「名義が、ひいおじいさんのまま」――今も残る旧法の相続

相続のご相談で、私どもがときどきお受けするのが、「登記簿の所有者欄が、見たこともない名前になっている」というお話です。

調べてみると、明治や大正に生まれた方のお名前で、住所の表記も、いまの町名とは違う古い地番だったりします。その方が亡くなってから、一度も登記が動いていないのです。

「昔のことだから、もう時効では」――時効ではありません

不動産の所有権は、時の経過だけで消えるものではありません。登記が動いていないというだけで、権利そのものは、相続によって次々に受け継がれています。
ですから、いま登記をしようとすれば、当時までさかのぼって「誰が承継したのか」を確定する必要があります。そして、その判定に使う法律は、いまの民法ではありません。

大原則――適用される法律は、相続が開始した日の法律です

ここが、この記事でいちばん大切なところです。

相続に適用される法律は
「相続が開始した日」の法律
= 被相続人が亡くなった日(など)で決まります
遺産分割の話し合いをした日でも、登記を申請する日でもありません

たとえば、昭和15年に亡くなった方の相続を、いま登記しようとする場合。あてはめる法律は、令和の民法ではなく、昭和15年当時の法律――すなわち旧民法です。

[この記事で「旧民法」と呼んでいるもの]
この記事で「旧民法」と申し上げているのは、明治31年法律第9号による民法第四編(親族)・第五編(相続)のことです。明治31年6月21日に公布され、同年7月16日に施行されました。
いわゆる「家制度」を前提とした親族・相続の規定で、その中心にあるのが「戸主」と「家督相続」です。

なぜ、いま向き合わなければならないのか

これまでは、「いつかやればよい」と先送りにできた問題でした。相続登記に期限がなかったからです。

ところが、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました(不動産登記法76条の2)。しかも、この義務は、施行日前に開始した相続にも及びます。

過去の相続も、義務化の対象です

施行日前に相続が開始し、まだ登記がされていない不動産についても、申請義務の対象とされています。この場合の期限は、令和9年3月31日までか、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内か、いずれか遅い日までと整理されています。
正当な理由がないのに申請を怠ると、10万円以下の過料の対象とされています。詳しくは相続登記の義務化、3年以内の申請義務・10万円以下の過料・相続人申告登記の完全ガイドと、法務省の案内をご覧ください。

旧民法の家督相続とは――戸主の地位と財産を、一人が丸ごと承継する制度

まず「戸主」を押さえます

旧民法は、「家」という単位を法律上のしくみとして持っていました。その「家」の長にあたるのが「戸主」です。

戸主には、家族の身分に関するさまざまな権限(戸主権)があるとされていました。そして、その戸主の地位を承継するのが「家督相続」です。

旧民法には、相続が「2種類」ありました 家 督 相 続 戸主の死亡・隠居・国籍喪失など 原則、ただ一人が全部を承継 戸主の地位と、家の財産をまとめて 旧民法964条・970条ほか 遺 産 相 続 戸主でない家族が亡くなったとき 直系卑属が複数なら、共同で相続 その人自身の財産だけが対象 旧民法992条・994条・996条
同じ「相続」でも、亡くなった方が戸主かどうかで、まったく違う制度が働きました

「一人が全部を承継する」という考え方

いまの民法では、相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属します(民法898条1項)。兄弟がいれば、原則としてみなで承継します。

旧民法の家督相続は、まったく違いました。家督相続人となった一人が、原則として、前の戸主の権利義務を包括的に承継する――そういう制度です。

[「昔は長男が全部だった」と言われる理由]
いまでも、ご年配の方から「昔は長男が全部だった」というお話をうかがうことがあります。これは、単なる慣習の話ではありません。家督相続の下では、実際に、法律上そうなる場面が多かったのです。
ただし、「長男だから必ず家督相続人になる」という条文があったわけではありません。後ほど見るように、親等・男女・嫡出かどうか・年齢といった基準を順に当てはめた結果、多くの場合に長男が該当したということです。

いまの価値観とは相容れない制度です

家督相続は、男子を女子に優先させるなど、現在の憲法・民法の考え方とは相容れない内容を含んでいます。日本国憲法の施行に伴って廃止された制度です。
それでも私どもがこの制度をご説明するのは、過去に開始した相続の効力を、いまの価値観で塗り替えることはできないからです。古い不動産の登記を通すためには、当時の法律で承継者を確定するほかありません。

