亡くなった人の貸金庫は、その日から開けられなくなる

金融機関は、契約者が亡くなったことを把握すると、その方の預金口座を凍結します。これは広く知られている扱いですが、同時に貸金庫も利用が停止されるということは、あまり知られていません。

「口座が止まるのは分かります。でも、貸金庫は父が借りていた箱でしょう。鍵もカードもここにあります」――窓口でそう仰る方は多いのですが、金融機関の答えは変わりません。契約者が亡くなった以上、その貸金庫の中身は相続財産に関わるものであり、誰が引き継ぐかが決まるまでは、金融機関としては一部の相続人にだけ開けさせるわけにいかないのです。

生前に届け出た「代理人」も、死亡後は使えません

高齢のご両親が、お子さまを貸金庫の代理人として金融機関に届け出ておられるケースがあります。この代理人届出は、ご本人がお元気なうちに、代わりに出し入れをしてもらうためのものです。代理権は、本人の死亡によって終了しますので、亡くなった後にこの届出を使って開扉することは、原則としてできません。「代理人になっているから大丈夫だと思っていた」というお声をよく伺いますが、残念ながら、そのままでは通りません。死亡後は、代理人としてではなく、相続人としての手続きに切り替える必要があります。なお、代理人届出の効力の及ぶ範囲は約款によって異なりますので、実際の取扱いは契約先の金融機関にご確認ください。

そもそも貸金庫があるかどうかを、どう調べるか

「貸金庫を借りていたかどうかも分からない」という場合は、次の手がかりを確認してください。

相続財産全体の調べ方については、相続財産の調べ方の記事で網羅的に解説しています。

貸金庫契約とは――「箱を借りているだけ」ではない契約の性質

なぜ、鍵を持っていても開けられないのか。その理由を理解するには、貸金庫契約がどういう契約なのかを知っておくと腑に落ちます。

一般に「貸金庫を借りる」と言いますので、多くの方は賃貸借契約(部屋や駐車場を借りるのと同じ)だと思っておられます。この理解は、法的にも大きく外れてはいません。学説では、貸金庫という場所(空間)の賃貸借と把握する見解が通説とされています。

ただし、それだけでは説明しきれない要素があります。金融機関は堅牢な施設と入退室の管理を提供し、利用者の出入りを記録し、無断で第三者に開けさせない義務を負っています。最高裁も、平成11年11月29日の判決において、銀行が貸金庫の内容物について利用者と共同して包括的な占有を有すると述べ、貸金庫の内容物引渡請求権を差し押さえることができるとしました。つまり、「箱を貸している」だけでなく、「中身を銀行も一緒に押さえている」という側面があるということです。

法的性質は場所(空間)の賃貸借と見る見解が有力
ただし銀行も内容物を共同して占有している(最判平成11年11月29日)
= だから金融機関は、権限のはっきりしない人に開けさせるわけにいかない

なお、この最高裁判決は「賃貸借か寄託か」という契約類型そのものを正面から確定したものではありません。解説によっては貸金庫契約を寄託に近いものとして説明するものもありますが、ここは学説に幅のある論点です。

そして、契約者が亡くなると、貸金庫を開けて中身の引渡しを受ける権利は、相続財産として相続人に承継されます。ただし、相続人が複数いる場合、その権利を一人が単独で行使できるのかどうかは、法律構成として簡単な問題ではありません。この点について「不可分債権だから一人でも請求できる」と説明されることもありますが、学説・実務の整理は一様ではなく、断定できるものではありません。

いずれにせよ、はっきりしているのは金融機関の実務の側です。後日「勝手に開けられて中身が無くなっていた」と紛争になることを避けるため、金融機関は原則として相続人全員の同意を求めるという運用を採っています。ここは「法的にどこまで請求できるか」と「窓口が何を求めてくるか」を分けて考えるのが実務的です。

