました。
私からは、「献体の意思は法律で尊重されるものとされていますが、実際に大学へ連絡し、遺体を託すのはご家族です。法律上も、ご遺族が拒めば献体は行われません。登録にも肉親の同意が求められるのが一般的です。まずは、なぜ献体をしたいのか、そのお気持ちをゆっくり伝えてみてはいかがでしょう」とお話ししました。あわせて、葬儀はふつうに行えること、遺骨は2年ほどで戻ることもお伝えしました。
後日Tさまから、ご長女と一緒に大学の説明会に参加したとご連絡をいただきました。ご長女は「葬儀もできて、お骨も戻ってくると知って、少し安心した。お母さんの気持ちも分かった」とおっしゃり、同意書に署名されたそうです。
Tさまは「自分ひとりで決めて、黙って登録していたら、娘を傷つけるところでした。話してよかったです」とおっしゃっていました。
「体をどうしてほしいか」も、大切な終活の一つです
終活というと、財産や遺言、お墓のことが中心になりがちです。けれども、亡くなった後の自分の体をどうしてほしいかということも、ご本人にとっては大切な意思表示だと思います。
献体も臓器提供も、最後にその思いを実行するのはご家族です。ご家族にとっては、大切な人を見送る悲しみの中での判断になります。だからこそ、元気なうちに、理由も含めて話しておくことが、ご家族への思いやりになるのではないでしょうか。
また、献体をされた場合は遺骨の返還が先になるため、お墓や納骨の予定、相続手続きの段取りも少し変わってきます。「体のこと」と「財産のこと」をあわせて整理しておくと、ご家族の負担はぐっと軽くなります。
私たちは医療や登録の可否を判断する立場ではありませんが、終活の全体像を整理し、相続・葬儀の段取りをご家族と一緒に考えるお手伝いができます。どうぞお気軽にご相談ください。
この記事のまとめ
- 死後に体を役立てる制度は、献体(医学及び歯学の教育のための献体に関する法律)と臓器提供(臓器の移植に関する法律)の2つです。
- 献体は、医学・歯学教育の正常解剖のために遺体を提供すること(献体法2条)。献体の意思は尊重されなければならないとされています(同3条)。
- 献体の申込先は医科・歯科の大学または献体の会(大学病院ではありません)。登録者は334,612名超(令和7年3月31日現在、日本篤志献体協会)。
- 本人が書面で意思を示していても、遺族が拒めば献体は行われません(献体法4条)。登録時に肉親の同意を得ておくことが大切です。
- 献体をしても通夜・告別式は行えます。遺骨の返還は普通は2年ほど、長い場合は3年以上。移送費・火葬費は大学が負担すると案内されています。
- 臓器提供は、本人の書面の意思+遺族が拒まない、または本人の拒否がなく遺族が書面で承諾した場合に行われます(臓器移植法6条1項)。
- 意思表示の方法はマイナンバーカード・運転免許証・インターネットによる意思登録・臓器提供意思表示カードの4つ。提供は15歳以上、拒否は年齢を問わず表示できます。
- 親族優先提供(臓器移植法6条の2)の対象は法律婚の配偶者・子・父母。事実婚は含まれません。
- 遺言に書いても法的拘束力はなく、死後すぐに読まれないことも。本来の方法で意思を示し、家族に直接伝えておくことが大切です。
- 相続手続きの期限は遺骨の返還を待たずに進みます。最新の情報は日本臓器移植ネットワーク・厚生労働省・登録先の大学でご確認ください。
参考文献(一次情報)
- e-Gov法令検索 医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(第2条〜第5条) https://laws.e-gov.go.jp/law/358AC1000000056
- e-Gov法令検索 臓器の移植に関する法律(第2条・第6条・第6条の2・第11条) https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC1000000104
- 公益財団法人日本篤志献体協会「献体とは」 http://www.kentai.or.jp/what/01whatskentai.html
- 公益財団法人日本篤志献体協会「献体登録と献体の実行」 http://www.kentai.or.jp/what/02toroku.html
- 公益社団法人日本臓器移植ネットワーク「意思表示の方法」 https://www.jotnw.or.jp/learn/method/
- 公益社団法人日本臓器移植ネットワーク「よくあるご質問(意思表示の年齢)」 https://www.jotnw.or.jp/faq/detail.php?id=26
- 厚生労働省「臓器移植関連情報」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/zouki_ishoku/index.html
「体のこと」も含めて、終活を整理したいときは
献体や臓器提供を考えると、葬儀・お墓・相続手続きの段取りも変わってきます。まずは全体の整理から、ご一緒に始めませんか。
ご家庭の事情にあわせて論点を整理し、必要に応じて司法書士・税理士・葬儀の専門家などにおつなぎいたします。