家督相続は「死亡」だけで始まるのではありません――隠居・国籍喪失(旧民法964条)

生きているうちにも、相続が起きました

いまの民法では、相続は死亡によって開始します(民法882条)。それ以外に相続が始まることはありません。

ところが旧民法では、家督相続の開始原因は、戸主の死亡だけではありませんでした。旧民法964条は、家督相続の開始原因として、戸主の死亡のほか、隠居、国籍の喪失、婚姻または養子縁組の取消しによって家を去ったこと、女戸主の入夫婚姻などを定めていたとされています。

家督相続の開始原因(旧民法964条)
戸主の死亡/隠居/国籍の喪失
婚姻・養子縁組の取消しによる去家 など
「死亡していないのに相続が開始する」――ここが、いまの民法との大きな違いです

「隠居」による家督相続は、実務でよく出てきます

隠居とは、戸主が生前に、その地位を家督相続人に譲ることをいいます。

古い登記簿を調べていると、登記原因が「年月日家督相続」となっていて、その日付が、前の所有者の死亡日ではない――ということがあります。隠居による家督相続である可能性が高い場面です。

[戸籍を読むときの手がかり]
除籍謄本や改製原戸籍には、「隠居」「家督相続」「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」といった記載が残っています。この「戸主となった原因と年月日」こそが、家督相続がいつ・なぜ開始したかを示す手がかりです。
旧字体・旧かなづかいで書かれており、手書きのものも多いため、読み取りには慣れが要ります。司法書士にご依頼されるのが確実です。

誰が家督相続人になったのか――5つの段階で判定します(旧民法970条ほか)

順位は、大きく5段階でした

家督相続人を判定する順序は、実務上、次の5段階で整理されるのが一般的です。なお、「第一種」「第二種」という呼び方は、条文の見出しではなく、講学上・実務上の整理です。

  1. 第一種法定推定家督相続人――被相続人の家族である直系卑属(旧民法970条)
  2. 指定家督相続人――法定の推定家督相続人がいない場合などに、被相続人が指定した者(旧民法979条〜981条)
  3. 第一種選定家督相続人――上記により定まらない場合に、原則として被相続人の父が、父がいないときなどは親族会が、被相続人の家族の中から選定した者(旧民法982条)
  4. 第二種法定家督相続人――被相続人の家族である直系尊属のうち、もっとも親等の近い者(旧民法984条)
  5. 第二種選定家督相続人――なお定まらない場合に、親族会が選定した者(旧民法985条)

第一種法定推定家督相続人の「先後」を決める基準(旧民法970条)

直系卑属が複数いる場合、そのうち誰が家督相続人になるのかは、旧民法970条が定める順序で決まりました。おおむね次の順に判定されます。

家督相続人の「先後」を決める順序(旧民法970条) ① 親等 近い者が先 → ② 男女 男子が先 → ③ 嫡出かどうか 嫡出子が先 → ④ 年齢 年長者が先 「長男が家を継ぐ」と言われたのは、この順序を当てはめた結果です 長男がいなければ二男、男子がいなければ女子――順に下りていきます
現在の憲法・民法の考え方とは相容れませんが、当時の相続の効力は当時の法律で判定します
[胎児も、家督相続については生まれたものとみなされました]
家督相続に関しては、胎児は既に生まれたものとみなすという規定が置かれていました(旧民法968条)。これは、現在の民法886条(相続における胎児の権利能力)と同じ発想です。現在の扱いは胎児の相続権とは――「既に生まれたものとみなす」民法886条、死産のとき・遺産分割・相続税の扱いを完全ガイドをご覧ください。

「戸主が自由に指定できた」わけではありません

ここは誤解が多いところです。指定家督相続人(旧民法979条〜981条)は、法定の推定家督相続人がいない場合や、その資格を失った場合の制度と整理されています。直系卑属がいるのに、戸主が誰にでも自由に指定できた、というものではありません。
各順位の要件、選定の手続、当時の親族会に関する書類の要否など、判定は専門的です。実際の判定は、必ず司法書士・弁護士にご確認ください。

