「父の本の権利は誰のものか」――著作権は二つに分かれる

まず、出発点を確かめておきます。

著作権は、登録しなくても生まれています

ご相談の場でよくうかがうのが、「父は本を出しただけで、著作権の登録などしておりません。それでも権利はあるのでしょうか」というお尋ねです。あります。

著作権法17条2項は、著作者人格権および著作権の享有には「いかなる方式の履行をも要しない」と定めています。登録も、届出も、マルシー表示も、権利の発生には必要ありません。これを無方式主義と呼びます。創作したその瞬間に、権利は生まれているのです。

ですから、「登録していないから相続財産ではない」ということはありません。亡くなられた方が創作された著作物には、原則としてすでに著作権が生じており、それは相続の対象になります。

[著作物にあたるもの]
著作権法2条1項1号は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。10条1項は例示として、小説・脚本・論文・講演、音楽、舞踊、絵画・版画・彫刻、建築、地図・図形、映画、写真、プログラムを挙げています。プロの作品に限られません。ご自身で撮られた写真、書かれた随筆、作られた曲、書かれたブログの記事――創作的な表現であれば、著作物になり得ます。

「著作者の権利」は、二階建てになっています

ここが、この記事のいちばん大切なところです。著作権法17条1項は、著作者は「著作者人格権」と「著作権」を享有すると定めています。ひとつの言葉のように使われる「著作権」ですが、法律上は二つの系統に分かれているのです。

著作者の権利(17条1項) 著作者人格権 公表権(18条) 氏名表示権(19条) 同一性保持権(20条) 相続されません(59条) 著作権(財産権) 複製権(21条)ほか 公衆送信権(23条) 翻訳・翻案権(27条)ほか 相続されます(民法896条)
著作者の権利の二階建て構造(著作権法17条1項、59条、民法896条)
著作権(財産権)= 相続される
著作者人格権 = 相続されない
この区別が、著作権の相続を考えるうえでの土台になります

なぜこのように分かれているのか。財産権としての著作権は、お金に換えられる権利です。出版を許し、印税を受け取り、映像化を認める――これらは財産の管理であり、相続人が引き継いでも不都合はありません。一方、著作者人格権は「その人が、その作品にどう向き合ったか」という、人としての思いに関わる権利です。他人が代わりに行使することを、法は想定していないのです。

相続されるのは「著作権(財産権)」――支分権という権利の束

まず、相続される側から見てまいります。

著作権は、ひとつの権利ではなく「束」です

著作権(財産権)は、複数の権利の集まりです。これらを支分権と呼びます。著作権法21条から28条までに並んでいます。

支分権条文どんな行為をコントロールできるか
複製権21条印刷、写真撮影、複写、録音・録画、コピーなど、著作物を有形的に再製すること
上演権・演奏権22条公衆に直接見せ、聞かせることを目的として上演・演奏すること
上映権22条の2公衆に向けてスクリーン等に映写すること
公衆送信権等23条放送・有線放送・インターネット送信のほか、送信可能化(アップロード)すること
口述権24条言語の著作物を公に朗読等すること
展示権25条美術の著作物・未発行の写真の著作物の原作品を公に展示すること
頒布権26条映画の著作物の複製物を頒布すること
譲渡権26条の2著作物の原作品または複製物を公衆に譲渡すること
貸与権26条の3著作物の複製物を公衆に貸与すること
翻訳権・翻案権等27条翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他翻案すること
二次的著作物の利用に関する原著作者の権利28条自分の著作物を原作とする二次的著作物の利用について、二次的著作物の著作者と同じ権利をもつ

これらすべてが、まとめて相続の対象になります。根拠は民法896条――「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」という原則です。著作権法に「相続される」と書いてあるわけではなく、民法の原則がそのまま働いているとご理解ください。

