「同じ広さなのに、隣の土地より使いにくい」という土地があります

相続財産のなかで、もっとも金額が大きくなりやすいのが土地です。そして、もっとも「思っていた金額と違う」が起きやすいのも土地です。

その理由は単純で、土地は一つひとつ、形も高低差も接している道路も違うからです。

[ご相談で、実際にうかがったお話]
「兄の相続した土地と、私の相続した土地は、どちらも180平方メートルなんです。路線価も同じです。それなのに、私の土地は裏がまるごと斜面で、実際に使えるのは半分ほどしかありません」
――この違いを、評価額が同じでよいのか。直感的に「おかしい」とお感じになるのは、まっとうな感覚だと思います。そして、その感覚は、通達にきちんと反映されています。

相続税の土地評価は、路線価に地積を掛けて終わりではありません。その土地の個別の事情に応じて、価額を調整する定めが、財産評価基本通達に数多く置かれています。

すでに本マガジンでご紹介したものだけでも、不整形地の相続税評価――かげ地割合と不整形地補正率、間口狭小・奥行長大との併用ルール(下限0.60)を完全ガイド、無道路地の評価とは――道路に接しない土地の相続税評価、通路開設費用の控除(40%上限)を完全ガイド、セットバック・都市計画道路予定地・私道の相続税評価――道路がらみで下がる3つの減額を完全ガイドなどがあります。

本記事で扱うのは、そのなかでも「高さ」と「危険」にかかわる二つです。

通達対象使う表
20-5がけ地等を有する宅地付表8「がけ地補正率表」
20-6土砂災害特別警戒区域内にある宅地付表9「特別警戒区域補正率表」

この二つは、似ているようで、まったく違うものです。20-5は「地形」の話、20-6は「区域指定」の話です。同じ土地が両方に当たることもあれば、片方だけということもあります。

がけ地等を有する宅地とは――財産評価基本通達20-5の考え方

まず、財産評価基本通達20-5です。

がけ地等を有する宅地(通達20-5)
その宅地のうちに
通常の用途に供することができない
がけ地等の部分を有する場合
がけ地補正率(付表8)を乗じて評価します

「通常の用途に供することができない」がポイントです

ここでいうがけ地等は、単に「傾いている」というだけでは足りません。その部分が、宅地としての通常の用途に供することができないと認められることが必要です。

ご相談のなかでは、「庭が少し斜めになっている」というお話もうかがいます。けれども、そこに物置を置けたり、駐車できたり、植栽ができたりするのであれば、それは通常の用途に供せているということになりやすいでしょう。

[判断は、机の上では終わりません]
がけ地の判断は、実際にその土地を見なければ分かりません。公図や測量図だけでは、どこからが「使えない斜面」なのかは決められないからです。
私どもがご相談を受けるときも、「現地を見ていただける方にお願いしましょう」と申し上げています。写真、高低差の分かる測量図、擁壁の状況――これらがそろってはじめて、判断の材料になります。土地の評価は、必ず税理士にご確認ください。

大前提――「1画地の宅地」として一体であること

もう一つ、見落とされやすい前提があります。がけ地部分と平坦部分が、一体として一つの評価単位を構成していることです。

相続税の土地評価は、登記簿の筆ごとではなく、利用の単位である「1画地の宅地」ごとに行います。ですから、斜面部分が別の評価単位として扱われるべき場合には、20-5の話にはなりません。

評価単位の考え方については、宅地の評価単位「1画地の宅地」とは――相続税は筆ごとに評価しない、財産評価基本通達7-2と「著しく不合理な分割」を完全ガイドで詳しく整理しております。

路線価方式の宅地が対象です

通達20-5・20-6は、路線価方式により評価する宅地についての定めです。

倍率方式の地域では、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて評価します。この場合、これらの通達による補正を別途行う取扱いにはなっていません。

倍率地域の土地について、心配になったときは

倍率方式では、固定資産税評価額そのものが出発点になります。ですから、「その固定資産税評価額が、土地の状況を踏まえたものになっているか」が問題になります。
市町村の固定資産課税台帳の内容に疑問がある場合には、市町村の資産税担当課にご相談ください。相続税の評価方法とは別の話として、固定資産税の評価そのものについての手続が用意されています。

