「戸籍を取ったら、知らない子がいた」という相続

相続手続きの第一歩は、相続人を確定することです。そのために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべてそろえます(詳しくは相続の戸籍収集と法定相続情報一覧図の記事をご覧ください)。この作業の中で、ご家族が知らなかった事実が明らかになることがあります。

もっとも多いのは、前婚のお子さまの存在です。そしてもう一つが、認知の記載――婚姻関係にない相手との間に生まれた子を、被相続人が法律上の子として認めていた、という記録です。

気持ちの問題と、手続きの問題は分けて考える必要があります

こうした事実を知ったご家族が、動揺されたり、割り切れない思いを抱かれたりするのは、ごく自然なことです。ただし、遺産分割の手続きという観点では、認知された子は法律上の相続人であり、その方を除いてなされた遺産分割協議は無効になります。「知らなかった」「連絡先が分からない」という事情があっても、この結論は変わりません。まずは事実を正確に把握することから始めてください。

本記事は、この場面に直面されたご家族が、何が決まっていて、何を検討する余地があるのかを整理できるようにまとめたものです。

嫡出子と嫡出でない子――言葉の意味と法律上の親子関係

まず、用語を整理いたします。民法では、次のように区別されています。

用語意味
嫡出子婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子。民法の嫡出推定の規定により、父子関係が推定されます。
嫡出でない子
(婚外子・非嫡出子)
婚姻関係にない男女の間に生まれた子。母との親子関係は分娩の事実によって認められると解されていますが、父との法律上の親子関係は、原則として認知によって生じます
母子関係は分娩によって
父子関係は認知によって
= 血縁があるだけでは、父との法律上の親子関係は当然には生じない

この違いが、相続の場面で決定的な意味を持ちます。認知されていない子は、原則として父の相続人になりません。血のつながりがあっても、法律上の親子関係がなければ相続権は生じないのです。逆に、認知されている子は、まぎれもなく法律上の子であり、第一順位の相続人です(法定相続人の記事もご参照ください)。

[2024年4月1日施行の親子法制改正について]
令和4年の民法改正(親子法制の見直し)により、嫡出推定の規定が見直され、女性の再婚禁止期間が廃止されるなどの改正が行われました。この改正は原則として令和6年(2024年)4月1日から施行され、改正後の嫡出推定の規定は、原則として同日以後に生まれた子に適用されるとされています。あわせて嫡出否認の訴えや認知の無効の訴えの規律も見直されており、施行前に生まれた子について一定の経過措置も設けられました。ご自身のケースにどの規定が適用されるかは、お子さまの出生時期によって異なりますので、法務省の公表資料をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

認知とは何か――任意認知と裁判認知(民法779条)

民法779条は、嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができると定めています。認知には、大きく2つの方法があります。

  1. 任意認知 父が自らの意思で認知するものです。市区町村への認知届によって行うほか、遺言によって認知することもできるとされています(この場合、遺言執行者が届出を行うことになります)。任意認知がされると、その事実が戸籍に記載されます。冒頭で述べた「戸籍に認知の記載があった」というのは、この場合です。
  2. 裁判認知(強制認知) 父が認知しない場合に、子の側から認知の訴えを提起して、判決によって父子関係を確定させるものです。民法787条が定めています。父の生存中でも、死亡後でも提起できますが、死亡後については後述する期間制限があります。

認知の効力は、生まれたときにさかのぼる

民法784条は、認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずると定めています。ただし、同条ただし書により、第三者が既に取得した権利を害することはできないとされています。この「さかのぼる」という性質が、相続の場面で重要な意味を持ちます。相続開始の後に認知が確定した場合でも、その子は相続開始の時点ですでに子であったものとして扱われるからです。

[認知されると、扶養や親権の問題も生じます]
認知は相続だけの話ではありません。法律上の親子関係が生じることで、扶養の義務や、場合によっては親権・監護に関する問題も生じ得ます。本記事は相続の側面に絞って解説していますが、実際の事案では家族法全体にかかわる論点が絡みますので、必ず弁護士にご相談ください。