開扉に必要な書類――相続人全員の同意が原則になる理由

実際に貸金庫を開けるまでの流れは、おおむね次のとおりです。金融機関によって細部は異なりますので、必ず事前に確認してください。

  1. 金融機関に連絡し、貸金庫の相続手続きの書類一式を取り寄せる 「貸金庫の開扉と解約をしたい」と伝えると、専用の依頼書と必要書類の案内が届きます。予約制のことがほとんどですので、日程調整もこの段階で行います。
  2. 相続人を確定するための戸籍を集める 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)と、相続人全員の現在戸籍が必要です。法定相続情報一覧図の写しがあれば、戸籍の束の代わりに使える金融機関が多く、手続きが大幅に楽になります。
  3. 相続人全員の署名・実印と、印鑑登録証明書をそろえる 金融機関所定の依頼書に、相続人全員が署名・実印を押します。印鑑登録証明書は発行後3か月以内または6か月以内といった有効期限が定められていることが多いので、取得のタイミングにご注意ください。
  4. 開扉日に、貸金庫の鍵・カードと本人確認書類を持参する 鍵を紛失している場合は、金融機関が業者を手配して開錠することになり、その費用は相続人の負担となるのが通常です。数万円かかることもありますので、鍵は必ず探してください。
  5. 金融機関の担当者の立会いのもと開扉し、中身を確認・記録する 多くの場合、担当者が立ち会い、内容物の明細を作成します。相続人の側でも、必ず写真を撮り、目録を作ってください。あとで「あれが入っていたはずだ」という争いを防ぐ、いちばん確実な方法です。
  6. 中身を取り出し、貸金庫を解約する 遺産分割が済んでいない段階では、取り出した物を相続人の代表者が保管する形にし、その旨を書面で確認しておくのが安全です。
[全員が窓口に集まる必要はありません]
「相続人全員の同意」と聞くと、全員が同じ日に銀行へ行かなければならないと思われがちですが、多くの金融機関では、依頼書に相続人全員の署名・実印がそろっていれば、当日窓口に行くのは代表者一人でよいという運用になっています。遠方にお住まいの相続人には、依頼書を郵送して署名・押印していただき、印鑑登録証明書を同封して返送してもらう形が一般的です。「全員の同意」と「全員の立会い」は別のことですので、まずは金融機関に、どちらが必要なのかをご確認ください。
STEP 1 戸籍で相続人を確定
(一覧図があると早い)
STEP 2 全員の署名・実印と
印鑑登録証明書をそろえる
STEP 3 予約日に開扉
写真と目録を必ず残す

相続人がそろわないとき――公証人の事実実験公正証書(公証人法35条)

問題は、相続人の一人がどうしても協力してくれない場合です。「印鑑は押さない」「まず中身を見せろ、話はそれからだ」――こうした膠着状態は、決して珍しくありません。中身が分からないから遺産分割が進まず、遺産分割が進まないから中身が見られない。完全な堂々巡りです。

このときに実務で使われるのが、公証人による「事実実験公正証書」です。

事実実験公正証書とは

公証人は、法律行為を公正証書にするだけでなく、自ら五感で体験した事実(事実実験)にもとづいて公正証書を作成する権限を持っています。その根拠が公証人法35条です。

貸金庫の場面では、公証人に金融機関まで出向いてもらい、開扉に立ち会って、中に何が入っていたかを確認し、その結果を公正証書に記録してもらうという使い方をします。

公証人が開扉に立ち会い、中身を公正証書に記録
= 事実実験公正証書(公証人法35条
= 「誰かが持ち出したのではないか」という疑いを、公的な記録で断ち切る

この方法の価値は、中身の記録に公的な信用力が与えられることにあります。立ち会わなかった相続人に対しても、「開けたら、これだけが入っていた」ということを、公証人の作成した文書で示すことができます。疑心暗鬼を、証拠で解消するための道具だとお考えください。

費用のめやす

事実実験の手数料は公証人手数料令26条に定められており、事実実験・その録取・実験方法の記載に要した時間1時間までごとに13,000円が基本とされています。この額は、令和7年(2025年)10月1日施行の公証人手数料令の改正によるものです(改定前は11,000円)ので、それ以前に書かれた解説記事には古い金額が残っていることがあります。また、事実実験が休日または午後7時から翌日午前7時までの間に行われたときは、手数料の10分の5が加算されます。これに加えて、公証人が役場の外に出向くための日当や旅費が別途かかります。