がけ地補正率の決まり方――付表8、方位とがけ地割合

では、どのくらい下がるのでしょうか。

まず、がけ地割合を出します

がけ地割合
がけ地部分の地積 ÷ その宅地の総地積
この割合と「方位」の組み合わせで、付表8の補正率が決まります

たとえば、総地積300平方メートルのうち、120平方メートルが通常の用途に供することができないがけ地であれば、がけ地割合は120 ÷ 300 = 0.40となります。

付表8「がけ地補正率表」

国税庁が公表している付表8の内容は、次のとおりです。

がけ地割合南東西北
0.10以上0.960.950.940.93
0.20以上0.920.910.900.88
0.30以上0.880.870.860.83
0.40以上0.850.840.820.78
0.50以上0.820.810.780.73
0.60以上0.790.770.740.68
0.70以上0.760.740.700.63
0.80以上0.730.700.660.58
0.90以上0.700.650.600.53

表を見て、二つのことに気づかれると思います。

  1. 表は「0.10以上」から始まります。したがって、がけ地割合が0.10未満のときは、付表8によるがけ地補正率を適用しません。
  2. 同じ割合でも、方位によって補正率が違います。もっとも下がるのは北向きで、もっとも下がりにくいのが南向きです。補正率の最小値は、北向きでがけ地割合0.90以上のときの0.53です。
[なぜ北向きのほうが大きく下がるのか]
日当たりです。北に向かって落ちている斜面は、日照の面でも、宅地としての利用の面でも、条件が厳しくなりやすいと考えられます。
逆に南向きの斜面は、日当たりがよく、擁壁を整えれば庭として使えることもあります。同じ「使えない面積」でも、価値の下がり方が違う――この感覚が、そのまま表になっているとお考えいただくと分かりやすいと思います。

計算のイメージ

ごく単純化した例で、流れを見てみます。実際には、奥行価格補正など他の調整も加わります。

  1. 路線価を確認する――たとえば1平方メートルあたり15万円。
  2. 総地積を確認する――たとえば300平方メートル。
  3. がけ地部分の地積を確認する――たとえば120平方メートル。
  4. がけ地割合を計算する――120 ÷ 300 = 0.40。
  5. 方位を確認する――たとえば北。
  6. 付表8からがけ地補正率を読む――0.40以上・北で0.78。
  7. 他の調整を行ったうえで、がけ地補正率0.78を乗じる。

ここでの数字は、あくまで説明のための単純化です

実際の評価では、奥行価格補正、側方路線影響加算、不整形地補正など、その土地に応じた調整が加わります。また、がけ地部分の地積をどう測るかという点にも判断が入ります。
ここでお示ししたのは、「補正率がどう効くか」の形だけです。実際の評価額の計算は、必ず税理士にご確認ください。

がけ地の方位はどう決めるか――斜面が向いている方向と、南東などの中間方向

ここが、実務でいちばん間違えやすいところです。

「道路の方位」ではありません

付表8でいう方位は、宅地が接している道路の方位ではありません。原則として、がけの斜面が向いている方位で判定します。

[よくある取り違え]
「うちは南側の道路に面しているから、南でよいのですよね」――このようにお尋ねになる方が、少なくありません。
けれども、南側に道路があり、北側が崖になって落ちているという土地であれば、がけ地の方位は「北」です。見るのは、道路ではなく、斜面が下っていく向きだとお考えください。

南東・北西などの中間方向のとき

付表8には、南・東・西・北の4方位しかありません。では、斜面が南東を向いているような場合はどうするのでしょうか。

国税庁の質疑応答事例では、このような場合、該当する二つの方位の補正率を平均して用いるという考え方が示されています。

斜面が南東を向いている場合
(南の補正率 + 東の補正率)÷ 2
国税庁の質疑応答事例に示された考え方です。詳細は一次情報をご確認ください

斜面が複数の方位にわたるとき

一つの宅地のなかに、北向きの斜面と西向きの斜面があるというケースもあります。

この場合の考え方も、国税庁の質疑応答事例に整理があります。それぞれの方位のがけ地の地積に応じて、加重平均のような形で補正率を求めるという発想です。

ただ、ここまで来ると、実務としては専門的な領域です。私どもがお伝えしたいのは、計算方法そのものより、「そういう定めがある」ということです。

お伝えしたいのは、「相談すれば下がるかもしれない」という一点です

方位の判定も、複数方位の按分も、ご自身で正確に計算していただく必要はありません。
大切なのは、「うちの土地は斜面が多い」と、担当の税理士にお伝えいただくことです。それだけで、検討の対象に入ります。逆に、お伝えいただかなければ、図面だけでは気づかれないことがあります。

