親子間の貸し借りが問題になる2つの場面――生前は「贈与税」、相続時は「相続税・遺産分割」

親子の間でお金を貸し借りすること自体は、法律上なんの問題もありません。金銭の貸し借りは民法上の消費貸借(民法587条)という契約で、書面でする消費貸借(民法587条の2)も認められています。問題になるのは、その貸し借りが「本当に貸し借りなのか」が後から問われる場面です。

大きく分けると、次の2つの場面で問題になります。

場面問われること関係する税・制度
生前(貸し借りをしたとき・その後)返済の実態がなければ、借りたお金そのものが贈与とされないか贈与税(相続税法9条など)
相続時(親が亡くなったとき)親が貸していた残高は相続財産(貸付金)として申告したか/遺産分割でどう扱うか相続税・遺産分割(民法)

つまり、「贈与ではなく貸し借りだ」と主張するなら、相続のときには残高が相続財産になる、という関係にあります。「生前は貸し借りだと言い、相続のときは返さなくてよいお金だった」という扱いは、どちらの場面でも通りにくいのです。

[本記事の範囲]
本記事は、個人である親と子の間の金銭の貸し借りを扱います。子名義の口座に親がお金を入れていた、という名義預金の問題は名義預金の記事で、生前贈与が相続財産に加算されるルールは生前贈与の7年ルールの記事で詳しく解説しています。

贈与とされないための条件――国税庁が示す「真に金銭の貸借」と「出世払い」の扱い

国税庁は、親子や祖父母と孫など特殊の関係がある人の間の金銭の貸し借りについて、タックスアンサー No.4420「親から金銭を借りた場合」で、次のように案内しています。

返済能力があり、実際に返済している → 借入金そのものは贈与にならない
「ある時払いの催促なし」「出世払い」 → 借入金そのものが贈与として扱われる
国税庁 タックスアンサー No.4420(根拠:相続税法9条、相続税法基本通達9-10)

相続税法9条は、対価を支払わないで、または著しく低い対価で利益を受けた場合には、その利益の価額を贈与により取得したものとみなすと定めています。実態のない「貸し借り」は、この考え方で贈与として扱われることになります。

判断のポイントは「返済能力」と「返済状況」

国税庁の案内からわかるように、判断の決め手は書類の形式よりも実態です。たとえば、次のような事情があると、貸し借りとは認められにくくなります。

もし借入金そのものが贈与とされると、1年間に受けた贈与の合計額から基礎控除110万円を差し引いた残りに贈与税がかかります。まとまった金額であれば、贈与税の負担は小さくありません。

契約書・返済・利息――貸し借りの実態を残す3つのポイント

① 契約書(借用書)を作る

親子であっても、金銭消費貸借契約書を作成しておくことをおすすめします。記載しておきたいのは、貸主・借主、金額、貸した日、返済期間、毎月(毎年)の返済額と返済方法、利息の有無と利率、署名などです。作成した日付が後から問題にならないよう、公正証書にする、あるいは確定日付を取るといった方法もあります。

ただし、繰り返しになりますが、契約書を作っただけでは十分ではありません。国税庁も「返済能力や返済状況」を判断材料に挙げています。契約書は「約束の証拠」、返済記録は「実態の証拠」で、両方がそろってはじめて説得力を持ちます。

② 返済は「銀行振込」で記録を残す

返済は、子の口座から親の口座への振込で行うのが基本です。手渡しの現金では、返済した事実を後から証明するのが難しくなります。契約書どおりの金額・時期で継続して返済している記録が、何よりの証拠になります。

③ 利息をどうするか

国税庁の案内のとおり、無利子の場合には利子に相当する金額が贈与とされる場合があります。一方で、相続税法基本通達9-10は、その利益を受ける金額が少額である場合や課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくてもよい、という趣旨を定めています。