[費用は事前に見積もりを取ってください]
所要時間、金融機関までの距離、書面の分量によって、最終的な金額は変わります。数万円から十数万円程度になることが多いとご案内していますが、これはあくまで目安です。依頼される前に、必ず公証役場に事案の概要を伝えて見積もりをご確認ください。また、公証人に出向いてもらうことについて、金融機関側の了解が得られるかどうかも事前に確認が必要です。取扱いは金融機関によって異なります。

それでも解決しないときは、家庭裁判所へ

事実実験公正証書は、あくまで中身を確認して記録するための方法であり、誰が何を取得するかを決めるものではありません。中身が判明してもなお話し合いがまとまらないときは、遺産分割調停を申し立てて、家庭裁判所の手続きの中で解決を図ることになります。

遺言執行者・遺言による指定があるとき――話がまるごと変わります

ここまで「相続人全員の同意が原則」とご説明してきましたが、遺言書がある場合は、前提が変わります。

遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有するとされています(民法1012条1項)。金融機関の実務でも、遺言執行者が就任していれば、遺言執行者の請求により開扉に応じる取扱いをしているところが多くあります。相続人全員の印鑑を集めなくてよくなるわけですから、これは非常に大きな違いです。

さらに確実にするために、遺言書の中で「貸金庫の開扉・解約・内容物の受領に関する権限を遺言執行者に与える」旨を明記しておくという実務上の工夫があります。これから遺言書を作られる方で貸金庫をお持ちであれば、ぜひこの一文を入れてください。残されたご家族の手間が、まるで違ってきます。

[遺言書が貸金庫の中にある、という悲劇]
実務でときどき起こるのが、「遺言書は貸金庫に入っているはずだが、その貸金庫を開けるのに相続人全員の同意が必要」という、出口のない状況です。遺言執行者を指定していても、その遺言書自体が金庫の中では意味がありません。遺言書は、貸金庫ではなく、公証役場(公正証書遺言)または法務局の保管制度に預けてください。どちらも、相続人が確実にたどり着ける制度です。詳しくは亡くなった人の遺言書の探し方の記事をご覧ください。

中身を勝手に持ち出してはいけない――民法921条の法定単純承認

ここは、この記事で最もお伝えしたい部分です。

ご遺族の中に、生前から鍵と暗証番号を預かっていて、金融機関に死亡を伝える前であれば物理的に開けられる、という方がいらっしゃることがあります。「どうせ自分たちの財産になるのだから」と、中の現金や貴金属を持ち出してしまう。この行為が、取り返しのつかない結果を招くことがあります。

相続財産の処分は、単純承認とみなされます(民法921条1号)

民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなすと定めています。単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産(借金)もすべて引き継ぐという意思表示です。いったん単純承認をしたとみなされると、その後に相続放棄や限定承認をすることはできなくなります。貸金庫から現金や金地金を持ち出す行為は、この「処分」に当たると評価されるおそれが高い行為です。故人に借金があるかどうかが分からない段階では、絶対に避けてください。詳しくは法定単純承認の記事で解説しています。

この危険が現実になるのは、あとから借金が出てきたときです。貸金庫から数百万円の現金を持ち出したあとで、故人に数千万円の連帯保証債務があったことが判明する――こうなると、相続放棄という選択肢を封じられたまま、その債務を引き継ぐことになりかねません。持ち出した数百万円と引き換えに、数千万円を背負うのです。

「見るだけ」ならよいのか

単に開扉して中身を確認し、そのまま元に戻す行為が「処分」に当たるかというと、単なる現状の確認にとどまるのであれば、直ちに処分とは評価されにくいと考えられています。ただし、ここは事案によって判断が分かれ得るところで、「確認だけなら絶対に安全」と申し上げることはできません。

したがって、相続放棄を検討しておられる方は、次の順序を守ってください。

[貸金庫の未払い利用料はどうなるか]
貸金庫の利用料が未払いのまま亡くなった場合、その未払分は被相続人の債務として扱われるのが通常です。金額としては大きくありませんが、相続放棄を検討している方が、これを相続財産から支払ってしまうと、やはり「処分」と評価されるおそれがあります。細かいことのようですが、放棄を考えている段階では、故人の財産から何かを支払う行為は控えてください。
ご相談事例