土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価――通達20-6と付表9

もう一つが、財産評価基本通達20-6です。

いつから適用されているか

この定めは、平成31年(2019年)1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産について適用されます。

[比較的新しい定めです]
通達20-6は、もともと財産評価基本通達に置かれていたものではありません。土砂災害防止法にもとづく区域指定が全国に広がるなかで、その区域内にある宅地の評価を明確にするために設けられたものです。
そのため、「昔、親の相続のときには、そんな話は出なかった」という方がいらっしゃっても、不思議ではありません。

特別警戒区域割合を出します

特別警戒区域の割合
特別警戒区域内となる部分の地積
÷ その宅地の総地積
この割合に応じて、付表9の補正率が決まります

付表9「特別警戒区域補正率表」

特別警戒区域の割合特別警戒区域補正率
0.10以上0.90
0.40以上0.80
0.70以上0.70

がけ地補正率と同じく、表は「0.10以上」から始まります。したがって、割合が0.10未満のときは、付表9による補正率を適用しません。

また、区分は3つだけです。がけ地補正率のように方位による違いはありません。

がけ地補正率と両方に当たるとき

斜面地の土地では、がけ地でもあり、かつ土砂災害特別警戒区域内でもあるということが、しばしばあります。

この場合には、特別警戒区域補正率とがけ地補正率を乗じます。ただし、乗じて得た率が0.50を下回る場合には、0.50とします。

両方に当たる場合
特別警戒区域補正率 × がけ地補正率
(0.50を下回るときは0.50)
下限が置かれている点は、不整形地補正の下限0.60と考え方が似ています

たとえば、特別警戒区域補正率0.70、がけ地補正率0.63であれば、乗じた率は0.441となりますが、0.50を下回りますので、0.50を用いることになります。

「下限がある」ということは、「際限なく下がるわけではない」ということです

ときどき、「危険な土地なのだから、評価はゼロに近くなるのではないか」とお考えになる方がおられます。そうはなりません。
通達の定めは、「使いにくさを一定の範囲で価額に反映する」ものであって、危険性をそのまま価額に置き換えるものではないからです。補正率には下限が置かれています。

イエローゾーンとレッドゾーン――補正の対象になるのはどちらか

ここが、この記事でもっともお伝えしたいところです。

二つの区域は、別のものです

根拠となる法律は、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)――通称土砂災害防止法です。

区域通称根拠通達20-6の補正
土砂災害警戒区域イエローゾーン土砂災害防止法7条1項対象になりません
土砂災害特別警戒区域レッドゾーン土砂災害防止法9条1項対象になります

つまり、「土砂災害警戒区域に入っている」というだけでは、付表9による補正はできません。付表9の対象は、特別警戒区域(レッドゾーン)です。

[名前が似ているので、混同されます]
「警戒区域」と「特別警戒区域」――二文字違うだけです。ハザードマップの上でも、黄色と赤で塗り分けられていることが多く、ご自身の土地がどちらなのかを確かめないまま話が進むことがあります。
まず、どちらの区域なのかをお確かめください。都道府県や市町村が公表しているハザードマップや土砂災害警戒区域等の指定状況で確認できます。

イエローゾーンなら、まったく下がらないのか

ここは、慎重に申し上げます。

付表9による特別警戒区域補正率は、イエローゾーンには適用されません。これは、通達の定めからくる結論です。

もっとも、その土地に急な斜面があり、通常の用途に供することができない部分があるのであれば、それは20-5のがけ地の話として、別に検討する余地があります。

「区域の色」と「地形」は、別々に見ます

20-6は区域指定の話、20-5は地形の話です。
ですから、イエローゾーンで特別警戒区域補正率が使えない場合でも、がけ地補正率の検討はできます。逆に、平坦な土地がレッドゾーンに指定されているということもあり得ます。この場合は、がけ地補正率はなく、特別警戒区域補正率だけという形になります。
どちらに当たるか、両方に当たるかは、個別の判断です。必ず税理士にご確認ください。