「いくらまでなら少額か」という一律の基準は示されていません。金額が大きい場合や返済期間が長い場合は、利息を付けるかどうか、付けるなら何%にするかを、税理士に相談して決めておくと安心です。なお、利息を受け取った親の側では、その利息が所得税の課税対象(雑所得など)になる点にも注意が必要です。

「返済分を毎年贈与して相殺」は要注意

「子が返済するお金を、親が毎年110万円ずつ贈与する」という方法を考える方もいらっしゃいます。形の上では返済していても、実質的には返済していない(貸し借りの実態がない)と判断されるおそれがあります。贈与は贈与、返済は返済として、お金の流れを分けて考えることが大切です。具体的な方法は、税理士にご相談ください。

親が子に貸していたお金は相続財産――貸付金の評価と相続税の申告

本当に貸し借りであった場合、親が亡くなった時点で返済が終わっていない残高は、親が子に対して持っている貸付金(債権)です。相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)から、この貸付金も相続財産になります。

貸付金の評価

相続税の計算では、貸付金は財産評価基本通達にもとづいて評価します。

貸付金の評価額 = 返済されるべき元本の額 + 既経過利息(相続開始時点で支払を受けるべき利息)
財産評価基本通達204

財産評価基本通達205は、債務者について破産手続開始の決定や事業の廃止・6か月以上の休業などの事情がある場合や、その他の事情で回収が不可能または著しく困難であると見込まれる場合に、その金額を元本の価額に算入しないと定めています。ただし、この取扱いは限定的に解されています。「子に返す余裕がなさそうだから」というだけで、貸付金をゼロとして申告できるわけではない点にご注意ください。貸付金・売掛金などの評価はその他の財産の評価の記事でも解説しています。

借りていた子自身が相続人でも、申告は必要

多くの場合、お金を借りていた子は相続人の一人でもあります。その子が、自分に対する貸付金を相続すると、債権者と債務者が同じ人になり、その債権は消滅します(民法520条・混同)。

しかし、相続税の申告では、この貸付金も相続財産に含めて計上する必要があります。「自分が借りていたお金だから、相続すれば消えるので申告しなくてよい」と考えてしまうのは、よくある誤解です。親子間の貸付金は、税務調査でも通帳の入出金から見つかりやすい財産のひとつです(相続税の税務調査の記事)。

親が子から借りていたお金は債務控除――「確実な債務」と証拠の残し方

反対に、親が子からお金を借りていた場合、親が亡くなった時点の残高は被相続人の債務です。相続税の計算では、被相続人の債務で相続開始の際に現に存するものを、財産の価額から控除できます(相続税法13条1項1号)。

ただし、控除できる債務は「確実と認められるもの」に限られます(相続税法14条1項)。親子間の借入金は、いつ・いくら借りたのか、残高はいくらかを客観的に示せないと、債務控除が認められないおそれがあります。

たとえば、子が親の入院費や施設費を立て替えていた場合も、「貸したのか、親を扶養するためにあげたのか」があいまいだと、後で他の相続人との間でも争いになりがちです。立替金として精算する予定があるなら、その都度メモや記録を残しておくことが大切です。控除できる債務の範囲は債務控除の記事もあわせてご覧ください。

返済を免除した・時効が過ぎた――債務免除は贈与とみなされる

返済を免除すると「贈与」とみなされる

「もう返さなくていいよ」と親が子の返済を免除した場合、子は返済しなくてよくなった金額分の利益を受けます。相続税法8条は、対価を支払わないで債務の免除による利益を受けた場合、その債務の金額に相当する金額を贈与により取得したものとみなすと定めています。

親が子の借金の返済を免除 → 免除された金額を贈与により取得したものとみなす
遺言で免除した場合 → 遺贈により取得したものとみなす
相続税法 8条(ただし書に、資力を喪失して債務を弁済することが困難な場合などの例外あり)

つまり、一度に全額を免除すると、その年に多額の贈与があったのと同じことになります。相続税法8条ただし書には、借りた人が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合などの例外がありますが、要件があり、個別の判断になります。免除を考える場合は、事前に税理士へ相談してください。