印税を受け取る権利、出版契約上の地位も

著作権そのものだけではありません。出版社との間の出版契約上の地位や、すでに発生していて未払いの印税を受け取る権利も、原則として相続の対象になります。

実務では、次のように整理して考えます。

対象扱い
著作権(財産権)そのもの 相続財産。相続税の対象になり、評価が必要(後述の財産評価基本通達148)
亡くなった時点で未収の印税 債権として相続財産に計上します。著作権本体の評価とは別に拾う必要があります
亡くなった後に発生する印税 著作権を承継した相続人が受け取ります。所得税の課税関係が生じます
出版契約上の地位 原則として承継されます。ただし契約書に終了事由等の定めがある場合があるため、契約書の確認が必要です

「原稿を相続した」=「著作権を相続した」ではありません

ここは、実務でとくに誤解の多いところです。

モノの所有権と、著作権は別のものです

ご相談で「父の原画を全部わたしが引き取りましたから、著作権もわたしのものですね」とおっしゃる方がおられます。これは違います。
原稿用紙、キャンバス、フィルム、原盤といった「モノ」の所有権と、そこに表現された著作物についての「著作権」は、別々の権利です。絵を1枚買っても、その絵を複製して販売する権利まで買ったことにはならない――と考えていただくと、わかりやすいと思います。
したがって、遺産分割で「原画は長男、著作権は長女」という分け方も、理屈のうえでは成り立ちます。逆に、「原画をもらったのだから著作権も自分のもの」と思い込んだまま複製をはじめてしまうと、他の相続人との間で争いになります。遺産分割協議書には、モノと権利を分けて書いておくことをおすすめしております。協議書の作り方は遺産分割協議書の書き方もご覧ください。

[著作隣接権も相続されます]
創作者ではなく、著作物を「伝える」立場の人にも権利があります。実演家(俳優・歌手・演奏家)、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者がもつ著作隣接権です(著作権法89条以下)。これも財産権として相続の対象になります。なお実演家にも、実演家人格権(氏名表示権・同一性保持権)があり、こちらは101条の2により実演家の一身に専属するとされています。「創作していないから権利はない」とは限らない――ご家族が演奏や録音のお仕事をされていた場合は、この点もご確認ください。

相続されないのは「著作者人格権」――著作権法59条の一身専属性

次に、相続されない側です。

条文は、たった一文です

著作権法59条(著作者人格権の一身専属性)

「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」
――この一文が、著作権の相続を考えるうえでの分岐点になります。「一身に専属する」とは、その人だけのものであって、他人に移らないという意味です。譲渡できないのはもちろん、相続によっても移転しません。著作者が亡くなった時点で、著作者人格権そのものは消滅すると解されています。

著作者人格権の中身――3つの権利

権利条文内容
公表権 18条 まだ公表されていない著作物を公表するかどうか、いつ・どのように公表するかを決める権利。未発表の原稿や日記を世に出すかどうかは、本来この権利の問題です
氏名表示権 19条 著作物に著作者名を表示するかどうか、実名か変名(ペンネーム)かを決める権利
同一性保持権 20条 著作物およびその題号(タイトル)について、意に反する改変を受けない権利。無断で書き換えられない、という権利です

お気づきかと思いますが、これらはいずれも「作者の思い」に関わる権利です。どの名前で世に出すか。タイトルを変えられたくない。この原稿はまだ人に見せたくない。――こうした判断は、その人にしかできません。だからこそ法は、他人に渡らないと決めているのです。

著作者人格権は
相続されない(59条)
けれども
保護されなくなるわけではない(60条・116条)
ここを続けて理解しておくことが大切です

それでも故人の名誉は守られる――60条と116条、遺族の順位

「相続されないのなら、父の作品が勝手に書き換えられても、誰も文句を言えないのですか」――当然のご懸念です。そうはなりません。

60条――著作者の死後における人格的利益の保護

著作権法60条は、著作物を公衆に提供し、または提示する者は、著作者が存しなくなった後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないと定めています。

ただし、その行為の性質・程度、社会的事情の変動その他により、その行為が著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでないという但書きが置かれています。時代とともに認められる範囲は変わり得る、ということです。

[60条の位置づけ]
60条は、「著作者人格権が相続される」という条文ではありません。そうではなく、「著作者がもう存在しなくても、その人が生きていたら人格権侵害になるような行為はしてはならない」という禁止の規定です。権利が誰かに移るのではなく、行為のほうが禁じられている――この違いは、条文を読むうえで大切なところです。なお、著作権法にはこの60条に違反した者に対する罰則も置かれています。罰則の内容は改正されることがありますので、必要な場合は最新の条文をご確認ください。