家族が亡くなったときの「遺産相続」――家督相続とは別の制度でした

戸主でない人が亡くなった場合

旧民法には、家督相続のほかに「遺産相続」という制度がありました。戸主ではない家族が亡くなったときの、その人自身の財産の承継です(旧民法992条)。

こちらは、家督相続とは考え方が異なり、直系卑属が複数いれば、同順位で共同相続人になるのが原則とされていました(旧民法994条)。いまの民法に近い発想です。

順位遺産相続人根拠とされる条文
第1直系卑属旧民法994条
第2配偶者旧民法996条1号
第3直系尊属旧民法996条2号
第4戸主旧民法996条3号
[「配偶者は常に相続人」ではありませんでした]
いまの民法では、配偶者は常に相続人になります(民法890条)。けれども旧民法の遺産相続では、配偶者は直系卑属に次ぐ第2順位とされていました。お子さまがいらっしゃれば、配偶者は遺産相続人にならない――そういう制度です。
古い相続の相続人を、いまの感覚(配偶者2分の1、子2分の1)で数えてしまう――これが、旧法時代の相続でもっとも多い誤りのひとつです。

相続開始日で適用法が変わる――昭和22年5月2日・5月3日・昭和23年1月1日という分かれ目

3つの日付を、まず押さえてください

ここが、古い相続を扱うときの実務上の背骨にあたる部分です。

相続が開始した日適用される制度承継のしかた(配偶者と子がいる場合)
〜昭和22年5月2日旧民法(家督相続・遺産相続)戸主なら家督相続人が原則ひとりで承継
昭和22年5月3日〜同年12月31日応急措置法(昭和22年法律第74号)配偶者3分の1・直系卑属3分の2
昭和23年1月1日〜昭和55年12月31日新民法(昭和22年法律第222号)配偶者3分の1・子3分の2
昭和56年1月1日〜昭和55年法律第51号による改正後配偶者2分の1・子2分の1

昭和22年5月3日――日本国憲法の施行日

日本国憲法は、昭和22年5月3日に施行されました。ところが、民法の親族編・相続編の全面改正が施行されたのは、昭和23年1月1日です。

そのあいだの約8か月をつないだのが、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律第74号)です。いわゆる応急措置法で、昭和22年5月3日から同年12月31日まで適用されました。

応急措置法が適用される期間
昭和22年5月3日 〜 昭和22年12月31日
配偶者 3分の1 / 直系卑属 3分の2
家制度・家督相続を前提とする規定を停止し、暫定的な共同相続を定めた法律です

「5月2日」と「5月3日」で、結論が変わります

たった1日の違いで、「ひとりが全部を承継する家督相続」か、「配偶者と子が共同で相続する」かが分かれます。
戸籍に記載された死亡日を、正確に読み取ることが決定的に重要です。「昭和22年ごろ」といった曖昧な把握のまま進めることは、避けてください。

昭和23年1月1日――新民法の施行

昭和22年法律第222号による改正民法が、昭和23年1月1日に施行されました。家督相続は廃止され、いまにつながる共同相続の制度になります。

ただし、相続分は、いまと同じではありませんでした。施行当初の民法900条では、配偶者と子の場合、配偶者3分の1・子3分の2とされていたのです。

ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「山林の名義が、明治生まれの高祖父のままでした」――Jさまのご相談

Jさま(60代・男性)がお越しになったきっかけは、お住まいの市から届いた一通の通知でした。「所有者が分からない山林について、相続人の方にご連絡しています」という趣旨のものだったそうです。

Jさまは、「うちに山なんてありません」とおっしゃいました。ところが登記事項証明書を取ってみると、所有者欄には、明治生まれの高祖父のお名前があったのです。

お話をうかがいながら、私は「まず、高祖父さまが亡くなった年をお調べしましょう」と申し上げました。Jさまは不思議そうに、「亡くなった年が、そんなに大事なのですか」とおっしゃいました。

――たいへん大事なのです。相続に適用される法律は、相続が開始した日の法律だからです。

戸籍をたどっていくと、高祖父さまは昭和のはじめに亡くなっておられ、戸籍には「家督相続」の記載がありました。この時点で、承継したのはお一人です。Jさまは、「では、兄弟で分けたわけではないのですね」と、少し驚いた様子でした。

そこから先が、また長いお話でした。その家督相続人の方が戦後に亡くなり、さらにその子の代でも相続が起き、いまに至っているのです。相続が何代も重なった状態――数次相続です。

私は、「一代ずつ、その相続が開始した日の法律をあてはめていくことになります」とご説明しました。昭和22年5月2日以前なら旧民法、5月3日から12月31日までなら応急措置法、昭和23年からは新民法、そして昭和56年からは現在の相続分――そう申し上げると、Jさまはメモを取りながら、「これは、自分では無理ですね」とおっしゃいました。