なお、免除による贈与も、贈与した親が亡くなる前の一定期間内(2024年1月1日以後の贈与から段階的に最長7年)のものであれば、相続人などが受けた贈与は相続財産に加算されるルールの対象になり得ます(生前贈与の7年ルールの記事)。

「時効」でうやむやにできるか

貸したお金の返還請求権(債権)は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年行使しないと、時効によって消滅します(民法166条1項)。なお、2020年3月31日以前に行われた貸し借りについては改正前の民法が適用され、原則として権利を行使できる時から10年となります(平成29年改正民法附則10条4項)。ただし、時効は当事者が援用しなければ、裁判所はこれによって裁判をすることができません(民法145条)。期間が過ぎたからといって、自動的に借金がなくなるわけではないのです。

また、途中で返済をしたり、借りていることを認めたりすると、時効の進行がリセットされる(更新)こともあります。親子間で「時効になったことにしよう」とする扱いは、税務上も、他の相続人との関係でも、実態が問われることになります。時効の成否や、その場合の課税関係は個別の判断になりますので、専門家にご相談ください。

遺産分割での扱い――借りていた相続人の取り分と、贈与(特別受益)との違い

貸付金も遺産分割の話し合いの対象にできる

貸付金のような金銭債権は、判例上、原則として相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されると解されています。そのため、借りていた子に対して、他の相続人がそれぞれの相続分に応じた返済を求める、ということも理論上は起こり得ます。

もっとも実務では、相続人全員が合意すれば、貸付金も遺産分割協議の対象に含めて話し合うことができます。たとえば、「長男が父から借りていた残高500万円は、長男が相続する(=混同で消える)ことにして、その分、他の遺産での長男の取り分を減らす」といった分け方です。遺産分割協議書には、貸付金の相手方・残高と、誰が取得するかを明記しておきましょう(遺産分割協議書の記事)。

「貸した」のか「あげた」のかで、結果が変わる

他の相続人から「兄さんは家を建てるときに父から1,000万円もらっている」と指摘されることがあります。このお金が貸し借りなのか贈与なのかで、遺産分割での扱いは次のように変わります。

性質遺産分割での扱い
貸し借り残高は貸付金(遺産)。借りていた相続人は返済すべき立場にある
贈与(生計の資本としての贈与など)特別受益として、相続分の計算で考慮される可能性がある(民法903条)

どちらに当たるかは、当時の約束の内容や返済の実態によって判断されます。親が元気なうちに、「これは貸したお金」「これはあげたお金」と書面で区別しておくと、相続人どうしの争いを防ぐことにつながります。特別受益の考え方は特別受益と寄与分の記事で解説しています。

[遺言で決めておく方法も]
親の側で、子への貸付金を誰に相続させるか、あるいは遺言で返済を免除するかを決めておくこともできます。ただし、遺言による免除は遺贈とみなされ(相続税法8条)、他の相続人の遺留分との関係も生じます。遺言の内容は、専門家と相談のうえで決めることをおすすめします。

親子間の貸し借りと相続でよくある7つの落とし穴

  1. 契約書さえあれば贈与にならないと思う 国税庁が重視するのは返済能力と返済状況です。返済の実態がなければ、贈与とされるおそれがあります。
  2. 「出世払い」「ある時払い」で貸す 「ある時払いの催促なし」「出世払い」のような貸し借りは、借入金そのものが贈与として取り扱われます(国税庁 タックスアンサーNo.4420)。返済期限や返済方法を決めておくことが大切です。
  3. 返済を現金の手渡しで済ませる 返済の事実を証明しにくくなります。振込で記録を残すのが基本です。
  4. 親が亡くなった後、子への貸付金を申告しない 相続税の申告が必要な場合は、借りていた子が相続して混同で消えるときでも、相続財産に含めて申告します。
  5. 「返せそうにないから」と貸付金をゼロ評価する 元本を算入しない取扱い(財産評価基本通達205)は、破産手続開始などの事情がある場合に限定的に認められるものです。
  6. 「もう返さなくていい」と口頭で免除する 免除された金額は贈与とみなされます(相続税法8条)。まとまった金額なら贈与税が問題になります。
  7. 貸したのか、あげたのかを書面に残さない 相続のときに、貸付金なのか特別受益なのかで相続人どうしの争いになりがちです。
ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「父から借りた住宅資金、相続でどうなる?」――Kさまのご相談