116条――誰が請求できるのか

では、60条に違反する行為があったとき、誰が止めることができるのか。それを定めるのが著作権法116条です。

同条は、著作者の死後においては、その遺族が、60条の規定に違反する行為をする者等に対し112条の請求(差止請求)や、115条の名誉回復等の措置の請求をすることができる旨を定めています。

116条の「遺族」の順位

116条にいう遺族は、次の順序とされています。
① 配偶者 → ② 子 → ③ 父母 → ④ 孫 → ⑤ 祖父母 → ⑥ 兄弟姉妹
法定相続人の順位とは、並びが違います。民法上の相続では兄弟姉妹は第3順位で、孫は代襲相続人として登場します。ところが116条では、孫と祖父母が明文で列挙され、兄弟姉妹は最後です。「相続人だから当然に請求できる」とは限らず、逆に「相続人でなくても請求できる」場合がある――ここは混同しやすい点ですのでご注意ください。
また116条には、著作者が遺言により指定した者が請求できるものとする定めも置かれています。ご自身の作品の死後の扱いに強いお考えがある方は、遺言で指定しておくという方法があるということです。法定相続人の順位そのものについては法定相続人とは誰かをご覧ください。

著作権法116条――請求できる遺族の順位 ① 配偶者 ② 子 ③ 父母 ④ 孫 ⑤ 祖父母 ⑥ 兄弟姉妹 ※民法の法定相続人の順位(配偶者+子/直系尊属/兄弟姉妹)とは並びが異なります この請求権は「相続」したものではなく、法が遺族に直接与えた固有の権利です 著作者が遺言で請求できる者を指定しておくこともできます
著作権法116条の遺族の順位(e-Gov法令検索で条文をご確認ください)

実務での意味――「相続人ではないが、止められる人」がいる

この構造は、実務では次のような形で現れます。

たとえば、亡くなられた作家に配偶者とお子さまがいらっしゃる場合。著作権(財産権)を相続するのは配偶者とお子さまです。ここまでは民法どおりです。ところが、116条にもとづいて差止めを請求できるのも、まず配偶者、次にお子さまです。多くの場合、両者は重なります。

ところが、お子さまがいらっしゃらず、ご両親も亡くなられ、遺言ですべての著作権を第三者に遺贈した場合はどうでしょうか。著作権をもっているのは第三者。けれども、116条にもとづいて故人の人格的利益を守れるのは、配偶者や兄弟姉妹といった遺族です。「権利をもつ人」と「名誉を守れる人」が分かれるのです。

だからこそ、遺言を作るときには、著作権を誰に渡すかだけでなく、死後の扱いをどうしてほしいかまで書き残しておく意味があります。遺言の作り方は公正証書遺言の作り方をご覧ください。

保護期間は著作者の死後70年――51条2項と57条の起算

相続した著作権は、いつまで続くのでしょうか。

原則は「著作者の死後70年」

著作権法51条1項は、著作権の存続期間は著作物の創作の時に始まると定めます。そして51条2項が、著作者の死後70年を経過するまでの間、存続すると定めています。

著作権の保護期間
= 著作者の死後 70年
著作権法51条2項(原則)

起算は「死亡した年の翌年1月1日」から

ここが、意外に間違えやすいところです。著作権法57条は、保護期間の計算について、著作者が死亡した日等の属する年の翌年から起算すると定めています。

つまり、亡くなられた日から70年を数えるのではありません。実務上は、亡くなられた年の翌年1月1日から70年と考えます。

[計算の例]
2026年6月に亡くなられた場合――起算日は2027年1月1日。そこから70年ですので、保護期間は2096年12月31日までということになります。「命日から70年後の命日まで」ではありません。年末で切りそろえる、と覚えていただくとわかりやすいと思います。

50年から70年に延びたのは、いつからか

かつて日本の保護期間は著作者の死後50年でした。これが70年に延長されたのは、いわゆるTPP整備法による著作権法改正によるもので、施行日は2018年(平成30年)12月30日です。TPP11協定が日本について効力を生じた日と同じ日です。