※ 以下は、実際のご相談を踏まえて構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「兄が印鑑を押してくれず、母の貸金庫が半年間開きませんでした」

ご相談にいらしたのは、50代の次女の方でした。お母さまを亡くされ、相続人はご長男とご長女、そしてご相談者である次女の3人。お父さまはすでに他界されていました。

お母さまの通帳を確認していたところ、毎年2月に「カシキンコシヨウリヨウ」という引き落としがあることに気づかれました。銀行に問い合わせると、確かに貸金庫の契約がありました。遺品の中から鍵も見つかりました。

ところが、ここから話が止まりました。ご長男が、開扉の依頼書に押印してくれないのです。理由をお尋ねすると、ご長男は生前のお母さまの介護をめぐってご姉妹と折り合いが悪く、「妹たちが先に中身を見て、都合の悪いものを隠すのではないか」と疑っておられました。一方でご姉妹の側も、「兄こそ何か知っているのではないか」と疑っておられる。お互いに、相手が先に中を見ることを恐れていたのです。

半年ほど膠着したのち、当センターにご相談をいただきました。私たちがご提案したのは、公証人に立ち会っていただく事実実験公正証書でした。「誰か一人が先に見る」のではなく、「中立の第三者である公証人が確認して記録する」という形にすれば、お互いの疑いを解けるのではないかと考えたのです。

ご長男にこの方法をお伝えしたところ、「それなら構わない」とご了承いただけました。銀行にも事前に相談し、公証人の立会いについて了解を得たうえで、日程を組みました。当日は公証人と銀行の担当者、そして相続人3人全員が立ち会いました。

中に入っていたのは、ご自宅の権利証、お母さまの実印、古い生命保険証券が数通、そして貴金属が少々でした。現金はありませんでした。ご長男が心配されていたような「隠された財産」は、何も出てこなかったのです。

開扉が終わったあと、ご長男がぽつりと仰った言葉が印象に残っています。「開けてみれば、こんなものだったんですね」――半年の膠着は、中身が分からないことへの不安が生んだものでした。その後の遺産分割の話し合いは、驚くほどすんなり進みました。

この事案でお伝えしたかったのは、貸金庫をめぐる争いの多くは、財産の額をめぐる争いではなく、「中身が見えない」ことへの不信から生まれるということです。だからこそ、透明な手続きで開けることに、それ自体の価値があります。費用はかかりますが、半年分の時間と、ご家族の関係を考えれば、決して高い買い物ではなかったと思っています。

― 私たちから一言 ―

「貸金庫は、遺されたご家族にとっては“開かずの箱”です」

貸金庫をお借りになる方の多くは、「大切なものを安全に保管したい」という、まっとうな理由でお借りになっています。権利証、実印、証券、貴金属。自宅に置いておくのが不安なものを、銀行の堅牢な設備に預ける。合理的な判断です。

ただ、ここで一つだけ、想像していただきたいことがあります。その箱は、あなたが亡くなったあと、ご家族にとっては「開かずの箱」になります。鍵を渡してあっても開きません。代理人に届け出ていても開きません。相続人全員の実印と印鑑登録証明書がそろって、はじめて開きます。相続人が3人なら3人分、10人なら10人分です。そして、そのうち一人でも「押さない」と言えば、止まります。安全に預けたつもりのものが、遺産分割を止める原因になってしまう――これが、私たちが現場でいちばん多く見てきた光景です。

ですから、お元気なうちに、二つだけお願いしたいことがあります。一つは、貸金庫が本当に必要かどうかを、一度見直していただくこと。「20年前に借りたが、最近は開けてもいない」という方が、実に多くいらっしゃいます。中身が古い保険証券と、価値のよく分からない書類だけであれば、生前に解約して、自宅の耐火金庫に移すという選択も十分にあり得ます。もう一つは、貸金庫を続けるのであれば、遺言書を作り、貸金庫の開扉・解約・内容物の受領の権限を遺言執行者に与えると明記していただくこと。この一文があるだけで、ご家族が印鑑を集めて回る苦労が消えます。そして、その遺言書だけは、貸金庫の中に入れないでください。公証役場か、法務局の保管制度へ。中に入れてしまうと、開けるために遺言書が要り、遺言書を取り出すために開ける必要がある、という笑えない状況になります。