最高裁平成25年9月4日大法廷決定と、民法900条4号ただし書前段の削除

ここが、この論点の中心です。かつて民法900条4号ただし書の前段には、「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とする」という定めが置かれていました。

この規定について、最高裁判所大法廷は平成25年9月4日決定で、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項(法の下の平等)に違反していたと判断しました。

最高裁大法廷 平成25年9月4日決定
嫡出でない子の相続分を2分の1とする部分は違憲
= これを受けて民法が改正され、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分は同等になった

法務省の公表資料によれば、この決定を受けて、平成25年12月5日に民法の一部を改正する法律が成立し、同年12月11日に公布・施行されました。改正の内容は、民法900条4号ただし書前段を削除し、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を同等とするものです。

なお、削除されたのはただし書の前段のみです。父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹)の相続分を、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1とする後段の定めは、現在も有効です。「900条4号のただし書がなくなった」わけではない点にご注意ください。

具体的にどう変わるのか

たとえば、被相続人に配偶者と、嫡出子1人、認知した嫡出でない子1人がいる場合を考えます。

相続人改正前の考え方改正後(現在)
配偶者2分の12分の1
嫡出子3分の14分の1
嫡出でない子6分の14分の1

子2人で配偶者以外の2分の1を分け合う点は同じですが、その内訳が2対1から1対1に変わったということです。法定相続分の考え方全般については、法定相続分の計算方法の記事をあわせてご覧ください。

どの相続から同等になるのか――平成25年9月5日という区切り

実務でしばしば問題になるのが、「いつ開始した相続に、どちらのルールが適用されるのか」です。法務省の資料によれば、改正後の規定は、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用されるとされています。

相続の開始(被相続人の死亡)が
平成25年9月5日以後なら、相続分は同等
= 相続は死亡によって開始するため、「亡くなった日」で判定する(※それ以前に開始した相続でも、法律関係がまだ確定していない場合の扱いは個別の検討が必要です)

それより前に開始した相続については、事情がやや複雑です。最高裁の決定は、遅くとも平成13年7月当時には違憲であったと述べていますが、同時に、すでに遺産分割の協議や審判等によって確定的なものとなった法律関係までは覆さないという趣旨も示されています。

古い相続がまだ終わっていない場合は、必ず専門家にご相談ください

「祖父の代の相続がそのままになっている」「何十年も前の相続の登記が済んでいない」というケースでは、どの時点のルールが適用されるのか、すでに確定した法律関係があるのかどうかによって結論が変わり得ます。これは条文を読むだけでは判断できない領域です。数次相続がからむ場合はさらに複雑になります。自己判断で分け方を決めず、弁護士・司法書士にご相談ください。

父の死後に認知を求める――死後認知の訴えと「3年」の壁

父が生前に認知をしないまま亡くなった場合、子の側から認知の訴えを提起することができます。これがいわゆる死後認知です。

ただし、民法787条ただし書は、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでないという趣旨の期間制限を置いています。つまり、死亡の日から3年という出訴期間があるということです。

死後認知の訴え
→ 父又は母の死亡の日から3年以内に提起
= 民法787条ただし書。この期間を過ぎると、認知を求めることが難しくなる

死後認知の訴えは、検察官を相手方として提起することになるとされています。訴えが認められて判決が確定すれば、前述の民法784条により、認知の効力は出生の時にさかのぼり、その子は相続開始の時点で相続人であったことになります。

[3年という期間は、思うより短いものです]
父の死亡を知るのが遅れることもありますし、認知を求めるかどうかを決めるまでに時間がかかることもあります。DNA鑑定などの立証手段の準備にも時間が必要です。この期間の起算点や、期間の考え方については専門的な判断を要しますので、認知を求めることをお考えの場合は、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。

遺産分割の後に認知された人が現れたら――民法910条の価額支払請求

認知の効力が出生時にさかのぼる以上、すでに遺産分割が終わった後で認知が確定するという事態が起こり得ます。このとき、いったん成立した分割をすべてやり直すのは、関係者にとって過大な負担になります。

そこで民法910条は、相続の開始後に認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有すると定めています。

