なぜ「遺言書があるか」を最初に確認しなければならないのか
相続の手続きには、順番があります。そして、その最初のほうに置かれるべきなのが「遺言書の有無の確認」です。理由は単純で、遺言書があるかないかで、そのあとの手続きの中身がまるごと変わってしまうからです。
遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が何を取得するかを決めます。一方、有効な遺言書があれば、原則としてその内容にしたがって遺産が承継されます。遺言執行者が指定されていれば、その方が手続きを進めることになります。スタート地点が違えば、必要な書類も、話し合うべきことも、かかる時間も違ってきます。
あとから遺言書が出てくることの、本当の怖さ
実務でいちばん避けたいのが、遺産分割協議をすべて終えたあとで遺言書が発見されるという事態です。相続人全員が集まり、押印し、印鑑証明書を添えて、相続登記も預金の解約も済ませた――そのあとで、故人の机の奥から遺言書が出てくる。この場合、遺言書の内容を知らないまま行われた遺産分割協議は、その効力が争われることになります。結論は事案によって分かれますが、少なくとも、相続人の誰か一人でも「遺言のとおりにしてほしい」と言えば、話し合いは振り出しに戻ります。登記も預金も、やり直しです。ここでかかる時間と費用、そして何よりご家族の間に生まれる不信感は、最初に数千円をかけて検索しておけば防げたものです。
もう一つ、時間の問題があります。相続には期限のある手続きが並んでいます。相続放棄は原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内、相続税の申告は原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。遺言書の有無が分からないまま時間が過ぎると、これらの判断そのものが遅れます。遺言書に「借金は誰が引き受ける」と書かれていることもあれば、思いがけない財産の存在が判明することもあります。早く調べることには、それだけの意味があります。
「たぶん無い」ではなく「調べて、無かった」にしておく
探し方は3ルート――保管されている場所で調べ方が変わる
遺言書の探し方は、「その遺言書がどこに保管されているか」で決まります。そして保管場所は、遺言書の方式によっておおよそ決まってきます。
民法が定める普通方式の遺言は、自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言(民法969条)、秘密証書遺言(民法970条)の三つです。それぞれ、次のように保管されています。
| 遺言書の種類 | 保管されている場所 | 探し方 |
|---|---|---|
| 公正証書遺言 (民法969条) |
原本は作成した公証役場で保管される | 公証役場の遺言検索システムで検索できる(検索自体は無料) |
| 自筆証書遺言 (民法968条) =法務局に預けたもの |
法務局(遺言書保管所)で保管される | 遺言書保管事実証明書の交付請求(1通800円)で有無を確認できる |
| 自筆証書遺言 =法務局に預けていないもの |
自宅、貸金庫、親族や専門家に預けているなどどこにでもあり得る | 公的な検索制度はない。心当たりを地道に探すほかない |
| 秘密証書遺言 (民法970条) |
公証人が関与するが、遺言書そのものは遺言者が保管する | 遺言書自体は自分で探す必要がある |
つまり、公的な検索でヒットするのは、上の二つだけです。これはとても大切な点で、「公証役場でも法務局でも見つからなかった=遺言書は存在しない」とは言い切れません。三つ目の「法務局に預けていない自筆証書遺言」は、どこにも登録されていないからです。
(公正証書遺言)
(保管制度の自筆証書遺言)
(登録されていない遺言)
この3ステップは、どれか一つで済ませず、三つとも行っていただきたいと考えています。とくにSTEP 1とSTEP 2は、費用も手間も限られていますので、必ずセットで実施してください。
公正証書遺言を探す――公証役場の遺言検索システム(検索は無料)
公正証書遺言は、公証人が作成し、その原本が公証役場に保管されます。そして、日本公証人連合会が全国の公証役場をつなぐ遺言登録・検索のしくみを運用しています。一般に「遺言検索システム」と呼ばれているものです。
検索できる範囲
検索の対象とされているのは、平成元年(1989年)1月1日以降に作成された公正証書遺言です。それより前に作成されたものは、システム上の検索に出てこない可能性があります。
また、検索でわかるのは「遺言があるかどうか」と「どこの公証役場に保管されているか」であって、その場で内容まで分かるわけではありません。内容を確認するには、保管している公証役場に対して謄本の請求や閲覧の請求をすることになります。
誰が請求できるか