――正直に申し上げて、ここは司法書士の領分です。私どもがお手伝いできるのは、「どこから手をつけるか」を整理し、適切な専門家におつなぎするところまでです。

そのうえで、「相続登記が義務になっていて、過去の相続も対象です」とお伝えしました。「放っておく」という選択肢が、いまはとりにくくなっているからです。

Jさまは、こうおっしゃって帰られました。「知らない土地のことだと思っていましたが、うちの話だったんですね」と。

法定相続分の変遷と、古い相続を登記に落とし込む手順

法定相続分は、昭和56年に変わっています

新民法になってからも、相続分や相続人の範囲は改正されています。古い相続を扱うときは、「その当時の割合」を使わなければなりません。

相続開始日配偶者と子配偶者と直系尊属配偶者と兄弟姉妹
昭和23年1月1日〜昭和55年12月31日1/3 : 2/31/2 : 1/22/3 : 1/3
昭和56年1月1日〜(現在)1/2 : 1/22/3 : 1/33/4 : 1/4

昭和37年改正(昭和37年7月1日施行)で入ったもの

昭和37年法律第40号による改正では、相続分の割合そのものは変わりませんでしたが、実務に効く制度が入りました。

  1. 同時死亡の推定(民法32条の2)の新設――死亡の先後が明らかでないときに、同時に死亡したものと推定する規定です。詳しくは同時死亡の推定とは――民法32条の2、親子が同時に亡くなったときの相続・代襲相続・生命保険を完全ガイドをご覧ください。
  2. 特別縁故者への財産分与(民法958条の3)の新設――相続人がいない場合に、家庭裁判所が特別縁故者に財産を分与できる制度です。相続人がいないとき――相続財産清算人・特別縁故者・国庫帰属のしくみを完全ガイドもあわせてどうぞ。
  3. 代襲相続に関する整理――代襲の原因や、第一順位の相続人を「子」と明確化する改正が行われました。

昭和55年改正(昭和56年1月1日施行)で変わったこと

  1. 配偶者の法定相続分の引上げ――子とともに相続する場合、3分の1から2分の1へ。直系尊属とでは2分の1から3分の2へ。兄弟姉妹とでは3分の2から4分の3へ。
  2. 寄与分の新設(民法904条の2)――被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした共同相続人について、相続分を調整する制度です。特別受益と寄与分とは、生前贈与や介護の貢献を遺産分割で公平に調整するしくみを完全ガイドで詳しく解説しています。
  3. 兄弟姉妹の代襲相続の制限――兄弟姉妹については、代襲をその子(甥・姪)の代までとし、再代襲は認められないこととされました。
[「半血の兄弟姉妹は2分の1」は、昭和23年からのルールです]
父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1という規定は、昭和23年1月1日施行の民法900条に、当初から置かれていました。昭和37年改正や昭和55年改正で新たに加わったものではありません。
なお、嫡出でない子の相続分については、最高裁平成25年9月4日決定を受けた改正があります。詳しくは婚外子・認知された子の相続権――最高裁平成25年9月4日決定で嫡出子と同等に、死後認知3年と民法910条の価額請求を完全ガイドをご覧ください。

実際の手順――戸籍を集め、一代ずつ確定する

  1. 登記事項証明書で、名義人と登記原因を確認する――所有者の氏名・住所、登記された日付、登記原因を読み取ります。登記原因が「家督相続」となっていれば、旧法の相続です。
  2. 名義人の戸籍(除籍・改製原戸籍)を、出生から死亡まで集める――旧法時代の戸籍は、本籍地の市区町村で保管されています。
  3. 相続開始日を確定する――死亡日、または隠居などの日付です。ここで適用法が決まります。
  4. その当時の法律で、承継者を判定する――家督相続なら原則ひとり、遺産相続や新民法なら共同相続人と相続分を確定します。
  5. 次の代へ、同じ作業を繰り返す――現在の相続人にたどりつくまで、一代ずつ積み上げます。
  6. 登記を申請する――登記原因は、家督相続であれば「年月日家督相続」と記載するのが実務の扱いとされています。単に「相続」とは書きません。
[戸籍集めについて]
戸籍の集め方の基本は相続の戸籍収集と法定相続情報一覧図とは、相続人確定の進め方と必要書類を完全ガイドを、2024年3月から始まった広域交付制度については戸籍の広域交付制度とは――2024年3月開始、最寄りの役所で全国の戸籍が一度に取れるしくみを完全ガイドをご覧ください。
なお、広域交付制度で取得できる範囲には限りがあります。とくにコンピュータ化されていない古い戸籍の扱いなど、実際にどこまで取得できるかは、法務省の案内と、お手続きの窓口でご確認ください。