ご相談事例
※以下は、実際のご相談を参考に構成した架空の事例です。特定の個人・団体とは関係ありません。

「使えない斜面の分まで、税金がかかるのでしょうか」――Nさまのご相談

Nさま(50代・男性)は、半年ほど前にお父さまを亡くされた方です。ご相続の中心は、丘陵地の住宅地にあるご実家の土地でした。

ご相談の入口は、「地積は登記簿で約280平方メートルとなっているのですが、家が建っているのは上のほうだけで、裏の半分近くは急な斜面なんです」というものでした。

Nさまは、こうおっしゃいました。「その斜面には、木が生えているだけです。草刈りに行くのも一苦労で、正直、使ったことがありません。それでも、平らな土地と同じ評価になるのでしょうか」と。

私は、「同じにはなりません」と申し上げました。「財産評価基本通達には、がけ地を含む宅地についての定めがあります。斜面の割合と、斜面が向いている方位で、補正率が決まります」と。

Nさまは、意外そうなお顔をなさいました。「そんな細かい決まりがあるのですか」と。

そこで私は、もう一つ確かめておきたいことをお尋ねしました。「その斜面のあたりは、土砂災害の区域に指定されていませんか」と。

Nさまは、「そういえば、市から何か通知が来ていたような気がします」とおっしゃいました。お手元の書類をお探しいただいたところ、土砂災害警戒区域等の指定に関するお知らせが出てきたそうです。

私は、「その書類と、市のハザードマップを、税理士さんにお渡しください」と申し上げました。「警戒区域なのか、特別警戒区域なのかで、扱いが変わります」と。

後日うかがったところでは、斜面の一部が特別警戒区域に指定されていたとのことでした。担当の税理士が、現地の写真と高低差の分かる図面をもとに、がけ地部分の地積と方位を整理し、区域の範囲を市の資料で確認したうえで評価なさったそうです。

Nさまは、こうおっしゃいました。「言ってみるものですね。黙っていたら、そのままだったと思います」と。

――まさに、そこなのです。図面と登記簿だけでは、斜面の急さも、区域の指定も、伝わりません。「使えない土地がある」と、ご相続人がひとこと言ってくださることが、出発点になります。

※上記は一般的な整理であり、実際の評価は個別の事情により異なります。土地の評価と補正の適用は、必ず税理士にご確認ください。

他の補正との関係と、申告後に気づいたとき

他の減額規定との関係

斜面地の土地では、がけ地や特別警戒区域以外の事情も重なっていることがよくあります。

  1. 形が悪い――不整形地の相続税評価――かげ地割合と不整形地補正率、間口狭小・奥行長大との併用ルール(下限0.60)を完全ガイド。
  2. 道路に接していない――無道路地の評価とは――道路に接しない土地の相続税評価、通路開設費用の控除(40%上限)を完全ガイド。
  3. 道路の後退が必要――セットバック・都市計画道路予定地・私道の相続税評価――道路がらみで下がる3つの減額を完全ガイド。
  4. 面積が大きい――地積規模の大きな宅地の評価――三大都市圏500㎡・それ以外1,000㎡から使える「広い土地の減額」を完全ガイド。

これらは、それぞれ適用の要件と併用のルールが定められています。「片っ端から掛ければよい」というものではありませんので、組み合わせの判断は税理士にお任せください。

[「傾斜地の宅地造成費」とは別の話です]
土地の評価を調べていくと、「傾斜地の宅地造成費」という言葉に行き当たることがあります。これは、市街地農地・市街地山林などを、宅地であるとした場合の価額から造成費相当額を控除して評価するという場面で使われるものです。
がけ地補正率とは、対象も場面も違います。「どちらも斜面の話だから同じだろう」とお考えにならないでください。混同したまま計算すると、二重に減額してしまったり、逆に使えるはずの定めを見落としたりします。

申告後に気づいたとき――更正の請求

相続税の申告を終えたあとで、「がけ地の補正が入っていなかった」と気づかれることがあります。

この場合、更正の請求という手続があります。原則として、法定申告期限から5年以内です(国税通則法23条1項)。「申告書を提出した日から5年」ではなく、「法定申告期限から5年」ですので、その点はご注意ください。