「2019年1月1日から」という説明を見かけますが、正確には2018年12月30日です

インターネット上には「2019年1月1日から70年になった」と書かれた解説が少なくありません。正確な施行日は2018年12月30日です。
そして、もうひとつ大切な点があります。施行の時点ですでに保護期間が満了していた著作物の著作権は、この改正によって復活することはありません。改正法には、その旨の経過措置が置かれています。「すでに自由に使えるようになっていたものが、また権利の対象に戻った」ということはないとご理解ください。個々の作品について保護期間内かどうかを判断される場合は、必ず文化庁の解説とe-Gov法令検索の現行条文でご確認ください。

原則とは違う数え方をする著作物

「死後70年」は原則であって、著作物の種類によっては別の数え方をします。

著作物の種類保護期間条文
原則著作者の死後70年51条2項
無名・変名の著作物原則として公表後70年(著作者が明らかになった場合等の例外あり)52条
団体名義の著作物原則として公表後70年(創作後70年以内に公表されなかったときは創作後70年)53条
映画の著作物原則として公表後70年(創作後70年以内に公表されなかったときは創作後70年)54条

ペンネームで書かれていた場合や、社史・団体の刊行物のような団体名義の著作物では、数え方そのものが変わります。ご家族の作品がどれにあたるかで結論が変わりますので、実際の判断は文化庁の解説をご確認いただくか、専門家にご相談ください。

相続人がいないとき――国庫に帰属せず「消滅」します

ここは、他の財産と大きく異なる点です。

著作権法62条1項1号――相続人不存在の場合、著作権は消滅します

ふつうの財産は、相続人がいないまま手続が進むと、最終的に国庫に帰属します(相続人がいないとき――相続財産清算人・特別縁故者・国庫帰属のしくみをご覧ください)。
ところが著作権は違います。著作権法62条1項1号は、著作権者が死亡した場合において、その著作権が民法の規定により国庫に帰属すべきこととなるときは、著作権は消滅するという趣旨を定めています。国が著作権者になるのではなく、権利そのものがなくなるのです。
これは、「国が権利を握って利用を制限するより、社会が自由に使えるようにしたほうがよい」という考え方によるものと説明されています。おひとりさまで創作をなさっている方にとっては、知っておく意味のある条文です。作品を特定の方や団体に受け継いでほしいというお考えがあるなら、遺言でその旨を定めておく必要があります。おひとりさまの相続もあわせてご覧ください。

共同相続すると「共有著作権」になる――65条の重さ

ここからは、実務でもっとも問題が起きやすいところに入ります。

相続人が複数いると、著作権は共有になります

お父さまが亡くなられ、相続人がお母さまとご兄妹の3人だったとします。遺言がなく、遺産分割もまだのあいだ、著作権は3人の共有ということになります。そして遺産分割で誰か一人に決めなければ、共有のままです。

この共有著作権について、著作権法65条が特別な規定を置いています。

条項内容
65条1項 共有著作権については、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、または質権の目的とすることができない
65条2項 共有著作権は、共有者全員の合意によらなければ、行使することができない
65条3項 各共有者は、正当な理由がない限り、1項の同意を拒み、または2項の合意の成立を妨げることができない
持分を売るには 他の共有者全員の同意(65条1項)
権利を使うには 共有者全員の合意(65条2項)
ただし、正当な理由がなければ拒めません(65条3項)

「行使できない」とは、どういうことか

65条2項の「行使」とは、著作権を使うこと・使わせることを指すと解されています。具体的には、次のような場面です。

  1. 出版社に重版を許諾する 著作物の複製を許諾する行為です。相続人全員の合意が必要になります。
  2. 作品を電子書籍として配信する 公衆送信権の行使にあたります。一人でも反対すれば、進められません。
  3. 映像化・翻訳を許諾する 翻案権・翻訳権の行使です。やはり全員の合意が必要です。
  4. 著作権そのものを第三者に売る 持分の譲渡には他の共有者の同意(65条1項)が要ります。