ここは大事なところです。
- 遺言者の生前……検索を請求できるのは遺言者本人のみとされています。「親が遺言を書いたか気になる」というご相談をいただくことがありますが、親御さまがご存命のうちは、お子さまが調べることはできません。これは遺言の秘密を守るための当然の扱いです。
- 遺言者の死亡後……相続人などの利害関係人が請求できます。相続人のほか、受遺者や遺言執行者なども含まれるのが一般的な取扱いです。
手数料と、どこの公証役場でできるか
全国どこの公証役場からでも請求できる
検索は全国どこの公証役場からでも可能とされています。故人が北海道で遺言を作っていたとしても、九州の公証役場で検索していただければ判明します。ただし、謄本の請求や閲覧については、原本を保管している公証役場での手続きが必要になる場合があります。遠方の場合は、郵送による謄本請求に対応してもらえることもありますので、まずは検索結果が出た段階で、その公証役場に取り扱いをご確認ください。
なお、この謄本交付・閲覧の手数料は、公証人手数料令の改正により令和7年(2025年)10月1日から改定されています。改定前は謄本1枚250円・閲覧200円でしたので、それ以前に書かれた解説記事には古い金額が残っていることがあります。最新の金額は日本公証人連合会の手数料一覧でご確認ください。
法務局に預けられた自筆証書遺言を探す――遺言書保管事実証明書(1通800円)
2020年7月10日に始まった自筆証書遺言書保管制度により、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けておくことができるようになりました。この制度を使って預けられた遺言書があるかどうかは、「遺言書保管事実証明書」の交付請求によって確認します。
遺言書保管事実証明書とは
これは、「自分が関係相続人等に当たる遺言書が、遺言書保管所に保管されているかどうか」を証明してくれる書類です。内容までは分かりません。あるか、ないかを教えてくれる証明書です。
大切なのは、保管されていなかった場合でも、「保管されていない」という内容の証明書が交付されるという点です。つまり、「調べたけれど無かった」ことを、公的な書面として残せるということです。遺産分割協議書を作成するときに、この証明書があると、相続人全員の納得感がまったく違ってきます。
| 証明書の種類 | 分かること | 手数料 |
|---|---|---|
| 遺言書保管事実証明書 | 自分が関係相続人等に当たる遺言書が保管されているか、いないか(内容は分からない) | 1通 800円 |
| 遺言書情報証明書 | 保管されている遺言書の内容を証明するもの。相続登記や預金解約に使える | 1通 1,400円 |
いずれも、法務省が公表している手数料一覧に定められている金額です。請求できる人は、この二つで条文上の建て付けが異なります。遺言書情報証明書を請求できるのは「関係相続人等」とされており(遺言書保管法9条1項)、相続人、受遺者、遺言執行者などが含まれます。これに対し、遺言書保管事実証明書は「何人も」請求することができると定められています(同法10条1項)。ただし、証明されるのは請求した方自身が関係相続人等に当たる遺言書についてですので、無関係な第三者が他人の遺言の有無を調べられるという意味ではありません。「自分が相続人に当たるか微妙だ」という段階でも、事実証明書の請求自体はできるとお考えください。
全国どこの遺言書保管所でも請求できます
遺言書保管事実証明書・遺言書情報証明書の交付請求は、全国のどの遺言書保管所(法務局・地方法務局の本局、支局、出張所のうち遺言書保管所として指定されたところ)でも行うことができます。故人が東京の法務局に預けていたとしても、お近くの遺言書保管所で請求できるということです。郵送による請求も可能とされていますので、遠方の方や、平日に窓口へ行くのが難しい方は、この方法をご検討ください。
遺言書情報証明書(1通1,400円)を取ると何が起きるか――関係遺言書保管通知
遺言書保管事実証明書で「保管されている」と分かったら、次は内容の確認です。ここで請求するのが遺言書情報証明書(1通1,400円)です。この証明書には遺言書の内容(画像情報)が記載されており、相続登記や預貯金の解約といった実際の手続きにそのまま使えます。
ただし、ここには知っておくべき重要な効果があります。
関係遺言書保管通知――他の相続人全員に、法務局から通知が届きます
相続人の一人が遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をしたりすると、遺言書保管官から、他の関係相続人等の全員に対して「関係遺言書保管通知」が送られます。「遺言書を保管しています」という趣旨の通知です。つまり、こっそり内容だけ確認して黙っておく、ということはできません。これは制度の欠陥ではなく、相続人の誰か一人が遺言書の存在を独占してしまうことを防ぐための、意図された設計です。ですから、遺言書情報証明書を請求される前に、他のご家族に「法務局に遺言書が預けられていたので、内容を確認します」と先にお伝えしておくことを強くおすすめします。通知が先に届いてしまうと、それだけで不信感が生まれることがあります。