詳しくは、相続税の更正の請求――払い過ぎた相続税を取り戻す手続き、通則法23条の5年と相続税法32条の4か月を完全ガイドをご覧ください。

ただし、「請求すれば必ず認められる」わけではありません

更正の請求では、なぜ当初の評価が過大だったのか、どの定めをどう適用すべきだったのかを、資料とともに具体的に示す必要があります。
がけ地の範囲、方位、区域指定の状況を裏づける資料がそろうかどうかが、実務上の分かれ目になります。更正の請求をご検討の際は、必ず税理士にご相談ください。

― 私たちから一言 ―

「使えない土地です」と、ひとこと言ってください

土地の評価について、私どもがご相談者にお願いしていることは、たった一つです。

「この土地は、こういうところが使いにくいです」と、そのまま言葉にしていただくこと。これだけです。

相続税の土地評価には、驚くほど多くの「下げる定め」が置かれています。がけ地、不整形、無道路、セットバック、地積規模、そして土砂災害特別警戒区域。その土地の不便さに、一つひとつ名前が付いていると言ってもよいほどです。

けれども、これらは自動的に適用されるものではありません。登記簿と公図と路線価図だけを見ていては、「裏が崖になっている」ことも、「区域に指定されている」ことも、分かりません。

私どもがお会いしてきた方のなかには、「専門家に頼んだのだから、全部見てくれているはずだ」とお考えになって、何もおっしゃらなかった方がおられます。お気持ちは、よく分かります。

けれども、その土地を実際にご存じなのは、ご相続人ご自身です。子どものころ、あの斜面では遊べなかった。草刈りが大変だった。市から通知が来ていた気がする。――そういう生活の記憶こそが、評価の手がかりになります。

ですから、どうか遠慮なさらずに、お話しください。「たいしたことではないかもしれませんが」という前置きの後ろに、大事なことが隠れていることが、本当に多いのです。

一般社団法人相続なんでも相談センター 代表理事 宮野 宏樹

がけ地・土砂災害特別警戒区域の評価でよくある7つの落とし穴

  1. 「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)だから、評価が下がるはずだ」と考える 付表9の特別警戒区域補正率の対象は、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン。土砂災害防止法9条1項)です。土砂災害警戒区域(イエローゾーン。同法7条1項)に指定されているというだけでは、通達20-6による補正の対象にはなりません。ただし、その土地に通常の用途に供することができない斜面があれば、20-5のがけ地として別に検討する余地があります。
  2. がけ地の方位を、道路の向きで判定する 付表8の方位は、原則として「がけの斜面が向いている方位」です。接している道路の方位ではありません。南側に道路があり、北側が崖になって落ちている土地なら、方位は「北」です。この判定を誤ると、補正率が大きく変わります(がけ地割合0.90以上なら、南0.70に対して北0.53)。
  3. 「少し傾いている」だけで、がけ地だと考える 通達20-5の対象は、「通常の用途に供することができない」と認められる部分です。物置を置ける、駐車できる、庭として使えるといった部分は、通常の用途に供せていると判断されやすいでしょう。判断には現地の確認が必要ですので、写真や高低差の分かる資料を用意して、税理士にご相談ください。
  4. 割合が0.10未満なのに、補正できると考える 付表8も付表9も、表の区分は「0.10以上」から始まります。したがって、がけ地割合・特別警戒区域割合のいずれも、0.10未満のときは、これらの表による補正率を適用しません。「わずかでも斜面があれば下がる」というものではありません。
  5. 「危険な土地だから、評価はほとんどゼロになる」と期待する 補正率には下限があります。がけ地補正率の最小値は0.53(北向き・がけ地割合0.90以上)、特別警戒区域補正率の最小値は0.70です。両方を併用する場合も、乗じた率が0.50を下回るときは0.50とされています。使いにくさを一定の範囲で反映する定めであって、危険性をそのまま価額に置き換えるものではありません。
  6. 倍率地域の土地に、通達20-5・20-6を当てはめようとする これらの定めは、路線価方式により評価する宅地についてのものです。倍率方式の地域では、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて評価し、これらの通達による補正を別途行う取扱いにはなっていません。固定資産税評価額そのものに疑問がある場合は、市町村の資産税担当課にご相談ください。
  7. 申告が終わったから、もう何もできないとあきらめる 更正の請求という手続があります。原則として法定申告期限から5年以内です(国税通則法23条1項)。「申告書を提出した日から5年」ではありません。ただし、請求すれば必ず認められるものではなく、がけ地の範囲・方位・区域指定を裏づける資料が必要です。まずは税理士にご相談ください。