すでに相続が始まってしまい、貸金庫が開かずに困っておられる方も、どうかあきらめないでください。相続人が集まれないときの事実実験公正証書という方法があります。当センターでは、金融機関との事前の調整から、公証役場との段取り、開扉後の目録づくりと遺産分割まで、専門家と連携してお手伝いしております。「父の貸金庫が開かないのですが」――そのご相談から、どうぞお気軽にお電話ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

貸金庫は相続税の申告漏れの温床――現金・金地金・証書類

もう一つ、税務の観点から必ずお伝えしなければならないことがあります。貸金庫の中身は、相続税の申告漏れが起きやすい場所の代表格だということです。

典型的に入っているもので、相続税の課税対象になり得るのは次のようなものです。

貸金庫に入っているもの相続税での扱い・注意点
現金(いわゆるタンス預金) 相続開始時に存在した現金は、相続財産として申告が必要です。通帳に記録が残らないため見落とされやすい一方、税務調査では過去の預金の引出しの流れから把握されることがあります。
金地金・金貨・貴金属 課税時期の相場で評価される課税財産です。近年は価格が上昇しており、金額が大きくなりやすいところです。
有価証券(株券・国債等)、預金証書 紙で保管されている古い証券類は、そのままでは所在が把握されないことがあります。発行元への照会が必要になる場合があります。
生命保険証券 保険金の存在が判明する手がかりです。死亡保険金は非課税枠の適用がありますが、申告そのものは必要になり得ます。
不動産の権利証、借用書 権利証からは把握していなかった不動産が、借用書からは貸付金債権が見つかることがあります。いずれも相続財産です。
他人名義の通帳・印鑑 被相続人が管理していた家族名義の預金は、名義預金として被相続人の財産と判断されることがあります。税務調査で最も指摘の多い論点です。

税務署は、貸金庫の存在を確認できます

「貸金庫の中のものは、黙っていれば分からないのではないか」――そう考える方がまれにいらっしゃいますが、これは危険な誤解です。税務署は、金融機関に対する調査権限を持っており、貸金庫の契約の有無や、開扉の記録(いつ、誰が開けたか)を確認することができます。相続税の税務調査では、「相続開始の直前や直後に貸金庫が開けられていないか」が確認される論点の一つです。仮に申告漏れが判明すれば、本税に加えて加算税・延滞税の対象になり得ます。意図的に隠したと判断されれば、重加算税という重い扱いになることもあります。貸金庫を開けたら、まず中身の目録を作り、税理士に見ていただいてください。

貸金庫の相続手続きでよくある7つの落とし穴

当センターへのご相談の中で見えてきた、貸金庫の相続をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。

  1. 鍵とカードがあるから開けられると思っている 契約者が亡くなったことを金融機関が把握すると、貸金庫は利用停止になります。鍵や暗証番号を持っていても、相続人の一人というだけでは開けてもらえないのが一般的な運用で、原則として相続人全員の同意を求められます。
  2. 生前に届け出た代理人だから大丈夫だと思っている 代理権は本人の死亡によって終了しますので、死亡後にその届出を使って開扉することは原則としてできません。死亡後は相続人としての手続きに切り替える必要があります。取扱いは約款によりますので、契約先の金融機関にご確認ください。
  3. 中の現金や貴金属を持ち出してしまう 相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。その後は相続放棄や限定承認ができなくなるおそれがあります。あとから借金が判明したときに、取り返しがつきません。
  4. 遺言書を貸金庫に入れてしまう 遺言書を取り出すために貸金庫を開ける必要があり、貸金庫を開けるために相続人全員の同意が必要という、出口のない状況になります。遺言書は公証役場(公正証書遺言)または法務局の保管制度に預けてください。
  5. 相続人の一人が反対しただけで、あきらめてしまう 全員の立会いが得られないときは、公証人に開扉に立ち会ってもらい中身を記録する事実実験公正証書(公証人法35条)という方法があります。手数料は事実実験1時間までごとに13,000円が基本(公証人手数料令26条、令和7年10月1日改定。改定前は11,000円)で、休日・夜間の加算や日当・旅費が別途かかります。事前に見積もりと、金融機関の了解の確認を。
  6. 開扉のときに、写真も目録も残さない あとから「あれが入っていたはずだ」という争いが起きます。金融機関の担当者が明細を作ってくれる場合でも、相続人の側で必ず写真を撮り、目録を作ってください。立ち会えなかった相続人にも、その場で共有するのが望ましい進め方です。
  7. 中身を相続税の申告に反映させない 現金、金地金、証券類、他人名義の通帳などは、いずれも申告漏れの典型例です。税務署は金融機関への調査により貸金庫の契約や開扉の記録を確認できますので、隠し通せるものではありません。開けたら、まず目録を税理士にご相談ください。