数次相続と、遺産分割協議の相手方

何代も相続が重なると、現在の相続人が数十人になることもめずらしくありません。面識のない遠縁の方や、海外にお住まいの方が含まれることもあります。
遺産分割協議は、相続人全員でしなければ効力が生じません。数次相続の考え方は数次相続とは、相続が連続して起きたときの遺産分割・相続登記・相続税を完全ガイドを、行方が分からない方がいる場合は行方不明の相続人がいるときの遺産分割とは、不在者財産管理人と失踪宣告を完全ガイドをご覧ください。

― 私たちから一言 ―

「亡くなった日」を、まず確かめてください

古い不動産のご相談で、私どもが最初におたずねするのは、「その方は、いつ亡くなられましたか」ということです。

拍子抜けなさる方もいらっしゃいます。けれども、この一点で、あてはまる法律も、承継した人も、割合も、変わってしまうのです。昭和22年5月2日と5月3日では、結論が別物になります。

そのうえで、三つ、お伝えしたいことがあります。

ひとつめは、いまの感覚で数えないでいただきたいということです。「配偶者が2分の1、子が2分の1」というのは、昭和56年1月1日以後に開始した相続の話です。それ以前は違いますし、旧法の家督相続では、そもそも「分ける」という発想ではありませんでした。いまの物差しを、昔の相続にあててはいけません。

ふたつめは、感情の問題を切り分けていただきたいということです。「なぜ長男の家系だけが全部持っているのか」――そう感じられるお気持ちは、よく分かります。けれども、当時の法律がそうであった以上、その効力を、いまさら覆すことはできません。ここでお気持ちがこじれると、現在の相続の話し合いまで止まってしまいます。

みっつめは、これは専門家に頼むべき仕事だということです。旧字体の手書きの戸籍を読み、当時の条文をあてはめ、一代ずつ承継を積み上げていく――これは、ご自身でなさるには荷が重い作業です。費用を惜しんで何年も止まってしまうより、司法書士にご依頼になったほうが、結局は早く、確実です。

――私どもは司法書士でも弁護士でもございませんので、承継者の判定を申し上げることはできません。ですが、「まず戸籍を取りましょう」「亡くなった日を確かめましょう」と、最初の一歩をご一緒することはできます。そこさえ動き出せば、あとは道が見えてまいります。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

旧民法時代の相続でよくある7つの落とし穴

最後に、実務でとくに多い誤解を7つ、整理いたします。

  1. いまの民法をあてはめて、相続人を数えてしまう 相続に適用される法律は、相続が開始した日の法律です。昭和22年5月2日以前に開始した相続には、旧民法の家督相続等の規定が適用されます。「配偶者2分の1、子2分の1」で計算し始めた時点で、結論が変わってしまうことがあります。
  2. 「相続は死亡で始まる」と思い込む いまの民法ではそのとおりですが(民法882条)、旧民法の家督相続は、戸主の死亡のほか、隠居・国籍の喪失などによっても開始しました(旧民法964条)。登記原因の日付が死亡日と合わないときは、隠居による家督相続を疑ってください。
  3. 「長男だから家督相続人」と決めつける 「長男」と書かれた条文があったわけではありません。旧民法970条は、親等の近い者を先にし、同じ親等では男子を先にし、嫡出子を先にし、最後に年長者を先にするという順序で判定するものでした。結果として長男が該当することが多かったにすぎず、個別の事情によっては別の方が家督相続人になります。
  4. 家督相続と遺産相続を混同する 旧民法では、戸主が亡くなったときなどの「家督相続」と、戸主でない家族が亡くなったときの「遺産相続」が、別の制度として置かれていました。遺産相続では、直系卑属が複数いれば同順位で共同相続人になるのが原則とされ(旧民法994条)、配偶者は直系卑属に次ぐ順位でした(旧民法996条1号)。
  5. 「昭和22年ごろ」と、日付を曖昧にしたまま進める 昭和22年5月2日以前は旧民法、5月3日から12月31日までは応急措置法(昭和22年法律第74号)、昭和23年1月1日からは新民法です。1日の違いで結論が変わります。戸籍の記載を、必ず正確に読み取ってください。
  6. 昭和55年以前に開始した相続に、現在の相続分を使う 配偶者の相続分が現在の割合(子とともに相続する場合は2分の1)になったのは、昭和55年法律第51号による改正が施行された昭和56年1月1日以後に開始した相続からです。それ以前に開始した相続では、配偶者3分の1・子3分の2が原則でした。
  7. 「古い相続だから、登記義務は関係ない」と考える 相続登記の申請義務化(令和6年4月1日施行)は、施行日前に開始した相続にも及びます。期限は、令和9年3月31日までか、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内か、いずれか遅い日までと整理されています。正当な理由なく怠れば、10万円以下の過料の対象です。すぐに登記できない事情があるときは、相続人申告登記という手当てもありますので、司法書士にご相談ください。