分割が済んだ後に認知された人
→ 現物の取り戻しではなく、価額(金銭)の支払いを請求
= 民法910条。すでに成立した分割の効力自体は維持される

つまり、「不動産を返せ」ではなく「自分の相続分に相当する金銭を支払え」という請求になる、という整理です。これにより、すでに登記や名義変更が済んだ財産関係を巻き戻さずに、認知された人の権利を金銭で調整することができます。

[この請求権にも、時間の制約があり得ます]
民法910条の価額支払請求権について、どのような期間制限がかかるかは、条文に明文の定めがなく、解釈にゆだねられている部分があります。いずれにしても時間が経つほど立証も交渉も難しくなりますので、認知が確定した段階で早めに弁護士にご相談ください。

相続税の側でも「更正の請求」ができる

相続人が増えれば、相続税の計算も変わります。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですから、認知によって相続人が1人増えれば、控除額も600万円増えることになります。すでに申告を済ませている場合には、相続税法32条1項の更正の請求という制度があります。

項目内容
根拠条文相続税法32条1項2号(民法787条の規定による認知、相続人の廃除またはその取消しに関する裁判の確定等により相続人に異動を生じたこと)
請求できる期間その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内
あわせて確認すること基礎控除の「法定相続人の数」の変動、各人の税額の再計算。認知された子は一親等の血族である子にあたるため、通常は相続税の2割加算の対象にはならないと整理されます。

この「4か月」も、相続の世界では短い部類の期限です。更正の請求のしくみ全般については、相続税の更正の請求の記事で詳しく解説しております。

相談事例
※以下は、よくあるご相談をもとに再構成した架空の事例です。実在の方とは関係ありません。

「父の戸籍に、認知の記載がありました」

お父さまを亡くされたごきょうだいから、こんなご相談をいただきました。「相続の手続きのために父の戸籍を出生までさかのぼって取り寄せたところ、私たちがまったく知らなかった認知の記載が見つかりました。母はすでに他界しており、相続人は私と弟の2人だと思い込んでいました。銀行の手続きも、不動産の名義変更も、これから始めるところでした」。

まずお伝えしたのは、その方も法律上の相続人であり、その方を含めずに行った遺産分割協議は無効になるということでした。ご本人たちにとっては受け入れがたい事実でしたが、手続きを先に進めてしまえば、後からすべてやり直しになります。そこで、戸籍の附票から住所をたどり、弁護士を通じて連絡を取るという段取りをご提案しました。あわせて、法定相続分は嫡出子と同等であること、相続税の申告が必要な規模であれば法定相続人の数が変わることも、あらかじめご説明しました。

「正直、感情の整理はまだついていません。それでも、知らずに手続きを進めて全部無効になるよりは、はるかによかったと思います」。気持ちが追いつく前に、まず手続きの前提を正しくすること――このご相談は、そのことを示すものでした。

― 私たちから一言 ―

「相続人の確定は、感情の前に事実を置く作業です」

婚外子や認知がからむご相談は、私たちがお受けする中でも、とくにご家族のお気持ちが揺れる場面です。「父を信じていたのに」「今さら現れるなんて」――そうしたお言葉を伺うことも、率直に申し上げて少なくありません。そのお気持ちを否定するつもりは、まったくありません。同時に申し添えたいのは、認知されたお子さまの側もまた、突然この事実と向き合うことになった一人であり、法が等しく相続人として扱う存在である、ということです。

ただ、実務家として一つだけお伝えしなければならないのは、相続人の確定は、感情ではなく戸籍という事実によって決まるということです。認知された子は法律上の相続人であり、その方を除いた遺産分割協議は無効になります。連絡が取れない、会いたくない、という事情があっても、その結論は変わりません。ここを曖昧にしたまま手続きを進めてしまうと、預金の払戻しも不動産の名義変更も、後から根底から覆るおそれがあります。もっとも重い負担を負うのは、進めてしまったご家族の側なのです。