この記事のまとめ

  • 契約者が亡くなったことを金融機関が把握すると、貸金庫は利用停止になる。鍵・カード・暗証番号があっても、相続人の一人というだけでは開けてもらえないのが一般的な運用である。
  • 生前に届け出た代理人の代理権は、本人の死亡によって終了する。死亡後は代理人としてではなく、相続人としての手続きに切り替える必要がある。
  • 貸金庫契約の法的性質は、貸金庫という場所(空間)の賃貸借と把握する見解が通説とされる。もっとも最高裁平成11年11月29日判決は、銀行が内容物について利用者と共同して包括的な占有を有するとしており、単なる場所貸しには収まらない。金融機関は紛争予防のため、相続人全員の同意を求める運用を採っている。
  • 貸金庫の有無は、通帳の利用料の引き落とし履歴(「貸金庫使用料」などの摘要)、遺品の鍵やカード、金融機関への明示的な照会で確認する。
  • 開扉には、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、全員の署名・実印と印鑑登録証明書が必要になるのが一般的。法定相続情報一覧図の写しがあると手続きが楽になる。
  • 「全員の同意」と「全員の立会い」は別のこと。多くの金融機関では、依頼書に全員の署名・実印がそろっていれば、当日は代表者一人で足りる運用になっている。
  • 鍵を紛失している場合は業者による開錠となり、その費用は相続人の負担になるのが通常である。
  • 相続人がそろわないときは、公証人に開扉に立ち会ってもらい中身を記録する事実実験公正証書(公証人法35条)という方法がある。
  • 事実実験の手数料は公証人手数料令26条により1時間までごとに13,000円が基本(令和7年10月1日施行の改正による。改定前は11,000円)。休日または午後7時から翌日午前7時までに行われたときは10分の5が加算され、日当・旅費等も別途かかる。金額は事案により変わるため、事前に公証役場で見積もりを取り、金融機関の了解も確認する。
  • 遺言執行者が就任していれば、遺言執行者の請求により開扉に応じる金融機関が多い。遺言書に貸金庫の開扉・解約・内容物受領の権限を明記しておくと確実である。
  • 遺言書を貸金庫に入れてはいけない。公証役場(公正証書遺言)または法務局の保管制度に預ける。
  • 中の現金や貴金属を持ち出す行為は、相続財産の処分として法定単純承認(民法921条1号)に当たると評価されるおそれがあり、その後の相続放棄・限定承認ができなくなる可能性がある。
  • 単なる現状の確認にとどまる開扉が直ちに処分と評価されるとは限らないが、判断は事案によるため、相続放棄を検討している場合は開扉前に専門家に相談する。
  • 貸金庫の中の現金、金地金、証券類、生命保険証券、権利証、借用書、他人名義の通帳は、いずれも相続税の申告に関わる。税務署は金融機関への調査により貸金庫の契約や開扉の記録を確認できる。
  • 開扉の際は、必ず写真を撮り目録を作成する。中身が見えないことへの不信が、遺産分割を止める最大の原因になる。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。貸金庫の開扉に必要な書類、代理人届出の効力の範囲、遺言執行者による開扉の可否、公証人の立会いの可否は、金融機関ごとの約款・運用によって異なります。また、公証人の手数料は事案の内容・所要時間・出張の有無によって変わります。法令および運用は改正される可能性があります。本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいていますが、実際に手続きをされる際は、必ず契約先の金融機関、日本公証人連合会・公証役場、国税庁などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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