Kさま(50代)は、15年前に自宅を建てる際、お父さまから1,000万円を借りました。当初は毎月振込で返済していましたが、数年前から返済が止まり、残高は約600万円。お父さまが亡くなり、妹さんから「兄さんの借金はどうなるの」と聞かれて、ご相談に来られました。

私からは、「当初の振込記録があるので、貸し借りだったことは説明しやすいと思います。そうであれば、残高の約600万円はお父さまの貸付金として相続財産に含まれ、相続税の申告と遺産分割の両方で扱いを決める必要があります」とお伝えしました。

Kさまは提携の税理士と相談のうえ、貸付金の残高を相続財産として申告し、妹さんとの遺産分割協議では「貸付金はKさまが相続し、その分、預金は妹さんが多めに取得する」ことで合意されました。Kさまは「返済が止まっていたのが気がかりでしたが、記録が残っていたおかげで、妹とも揉めずに整理できました」とおっしゃっていました。

― 私たちから一言 ―

「貸した記録」と「返した記録」が、家族を守る

親子間のお金の貸し借りは、親子だからこそ口約束になりがちです。ところが、相続の場面では、税務署と他の相続人の両方から「それは貸したお金ですか、あげたお金ですか」と問われることになります。

そのときに頼りになるのは、契約書と、振込による返済の記録です。記録がきちんと残っていれば、相続税の申告も遺産分割も、落ち着いて整理することができます。

これから親子でお金を貸し借りする方、すでに貸し借りをしていて返済が止まっている方は、親が元気なうちに一度、残高と今後の扱いを確認しておかれることをおすすめします。

私たちは、ご家族の状況を伺いながら論点を整理し、必要に応じて税理士・弁護士などの専門家におつなぎしております。どうぞお気軽にご相談ください。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

この記事のまとめ

  • 親子間の貸し借りは、返済能力や返済状況からみて真に金銭の貸借と認められれば、借入金そのものは贈与になりません(国税庁 タックスアンサー No.4420)。
  • 「出世払い」「ある時払いの催促なし」や、実質的に贈与と認められる場合は、借入金そのものが贈与として扱われます。無利子の場合は利子相当額が贈与とされる場合があります。
  • 契約書を作り、振込で返済して記録を残すことが基本。利息の要否は金額・期間に応じて税理士に相談を。
  • 親が子に貸していた残高は貸付金として相続財産。評価は元本+既経過利息(財産評価基本通達204)で、借りていた子が相続する場合も申告が必要です。
  • 親が子から借りていた残高は、確実と認められれば債務控除できます(相続税法13条・14条)。
  • 返済を免除すると贈与とみなされ(相続税法8条)、時効は援用しなければ効果が生じません(民法145条)。
  • 遺産分割では、貸付金として扱うか、特別受益(民法903条)として扱うかで結果が変わります。最新の取扱いは国税庁・e-Gov法令検索でご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律・税務上の助言を提供するものではなく、特定の貸し借りが贈与に当たるかどうかや、相続税・贈与税の課税関係を保証するものではありません。貸し借りと認められるかどうか、利息の要否、貸付金の評価、債務控除の可否、返済免除や時効の扱いなどは、契約の内容や返済の実態などの個別の事情によって異なります。本文中の条文・通達の引用は、読みやすさのために一部を省略し、要旨として示した箇所があります。本記事の内容は2026年10月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず国税庁、e-Gov法令検索で最新の内容をご確認のうえ、税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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