「連絡がつかない相続人が一人いる」だけで、止まります

これが、共有著作権のいちばん怖いところです。相続人が海外にいらっしゃる。長年、音信不通の方がいる。認知症で判断能力が低下されている。――こうした事情が一つあるだけで、出版も配信も許諾も、前に進まなくなります。
しかも、時間が経つほど事態は悪くなります。共有者がまた亡くなれば、その方の相続人が新たな共有者として加わります。二次相続、三次相続と重なるうちに、共有者が十数人になっている――不動産で起きるのと同じことが、著作権でも起きるのです。この構造は不動産の共有相続のリスクと解消方法や数次相続と、まったく同じ形をしています。
65条3項は「正当な理由がない限り拒めない」と定めていますが、これは「拒む人がいたら裁判で争える」という話であって、手間も時間もかかります。そもそも連絡がつかない相手には、合意を求めることすらできません。

共有を避けるための、三つの方法

  1. 遺言で、著作権を一人に集中させておく いちばん確実な方法です。「著作権及び著作隣接権の全部を長女○○に相続させる」と特定して書いておきます。財産の一部だけを特定の人に渡す遺言については特定財産承継遺言もご覧ください。
  2. 遺産分割協議で、一人が取得する 遺言がない場合は、遺産分割の段階で著作権は一人が取得すると決めます。他の相続人には、代償金を支払う(代償分割)などの形で調整します。分割方法は遺産分割の4つの方法――現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の違いと選び方をご覧ください。
  3. 管理を一本化するしくみを検討する 音楽であれば著作権等管理事業者に管理を委託する、法人を作ってそこに集約する、といった方法が用いられることがあります。ただし、どの方法が適切かは作品の種類・収益の規模・ご家族の状況によって大きく異なります。実行にあたっては、著作権に詳しい弁護士等にご相談ください。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「重版のお話をいただいたのですが、誰が決めるのでしょうか」――Cさまのご相談

Cさま(60代・女性)がお越しになったのは、お父さまが亡くなられて半年ほど経ったころでした。お父さまは長年、地域の歴史を調べて郷土史の本を3冊出版されていた方です。

「出版社さんから、重版をしたいというお話をいただきました。ありがたいことなのですが、誰がお返事をすればよいのかわからず……」――そうおっしゃいました。

相続人はお母さま、Cさま、そして弟さまの3人。遺言はありません。この時点で、お父さまの著作権は3人の共有です。著作権法65条2項により、重版の許諾には3人全員の合意が必要――まず、この点をご説明しました。

Cさまは「それでしたら、弟に話せば済みますね」とおっしゃったのですが、ここでもうひとつうかがいました。「弟さまとは、ご連絡がつきますか」と。弟さまは10年以上前から海外にお住まいで、年に一度、年賀のやりとりがある程度とのことでした。

さらに、出版社からのご提案には、もうひとつ気になる点がありました。「タイトルを、もう少し現代風に変えてはどうか」というご提案です。

ここは、慎重にご説明しました。題号(タイトル)の改変は、著作者人格権のうち同一性保持権(20条)に関わる問題です。そして著作者人格権は相続されません(59条)から、「相続人が同意すればよい」という単純な話にはなりません。著作権法60条は、著作者が存しなくなった後も、生きていたら人格権侵害になるような行為をしてはならないと定めているからです。ご遺族としてお父さまの意向をどう考えるか――そこから出発する問題だとお伝えしました。

Cさまは、しばらく黙って考えておられました。そして「父は、あのタイトルをずいぶん悩んで決めていました」とおっしゃいました。

その後、ご家族で話し合われ、次のように進められました。①遺産分割協議で、著作権はお母さまが取得する(弟さまには、他の財産で調整)。②タイトルは変更せず、帯の文言で工夫していただくよう出版社に相談する。③あわせて、文化庁への移転登録を検討する。

弟さまへのご連絡は、Cさまが根気よく手紙とメールを重ねられ、3か月ほどかかってご同意をいただけました。「一人でも欠けたら進まない、と最初に聞いていたので、あきらめずに済みました」とおっしゃっていたのが印象的でした。