逆に申し上げれば、最初に相続人を正確に確定してさえおけば、そこから先の進め方には選択肢があります。連絡を弁護士に代行してもらう、直接顔を合わせずに書面でやり取りする、話がまとまらなければ遺産分割調停を使う――ご家族が消耗しない方法を、一緒に考えることができます。私たちは、弁護士・司法書士・税理士と連携して、事実の確認からその後の進め方まで、落ち着いてお手伝いいたします。戸籍を見て手が止まってしまった、という段階でも構いません。どうかお一人で抱え込まず、ご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

認知がからむ相続の手続きでよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談の中で見えてきた、認知がからむ相続手続きのよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 「相続分は2分の1のはず」と古い知識のまま計算する 最高裁平成25年9月4日大法廷決定を受けた民法改正により、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分は同等になりました。平成25年9月5日以後に開始した相続に適用されます。
  2. 認知された子を外して遺産分割協議をしてしまう 認知された子は法律上の相続人です。一人でも欠けた遺産分割協議は無効になります。遺産分割協議書を作り直すことになり、手続きが大きく後戻りします。
  3. 戸籍を出生までさかのぼらずに、途中で調査を打ち切る 認知の記載は、古い戸籍にしか残っていないことがあります。被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべてそろえることが、相続人確定の大前提です。
  4. 「血縁があるから当然に相続人だ」と考える 父との法律上の親子関係は、原則として認知によって生じます。認知されていなければ、血縁があっても父の相続人にはならないのが原則です。
  5. 死後認知の「死亡の日から3年」を過ぎてしまう 民法787条ただし書の出訴期間です。準備に時間がかかることを考えると、決して長い期間ではありません。認知を求めるなら、早い段階で弁護士にご相談ください。
  6. 分割後に認知された人が現れたとき、すべてやり直そうとする 民法910条により、この場合は価額(金銭)の支払請求として調整されるのが原則です。いきなり全面的なやり直しを前提に動くと、かえって混乱します。
  7. 相続税の更正の請求の「4か月」を見落とす 認知により相続人に異動が生じた場合、相続税法32条1項2号により、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求ができます。相続人が増えれば基礎控除も変わりますので、税理士に早めにご相談ください。

この記事のまとめ

  • 母子関係は分娩の事実により、父子関係は原則として認知によって生じる(民法779条)。
  • 認知には、認知届や遺言による任意認知と、認知の訴えによる裁判認知がある。
  • 民法784条により、認知の効力は出生の時にさかのぼる(ただし第三者が既に取得した権利は害さない)。
  • 最高裁大法廷は平成25年9月4日決定で、嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号ただし書前段を違憲と判断した。
  • これを受けて平成25年12月に民法が改正・公布施行され、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分は同等になった。
  • 改正後の規定は、平成25年9月5日以後に開始した相続に適用される。すでに確定した法律関係は覆らないとされている。
  • 父の死後に認知を求める訴えは、父又は母の死亡の日から3年以内に提起する必要がある(民法787条ただし書)。
  • 遺産分割が済んだ後に認知された人は、民法910条により価額のみによる支払を請求できる。
  • 認知により相続人に異動が生じた場合、相続税法32条1項2号により、知った日の翌日から4か月以内に更正の請求ができる。
  • 認知された子を除いた遺産分割協議は無効。相続人の確定は、戸籍を出生までさかのぼって行うこと。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。認知の可否とその効力、相続人の範囲と法定相続分、適用される規定がどの時点のものかの判断、死後認知の訴えの出訴期間の起算点、民法910条による価額支払請求の範囲、相続税の更正の請求の可否などは、出生や婚姻の時期、相続開始の時期、これまでの手続きの経過によって個別に判断されるものであり、本記事の内容が特定の結果を保証するものではありません。とくに平成25年9月5日より前に開始した相続や、古い相続が未処理のまま残っている事案では、専門的な検討が不可欠です。本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいていますが、実際の手続きにあたっては、必ず法務省国税庁等の一次情報で最新の内容をご確認のうえ、弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

「戸籍に知らない名前があった」――手続きを進める前にご相談ください

FREE CONSULTATION

相続人の確定、連絡の取り方、法定相続分の計算、相続税への影響。
感情の整理がつかないままでも構いません。弁護士・司法書士・税理士と連携してお手伝いいたします。