もう一つの通知――死亡時通知(指定者通知)
保管制度には、遺言者があらかじめ申し出ておくことで、遺言者の死亡が確認されたときに、指定した方へ法務局から通知が届くしくみもあります。いわゆる「指定者通知」(死亡時通知)です。
この運用は、2023年(令和5年)10月2日から拡充されました。それ以降は、通知を受け取る方として3名まで指定でき、指定できる方の範囲も推定相続人に限られない取扱いとなっています。お世話になっている専門家や、相続人ではないけれど知らせたい方を指定できる、ということです。
ただし、これは遺言者が生前に申し出ておいた場合の話です。ご遺族の側から「通知が来ていないから遺言書は無いはずだ」と考えるのは危険です。申し出をしていなければ通知は届きませんので、通知の有無にかかわらず、ご自身で遺言書保管事実証明書を請求して確認してください。
保管されている遺言書は、家庭裁判所の検認が不要です
自筆証書遺言は、通常であれば家庭裁判所の検認を受けなければなりません(民法1004条)。しかし、法務局の保管制度を利用して保管されている遺言書については、検認が不要とされています(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。
→ 家庭裁判所の検認は不要(遺言書保管法11条)
これは相続人にとって、時間の面でとても大きな違いです。検認の申立てをすると、家庭裁判所が期日を指定し、相続人へ通知を出し……と、実際には1か月以上かかることが珍しくありません。保管制度を使っていれば、遺言書情報証明書を取得した時点で、すぐ手続きに入れます。
どこにも登録されていない自筆証書遺言――自宅・貸金庫・専門家をあたる
ここからが、いちばん地道な作業です。自宅で自分で保管していた自筆証書遺言は、公証役場の検索にも、法務局の証明書にも出てきません。心当たりを一つずつ確認していくしかありません。
探すべき場所
- 自宅の書斎・机の引き出し・書棚……とくに、権利証や保険証券、通帳などの重要書類がまとまっている場所。遺言書はたいてい、そこに一緒に置かれています。
- 仏壇・神棚の引き出し、たんすの奥、金庫……家庭用金庫の中は必ず確認してください。
- 本棚の本の間、額縁の裏……「見つけてほしいけれど、生前には見られたくない」という心理から、こうした場所が選ばれることがあります。
- 金融機関の貸金庫……次項で触れます。
- 入院先や施設の私物……最期を病院や施設で過ごされた場合、身の回りの品の中に入っていることがあります。
- 顧問の税理士・弁護士・司法書士・行政書士、保険の担当者……遺言書の作成を相談した専門家が、写しを持っていたり、原本を預かっていたりすることがあります。年賀状や名刺、通帳の引き落とし履歴から、付き合いのあった専門家を洗い出してください。
- 信託銀行……いわゆる「遺言信託」のサービスを利用していた場合、信託銀行が遺言書を保管していることがあります。取引のあった金融機関には照会をかけてください。
- 親しいご親族、同居していないお子さま……「あなたにだけ言っておく」と預けられているケースもあります。
貸金庫は要注意――勝手に開けてはいけません
「遺言書は貸金庫かもしれない」と思い当たる方は多いのですが、ここには手続き上のハードルがあります。金融機関は、契約者が亡くなったことを把握すると貸金庫の利用を停止し、開扉には相続人全員の同意を求めるのが一般的な運用です。中身を確認するだけのつもりでも、簡単には開けられません。
貸金庫の中身を勝手に持ち出すと、相続放棄ができなくなることがあります
仮に鍵と暗証番号を知っていて開けられたとしても、中の現金や貴金属を持ち出すことは絶対に避けてください。相続財産の全部または一部を処分する行為は、法定単純承認(民法921条)に当たると評価されるおそれがあり、その後に相続放棄をしようとしても認められなくなる可能性があります。故人に借金があるかどうかがまだ分からない段階では、とくに危険です。貸金庫の具体的な手続きについては貸金庫の相続手続きの記事で詳しく解説しています。
見つけた遺言書を、その場で開封してはいけません
もし封印のある遺言書を見つけたら、その場で開けないでください。封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いのもとでなければ開封することができないとされています(民法1004条3項)。これに違反して開封したり、検認を経ずに遺言を執行したりした場合、5万円以下の過料に処せられるとされています(民法1005条)。