この記事のまとめ

  • 相続に適用される法律は、相続が開始した日(多くは被相続人が亡くなった日)の法律です。遺産分割の日でも、登記を申請する日でもありません。
  • 昭和22年5月2日以前に開始した相続には、いまも旧民法(明治31年法律第9号の民法第四編・第五編、明治31年7月16日施行)が適用されます。
  • 旧民法には「家督相続」と「遺産相続」の2つがありました。家督相続は、戸主の地位と財産を、原則としてただ一人が承継する制度です。
  • 家督相続の開始原因は、戸主の死亡だけではありません。隠居、国籍の喪失、婚姻・養子縁組の取消しによる去家なども開始原因とされていました(旧民法964条)。
  • 家督相続人は、第一種法定推定家督相続人(旧民法970条)→指定家督相続人(979条〜981条)→第一種選定家督相続人(982条)→第二種法定家督相続人(984条)→第二種選定家督相続人(985条)という順で判定するのが、実務上の整理です。
  • 第一種法定推定家督相続人の先後は、親等の近い者→男子→嫡出子→年長者という順序で判定されました(旧民法970条)。「長男」と書かれた条文があったわけではありません。
  • 戸主でない家族が亡くなったときの遺産相続では、直系卑属が複数いれば同順位で共同相続人となるのが原則で(旧民法994条)、配偶者は第2順位でした(旧民法996条1号)。
  • 昭和22年5月3日から同年12月31日までは、日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号)が適用され、配偶者3分の1・直系卑属3分の2とされていました。
  • 昭和23年1月1日施行の新民法(昭和22年法律第222号)で家督相続は廃止されましたが、当初の相続分は配偶者と子で3分の1対3分の2でした。
  • 昭和37年法律第40号(昭和37年7月1日施行)で、同時死亡の推定(民法32条の2)と特別縁故者への財産分与(民法958条の3)が新設され、代襲相続の規定が整理されました。
  • 昭和55年法律第51号(昭和56年1月1日施行)で、配偶者の相続分が現在の割合(2分の1・3分の2・4分の3)に引き上げられ、寄与分(民法904条の2)が新設されました。
  • 父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は2分の1という規定は、昭和23年施行の民法900条に当初から置かれていたものです。
  • 家督相続を原因とする登記の登記原因は「年月日家督相続」と記載するのが実務の扱いとされています。単に「相続」とは書きません。
  • 相続登記の申請義務化(令和6年4月1日施行)は、施行日前に開始した相続にも及びます。期限は令和9年3月31日までか、知った日から3年以内か、いずれか遅い日までと整理されています。承継者の判定と登記は、必ず司法書士にご相談ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は法律上または税務上の助言を提供するものではなく、特定の不動産についてどなたが承継者であるか、登記が受理されるかどうかを保証するものでもありません。旧民法時代の相続は、相続開始日、戸主であったかどうか、戸籍上の身分関係、隠居等の有無、数次相続の経緯など、個別の事実関係によって結論が大きく変わり得る事項です。とくに、家督相続人の判定、指定・選定家督相続人に関する要件、応急措置法が適用される期間の相続分、登記原因と添付書面の判断は、専門的で誤りやすい領域です。本文中の整理は、制度の骨格をご理解いただくために単純化したものであり、実際の結論を示すものではありません。記載した法令名・条項・施行日・数値は執筆時点で確認したものですが、法令・通達・運用は改正される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ずe-Gov法令検索、法務省などの一次情報で最新の内容をご確認のうえ、相続人の確定と相続登記については必ず司法書士・弁護士に、相続税の取扱いについては必ず税理士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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