この記事のまとめ

  • がけ地等を有する宅地の評価は、財産評価基本通達20-5です。その宅地のうちに通常の用途に供することができないがけ地等の部分がある場合に、がけ地補正率を乗じて評価します。
  • がけ地補正率は付表8「がけ地補正率表」によります。がけ地部分の地積 ÷ 総地積で求めたがけ地割合と、がけの斜面が向いている方位(南・東・西・北)の組み合わせで決まります。
  • 付表8の区分は「0.10以上」から始まります。したがって、がけ地割合が0.10未満のときは、この表による補正率を適用しません。補正率の最小値は北向き・がけ地割合0.90以上の0.53です。
  • 方位は、接している道路の向きではなく、斜面が向いている方位で判定します。南東などの中間方向のときは、国税庁の質疑応答事例で、該当する二つの方位の補正率を平均する考え方が示されています。
  • 土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価は、財産評価基本通達20-6です。付表9「特別警戒区域補正率表」により、割合0.10以上で0.90、0.40以上で0.80、0.70以上で0.70の3区分です。方位による違いはありません。
  • 通達20-6は、平成31年(2019年)1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産について適用されます。
  • がけ地補正率と特別警戒区域補正率の両方に当たる場合は、両者を乗じます。ただし、乗じて得た率が0.50を下回るときは0.50とされています。
  • 根拠法は土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)です。土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は同法7条1項、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は同法9条1項です。
  • 通達20-6の補正の対象は、レッドゾーンです。イエローゾーンに指定されているというだけでは、付表9による補正の対象にはなりません。もっとも、地形としてのがけ地があれば、20-5の検討は別途できます。
  • 通達20-5・20-6は、路線価方式により評価する宅地についての定めです。倍率方式の地域では、これらの通達による補正を別途行う取扱いにはなっていません。
  • 相続税の土地評価は、登記簿の筆ごとではなく、利用の単位である「1画地の宅地」ごとに行います。がけ地部分と平坦部分が一体として一つの評価単位を構成していることが前提になります。
  • 「傾斜地の宅地造成費」は、市街地農地・市街地山林などを宅地比準方式で評価する場面のもので、がけ地補正率とは対象も場面も違います。混同なさらないでください。
  • 申告後に補正のもれに気づいた場合の更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内です(国税通則法23条1項)。
  • これらの補正は、自動的に適用されるものではありません。登記簿や公図だけでは、斜面の状況も区域指定も分かりません。「この土地は、こういうところが使いにくい」とお伝えいただくことが出発点です。土地の評価と補正の適用は必ず税理士に、登記については必ず司法書士に、法的な紛争については必ず弁護士にご確認ください。

参考文献(一次情報)

※本記事は一般的な解説を目的としたものであり、個別の事情により取り扱いが異なる場合がございます。本記事は税務上または法律上の助言を提供するものではなく、特定の土地についてがけ地補正率や特別警戒区域補正率が適用されること、評価額がいくらになることを保証するものではありません。土地の評価は、現地の地形、擁壁や斜面の状況、がけ地部分の範囲と方位、区域指定の範囲、評価単位の判定、他の補正との併用など、個別の事実関係によって結論が変わり得る事項です。とくに、「通常の用途に供することができない」がけ地に当たるかどうかの判断、方位の判定、複数方位にわたる場合の按分、警戒区域と特別警戒区域の区別は、誤りやすい領域です。本文中の計算例や整理は、制度の骨格をご理解いただくために単純化したものであり、実際の評価額を示すものではありません。記載した通達番号・法令名・条項・数値・適用開始日は執筆時点で一次情報により確認したものですが、法令・通達・評価の取扱いは改正される可能性があります。本記事の内容は2026年9月時点の情報に基づいていますが、実際にご検討される際は、必ず国税庁、e-Gov法令検索などの一次情報と、区域指定については都道府県・市町村の公表資料で最新の内容をご確認のうえ、土地の評価と補正の適用については必ず税理士に、登記については必ず司法書士に、法的な紛争については必ず弁護士にご確認ください。本記事の情報を利用したことによる損害等について、当センターは責任を負いかねます。

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