なお、うっかり開封してしまったからといって、遺言書そのものが無効になるわけではありません。ここは誤解が多いところです。無効にはなりませんが、「中身を書き換えたのではないか」と他の相続人から疑われる材料にはなります。見つけたら、封を切らずに、そのまま家庭裁判所へ検認を申し立ててください。
見つかったとき、見つからなかったときの次の一手
見つかった場合
- 検認が必要かどうかを判断する 公正証書遺言と、法務局の保管制度を利用していた自筆証書遺言は検認が不要です。それ以外の自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所での検認が必要になります。封印のあるものは開封せずに持参してください。
- 遺言書が複数見つかったときは、日付を確認する 遺言はいつでも撤回でき、前の遺言と内容が抵触する部分は、後の遺言で撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。したがって、原則として日付が新しいものが優先します。ただし抵触しない部分は前の遺言も生きますので、全体の整理が必要です。詳しくは遺言書の撤回の記事をご覧ください。
- 遺言執行者が指定されているか確認する 指定があれば、その方が就任するかどうかを判断し、就任後は執行者が手続きを進めます。遺言執行者の記事もご参照ください。
- 遺留分に配慮した内容かどうかを検討する 遺言の内容が特定の相続人に偏っている場合、他の相続人から遺留分侵害額の請求を受ける可能性があります。請求には期間の制限がありますので、早めの検討が必要です。
- 内容に疑問があるときは、専門家に相談する 書かれた当時に判断能力があったかどうか(遺言能力)、形式が整っているかどうかは、専門家の目で確認する価値があります。
見つからなかった場合
三つのルートをすべてあたって見つからなければ、遺言書はないものとして遺産分割協議に進みます。このとき、次の二点をおすすめしています。
- 遺言書保管事実証明書(「保管されていない」旨のもの)を取っておく……調べたという事実が、書面として残ります。
- 遺産分割協議書に、後日遺言書が発見された場合の取扱いを書いておく……たとえば「後日、本協議書に記載のない遺産または遺言書が発見された場合の取扱いについては、相続人全員で別途協議するものとする」といった条項です。これがあるだけで、万一のときの混乱がかなり抑えられます。
※ 以下は、実際のご相談を踏まえて構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。
「協議書に全員が押した三日後に、公正証書遺言が出てきました」
ご相談にいらしたのは、60代の長女の方でした。半年前にお父さまを亡くされ、相続人はご長女とご次男、ご三男の3人。お母さまはすでに他界されていました。
財産は自宅の土地建物と、預貯金がおよそ2,000万円。ご兄弟の関係は良好で、話し合いは順調に進みました。自宅はご長女が引き継ぎ、預貯金はご次男とご三男で分ける――そういう内容で遺産分割協議書を作成し、3人全員が実印を押し、印鑑登録証明書も添えました。
ところが、その三日後です。ご長女がお父さまの書斎を片づけていたところ、金庫の書類の間から、公正証書遺言の正本が出てきたのです。日付は5年前。内容は、「自宅の土地建物は三男に相続させる。預貯金は長女と次男で2分の1ずつ」というものでした。協議で決めた内容と、まるで逆だったのです。
「もう協議書に判を押してしまいました。どうすればよいのでしょうか」――ご長女は、そう仰いました。
まずお伝えしたのは、相続人全員が遺言の内容を知ったうえで、それでもなお協議の内容でよいと合意するのであれば、その合意が尊重される余地はあるということでした。遺言と異なる遺産分割という論点です。ただし、これは全員が納得している場合の話です。実際、ご三男は「父の意思のとおりにしてほしい」と主張されました。そうなると、先の協議は前提を欠いたものとして、やり直しを検討せざるを得ません。
この件で残念だったのは、公証役場に照会していれば、遺言書があること自体は分かったはずだということです。戸籍などの書類をそろえる手間はかかりますが、検索自体には手数料もかかりません。お父さまが公証役場で遺言を作られていたのは事実で、しかもご遺族の誰も、その事実をご存じなかったのです。「うちの父に限って、そんな面倒なことはしないと思っていました」――ご長女のこの一言が、この事案のすべてを表しています。
結果として、この件は遺言の内容を基本としつつ、ご長女が自宅に住み続けられるよう調整する方向で、あらためて全員での話し合いをやり直すことになりました。時間にして、さらに半年ほどかかりました。
「無かったことを、確認してください」