――もし、お父さまが遺言で「著作権は妻に相続させる」と一文お書きになっていたら、この3か月は必要ありませんでした。創作をなさる方の遺言には、著作権の行き先を書いておく。私どもが強く申し上げているのは、この一点です。

手続と評価――文化庁への移転登録(77条)と財産評価基本通達148

最後に、実際に何をするかという話です。

相続による移転も、登録できます(令和元年7月1日から)

先に申し上げたとおり、著作権は登録しなくても発生します(17条2項)。登録は権利発生の要件ではありません。では、なぜ登録するのか。第三者に対抗するためです。

著作権法77条は、著作権の移転等は、登録しなければ第三者に対抗することができないという趣旨を定めています。

[令和元年7月1日からの取扱い]
従来、著作権の移転登録は売買などの特定承継が中心で、相続その他の一般承継による移転は登録の対象とされていませんでした。これが令和元年(2019年)7月1日から、相続その他の一般承継による移転についても登録の対象となりました。背景には、民法899条の2――相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないという規定の新設があります。「遺言で著作権をもらったのに、対抗できる手段がない」という状態を解消するための整備だとご理解ください。登録の手続・要否については、必ず文化庁の最新の案内をご確認ください。

実務上の判断としては、①著作権が収益を生んでいる、②相続人が複数いて後日の紛争が心配、③第三者に譲渡する予定がある――といった場合には、登録を検討する価値があります。一方、収益もなく、相続人も一人という場合には、登録なさらないご家庭も多いのが実情です。

相続税の評価――財産評価基本通達148

著作権も財産ですから、相続税の課税対象になります。評価方法を定めているのは財産評価基本通達148(著作権の評価)です。

著作権の価額
= 年平均印税収入の額 × 0.5 × 評価倍率
財産評価基本通達148
用語内容
年平均印税収入の額 原則として、課税時期の属する年の前年以前3年間の印税収入の額の年平均額
0.5 将来の印税収入のうち、著作権に帰属する部分を見積もるための割合
評価倍率 将来印税収入があると認められる期間に応ずる、基準年利率による複利年金現価率

「印税収入がなければゼロ」と決めつけないでください

この算式を見て、「父の本はもう印税が入っていないから、評価はゼロですね」とおっしゃる方がおられます。結論としてそうなる場合もありますが、ご自身で断定なさるのは危険です。
まず、著作権本体の評価とは別に、亡くなった時点で未収になっている印税は、債権として相続財産に計上する必要があります。「著作権はゼロ」と「未収印税もゼロ」は、別の話です。
また、亡くなられたことをきっかけに作品が注目され、その後に収入が生じるということも現実に起こります。評価の要否・方法は個別性が高い領域ですので、印税収入の実績がある著作権をお持ちの場合は、必ず税理士にご相談ください。財産の種類ごとの評価の全体像はゴルフ会員権・貸付金・車・骨董品の相続税評価――「その他の財産」の評価方法を財産評価基本通達で完全ガイドもご覧ください。

相続が起きたら、まず何をするか

STEP 1作品と契約書を洗い出す
STEP 2印税の入金口座を確認する
STEP 3著作権の帰属を分割で決める
STEP 4必要に応じて移転登録・評価

とくにSTEP 1とSTEP 2は、ご家族にしかできません。出版契約書、許諾契約書、著作権等管理事業者からの通知、印税の振込がある通帳――こうしたものが、著作権の存在を教えてくれる手がかりになります。財産全体の探し方は相続財産の調べ方を、パソコンやクラウドの中にある作品についてはデジタル遺産とデジタル終活とは、ネット口座・暗号資産・SNSの相続と備えを完全ガイドをご覧ください。

― 私たちから一言 ―

作品は「財産」であると同時に、その方が生きた証でもあります

著作権のご相談は、他の財産のご相談と、少し空気が違います。預金や不動産のお話をしているときとは、ご家族の表情が変わるのです。それは当然のことだと思います。作品は、その方が何を考え、何を大切にして生きてこられたかが、そのまま形になったものだからです。

ですから私は、著作権のご相談では、まず作品のお話をうかがうようにしております。どんな本だったのか。どういうきっかけで書きはじめられたのか。ご家族はどうご覧になっていたのか。権利の話は、そのあとで十分に間に合います。