ご相談のときに私が必ずお願いしているのは、「遺言書は無いと思います、ではなく、無いことを確認してきてください」ということです。冷たく聞こえるかもしれませんが、これには理由があります。遺言書を書いたことを、ご家族に一言も伝えずに亡くなる方が、本当に多いのです。
お気持ちは、よく分かります。遺言書を書いたと言えば、「何を書いたのか」と聞かれます。誰にいくら、という話になれば、その時点で家族の間に空気が生まれます。それが嫌で、黙って作られる。「自分が死んだあとに見つかればよい」――そう考えて、公証役場で立派な公正証書遺言を作り、正本を金庫にしまって、誰にも言わずに逝かれるのです。ご本人にしてみれば、きちんと備えたつもりです。ところが実際には、その遺言書が見つからないまま遺産分割が進んでしまうことがあります。これほど惜しいことはありません。
ですから、探す側の私たちが動くしかないのです。公証役場での検索は無料です。全国どこの公証役場からでもできます。法務局への照会も1通800円です。戸籍などの必要書類さえそろえば、この二つの窓口手続き自体は半日程度で済みます。それで「無かった」と分かれば、安心して遺産分割協議に進めます。「あった」と分かれば、そこから正しい道筋に乗れます。どちらに転んでも、調べておく価値があります。
そして、これから遺言書を書かれる方には、あわせてお願いがあります。「遺言書を書いた」という事実だけは、どうかご家族の誰かにお伝えください。内容までは言わなくて構いません。「公証役場で作った」「法務局に預けた」――その一言があるだけで、ご遺族が探し回る時間はなくなります。法務局の保管制度をお使いであれば、死亡時に通知が届く指定者通知の申し出をしておくのも確実な方法です。当センターでは、遺言書の有無の調査から、見つかったあとの検認・執行のご支援まで承っております。「父が遺言を書いていたか、調べられますか」――そのご相談から、どうぞお気軽にお電話ください。
遺言書の探し方でよくある7つの落とし穴
当センターへのご相談の中で見えてきた、遺言書の調査をめぐるよくある誤解と落とし穴を7つに整理いたしました。
- 「たぶん書いていない」で調べずに遺産分割協議を始めてしまう 遺言書を作ったことをご家族に伝えないまま亡くなる方は少なくありません。協議が終わったあとで遺言書が出てくると、話し合いはやり直しになるおそれがあります。公証役場での検索は無料ですので、必ず先に確認してください。
- 公証役場で調べれば、すべての遺言書が分かると思っている 公証役場の検索で分かるのは公正証書遺言です。法務局に預けられた自筆証書遺言は法務局への照会が必要ですし、自宅で保管されていた自筆証書遺言はどちらにも出てきません。三つのルートをすべて確認する必要があります。
- 親が生きているうちに、子が公証役場で調べようとする 遺言者の生前に検索を請求できるのは遺言者本人のみとされています。ご親族が代わりに調べることはできません。ご心配であれば、ご本人に「遺言を書いたかどうかだけ教えてほしい」とお伝えいただくのが確実です。
- 遺言書情報証明書を、他の相続人に黙って請求してしまう 遺言書情報証明書の交付や閲覧をすると、遺言書保管官から他の関係相続人等の全員へ関係遺言書保管通知が送られます。事前にご家族へお伝えしておかないと、通知が届いた側に不信感が生まれることがあります。
- 封印のある遺言書を、その場で開けてしまう 封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いのもとでなければ開封できないとされています(民法1004条3項)。違反すると5万円以下の過料に処せられるとされています(民法1005条)。開封しても遺言自体が無効になるわけではありませんが、改ざんを疑われる材料になります。
- 貸金庫にあるかもしれないと考えて、勝手に開けてしまう 貸金庫の開扉には、金融機関の運用上、相続人全員の同意を求められるのが一般的です。中身を持ち出す行為は法定単純承認(民法921条)に当たると評価されるおそれがあり、その後の相続放棄ができなくなる可能性があります。
- 「無かった」ことを書面に残さないまま先へ進む 遺言書保管事実証明書は、保管されていない場合でもその旨の証明書が交付されます。調べたという事実を書面で残しておくと、相続人全員の納得感が違います。遺産分割協議書にも、後日遺言書が発見された場合の取扱いを一文入れておくことをおすすめします。
この記事のまとめ
- 遺産分割協議を始める前に、遺言書の有無を確認する。協議後に遺言書が発見されると、話し合いをやり直すことになりかねない。
- 探し方は3ルート。①公証役場の遺言検索システム(公正証書遺言)、②法務局の遺言書保管事実証明書(保管制度を利用した自筆証書遺言)、③自宅・貸金庫・専門家(どこにも登録されていない自筆証書遺言)。
- 公証役場の遺言検索システムで検索できるのは、平成元年(1989年)1月1日以降に作成された公正証書遺言とされている。
- 検索自体の手数料はかからず、全国どこの公証役場からでも請求できる。謄本の交付を受けるときは1枚300円、閲覧は1回250円の手数料がかかる(令和7年10月1日施行の公証人手数料令の改正による。改定前は謄本1枚250円・閲覧1回200円)。
- 遺言者の生前に検索を請求できるのは遺言者本人のみ。死亡後は相続人などの利害関係人が請求できる。
- 法務局に預けられた自筆証書遺言の有無は、遺言書保管事実証明書(1通800円)で確認する。保管されていない場合も、その旨の証明書が交付される。
- 遺言書保管事実証明書は「何人も」請求することができる(遺言書保管法10条1項)。ただし証明されるのは、請求者自身が関係相続人等に当たる遺言書についてである。
- 内容を確認し、相続登記や預金解約に使うには、遺言書情報証明書(1通1,400円)を請求する。こちらを請求できるのは関係相続人等に限られ(同法9条1項)、全国どの遺言書保管所でも請求できる。
- 遺言書情報証明書の交付や閲覧をすると、遺言書保管官から他の関係相続人等の全員へ関係遺言書保管通知が送られる。事前に家族へ伝えておくのが望ましい。
- 保管制度の指定者通知(死亡時通知)は、2023年(令和5年)10月2日から拡充され、通知先を3名まで指定でき、推定相続人に限られない取扱いとなっている。ただし遺言者が生前に申し出ていた場合に限られる。
- 法務局に保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が不要とされている(遺言書保管法11条)。公正証書遺言も検認不要(民法1004条2項)。
- 自宅で保管されていた自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所の検認が必要。封印のあるものは相続人等の立会いのもとでなければ開封できず(民法1004条3項)、違反すると5万円以下の過料に処せられるとされている(民法1005条)。
- 貸金庫の開扉は相続人全員の同意を求められるのが一般的。中身を持ち出すと法定単純承認(民法921条)に当たると評価されるおそれがある。
- 遺言書が複数あるときは、前の遺言と抵触する部分は後の遺言で撤回したものとみなされる(民法1023条1項)ため、原則として日付の新しいものが優先する。
- 見つからなかった場合は、遺言書保管事実証明書を保存し、遺産分割協議書に後日発見された場合の取扱いを定めておくとよい。
参考文献(一次情報)
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度 手数料一覧」(遺言書保管事実証明書 1通800円/遺言書情報証明書 1通1,400円) https://www.moj.go.jp/MINJI/09.html
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度について(制度の概要・通知)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00010.html
- 日本公証人連合会「公証事務|遺言」 https://www.koshonin.gr.jp/business/b01
- 日本公証人連合会「公証人手数料」(令和7年政令第263号による改正・令和7年10月1日施行) https://www.koshonin.gr.jp/pdf/commission.pdf
- 日本公証人連合会「令和7年10月1日から公証人手数料が改正されます」 https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/20250905.html
- 日本公証人連合会「公証役場一覧」 https://www.koshonin.gr.jp/list
- e-Gov法令検索 民法(第968条・第969条・第970条・第1004条・第1005条・第1023条) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索 法務局における遺言書の保管等に関する法律(第9条・第10条・第11条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000073
- e-Gov法令検索 公証人手数料令(第40条・第41条ほか) https://laws.e-gov.go.jp/law/405CO0000000224
- 裁判所「遺言書の検認」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
「父が遺言書を書いていたか、調べられますか」――ご相談ください
公証役場での検索、法務局への照会、ご自宅の探索の進め方まで。
見つかったあとの検認・執行のご支援も含め、専門家と連携してお手伝いいたします。