そのうえで、専門家として申し上げたいことが二つあります。

ひとつは、著作権を共有のままにしないでいただきたいということです。本文で申し上げたとおり、著作権法65条2項により、共有著作権の行使には共有者全員の合意が必要です。不動産の共有と同じ構造でありながら、著作権のほうがずっと見えにくい――ここが厄介なところです。土地なら固定資産税の通知が毎年届きますから、共有であることを忘れずにいられます。ところが著作権には、そうした年に一度の合図がありません。気づいたときには、共有者が誰なのかもわからなくなっている――そういうご相談を、実際にお受けしたことがあります。

もうひとつは、創作をなさっている方には、ぜひ遺言を書いていただきたいということです。「著作権及び著作隣接権の全部を○○に相続させる」――この一文があるかないかで、ご遺族の負担はまるで違います。さらに、著作権法116条により、著作者は遺言で、死後の人格的利益を守る請求ができる者を指定しておくこともできます。作品の扱いについてお考えがあるなら、そのお考えごと、書き残していただきたいのです。

そして、おひとりさまで創作をなさっている方に、ひとつだけ。著作権法62条1項1号により、相続人がいないまま国庫に帰属すべきこととなるときは、著作権は消滅します。国が引き継ぐのではなく、権利そのものがなくなるのです。「あの人の作品を、これからも残していきたい」と願ってくださる方がいらっしゃるなら、その方に遺贈するという道があります。作品の行き先を決められるのは、いまのうちだけです。ご家族の作品のことで迷われましたら、どうぞお気軽にお電話ください。まず、作品のお話からうかがわせていただきます。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

著作権の相続でよくある7つの落とし穴

最後に、実務でとくに多い誤解を7つ、整理いたします。

  1. 「著作者人格権も相続した」と考えてしまう 著作権法59条は「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない」と定めています。相続もされません。ただし60条が死後の人格的利益を保護し、116条が一定の遺族に差止め等の請求を認めています。「相続されない」=「守れない」ではありません。
  2. 原稿や原画という「モノ」を相続したから、著作権も自分のものだと考えてしまう 所有権と著作権は別の権利です。原画を引き取ったからといって、複製や配信を自由にできるわけではありません。遺産分割協議書には、モノと権利を分けて記載することをおすすめします。
  3. 保護期間を「命日から70年」と数えてしまう 著作権法57条により、保護期間は著作者が死亡した日の属する年の翌年から起算します。実務上は亡くなられた年の翌年1月1日から70年――年末で切りそろえて考えます。なお70年への延長の施行日は2018年12月30日で、その時点ですでに満了していた著作権は復活しません。
  4. 共有著作権を、そのまま放置してしまう 著作権法65条2項により、共有著作権の行使には共有者全員の合意が必要です。持分の譲渡には他の共有者の同意(65条1項)が要ります。一人でも連絡がつかなければ、出版も配信も止まります。遺産分割の段階で、一人に集約しておくのが安全です。
  5. 相続人がいないときも「国庫に帰属する」と思ってしまう 著作権法62条1項1号により、著作権が民法の規定によって国庫に帰属すべきこととなるときは、著作権は消滅します。他の財産とは扱いが異なります。作品を誰かに引き継いでほしいというお考えがあるなら、遺言が必要です。
  6. 移転登録をしないまま、譲渡の話を進めてしまう 著作権法77条により、著作権の移転は登録しなければ第三者に対抗できません。令和元年7月1日からは、相続その他の一般承継による移転も登録の対象になっています。民法899条の2により、法定相続分を超える部分は対抗要件を備える必要がある点にもご注意ください。
  7. 相続税の申告で、著作権と未収印税を計上し忘れる 著作権の評価は財産評価基本通達148により「年平均印税収入の額×0.5×評価倍率」とされています。著作権本体の評価とは別に、亡くなった時点で未収の印税は債権として計上する必要があります。評価は個別性が高い領域ですので、必ず税理士にご確認ください。

この記事のまとめ

  • 著作権は登録なしに発生する(著作権法17条2項・無方式主義)。「登録していないから相続財産ではない」ということはない。
  • 著作者の権利は二階建て(17条1項)。財産権としての著作権は民法896条により相続され、著作者人格権は著作権法59条により著作者の一身に専属し、譲渡も相続もされない。
  • 相続される著作権は支分権の束――複製権(21条)、上演権・演奏権(22条)、上映権(22条の2)、公衆送信権等(23条)、口述権(24条)、展示権(25条)、頒布権(26条)、譲渡権(26条の2)、貸与権(26条の3)、翻訳権・翻案権等(27条)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)。
  • 著作隣接権(実演家・レコード製作者・放送事業者等、89条以下)も財産権として相続される。実演家人格権は101条の2により実演家の一身に専属する。
  • 相続されない著作者人格権は、公表権(18条)・氏名表示権(19条)・同一性保持権(20条)の3つ。
  • ただし60条は、著作者が存しなくなった後も、著作者が存しているとしたら人格権侵害となるべき行為を禁じ、116条は遺族(①配偶者②子③父母④孫⑤祖父母⑥兄弟姉妹の順)に差止め等の請求を認める。民法の法定相続人の順位とは並びが違う。著作者が遺言で請求できる者を指定することもできる。
  • 保護期間の原則は著作者の死後70年(51条2項)。起算は死亡した日の属する年の翌年から(57条)=実務上は翌年1月1日から70年。
  • 70年への延長の施行日は2018年12月30日(TPP整備法による改正)。その時点ですでに保護期間が満了していた著作権は復活しない。「2019年1月1日から」という説明は正確ではない。
  • 無名・変名(52条)、団体名義(53条)、映画(54条)は、原則として公表後70年など、別の数え方をする。
  • 相続人がいない場合、著作権は国庫に帰属せず消滅する(62条1項1号)。他の財産と扱いが異なる。
  • 共同相続すると共有著作権になる。持分の譲渡には他の共有者の同意(65条1項)、権利の行使には共有者全員の合意(65条2項)が必要で、正当な理由がなければ拒めない(65条3項)。一人でも連絡がつかないと、出版・配信・許諾が止まる。
  • 著作権の移転は登録しなければ第三者に対抗できない(77条)。令和元年7月1日から相続その他の一般承継による移転も登録の対象となった。背景には民法899条の2(法定相続分を超える部分の対抗要件)がある。
  • 相続税評価は財産評価基本通達148により「年平均印税収入の額×0.5×評価倍率」。年平均印税収入は原則として課税時期の属する年の前年以前3年間の年平均額、評価倍率は印税収入があると認められる期間に応ずる基準年利率による複利年金現価率。未収印税は別途、債権として計上する。
  • 「モノの所有権」と「著作権」は別。遺産分割協議書では分けて記載する。
  • 創作をなさる方は、遺言で著作権の行き先を特定しておくことが、ご遺族の負担をもっとも軽くする。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上または税務上の助言を提供するものではなく、特定の著作物についての権利関係、保護期間の満了時期、利用の可否を保証するものでもありません。著作権の相続は、著作物の種類、著作者名義(実名・変名・団体名義)、公表の有無と時期、共同著作物かどうか、契約書の定め、相続人の構成など、個別の事実関係によって結論が大きく変わり得る事項です。とくに、保護期間が満了しているかどうかの判断、共有著作権の行使の可否、著作者人格権に関わる改変の可否、相続税評価の要否と方法については、判断を誤りやすい領域です。本文で述べたとおり、保護期間の延長は2018年12月30日施行で、その時点ですでに満了していた著作権は復活しませんが、個々の作品について保護期間内かどうかは、著作者の死亡年や公表年により異なります。記載した法令名・条項・数値は執筆時点で一次情報により確認したものですが、法令・通達は改正される可能性があります。本記事の内容は2026年8月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず文化庁、e-Gov法令検索、国税庁などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

「父の作品を、これからどうすればよいでしょうか」――そのご相談からで結構です

FREE CONSULTATION

著作権の洗い出しから、遺産分割での決め方、移転登録や相続税評価のご相談まで。
提携する専門家とご一緒に整理いたします。まず、作品のお話からうかがわせてください。